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インドネシア海軍はフランス製の潜水艦を採用する

アジア
この記事は約9分で読めます。

「流石はインドネシア」と感心した一方、韓国チームは残念なことになりそうだ。

Naval Group and PT PAL have signed a contract with Indonesia for 2 locally built Scorpène® Evolved Full LiB submarines

02 APRIL 2024

In accordance with the Defence Cooperation Agreement signed between the governments of France and Indonesia in August 2021, the Indonesian authorities have chosen Naval Group and PT PAL for their submarine program. The two companies had joined forces through a Strategic Partnership Agreement (SPA) signed in February 2022.

~~対訳~~

ナバル・グループとPT PALは、インドネシアとスコルペヌ進化型フルLiB潜水艦2隻の現地建造契約を締結

2021年8月にフランスとインドネシアの政府間で締結された防衛協力協定に基づき、インドネシア当局は潜水艦計画にナバルグループとPT PALを採用した。両社は2022年2月に締結された戦略的パートナーシップ協定(SPA)を通じて手を組んだ。

Naval Groupのサイトより

インドネシアはフランス製の潜水艦を手に入れることにしたらしいからだ。

インドネシア海軍の潜水艦取得はFIOPに影響する

潜水艦が欲しい!

インドネシア潜水艦といえば、このブログでも何度か触れているのだけれども、カクラ級潜水艦を採用している。カクラ級はドイツ製の209型潜水艦がベースになったもので、1番艦の「カクラ」と2番艦の「ナンガラ」を保有している。……していた。

何故か過去形にしたかといえば、「ナンガラ」は魚雷実弾発射訓練の際に、消息を絶ってしまったからだ。そして、水深850mの海底で無残な姿を発見されたのだが、技術的に引き上げは不可能だった。

そんな訳でインドネシア海軍が保有する潜水艦は1隻減ってしまって、次級のナーガパーシャ級潜水艦も3隻までは納入されたんだけど……。

インドネシア初の国内建造潜水艦が進水 海軍の潜水艦戦力強化へ | おたくま経済新聞
インドネシア国防省は2019年4月11日(現地時間)、インドネシア海軍の新しい潜水艦「アルゴロ(405 Aligoro)」が進水したと発表しました。アルゴロは、インドネシア国内で初めて建造された潜水艦...

インドネシアの防衛大臣がナーガパーシャ級が就役した後で、難癖を付けてケチがついてしまった感じになっている。

  • ナーガパーシャ級1番艦「ナーガパーシャ」 2016年進水
  • ナーガパーシャ級2番艦「アルダデリ」 2017年進水
  • ナーガパーシャ級3番艦「アルゴロ」 2019年進水(インドネシアで製造)

このナーガパーシャ級を運用するにあたって、潜水時間が短いことが問題になったらしい。もともと209型潜水艦は出来は良いんだけどAIP推進機関は搭載していない通常動力型の潜水艦である。よって、連続潜航期間も数日が良いところだろう。

Prabowo Disebut Kecewa Soal Kapal Selam Buatan RI, Kok Bisa?
Ternyata banyak dugaan persoalan dalam pembuatan kapal selam Indonesia yang kerjasama dengan Korsel.

連続航行時間もさほど長いとは言えず、精々1月といったところだろうか。そういう意味で、インドネシア側の要求は少々酷なのだが、ナーガパーシャ級はこれ以上必要ないと判断されたのは間違いなさそうである。

スコルペヌ型潜水艦

で、そこに出てきたのが冒頭に紹介したスコルペヌ型潜水艦である。

Naval Group is very honoured to be part of this new chapter in the strategic alliance between Indonesia and France. With Scorpène® Evolved Full LiB, Indonesia has chosen a high-performant, sea-proven submarine that will strengthen the country’s maritime sovereignty and support the Indonesian Navy in achieving regional superiority at sea. In addition to the submarines, our strategic partnership with PT PAL will also support the Indonesian defence industry to actively prepare the future of naval warfare in the country. We are pleased to welcome the Indonesian Navy in the Scorpène® family”, Pierre Éric Pommellet, Chairman and CEO of Naval Group.

