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日本風力発電協会の無茶な試算結果

報道
この記事は約9分で読めます。

良く、「経済効果」という言葉が出てくるんだけど、コレも似たような話だ。産経新聞も随分と無責任な数字を記事にしたもので、ちょっと気をつけて読まないとダメだよね。

風力発電が太陽光上回る 協会が2050年試算 経済波及効果は6兆円

2023/5/29 15:03

日本風力発電協会は29日、2050年時点で全体の電源構成の33%(約4500億キロワット時)を風力発電で賄い、太陽光(31%)を上回るとする試算結果を発表した。令和4年実績(速報値)の風力0・9%、太陽光9・9%から大きく上昇し、風力が太陽光を凌ぐと見通した。政府の2030年計画の風力5%、太陽光14~16%から大きく前進するとしている。

産経新聞より

記事には、なんと2050年時点で電源構成の33%を風力発電で賄うことになるなどと書かれている。驚くことに日本のことらしいぞ!これ。

日本風力発電協会の試算ということなんだけど、「願望」という言葉もちょっと烏滸がましいレベルである。

寝言は寝てから

現状との乖離

耳を疑う話だね。

これが令和2年(2020年)までの電源構成比である。お分かりの通り、火力発電が大半を占めている。「地熱および新エネルギー」の中に太陽光や風力発電が含まれていて、徐々に増えていることが分かる。

ついでに、太陽光発電協会(JPEA)のビジョンを紹介しておく。

JPEAは太陽光発電が2050年に電源構成比31%になると言っているね。日本風力発電協会の言う風力発電が2050年に電源構成比33%になると言っているのと比べると、大きな違いがある。むろん、どちらも信用できないんだけどね。

経済産業省の方針

では、経済産業省は?というと。

風力発電は2030年に太陽光発電が14%~16%で、風力発電が5%であるとしている。再エネ発電の割合は36%~38%になるとしているので、再生可能エネルギー発電は増やしていく予定だということのようだ。

ここから、20年後にどうするかということは政府は具体的に決めていないようなんだけど、カーボンニュートラルの方向に舵を切るとしている。つまり、再生可能エネルギー発電で100%電力需要を賄うに未来も可能性としてはありうるわけだ。可能性としてはね。

それでも現実的に考えれば、風力発電が5%から33%に爆発的に増えるとはとても思えない。

経済波及効果は6兆円

そして、冒頭で批判した経済波及効果の話が出ている。

また、風力発電導入による関連産業や地域などへの経済波及効果は6兆円、雇用創出効果は累積で35・5万人、化石燃料調達削減効果は年間2・5兆円とも試算した。政府は今後、同協会の試算も参考に、50年に向けたエネルギー政策を具体化していく方針だ。

産経新聞より

ほー、経済波及効果6兆円ですか。

22年新規稼働の風力機器シェア、トップ10に中国6社/洋上首位はベスタス

2023/04/06

2022年に世界で新規稼働した風力発電機器のメーカー別シェア(出力ベース)で、中国の新疆金風科技(ゴールドウインド)が首位になったことが分かった。昨年首位だったデンマークのベスタスは2位だった。調査会社ブルームバーグNEF(BNEF)が3月に公表した。ゴールドウインドが供給した風車の9割は中国国内向け。トップ10には中国メーカー6社が名を連ね、市場規模、製造量のいずれでも存在感が際立つ結果となった。

電気新聞より

電気新聞は2023年の記事で2022年までの状況を言及しているし、日本風力発電協会自身もレポートを出している。

2020年の世界の風車メーカのシェアの速報(BloombergNEF)
コンサル会社のBloombergNEFが2020年の世界の風車メーカシェアの速報を出しています。 2020年の新規導入量は 96.3GW/年(各国シェアは中国が50%以上、米国が約20%)です。順位は

それによれば、世界の風車メーカーシェアは支那が5割を占めていて、日本メーカーはトップ10にも入っていない。そうすると、日本国内で風車を建てれば、外国製の風車を導入せざるを得ないということになる。

