何を書こうか迷ったけれども、やっぱり「突っ込みが追いつかないほどおかしな社説」を紹介しておくか。
<社説>適性評価制度 懸念残した拡大許さぬ
2024年3月6日 07時09分
政府は機密情報の指定を経済分野に広げ、セキュリティー・クリアランス(適性評価)で情報取扱者を限定する「重要経済安保情報保護・活用法案」を国会に提出した。
東京新聞より
よくもまあここまでおかしな社説がかけるものだと、ちょっと感心してしまった。
よくもまあここまでおかしな社説がかけるものだ
おかしな部分はほぼ全部
いつもように突っ込みを入れようと思ったが、もの凄い分量になることがあったので挫折する程の社説であった。
で、今回は懸念部分だけに触れておきたいと思う。
なお、おかしな部分の骨子については先に紹介した記事で言及済みなので、リンクを紹介して終わりにしておく。
……おかしな部分は一応ピックアップしておく。
- 特定秘密保護法の民間への拡大版
- 国民の知る権利やプライバシー権を侵害しかねず
- 法案には議会制民主主義や人権を脅かしかねない懸念材料も多い
- どんな情報が該当するのか、現時点では不明
- 国会での法案審議でも(秘密が)明らかにされない恐れがある
- 都合の悪い情報を隠す手段にもなりかねない
- 国民の知る権利は著しく侵されかねない
- 違法行為を機密に指定するといった歯止めがない
- 自由な経済活動が損なわれるとの指摘もある
- 軍事、民生双方で利用できるデュアルユース技術の指定が可能になれば、機密の枠が際限なく広がる
- 特定秘密保護法で導入された適性評価制度の対象は、民間企業の従業員や研究者にも拡大
- 対象者は思想信条や犯罪歴、精神疾患、借金、家族や同居人の国籍などプライバシーについての身辺調査が行われる
- 機密指定や適性評価の状況を独立して検証する仕組みはなく、特定秘密保護法ですらあった国会への報告もない
- 身内のチェックのみでは不十分
ほぼ全部だな。
というか、結局のところ、この結論が言いたいだけなのだろう。
国民がプライバシーを委ねる前提は政府への信頼だが、今の政府が信頼に足るとは思えない。運用が適正かどうか外部から検証できる仕組みを欠いたまま、適性評価を民間に拡大すべきではない。
東京新聞「<社説>適性評価制度」より
「政府は信用出来ない」以上。
ああなんだ、この社説、1行で終わる話だったよ。そして、適正評価制度と何の関係もない話だった。
懸念事項で当たっている部分も
ただまあ、全部が全部おかしいというのもおかしな話で、少しは当たっている部分もあるだろうと思って読んでみたが、辛うじてこの辺りの心配は共感できる。
評価の実施は本人の同意が前提とされるが、従業員が会社からの要請を断れるだろうか。事実上の強制になりかねない。
東京新聞「<社説>適性評価制度」より
「適正評価に関する本人の同意」という項目についてだ。
企業で推進するプロジェクトが、政府が指定する「重要経済安保情報」に関わるものであった場合、どうなるのか?ということを想定してみよう。
大雑把に表に纏めたので参考にされたい。
特定秘密 | 重要経済安保情報 | |
---|---|---|
関連分野 | 「漏洩が安全保障に著しい支障を及ぼす虞」 ・防衛 ・外交 ・特定有害活動防止 ・テロ防止 | 「漏洩が安全保障に支障を及ぼす虞」 ・サイバー ・宇宙 ・AI ・基幹インフラ ・国際共同開発 ・その他 |
対象 | 行政機関の職員 事業者の従業員 都道府県警察の職員 | 民間企業の職員 |
実施者 | 行政機関の長 | 行政機関の長 |
非常に大雑把で申し訳ないが、「秘密の範囲が明かされていない」と文句を言うメディアに言っておく。明かされているよ、大雑把には。そして、読んでいただければ分かる通り、基本は国際共同開発に関わる分野が殆どで、大雑把に言うと外交の延長線上にある秘密を守れ、防衛に関する秘密を守れと、それだけの話なのである。ここに一般企業をもっと積極的に参加させようというのが、今回の話なのだ。
そして、機密情報にアクセスする人に対して適正評価するのではなく、逆に適正評価を受けたから機密情報にアクセスする「信用」を得られるという話なのだ。どうもメディアは逆さまに理解しがちだね。
アメリカの判断基準はもっと分かり易い。影響力の大きさ、発生する損害の大きさで切り分けている。要は、公益性とのバランスで秘密保持を義務づけているのだ。
東京新聞の根本的におかしな点は、個人のプライバシーは全てに優先するみたいなロジックを、何時も使うところだ。
ただ、それはそれとして、「本人の同意」の建前が守れるのか?ということと、同意の可否、或いは適正評価の合否を社内で明かすと、個人に不利益が生じる虞があることには配慮が必要となる。
ここの運用をどうするのか?という点は懸念事項として分かる。
職務の内容に従業員の意志は反映されるのか
一般論として、企業に勤めている従業員が、自分の仕事を選ぶことが出来るのか?というと、おそらくは難しい。
企業が社の方針として決めたプロジェクトに、社員が参加するかどうかを、決める権限があるかどうかと言う話。
一方で、既に「重要経済安保情報」の対象は明らかにされているのだから、そういった情報を扱う部署に配属されるかどうかについて、企業が意志を確認するくらいはやるだろうし、すべきだろう。
「適正評価」を受ける可能性があるが、オマエは大丈夫か?と、問うわけである。
と、そこで問題になるのは「適正評価を受けたくないので、その仕事はやりません」ということが出来る環境を、企業の責任で整えねばならないことと、「受けたくない」という意思表示の有無を企業側が明かしてはならないという点を徹底できるのか?ということ。そして、「適正評価を受けた結果、適正ではないと判断された場合」に、その情報を開示しないということが出来るのか?ということだ。
ともすると、ここの運用次第では、社員に対する人格否定に繋がりかねない。
逆に適正評価に合格した場合に、「何か秘密を握っているのではないか」と狙われることになりかねないことも、困ったものである。
一方で、退社後にも秘密を守れという話は、当然な話であって、企業秘密であっても転職後に「開示して良い」などということになると非常に大きな問題に繋がるケースがあって、不正競争防止法などで縛りがかけられている。
そして、この手の法律は外国で既に運用されている実態があるのだから、それこそ「オウベイガー」を唱える出羽の守の出番であろう。
適正評価に関しては別の形で特定秘密保護法でも行われていて、それなりに運用されているのだから、それほど問題になる点ではないのかも知れないのだけれど、上に指摘した通り、「逆」なのだということを理解いただければ、特定秘密保護法よりも問題になりにくいことは分かると思う。
つまり、「適正評価」を得られた人材がいる会社が、「重要経済安保情報」にアクセス出来て、仕事を受けられるよという話なのだから。
コメント
こんにちは。
>「政府は信用出来ない」
そんな政府を戴いていることは「ジャーナリズムの敗北」ですよね。
※それが認められないから騒ぐのか、それが許せないから騒ぐのか……
※自分達こそ信用されてないことには気付かない裸の王様が今目の前に爆誕。
「政府は信用出来ない」の次に来るのが「だから政治を監視しないと」という話になるわけです。
しかし、逆に言うと、「対政府」の布陣を敷くと、政府がまともなことをやり始めた時に、やることが無くなっちゃうと言う。
存在意義が揺らいでいる理由の1つなのでしょうね。その切っ掛けになった安倍政権は特に憎いのだと思います。