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何故、岸田氏はNATOの会議に参加したのかをちょっとだけ解説

安全保障
この記事は約14分で読めます。

あまりNATO絡みのニュースは人気がないんだけれども。

G7首脳、ウクライナ支援で共同宣言 長期的な安全保障約束

2023/7/12 23:37

先進7カ国(G7)首脳は12日(日本時間同)、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれたリトアニアの首都ビリニュスで会談し、共同宣言を発表した。宣言ではウクライナに対し、ロシアによる侵略を将来的にも抑止するために、軍事支援を通じた長期的な安全保障を約束した。

産経新聞より

今回は、先日からお伝えしているNATO絡みの話で、何故、日本がNATOと絡むのか?ということと、G7の枠組みが出てきたことの意味を、少しだけ考えておこう。

ウクライナ問題の拡大

NATOの東京事務所が設置される?

まずは、少し前のニュースを引用しておく。

NATOが東京事務所の設置を検討、連携強化狙い 駐米大使明かす

2023年5月10日 7時30分(2023年5月10日 20時17分更新)

欧州や米国などを中心とした軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)が、東京に連絡事務所をつくる方向で調整していることが9日、明らかになった。冨田浩司駐米大使がワシントンでの講演で明かした。ロシアや中国への対応を念頭に、NATOと日本との連携を強化する狙いがある。

朝日新聞より

ちょっと前にNATOの東京事務所設置のニュースが出て、話題になっていた。「何故、NATOなのか」と。

北大西洋条約機構(NATO)が何のために作られた組織なのか?といえば、対ソ連互助組織である。しかし、ソ連は1991年に崩壊した。その後継者としてロシアが登場はしたんだけれど、本来的な意味で言えばNATOはその時点で役割を終えた。

しかし、NATOという組織は解体されず、ロシアが仮想敵国という状況で結束を強め、その組織は肥大していった。ロシアに言わせれば「それこそが脅威なのだ」ということらしい。

東京事務所の設置は、まさにそのNATO権益の拡大という意味になる。

フランスは反対

で、これに「反対の声」をあげたのがフランスである。

仏大統領 「インド太平洋は北大西洋ではない」 NATO東京事務所、改めて反対

2023/7/13 00:35

フランスのマクロン大統領は12日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が行われたビリニュスでの記者会見で、NATO東京連絡事務所の設置計画について、「インド太平洋は北大西洋ではない」と述べ、改めて反対を表明した。

産経新聞より

フランスは「インド太平洋は北大西洋ではない」という謎ロジックを使って反対している。

ああ、又か、という感じの話なんだけど、この記事をよく読むと、何故フランスはそんなことを言ったのかが分かる。

マクロン氏は、ロシアのウクライナ侵略への対応で、「日本はこの戦争の影響が、欧州や米国にとどまらないことを示してくれた。国連憲章を順守し、価値観を共有する国にはすべてかかわる問題だとして、先頭に立って、(ロシアを)批判し、ウクライナに寄り添ってくれた」と謝意を示した。

産経新聞より

NATOは何処まで行ってもヨーロッパの話が中心で、ウクライナとロシアの戦争はまさに自分たちの課題である。

ただ、直接的に関わると、ヨーロッパに火の粉が降りかかる可能性があるために、慎重に関わる姿勢を崩してはいない。

そのことが「謝意」に現れているわけだ。日本にとってはウクライナはロシアと国境を接する立場の似た国であるのだから、支援しないという選択肢はないのだが、そのこととNATOの事情とは又別なのである。

そのうえで、東京連絡事務所については、北大西洋という地理的範囲を超えて、「NATOの正当性を示すような施設を域外に設けている、という印象を与えるべきではない」とした。日本や域外国とのパートナー関係の構築を歓迎する一方、「戦いの領域のようなものを広げるべきではない」と述べた。

産経新聞より

ところが、NATOの連絡事務所を東京に置くと言うことの意味は、すなわち対支那まで射程圏内に収めようという発想なので、戦争リスクが増えるのは「ごめんだ」というのがフランスの考えなのである。

それと、支那に言われている事も関係しているね。フランスは支那に尻尾を振る犬だから。

支那と仲良くしたいフランス

実際に今年の春にはフランスは支那に朝貢に行った。

フランスはなぜ中国に接近? 「中国をつけあがらせる」との警戒感も

2023年4月7日 23時15分

フランスのマクロン大統領は7日、3日間に及んだ中国訪問を終える。国賓待遇で中国側から手厚いもてなしを受け、習近平国家主席との会談は、7日の非公式も合わせて2日連続に及んだ。中国に接近をはかるフランスの狙いはどこにあるのか。