~~対訳~~

「ナバル・グループは、インドネシアとフランスの戦略的提携の新たな章に参加できることを大変光栄に思います。スコルペヌ進化型フルLiBにより、インドネシアは高性能で、海上で実績のある潜水艦を選択し、国の海洋主権を強化し、インドネシア海軍が海上で地域的優位性を達成するのを支援します。潜水艦に加え、PT PALとの戦略的パートナーシップは、インドネシアの防衛産業が同国の海戦の将来を積極的に準備することを支援します。インドネシア海軍をスコルペヌファミリーとして歓迎できることを嬉しく思います」と、ナバル・グループ会長兼CEOのピエール・エリック・ポムレは述べている。

Naval Groupのサイトより

スコルペヌ型潜水艦はフランスとスペインで共同開発した潜水艦で、209型潜水艦の対抗馬として知られている比較的小型の潜水艦である。

基準排水量は2000tクラスであり、記事によるとAIP推進に対応させるためにリチウムイオン蓄電池を採用するクラスに改良されると説明されている。

ナーガパーシャ級潜水艦の潜水時間が短いという問題はスコルペヌ型潜水艦で解決するかといえば、おそらくAIP推進を採用するのだから長くなるのだろう。要求仕様を満たすかは知らないが。

だが、リチウムイオン蓄電池を採用する潜水艦の実例は、今のところ日本のそうりゅう型潜水艦2隻とたいげい型潜水艦4隻しか存在しない。世界でもちょっと珍しいタイプの潜水艦が、「そうりゅう型潜水艦」と「たいげい型潜水艦」なのである。

韓国も島山安昌浩級潜水艦のバッチ2がリチウムイオン蓄電池を搭載するという噂はあるようなのだけれど、完成までには少し時間がかかるかもしれない。そうすると、インドネシア海軍としてはスコルペヌ型潜水艦の方がメリットが大きいと判断したのだろう。ナーガパーシャ級潜水艦は209型潜水艦ベースの潜水艦なので、AIP推進は採用がないからね。

不採用と情報漏洩

そして、この話と関係があるのかないのか。

大宇造船海洋、契約金受け取る前に潜水艦作り900億ウォン損失処理

2022.08.18 07:04

大宇造船海洋が東南アジアの国と潜水艦販売契約を結んだ後、約900億ウォンの資材を発注したが3年近く契約発効が先送りされ、これを事実上損失処理した事実がわかった。2019年4月にインドネシア国防省と1400トン級潜水艦3隻、総額1兆1620億ウォン台事業の建造契約を締結したが、前受金を受け取る前に異例の主要資材を発注したのだ。大宇造船海洋内部ですら「無理な先行発注で会社に損失を及ぼした」という批判が出ている。

中央日報より

もともとナーガパーシャ級は6隻作る話で進んでいたのだが、3隻納入した時点で「性能に不満がある」として、キャンセルしてしまった。

そこで、契約前に資材を購入していた韓国企業に損失が生まれたと言うことなのだが……、メンテナンスをお願いしなければならない立場で、こうした思い切った損切りをするのはインドネシアの短慮なのか、英断なのか。

そして、その影響があったかは分からないが、こんな事件が報じられるにいたる。

韓国潜水艦の設計図が台湾に流出…ハンファオーシャン「断固として責任を問う」

記事入力 : 2024/01/05 10:45

韓国造船大手「ハンファオーシャン」(旧:大宇造船海洋)の潜水艦設計図面が台湾に流出していたことが分かり、警察が捜査を進めている。ハンファオーシャン側は過去についても今後についても技術流出事件に対して断固として責任を問うという見解を明らかにした。

台湾に流出した潜水艦設計図面は、大宇造船海洋時代の2011年、インドネシアから11億ドル(現在のレートで約1590億円)で3隻受注したDSME 1400モデルのものだ。DSME 1400は韓国の209級潜水艦「張保皐-1」の派生型だ。

朝鮮日報より

この台湾に流出したであろう潜水艦設計図面だが、インドネシアに納入する潜水艦のものだったようだ。

警察が4日に明らかにしたところによると、慶尚南道警察庁は元・大宇造船海洋社員A氏ら2人を技術流出の容疑で在宅で立件し、取り調べているという。A氏らは大宇造船海洋に在職していた当時、潜水艦設計図面を持ち出し、その後、潜水艦開発コンサルティング会社のB社に転職していた。

警察は、2人が所属しているB社が台湾国際造船(CSBC)と共に台湾独自の潜水艦「海鯤」を作る過程でこの図面が流出したとみている。

朝鮮日報「韓国潜水艦の設計図が台湾に流出」より

巨額の損失を抱えたので、それを取り返そうとした……、という話ではないかも知れないけれども、インドネシア海軍にしてみれば、保有している潜水艦の設計図が流出したというのは洒落にならない事態だ。

場合によっては、ナーガパーシャ級潜水艦の退役は早まる可能性もあるね。

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フィリピン向けの潜水艦も韓国は劣勢に?