経済効果6兆円のうち、一体何割が外国に流出するお金なんですかねぇ。

経済効果とは、ある出来事が起こることで特定の国・地域にどのくらいの経済的な好影響があるのかをシミュレートし、金額で示したもの、と定義されているのだけれど、「特定の国・地域」が日本のことであるとは思えないな。

洋上風力発電も上手くいくとは限らない

そもそも、陸上風力発電は、日本国内においては条件の良い場所(風況の良い場所)が少なくて、増やすことは難しい。だからこれから大幅に増えることは考えにくいそうな。

一方で、洋上風力発電の方は期待されているのだが、しかし、テスト結果は芳しくない。

福島沖での経産省主導の洋上風力発電開発事業、稼働率低く、全基撤退へ。 600億円の国費生かせず。三菱重工、日立、三井造船が製造元の3基。イノベーションリスクを露呈(各紙)

2020-12-13 21:21:53

各紙の報道によると、経済産業省の委託事業として、福島県沖で進められていた浮体式洋上風力発電事業が頓挫した。東京電力福島第一原発事故からの復興の象徴として合計約600億円を投じて官民連携で進めてきたが、採算が見込めず、民間譲渡もできないことから、建設した設備を全撤去する。

~~略~~

事業では、福島県楢葉町沖約20km付近に設置した風車3基と変電所を使って実証実験を進めてきた。しかし、3基のうち世界最大級の直径167mの羽根を持つ三菱重工製の1基(出力7000kW)については、機器の不具合で設備稼働率が約4%と極端に低く、採算が見込めないため、2018年に撤去が決まった。今回、残りの2基(出力5000kWと2000kW)についても稼働率があがらず、撤去されることになった。

追加撤去が決まった2基の稼働率(2018年度)はそれぞれ約24%と約34%。報道によると、一般的な商用化の目安は30~35%以上とされる。一番小さな2000kWの分は商用化ギリギリのレベルだが、主要な他の2基の採算が見込めないことから全体を撤去することにしたようだ。一部の専門家は、風力発電の選定などに問題があったと指摘しているという。

一般社団法人環境金融研究機構より

福島沖で行ったテストでは、稼働率が低くて使い物にならないという結果であった。特に、大型の風車(風力発電は風車を大型化しないと発電コストを下げられない)は稼働率4%という惨憺たる結果。

記事には触れられていないが、この稼働率の数字は故障している時間が長かったことも影響している。

もちろん、これは日本企業がタッグを組んでの実験だったので、風車が日本製であった。そこで、実績のある国から風車を買って設置をお願いすればもっと良好な結果が期待できるかも知れないんだけど、そうすると別の問題も出てくる。

洋上風力発電をやるということは、日本近海において海底の状況を調べた後に風車を設置することを意味する。それを、支那に任せるんですか?と。万が一の時には、上陸の参考にされる可能性を考慮して、各国共に国土の地形データ及び海洋データの計測は国の機関か軍隊に任せることが多い。それなのに、日本を敵視している国に任せて大丈夫なのか?という。

日本風力発電協会は、冒頭の記事で、2050年には洋上風力発電60GW、陸上風力発電40GWになるとしている。いやはや、2020年の時点で風力発電による総発電量が0.5GWなので、2050年の目標が如何に荒唐無稽な数字かということが分かると思う。

欧州では投資が減少

ところで、欧州では風力発電ブームは縮小しつつある、実は。それはこんな記事からも分かる。

2022年の欧州の風力発電事業への投資、前年から大幅減、2009年以降最少に

2023年04月06日

欧州風力協会(ウインド・ヨーロッパ)は3月29日、2022年の欧州の風力発電事業の資金調達や投資傾向に関する報告書を発表した(プレスリリース)。2022年の投資額は約170億ユーロと、前年の約410億ユーロから大きく落ち込み、2009年以降最も低い水準となった。国別でみると、投資額が大きかったのはドイツ(23億ユーロ)、フィンランド(21億ユーロ)、ポーランド(19億ユーロ)の順だった。

