スポンサーリンク

時事通信は「純国産機開発が遠のく」と揶揄するが

安全保障
この記事は約8分で読めます。

この話を扱うかどうか迷ったのだけれど、軽く触れておくことにする。

遠のく新たな純国産機開発 首脳会談、米に配慮も―空自機、共同生産追求・防衛省

2024年04月21日07時12分配信

今月開催された日米首脳会談では、航空自衛隊の次期ジェット練習機について共同開発・共同生産を追求することで一致した。同盟強化の名の下、日本の航空産業の技術を結集させる新たな純国産機開発は遠のく形となった。

時事通信より

時事通信も底意地が悪いというか、理解していないというか。もうそういう時代じゃないんだよ。

次期練習機の開発を急げ

異例の共同開発

3月23日に毎日新聞が報道した時にも、T4練習機の後継機決定の話として触れている。

この記事で触れたようにT4練習機の後継として、アメリカ空軍が採用したT7A練習機「レッドホーク」を採用するとばかり思っていたのだが、「共同開発」という異例の報道があった。

何故、「異例」なのかといえば、アメリカ空軍としてもT7A練習機を採用したばかりである。更に新たな練習機を作るというのは少々不合理であり、後の方にも書いたが、アメリカ側の報道としては共同開発をすると明言した感じではなかった。

ただ、今回冒頭に引用したように、日米首脳会談にて「次期ジェット練習機について共同開発・共同生産を追求する」ことで一致したと報じられ、共同開発は確実だろうということは判明した。

木原稔防衛相は12日の記者会見で、次期練習機開発に関して「共同開発を決定しているわけではないが、その機会を追求しようということで幅広い観点から一致した」と説明。

時事通信「遠のく新たな純国産機開発」より

防衛大臣の木原稔氏は、「決定しているわけではない」と言及している部分には不安を覚えるが、T4練習機の後継機が必要である事実は変わらないので、日本としては製造にどうしても漕ぎ着けたいところ。

ブルーインパルスも機数が減った! そろそろ考えようか空自T-4練習機の「後継」

2020.06.20

2020年5月末、東京上空を飛行し大きな話題になったブルーインパルスが、直後、6機編成から4機編成へ変更されるというニュースが流れました。使用している空自T-4練習機のやりくり、実はかなり深刻な事態です。

乗り物ニュースより

実際に、T4練習機は老朽化のために、色々な部分が疲弊して機体数が減っていて、訓練に支障を来す状況になりつつあるのだ。

T4練習機では訓練が難しくなっている

そして、そもそも設計の古いT4練習機では、グラスコックピットに対応できない。サイドスティック式の操縦桿でもないしね。

1980年代前半に開発されたT-4のコックピットは、アナログ計器の並んだ、現在の基準から見ると古めかしいものです。基本操縦訓練には十分対応できますが、F-2や今後導入が進むF-35A/B、グラスコックピット化される可能性が高いF-15、そしてF-2を後継する次期戦闘機の戦闘機操縦課程訓練で使用するには、能力不足の感があることは否めません。

乗り物ニュース「ブルーインパルスも機数が減った!」より

これに関しては、写真を紹介した方が分かり易いだろう。

img
Wikipedia「F-15のコックピット」より
img
Wikipedia「F-35のコックピット」より

……そういえば、トップガン・マーヴェリックを見に行ったけど、F-14戦闘機の後部座席に乗ったルースターがコックピットを見て「古い」とびっくりするシーンがあったな。

そりゃ、F-35(トップガンではF/A-18E/Fに乗っている)に比べたらF-15の旧式コックピットはビックリするほど計器が多い。

つまりT4練習機のような旧式コックピットで練習しても、グラスコックピットに対応したF-35戦闘機の訓練にならないのである。F-15J戦闘機やF-2戦闘機はまだ旧式のコックピットを採用しているようだけど、F-2戦闘機はサイドスティックを採用している。

どちらにしても、近代化せざるを得ない。そして、今後増えるF-35A戦闘機の訓練ができるものを採用したいわけだ。

次期ジェット練習機は、空自が現在約200機保有するT4ジェット練習機の後継に当たり、共同開発は米側にはビジネスチャンスになる。岸田文雄首相は訪米中、経済面での日本の貢献を強調しており、米軍需産業への配慮もにじむ。

時事通信「遠のく新たな純国産機開発」より

時事通信はこんな風に言及しているが、そういう面があるのは事実ではあるけれども、実際問題としてF-35Aの訓練をシミュレータに頼るなどということになるわけで。そうすると、どうしたってアメリカの協力を得られなければ次期戦闘機の開発に支障が出てしまうことになる。合理的に考えれば、共同開発する方がスムーズな開発ができる。

