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感染症危機管理統括庁が9月1日に設置される運びに

安全保障
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ほう。

危機管理統括庁、9月1日設置へ 感染症対応一元化

2023年7月26日 21:53

政府は感染症発生時に司令塔機能を担う「内閣感染症危機管理統括庁」を9月1日に設置する方向で調整に入った。新型コロナウイルス禍で感染対策などの初動対応が遅れた教訓を生かし、感染症対応の体制強化を狙う。

日本経済新聞より

内閣感染症危機管理統括庁の設置か。日本経済新聞さん、わざとタイトルかえていませんか?「危機管理統括庁」だと、有事対策のように誤解するんだけど。

武漢ウイルス対策で後手に回った反省を活かせ

感染症対策が後手に

まあ、日本経済新聞の「会員制記事だから、中まで読んで貰うためにタイトルをちょっと替えて」というスケベ根性が見え隠れする点は脇に置いてくとして、方向性としては真っ当だね。あ、日本経済新聞だけが悪いという話ではないんだ。この「内閣感染症危機管理統括庁」の略称は「危機管理庁」って事になっているから。

名称が分かりにくいが、要は「日本版CDC」を作ろうという話だ。これに関しては、別に記事になっていたはず。

政府が感染症対策の司令塔、日本版CDCを新設…そこに求められるものとは?|TOKYO MX+(プラス)
政府が感染症対策の司令塔、日本版CDCを新設…そこに求められるものとは?

まあ、これはこれで読んで頂くとして、これまで何が問題だったのかという話を少し整理しておこう。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC : Centers for Disease Control and Prevention)は、保健福祉省所管の感染症対策の総合研究所である。

日本にも研究所という位置づけでは、国立感染症研究所とか国立国際医療研究センターがあるのだけれども、権限が全く違うんだよね。国立感染症研究所と国立国際医療研究センターは両方とも厚生労働省所管の組織で、前者が疫学調査、後者が臨床研究を担当している。実際に武漢ウイルスの情報の収集など積極的に国立感染症研究所が動いていたのだけれど、大規模感染を前にその情報を十分に生かすことが出来ていなかった。

何故ならば、集めた情報を元に日本全国に展開するためには、保健所を通していたのだけれど、ここから更に民間の病院に情報展開するまでに時間が掛かったことと、保健所が感染情報を集めるところで機能不全を起こしちゃったんだよね。情報がオーバーフローしてしまったわけだ。

処理速度が追いつかなかったので、対策が後手後手に。要は、大規模感染症の感染拡大を想定していながら、実際に起こったときのシミュレーションが不十分だったということだね。

政府分科会

でまあ、今回は武漢ウイルス対策に特化した政府分科会を立ち上げて対応することになった。

新型コロナ「第9波が始まっている可能性」政府分科会 尾身会長

2023年6月26日 12時20分

新型コロナ対策にあたる政府分科会の尾身茂会長は、岸田総理大臣と面会したあと「全国的には感染者数が微増傾向で、第9波が始まっている可能性がある」と述べ、高齢者を中心に6回目のワクチン接種など亡くなる人を減らすための対策を行う必要があると指摘しました。

NHKニュースより

一気に顔の売れた尾身氏が中心になって、政策提言などをしたわけなんだけれども、最初は結構機能していた気がするんだけれども、何というか途中から「え、まだアノ分科会ってあったの」という雰囲気になってしまった。

とはいえ、今回の武漢ウイルス対策に関してはCDCも結構やらかしていて、感染拡大を防ぐことは出来なかったし、その後の抑制策も不十分であったように思う。

武漢ウイルス対策の分科会の役割は、どのように果たされて何が足りなかったのか?という事は総括すべき話だと思う。

感染症期危機管理統括

しかしそういった総括をしないままに、政府は感染症対策の司令塔機能を担う組織の立ち上げを決定した。

「内閣感染症危機管理統括庁」来年度中の設置へ…来月2日にも決定

2022年8月30日 19:00

政府は、感染症対策の司令塔機能を担う新たな組織の名称を、「内閣感染症危機管理統括庁」として、来年度中の設置を目指す方針を固めました。今週金曜(来月2日)にも新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、決定する予定です。

感染症対策を担う新たな司令塔組織について、政府は、名称を「内閣感染症危機管理統括庁」とし、設置に必要な法案を来年の通常国会に提出し、来年度中に設置することを目指す方針を固めました。