朝日新聞より

フランスは「独自外交」というスタンドプレーが好きらしく、軽率に動いては色々なところで叱られるパターンが多い。

ロシアとの付き合いも独自路線を貫いて、プーチン氏との接触を増やしてみたり、直接説得に行ってみたりと、忙しいのに「支那のポチだ」みたいなことを言って叱られる。

ロシア、仏大統領の「中国に従属」発言を非難

2023年5月16日1:44 午後

ロシア高官らは15日、同国が中国に従属しつつあるとするマクロン仏大統領の発言を非難した。

マクロン氏は14日付のフランス紙ロピニオンのインタビューで、ロシアはウクライナに侵攻したことによって孤立したと指摘。「(ロシアは)事実上、中国に従属し始めている。スウェーデンとフィンランドによる北大西洋条約機構(NATO)加盟の決定を加速させ、自国にとって極めて重要なバルト海へのアクセスを失った」と語った。

ロイターより

まあ、そういう国なんだよね、フランスって。

NATO東京事務所、決定持ち越しへ 仏反対で協議継続

2023年7月10日 5:00 (2023年7月10日 9:21更新

北大西洋条約機構(NATO)は東京にアジア初の連絡事務所を新設する案の決定を秋以降に先送りする方向になった。当初は事務所の新設を11〜12日の首脳会議で採択する関連文書に盛り込もうとしていたが、中国との関係を重視するフランスが反対論を提唱。決定に必要な全会一致の同意が得られなくなった。

日本経済新聞より

で、フランスが反対しているんで、NATOの東京事務所の話は据え置きってことになっている。日本経済新聞は「支那との関係を重視するフランスが反対論を提唱」ってばっちり書いているね!

まあ、NATOの枠組みで考えると、フランスが声を上げただけだが他の国々も「日本、関係なくね?」「寧ろ、邪魔なんじゃね」と思っている節はある。ヨーロッパはあれで閉鎖的な考えが主流なのだ。

岸田氏はNATO会議への参加

そんな話を踏まえた上で、今回の岸田氏がNATO会議への参加をした背景には、故安倍晋三の政策が大きく関わっている。その辺りはこちらの記事で触れている。

地球儀を俯瞰する外交というのは、NATOとの距離も詰めた上で、支那との関係を調整していこうというものである。

支那は既得権益拡大という中で、南シナ海に出てその軍事的プレゼンスの拡大を図りつつあるのだが、一番の目標は太平洋に出て行くことである。そして、その延長線上にある話が台湾侵攻だ。

台湾に関してはフランスも何度かやらかしているが、取りあえずは支那が台湾を侵攻することに対しては反対する姿勢を見せている。

ただ、フランスとしては反対してもNATOとして関わらせるというのは問題だと。何しろ、フランスとして反対するだけなら口だけ出していれば良いのだが、NATOの事務所まで作って関わることとなると、口だけで対応するだけでは足りなくなってしまう。

G7を関与させる

で、冒頭のニュースは恐らくその妥協案。

ウクライナがNATOに加盟するまでの間、G7としてもウクライナの主権と領土の一体性の維持を支える姿勢を明確にした。ウクライナのゼレンスキー大統領も会談に立ち会った。

産経新聞より

枠組みがG7であれば、ウクライナに口を出すのも台湾に口を出すのも「不自然ではない」というわけだ。当然、G7であれば日本が関与するのも不自然では無い。

岸田文雄首相はこれに先立ち、NATOのストルテンベルグ事務総長と会談。サイバーや偽情報対策など安全保障分野の新たな協力文書「国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」に合意した。東アジアで軍事的圧力を強める中国に対抗するため、日NATOの結束を強める。

ITPPはサイバー、偽情報のほか宇宙、先進技術といった新たな安保課題をはじめ16分野で協力を強化する。計画期間は、2026(令和8)年までの4年間で、サイバー防御などのNATOの演習に日本がオブザーバー参加する機会の拡充や緊急援助の共同行動を明記した。一方、会談ではNATOが検討する東京連絡事務所の開設については協議しなかった。

産経新聞より

この話は、逆説的に言うと、ウクライナ問題はNATOにとって我が事なのだが、もはや支援を続けることが厳しいということを意味している。

UK not an Amazon delivery service for weapons to Ukraine, says defence secretary Ben Wallace

Wednesday 12 July 2023 17:33, UK

The UK is not an “Amazon” delivery service for weapons to Ukraine and Kyiv might be wise to let its supporters “see gratitude”, Britain’s defence secretary has said.

In a blunt intervention, Ben Wallace said his “counsel” to the Ukrainians was to keep in mind that they need to persuade some doubting politicians in Washington and other capitals that the tens of billions of pounds they are spending on military aid to their country for its war with Russia is worthwhile.