2022年に投資が行われた事業が順調に進展すれば、欧州全体で12ギガワット(GW)、うちEU域内では10GWの発電容量を確保できる。しかし、ウインド・ヨーロッパは、「リパワーEU」計画(2022年9月1日付地域・分析レポート)に基づくと、2030年までに毎年31GW増やす必要があるとギャップを指摘。風力タービンの受注数も減少しており、新たな発電所も必要数の半数程度しか建設が進んでおらず、「リパワーEU」の目標を達成したいのであれば、EUは投資家の信頼回復に努め、風力発電事業に資金を呼び込むべきだと訴えた。

また、報告書によると、2022年の投資は、ほぼ全てが陸上風力発電を対象とし、洋上風力発電への投資は前年の約166億ユーロから約4億ユーロに激減しただけなく、2013年からの10年間でみても際立って少なかったことが特徴的だ。洋上風力への投資は、地中海におけるフランスの2カ所の浮体式洋上風力発電のパイロットファーム(発電容量は合計60メガワット)のみだった。

JETROより

たまたま2022年度に投資が少なかったというわけではなくって、投資ブームが去った可能性が高いのだ。

温暖化の影響で風力発電が窮地に? 「北半球の風」が弱くなる
温暖化によって北極と赤道の温度差が小さくなり、北半球を吹く風が弱まってしまうかもしれないという研究結果が発表された。これにより、社会が「脱炭素化」へと向かう流れを後押ししてきた風力発電の存在意義が薄れてしまう可能性が出てきた。こうした事態に...

これは、環境変化によって「風が弱まる」という可能性が指摘され始めていることも関係していると思うが、何より、実際に風が吹かなかったことと関係している。

風吹かぬスペインの教訓 再生エネ拡大、日本にも難題

2021年10月17日 0:00

「脱炭素先進国」のスペインがエネルギー危機に見舞われている。同国の風力発電の発電量が前年同月に比べ2割減るなど欧州の風が弱まったことが天然ガス価格高騰の発端の一つにもなった。再生可能エネルギーの不安定さの克服に長く取り組んできたスペインの苦悩は、同様の電源構成をめざす日本にとっても教訓となりそうだ。

日本経済新聞より

これ、2021年だけの問題ではなくて、2018年にもドイツで類似の問題が発生していて、一時的にだがヨーロッパに風力発電の問題が共有されたのだ。分かっていた話ではあるが、現実的にソレが降りかかるとは思っていなかったかも知れない。

酷暑が再生可能エネルギーに与えた影響
ヨーロッパの全ての国におしなべて言えるのだろうが、ドイツでも7、8月は夏の休暇の期間であり、世の中の動きが俄然少なくなる。今夏、エネルギー問題に関しても例外ではなく、関連ニュースは余り見られない中、目に付いたのは、酷暑

つまり、風力発電に頼ると言うことは、エネルギーの安定供給という意味では極めてリスキーな話であることを思い知らされたのだ。2022年に欧州で風力発電関連投資が激減したというのは、ある意味当たり前の話なのだ。日本ではそう言った点についての報道は殆ど見かけないが。

更に、ロシア軍がウクライナに侵攻した事で、エネルギー価格の高騰を招いてしまって、今なお混乱が続いている。つまり、再生可能エネルギー発電の不安定さも問題だが、火力発電も安心できない材料を抱えていると言えよう。

結局、商用発電はベストミックスにせざるを得ないのである。そんなことは数十年前から分かっていて、日本はその方向で努力してきた。だが、3.11以降、それが覆されてしまった。

それでも、好むと好まざると、ベストミックスのうちの1つとして、今後は原子力発電を入れざるを得ないだろう。

政府は、四方を海に囲まれる日本で、洋上風力は再生可能エネルギーの主力電源化に向けた「切り札」と位置づけており、30年に発電電力量の5%を風力で賄う計画を示している。