純国産のメリットとデメリット

なお、純国産化する事にはメリットもあればデメリットもあるのだ。

T4練習機は、機体が川崎重工業、エンジンはIHI製の純国産機。導入から40年近くなり、総額43兆円の防衛力整備計画(2023~27年度)では「T4後継機の整備を実施する」と記載。純国産なら、中小企業を含めて幅広い部品供給網で支える生産体制となる。

時事通信「遠のく新たな純国産機開発」より

時事通信の記述はイマイチ良く分からないのだが、日本国内で製造すれば、単独開発だろうが共同開発だろうが「中小企業を含めて幅広い部品供給網で支える生産体制」となることは確実である。

共同開発にした場合に、アメリカで製造された部品を採用する可能性は否定しないが、コストの面で見合うのであれば寧ろ日本製の部品が採用される可能性だってある。

逆に、単独開発したところで、日本国内で技術的に作ることが出来ない部品であれば輸入するしかない。

結局、この主張は的外れなのである。

しかし、首脳会談の共同声明は「安全保障協力の強化」を掲げ「日米共通のジェット練習機の共同開発・生産の機会を追求する」と明記。共同開発なら国内企業の分担率に影響するが、米側は雇用創出につながる。T4は1機約25億円。現有並みに約200機生産すれば、単純計算でも後継機は総額5000億円の規模になる。

米国ではボーイング社やロッキード・マーチン社が練習機を開発、販路拡大を目指す。米空軍にはボ社とスウェーデン・サーブ社が共同開発した高等練習機「T7A」が導入される。政府関係者は「防衛力整備計画の43兆円の中で共同開発を追求できる新規大口は空自練習機の後継機しかない」と話す。

時事通信「遠のく新たな純国産機開発」より

そして、空自にしか納品しないのだから、コストメリットも生まれないという指摘なのだが、確かにF-2戦闘機はそのような憂き目に遭ったけれども、次期練習機は違う。武器輸出の要件さえ緩和できれば、外国輸出の目があるのだ。そうするとT7A練習機との競合が考えられるのだが、そもそもT7A練習機と同等スペックの練習機を作るつもりなのであれば、航空自衛隊もT7A練習機のライセンス生産を目指せば良いのである。

そうすると、単純に競合するような練習機になるハズがないわけで。

まあこの話がどうなるのかは、サッパリ不明ではあるが、少なくとも時事通信の心配は的外れであるように思われる。

むしろT7A練習機を買わされるのではなく、共同開発をもぎ取った点で、日本国内での生産する可能性を増やし、自国開発した技術を搭載する機会を得た点で評価されるべき話だと思う。尤も、これからの交渉が重要になってくると思うんだけどね。

スポンサーリンク

追記

情報が未だ出てきていないので、追記するほどのことはないのだが……。

戦闘機パイロットの養成 国内でできなくなる!? 新型練習機に必須な要件とは?

2024.04.12

2024年3月、全国紙が報じたところによると、日米両政府は航空自衛隊が保有する練習機T-4の後継機となる次期練習機を共同開発する方針で調整を進めていることがわかりました。

~~略~~

それでは、次期練習機は既存のT-4からどのように進化した機体となるのでしょうか。現在のところ日米共同開発ということ以外、具体的な計画案は明らかになっていませんが、おそらくは「LIFT」と呼ばれる種別の練習機となるのではないかと考えられます。

LIFTとは、「戦闘機へ導くための練習機」を意味する英語「Lead-In Fighter Trainer」の頭文字をつないだ略称です。まず、LIFTには戦闘機に準ずるドッグファイトを含む空中戦闘機動(ACM)も可能な高い飛行性能が要求されます。

乗り物ニュースより

そもそもT4練習機では、F-35A戦闘機の訓練ができない。

そこで、F-35A戦闘機の練習はどうしているかというと……。

また、F-35には練習機として用いることが可能な複座型が存在しないため、F-35では「戦闘機操縦課程」そのものが訓練不可能だという事情もあります。現在はイタリアの「インターナショナルフライトトレーニングスクール(IFTS)」に訓練生を派遣し、そこでレオナルド社製M-346「マスター」というLIFTを使わせてもらうことで、F-35パイロット候補生の訓練を実施しています。

このように、2024年現在、航空自衛隊はF-35パイロットの養成を自国内で行えていない状況にあるのです。だからこそ、LIFTに相当する練習機が早急に必要だと言えるでしょう。

乗り物ニュースより

こういった事情があるので、日本としては早急にT4練習機の後継機を用意する必要があって、実はT7A練習機はこれに対応しているとされている。

にもかかわらず、日米で共同開発するという方針になったことが不可解ではある。

コメント

  1. アバター 匿名 より:

    ボーイングの品質管理とT-7AのF-35シュミレーションモード開発費をなんとかしてくれ、のような気がする。

タイトルとURLをコピーしました