~~対訳~~

英国はウクライナへの武器をアマゾンで配達するサービスではないとベン・ウォレス国防長官が発言

イギリスはウクライナに武器を届ける “アマゾン “ではないので、キエフは支持者に “感謝の気持ち “を伝えるのが賢明かもしれない、とイギリスの国防長官が語った。

ベン・ウォレス国防長官は率直な口調で、ウクライナ側への「忠告」として、ロシアとの戦争のために自国への軍事援助に費やしている数百億ポンドは価値があるのだと、ワシントンや他の首都の疑い深い政治家たちを説得する必要があることを肝に銘じるべきだと述べた。

Sky NEWSより

このニュースなんかが面白いのだが、イギリスがウクライナに対して「我が国はAmazonで武器配達するサービスではない」と。

これの意味は「ウクライナさんいい加減にしてよ」という意味である。割とウクライナ大統領のゼレンスキー氏が、「このままでは民主主義が滅びてしまう」「武器をクレ!」「もっとクレ!」と言っていて、そりゃそうなんだけどそれにしたって限度があるよねと、意外に一般国民も思っているのではないだろうか。

ヨーロッパは全般的にインフレが進んでいて、経済がかなり厳しい中、ウクライナへの支援を止めるという選択肢はないという状況だ。

まあ、ウクライナもソレが分かっているから第三の道を模索しているんだけどね。

日本から金を引き出したい

ぶっちゃけ、「日本から金を引き出したい」というのがEUの本音なのである。アメリカだって武器供与には限界があるし、しかし一方で自国の軍隊を投入する訳にもいかないのだ。実際金は出しているんだけど、「もっと出せ」と言うことだね。

NATO首脳会議、ウクライナ追加支援協議 日本も出席

2023年7月11日 5:01

北大西洋条約機構(NATO)は11〜12日にリトアニアの首都ビリニュスで首脳会議を開く。31の加盟国と日本や韓国などの「パートナー国」の首脳が集い、中国やロシアの脅威を抑止する協力策を話し合う。NATOの役割や今回の主要議題、日本との関係といった注目ポイントをまとめた。

日本経済新聞より

このあたり、日本経済新聞なんかはズバリそのまま書いているね。ただ、本来なら「日本を関与させると支那との関係が悪化するよ」という側面をしっかり説明しないと、「お人好しの日本が金だけ出す」みたいな印象になってしまう。

この話の比較的近い位置にいるのがトルコで、スウェーデンのNATO加盟のバーターとしてF-16戦闘機をゲットする記事は書いている。

これに対するロシアの反応がコレ。

「トルコを欧州だと思う人いない」ロシア、クギ刺す…仲介役の「転向」への批判は避ける

2023/07/11 21:37

タス通信によると、ロシアの大統領報道官は11日、トルコがスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟容認に転じたことに関し「トルコとは立場の違いを踏まえて、お互いに利益になる分野での対話と関係を発展させたい」と述べ、批判を避けた。ロシアは仲介役として頼りにするトルコの米欧やウクライナへの接近に警戒も強める。

讀賣新聞より

トルコはばりばりの武闘派なので、トルコがスウェーデンのNATO加盟を認めたり、トルコ国軍戦力の強化というのはロシアとしてはありがたくない話。

「トルコふざけんな、裏切るのかてめー!」という訳なんだけど、一方で、トルコの地政学的な条件からロシアが強気に出るのも悪手なんだよね。

ここのところのロシアの日本に対する姿勢というのも、まあそういう関係の話なんだ。

ロシア 記念日名称に “軍国主義日本” 法案可決 対抗措置で

2023年6月21日 13時37分

ロシア議会下院は20日、第2次世界大戦が終結したとする9月3日のロシアの記念日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」と名称変更する法案を可決しました。

NHKニュースより

サハリン2問題再燃も 日本のエネ安保板挟み

2023/7/13 06:00

日本も参画するロシア極東の天然ガス開発事業「サハリン2」が、日本のエネルギー安全保障を脅かす問題に再浮上する可能性が出てきた。

産経新聞より

そろそろ負けが込んでいるロシア。ここいらで何とか風向きを変えたいのだけれど、日本やトルコが余計なことをするので、ちょっと面白くない。

この辺りの綱引きは未だ未だ続きそうなんだけど、この絵を描いていたのが安倍晋三という政治家だと言うことを考えると、つくづく惜しい人を亡くしたのだと思う。

そして、世間的に「チョロい」と思われている岸田氏だが、安倍レガシーのレールの上にいる限りは、国際的な「プレイヤー」として日本を認知させることが出来るという構図になっている。これを日本の防衛にどうやって活かせるのか?が、今後の岸田政権のポイントである。