産経新聞より

日本政府も寝ぼけたことを言っているな。「切り札」って、そんな都合の良い話ではないのだけれど。

コメント

  1. アバター 河太郎 より:

    風力発電ねぇ……IHIが開発中の藻類によるバイオエタノールとか、メタンハイドレートの採掘法開発とか、他にやる事があるんでないですかねぇ?
    太陽光発電で里山を切り崩して、土石流やら、パネルの台風での飛散や、廃棄パネル不法投棄などモロモロの問題が噴出した事を教訓にしないのですかねぇ?
    だいたい風力発電って、渡り鳥が引き寄せられてバタバタ追突死するのが観測されてるんですが、そういうの自然保護大好きで、動物愛護大好きな推進派は考えているんですかねぇ?
    私は神道団体での里山と杜を護る運動をしてきましたから、どーも口先だけの左派の環境保護やらには眉唾するんですね。

    • 木霊 木霊 より:

      色々研究開発はやられているようですが、藻類によるバイオエタノールの抽出は、藻類ボツリオコッカスが有名ですが、大量生産に難があって、コストを下げられないところで足踏みをしているようですね。
      メタンハイドレートの採掘開発も遅々として進みませんが、やはりこちらもコストがネックのようです。ただ、水中UAVの改善によって随分と条件が良くなっているようで、特に希土類の採掘などには期待が持てそうです。尤も、ここも価格のバランスが一番のネックになりそうですが。

      太陽光発電も一時期はかなりもてはやされましたが、変換効率は20%前後。研究機関では40%超の効率まで確認出来ていますが、あまり改善は見られません。廃棄パネルの問題はこれからもっと大きな問題となるでしょうね。

      今回の主役の風力発電は、やっぱり色々問題を抱えていまして。特に日本国内では効率よく発電するという所は少ないようです。何より、発電量が気まぐれ過ぎるので、風力発電所を沢山建てると電力の安定供給に大きなダメージが。なかなか難しいものですね。
      そして、太陽光発電もそうなんですが、風力発電用の風車も山中に立てるパターンは最悪です。よくもまあアレで、「環境のため」「環境保護」とか言うものです。

  2. アバター BOOK より:

    木霊さま 皆様 こんばんは

    >2050年時点で全体の電源構成の33%(約4500億キロワット時)を風力発電で

    物凄い開発スピードアップで、どうやって達成するのか?

    で元発表をあたってみれば
    https://jwpa.jp/cms/wp-content/uploads/JWPA-Wind-Vision-2023_20230529_Full.pdf

     ヒドイ、、、、試算って 根拠のある計算は「こんだけ欲しくなるね」だけに見える。

    唯一具体的なのははp.25の表 山林バッサバッサ切り倒していくらでも作れるよう規制緩和しろ、という身勝手な提言のみ、、に見える

    誰に向けた、何のための プレゼン・報告書?   これで投資しろってならお断りだよね(笑)

    • 木霊 木霊 より:

      こんばんは。
      この資料はあたっていませんでしたが、酷いですね、これ。
      p9では、洋上風力発電をしてから水素を製造し、それを地上に運ぶコンセプトが提言されていますが……、これって海水を電気分解して水素作るって意味ですよね。エネルギーを貯めるという意味では優れていると言えるかもしれませんが、効率を考えたら話にならない。地上に電気を送って蓄電したほうが未だマシなレベルでしょう。しかしあえてそれを想定しているということは、浮体式洋上風力発電を海岸より数km先レベルで沖の方に設置することを意味していまして、メンテナンスの面でかなり不利です。
      これだったら、それこそメタンハイドレートの回収をやった方がマシでしょう。

      電力の安定供給という観点で物事を考えていないし、コスト意識がない。よくもまあこんな間抜けなレポートを作ったものです。
      現行のFIT制度では投資回収の不確実性が高いからもっと優遇しろとか、頭が湧いているのではないかと。産業界には安価な電力供給が不可欠だというのに……。