日テレニュースより

これは、これまで厚生労働省が感染症対策や医療体制に関する政策、ワクチンや検査などの取り扱いの取り決めをやってきたのだけれども、緊急事態宣言などの社会や経済に関わる政策に関しては内閣官房が担当していたために、情報伝達の齟齬があり、これを解消したいという狙いがあるようなのだ。

感染症危機管理統括庁を新設 改正法が可決・成立 初動の迅速化狙う

2023年4月21日 19時00分

感染症対応の司令塔となる「内閣感染症危機管理統括庁」を内閣官房に新設する改正内閣法が参院本会議で21日、賛成多数で可決、成立した。新型コロナウイルス対応の教訓をふまえ、初動の迅速化を図るのが目的だ。今秋までに改正法を施行し、設置する。

統括庁は、対応が必要となる感染症が発生した際に、省庁や関係機関とのやりとりを一元化し、101人体制で初動対応を担う。

朝日新聞より

まあ、大規模な感染症が発生すると、どうしても厚生労働省では対応出来ない規模の話になってしまいがちなので、内閣官房が動くべきだという話は分かる。ただ、組織としてしっかり機能するのか?という点には少々疑問も残るんだよね。

頑張って組織編成をしてほしい。

実働部隊は従来通り

政策的な部分がスムーズに行かなかったことの心配というのは、政治家にとっても官僚にとっても分かり易い話なんだけど、今回の件で最初に日本を震撼させたのはダイヤモンド・プリンセス号事件である。

それまではどこか他人事だったんだけどね。

ダイヤモンド・プリンセス号新型コロナウイルス感染症事例における事例発生初期の疫学

背 景

2020年1月20日に横浜港を出港したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス(DP)号の乗客で, 1月25日に香港で下船した80代男性が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患していたことが2月1日確認された(1月19日咳発症)。2月2日に香港から同報告を受けた厚生労働省は, 2月1日那覇港寄港時に検疫を受けたDP号船員乗客に対し, 2月3日に再度横浜港で検疫を実施した。

NIIDのサイトより
ダイヤモンド・プリンセス

この事件、結果的には日本が防疫に成功した実例だと考えて良いと思う。

しかしその当時は、世界初の船内パンデミックの事例として世界から注目を集めたと同時に、「日本の対策が不十分であった」、「非人道的だった」と非難を受けていた。船を使った隔離が不評だったんだよね。

ただ、結果的には乗船した計3,711人の乗客・乗務員のうち、712人(19.2%)が感染し13人(0.4%)が死亡する事態になったけれども、潜伏期間を考慮すると日本の横浜港に入港後に新たな感染拡大を殆ど招いていなかったと評価できる。まあ成功だと考えてよいだろう(注:CDCは帰港後も感染拡大した事例が見られると評価したが)。

病院船構想はお蔵入りに

ダイヤモンド・プリンセス号の事態に対応したのは、厚生労働省の職員と災害派遣医療チーム(DMAT)などの組織だった。しかし、DMATの構成員はその殆どがDMAT登録された勤務医であり、災害派遣の経験はあっても感染症の専門家ではなかった。

そこで、こうした事態に対応出来るためにスペシャルチームを作ろう!ということになった。それが冒頭の話に繋がるんだけれど、その前に、当初一番苦慮した隔離場所の確保のために、病院船建造の構想が持ち上がっていた。

アメリカにはマーシー級病院船という海軍所属の船がある。これを参考にして、病院船を作ったらどうかという話が出たのである。

「病院船」建造 新型コロナで政府が必要性検討も当面見送りへ

2021年3月31日 5時10分

新型コロナウイルスの感染拡大を受け必要性が議論されてきた「病院船」について、政府は医療従事者の確保などに課題があるとして、当面は新たな建造を見送る考えを示しました。

新型コロナウイルスの感染が拡大した去年、与野党の国会議員などから、大規模な災害や感染症が発生した場合に備えて、船に病院の機能を持たせた「病院船」の導入を求める声が上がりました。

このため政府は、病院船の必要性について検討してきましたが、30日、当面は新たな建造を見送るとする考えを公表しました。

NHKニュースより

結局、計画は見送られたんだけどね。

この背景には、マーシー級病院船が、アメリカで武漢ウイルス対策に使用された実績があり、対応に失敗したことも関係しているんじゃないかな。

病院船は新型コロナ対処の切り札たりえたか 米海軍マーシー級病院船 派遣1か月の結果 | 乗りものニュース
新型コロナの影響でロックダウン下のニューヨークへ派遣されたアメリカ海軍の病院船「コンフォート」は、どのような活動実績を残せたのでしょうか。日本の病院船保有議論にも大きな一石を投じるかもしれません。