日本が「口だけでは無いよ」という事を示さないと、説得力が無くなってしまうからね。

更に、岸田氏がこの会議で大切なのは、韓国なんかに構っていないで、フランスやイギリスのトップとしっかり会談をして、この枠組みのベースをしっかりと話すべき事だ。日本の役割をしっかりと示すことこそが大切なんだけど、「韓国と会談しました」というアホなニュースが流れただけなら指をさして笑ってやる。

追記

岸田氏の成果だ!と言いたいところだけど、これも安倍レガシーなんだよねぇ。ただ、それを愚直に実行できたことは、素直に素晴らしいとは思うよ。

NATOのアジア太平洋進出に反対、中国EU代表部が表明

2023年7月12日9:49 午前

 中国の欧州連合(EU)代表部は11日、北大西洋条約機構(NATO)による「アジア太平洋地域への東進」に断固反対するとの声明を発表した。

リトアニアで開かれているNATO首脳会議の共同コミュニケにおける中国関連の内容を拒否し、自国の主権と安全保障、発展の利益を断固として守ると表明。「中国の正当な権利と利益を脅かすいかなる行動にも断固として対応する」と述べた。

コミュニケは、中国が「野心と強圧的な政策」でNATOの利益、安全保障、価値観に挑戦していると指摘。

「中国は戦略や意図、軍備増強について曖昧にしたまま、世界的な影響力を拡大し力を誇示するためにさまざまな政治的・経済的・軍事的な手段を用いている」などとした。

ロイターより

支那がきちんと答え合わせしてくれるあたり、優しいね。岸田氏にとっては実にわかりやすい外交方針の道標になる。

NATO 日本連絡事務所開設 首脳会議で結論出ず

2023年7月13日 11時26分

NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、日本での開設に向けて日本政府と協議しているとする連絡事務所について、リトアニアでの首脳会議で結論は出なかったとして、引き続き検討していく考えを示しました。

NHKニュースより

NATOの東京連絡事務所設置に関してはかなり揉めたみたいで、先送りってかんじだけどね。

追記2

うーん、これなぁ。

バイデン氏 岸田氏をベタ褒め 「ウクライナのため立ち上がった」

2023/7/13 08:47

先進7カ国(G7)首脳が12日、リトアニアの首都ビリニュスでウクライナ支援の共同宣言を発表した際、バイデン米大統領がロシアのウクライナ侵略に関する岸田文雄首相の対応を称賛し、安全保障問題に関する日本の取り組みも合わせて紹介した。

演台に立ったバイデン氏は突如、「話すつもりではなかったが言わせてほしい」と切り出し、「この男が立ち上り、ウクライナを支援すると思った人は欧州や北米でほとんどいなかった」と持ち上げた。

産経新聞より

アメリカ大統領のバイデン氏だが、どうも認知能力に不安がある。故に褒められた岸田氏のことを手放しに喜べない。

実際、これ、「金も出す」「軍備増強して必要なら軍隊も出す」という、姿勢が評価されたとも言えるけど「便利に使える」と馬鹿にされている側面もあるんだよね。

ビジョンが無い岸田氏、使いやすいのかも?

コメント

  1. アバター 砂漠の男 より:

    >フランスやイギリスのトップとしっかり会談をして、この枠組みのベースをしっかりと話すべき
    コレこそ岸田がわざわざリトアニアまで出かけて行った核心で、日本がNATOに参加する/したいならば、このタイミングで英蘭仏あたりに手土産持ってって、NATOを東アジアに拡大させる戦略構想を岸田が首脳たちの前で説明できないとダメでしょ。
    実際のところ、ダメ岸田だったようだ。「NATOさん、仲良くやりましょう」くらいの概論しか言わなかった。
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page7_000044.html

    • アバター 河太郎 より:

      こんにちわ。ヌカ喜びして損しました。

      • 木霊 木霊 より:

        おそらくは、喜んで良いことだと思いますよ。
        少なくとも、内政よりはマシな仕事はしているのですから。

    • 木霊 木霊 より:

      外交の岸田(笑)。
      本当にダメですねぇ。

      一緒に酒飲んで腹を割って話そうや!と、酒盛りしてしっかり関係作ってきてくれるだけで評価したのに。

      • アバター 砂漠の男 より:

        岸田(政権)がいかに戦略を持っていないかが顕わだね。
        せっかく安倍レガシーに乗っても、腰が引けていることがよくわかる。
        支那が、NATO共同コミュニケで名指し批判され、すぐさま噛みついたけど、
        「動かない日本」についてはニンマリしているのだろうね。

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