さて、インドネシア海軍がスコルペヌ型潜水艦の採用をするとなると、フィリピン向けの潜水艦もちょっと不利になってしまうだろう。

ハンファ・オーシャン、フィリピン海軍の要件を満たすKSS-III潜水艦の派生型を提供

2023 年 9 月 19 日

ハンファ・オーシャンは、フィリピン海軍(PN)の2隻潜水艦要件に対して提出された最新の強化された提案を発表した。

JANESより

韓国としては積極的にフィリピン向けの潜水艦のセールスを行っていて、一時期は韓国有利か?と思っていたのだけれど、インドネシア海軍がこれを採用するとなるとどうなるか。

フィリピン海軍もリチウムイオン蓄電池の搭載型が欲しいという意志が見え隠れしているので、同じタイプがセールスされればフランス製の潜水艦導入に傾く可能性はあるね。

そして、フィリピン海軍はこれまで潜水艦を持っていなかったので、インドネシア海軍に加えてフィリピン海軍もまともな潜水艦を入手することになるとすると、自由で開かれたインド太平洋(FIOP)に大きな影響が出るだろうと予想される。

日本としても興味深く見守るべき話ではあるよね。

コメント

  1. アバター 匿名 より:

    フランスは商売上手ですね
    オーストラリアへのそうりゅう型潜水艦輸出も最初フランスにかっさらわれましたね
    しかし韓国は潜水艦を輸出出来るだけ日本よりマシです
    日本も早く武器輸出を解禁すべき

    • 木霊 木霊 より:

      フランス製の潜水艦ですが、最初は結構「色々できる」みたいなセールスをやるんですよね。
      しかし、リチウムイオン蓄電池の搭載をテストしたという話も聞きませんから、そんなにすんなりいくのかどうか。

      そしてご指摘通り、輸出できると言うことは大きいですよね。

  2. アバター 山童 より:

    日本の潜水艦を買えよ。原潜でなければ世界一だから。あ、売れないんでしたっけ? 馬鹿げた話ですわ。
    高コストうんぬんの前に輸出しないで、どうやってアップデートのデータを取ると言うのでしょうね。
    結局あれでしょう。
    武器があるから戦争が起きるんだ。無くせば戦争はなくなるんだ的な御花畑が邪魔してるんでしょう。無くても石と棒でもサピエンスはやりますよ。実際にインドと中国はヒマラヤで石器時代なみの戦闘したじゃないですか。下手に非武装の方がかえって争いを招くという現実が見えない御花畑が多くて困る。

    • 木霊 木霊 より:

      日本の潜水艦、オーストラリアに売る話がダメになっちゃいましたからね。
      ただ、売れるとしても技術者の確保が必要な側面もあるので、簡単に増産できないというところがネックですわ。

      とはいえ、やっぱり武器輸出はできる体制にしていかねばなりません。

  3. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    ・インドネシアは、KF-21の件も含め、韓国相手は舐めプでOK!と思っている節がある。
    ・舐められても韓国は「腹立ち紛れに打つ手なく、腹立ち紛れに途方に暮れる」
    ・おフランスも食わせ者、すんなり行くとは思えない
    ・日本としては関わり合いになりたくはない
    ・とはいえ、結果的に中国を利するのは断固として避けたい

    というところで、中古の巡視艇でも安く売って恩を着せておいて、いざとなったら米軍と共同でそこら一帯で暴れ回る権利を得る、というあたりが狙い目かな、と思いますが如何に。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      インドネシアとの関係は余り上手く行っていませんが、フィリピンとの関係はそれなりに上手く行っているようで。
      日本の外交も全く仕事をしていないって訳ではないのだけれど、各国共にそれぞれ思惑がある話なので、これをとりまとめるリーダー的存在は欲しいところですね。

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