確かに、病院の確保という意味では、移動可能な船舶に病院の機能を詰め込もうという発想は良いようにも思える。しかし、この病院船構想、「平時の時にどうやって扱うの」という点で非常に大きな問題を抱えてしまう。

そもそも、医師の能力は如何に実務を担当しているか、というところに担保される部分が大きく、平時にも医療行為をしている医師でないと災害時には役に立たない。

また、船舶では多数の病人を収容できず、収容した病人を看病する看護師をどのように確保するかという点や、港に近くないと使えないというデメリットもある。

つまり、場所の確保・人員確保という面において、不適当だと判断されたのだ。

それによりますと「病院船」は、大規模な災害で陸路が寸断された地域や離島の医療のサポートが期待できるものの、感染症への対応としては陸上の医療機関より優れている点はないとしています。

また、大規模な災害時であっても、被災地への到着には時間がかかり、早急に治療が必要な重症患者への対応は難しいとしています。

NHKニュースより

まあ、真っ当な判断だよね。

実際に、「自衛隊が持つ機動衛生ユニットを増やした方が良いのでは?」などの意見も出ていて、仮設住宅のような形で病院を作った支那のようなやり方(火神山医院)の方が現実的だろうとも指摘された。尤も、用地選定などの問題があるので、簡単に真似ができるとは思えないので、イギリスやマレーシアがやった体育館などを利用した仮設病院の設営が現実的だろうと言われているが。

緊急時に招集可能な組織

とまあ、そんな感じで「人の確保」と「場所の確保」については散々話は出たんだけど、そう簡単には解決できない。で、緊急時に人の確保が出来る仕組みと法整備はしておかねばならないだろうということになった。

だから、感染症危機管理統括庁を作ったんだよね。必要な手段を講じるために、スピードアップが図れるように。これについて、こんな提言がなされている。

「日本版CDC」を緊急時に機能させるためには?大学・企業を加えたバーチャル組織構築へ | 新型コロナ(COVID-19)収束シナリオ | 三菱総合研究所(MRI)
感染症対策のプロ集団、通称「日本版CDC」の組織設立が着々と進んでいます。バーチャル組織構築へ向けて中長期的なキャリアパスへの配慮やインセンティブ設計が必要です。

これは三菱総研の提言なのだが、なかなか面白かった。

新型コロナ対策において日本の対応で画期的だったのは、感染の初期に「クラスター対策班」として、北海道大学、東北大学などのチームを対策本部内に取り込んだことである※3。しかし、当時は研究者のボランタリーな活動であり、情報収集基盤やデータ利活用ルールの未整備、ガバナンスが効かせられないなど、さまざまな問題が生じ、集まった専門家の力を十分活用できなかった面がある。

新組織では、さらに製薬企業なども含めた専門人材を組織内に取り込み、政府の意思決定者にインプットしながら、研究開発を進める体制を構築することが重要であると考えられる。そのためには、平時からその仕組みの構築などが重要となる。

三菱総合研究所より

DMATの招集を行っても、その人員を有機的に使えるのは、上に立つ人材があってこそである。だから、大学や研究機関の活用もしたら?というわけだ。実際、そうした部分を整備していくことが、今後の感染症危機管理統括庁の役割となるのだろうと思う。

こうした取り組みは素直に評価したい。

ただ、感染症だけではなく危機管理対応は必要なシーンがあって、特に大規模テロ対策などに対応出来るような組織が日本には欠けている。「危機管理庁」と言うことにして、そこまで手を広げてはどうだろう。おそらくは、地域毎に作られている警察組織ではなく、国家に紐付いた広域警察組織が必要である。そこまで見据えた、本物の危機管理庁を作って欲しい。

コメント

  1. アバター 音楽大好き より:

    木霊様、皆さま、今晩は

    最初から「100点」の制度、組織を作ろうとしても無理です。今までの制度、組織の問題が認識できたならば、それを「何とかする」のを作れば良いのです。それが新しい組織か、現状の組織(部門)の強化、権限拡大)かは分かりませんが、100点でなくてもOKです。常に「100点ではない」部分を洗い出し改善すれば良いのす。

    というわけで、いいと思います。お役所的に「固定化」しないならばね。

    • 木霊 木霊 より:

      とりあえず第一歩、という事でしょうか。
      まあ、今のままでは対応できないと考えたから、使いやすい組織を目指すという点は評価していいと思っています。
      ただ、やることは山のようにあるので、どうなるのかは気にしていきたいところです。単なる既得権益を増やすだけにならないことを祈りつつ。

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