ニュースを見て知っておられる方も多いが、台湾総統選挙が13日に行われた。
与党・頼氏が400万票超 2位に80万票差―台湾総統選、開票作業続く
2024年01月13日20時56分
台湾で「元首」に当たる総統を選ぶ選挙の投票は13日午後4時(日本時間同5時)に締め切られ、開票作業が始まった。
時事通信より
結果は与党・頼清徳氏が圧勝した。コレに関して少し言及して行きたい。
頼清徳氏の圧勝は、日本にとってどのような意味があるのか
圧勝はしたのだが
台湾の位置づけと今後を占う上で、今回の台湾総統選挙はかなり大きな意味があったと思う。
台湾総統選 民進党・頼清徳氏が当選 立法院は過半数維持できず
2024年1月14日 19時06分
13日に投票が行われた台湾の総統選挙で、与党・民進党の頼清徳氏が550万票を超える票を獲得し、野党の2人の候補者を破って当選しました。台湾で1996年に総統の直接選挙が始まってから初めて、同じ政党が3期続けて政権を担うことになります。
一方、同時に行われた議会・立法院の選挙では民進党が過半数を維持できず、5月に就任する予定の頼氏は難しい政権運営を強いられることになりそうです。
NHKニュースより
台湾総統選挙で、与党・民進党のトップが圧勝。これは単純に支那からの勢力を押し返したいという台湾国民の意思が反映された結果だと見て良い。
ただし、民進党が立法院での過半数維持に失敗したことで、厳しい政権運営を迫られることになることをNHKでは指摘している。
馬英九氏の失敗
今回の選挙の結果を大きく左右したのはこのニュース。
台湾の総統選、13日に投開票 馬氏「習氏を信用」発言が物議
2024/1/11 19:01
台湾の総統選は13日、投開票される。与党・民主進歩党の頼清徳副総統、最大野党・中国国民党の侯友宜新北市長、第2野党・台湾民衆党の柯文哲前台北市長の3候補が、対中政策を最大の焦点に舌戦を繰り広げている。頼氏がやや優勢で、侯、柯両氏は追う展開だ。
国民党の馬英九前総統は8日、ドイツメディアの取材に「(中台)両岸問題では習近平国家主席を信用しなければならない」と発言したほか、中国と台湾の統一について「受け入れられる」とも述べた。国民党の従来の立場から一歩踏み込んだ親中的な発言で、物議をかもしている。
産経新聞より
前台湾総統だった馬英九氏が、「(中台)両岸問題では習近平国家主席を信用しなければならない」などと発言してしまった。
この発言、前後関係をよく読むと、必ずしも習近平氏を礼賛するような姿勢ではないのだが、馬英九氏は完全に媚支那政策を展開してきた人物で、それが批判されて国民党が野党に転落するような事態を招いた。
多選批判されていた民進党にとっては、大いなる追い風になった。
台湾最大野党、選挙集会に馬英九氏招かず 親中発言影響か
2024年1月11日 20:39
13日の台湾総統選を巡り、最大野党・国民党が選挙前日の大規模集会に馬英九・前総統を招待しないことがわかった。馬氏は直近のインタビューで極端に親中的な発言をしていた。支持者の離反を避けるため、火消しに動いた可能性がある。
日本経済新聞より
流石に国民党としても、馬英九氏の発言を擁護できるような状況ではないと判断したようで、「国民党のスタンスとは違う」と打ち消しコメントを出したり、最後の盛り上げをするための大規模集会に馬英九氏をよぶのを避けたりするなど、火消しに走ったものの、功を奏することはなかったようだ。
台湾総統選の候補者達
というわけで、最終的で3人で争った台湾総統選挙だが、最後は圧倒的な結果になったということだ。
この三人の投票結果はこちら。
投票は13日に行われ、即日開票の結果、 民進党の頼清徳氏 558万6019票、 国民党の侯友宜氏 467万1021票、 民衆党の柯文哲氏 369万466票で頼氏が当選しました。
時事通信より
頼清徳氏がぶっちぎりでトップ当選を果たしたのに対し、2位の票であった侯友宜氏は最終局面での向かい風に立ち向かうことが出来なかった。3位の民衆党の柯文哲氏は一時期注目が集まっていたのだが、この人の大局観は台湾の国益にならないとの判断をする人が多かったようだ。
台湾総統選、柯文哲氏「独立」「統一」の議論ムダ
2023/11/02 23:36
来年1月の台湾総統選に立候補する 柯文哲・民衆党主席(前台北市長)は1日の読売新聞とのインタビューで、中国による統一を認めず、台湾独立にも動かない「現状維持」が台湾の唯一の選択肢であると強調した。既存政治の常識にとらわれない現実路線を掲げ、他党との連立政権も視野に見据えるが、最大野党・国民党との総統候補者の一本化には悲観的な姿勢も見せた。
讀賣新聞より
なかなか鋭い視点で物事を捉えていて、国民党との候補一本化に成功し、候補を柯文哲氏とすることができれば、或いは野党に軍配が上がったのかも知れない状況であったと思う。
とはいえ、柯文哲氏はかなり失言の多い人物であったらしく、台湾先住民族を貶める発言や、女性を軽視する発言など、ちょっと現代では色々問題があるような価値観を持った方だったらしい。だから、総統になった後で政権運営がしっかり出来たかは怪しいところである。
支那の選挙工作
なお、馬英九氏の発言も支那の工作による物だという見方もあるのだが、随分と今回の選挙に介入しようという動きはあったようだ。
台湾立法委員選候補者の身柄拘束 中国から資金援助受けた疑い
2024年1月6日 6時28分
台湾総統選挙の投票日まであと1週間となる中、同時に行われる予定の国会議員にあたる立法委員選挙の候補者が、去年、中国を複数回訪れ、選挙に立候補することなどへの見返りに、台湾への工作活動を行う機関の関係者から資金援助を受けた疑いが強まり、台湾の検察は候補者の身柄を拘束しました。
台湾の桃園地方検察署の調べによりますと、今月13日の総統選挙と同時に投票が行われる立法委員選挙に無所属で立候補している候補者が去年4月以降、複数回、中国を訪れていました。
NHKニュースより
このニュースにあるように立法委員選挙にかなり積極的な介入をしていたようで、陰に日向に影響工作をやっていた。
台湾選挙控え中国が高官会議、干渉狙い「調整」と台湾当局者
2023年12月8日午後 3:02
中国高官が今月初めに会議を開き、来年1月の台湾総統選と立法委員(国会議員)選挙に影響を与えるための取り組みを「調整」したと、複数の台湾安全保障当局者が明らかにした。
台湾当局は、緊密な両岸関係を求める候補者に有権者を誘導しようとしている中国の「選挙干渉」に警告している。
ロイターより
これが合法か違法かという話はともかく、日本の選挙にも影響工作をやっている可能性が高いことが窺えるだけに、なかなか心配なニュースである。
中国、台湾総統選で「正しい選択」せよと警告 アメリカには「口出し」を非難
2024年1月12日
中国の国務院台湾事務弁公室は、13日投開票の総統選で与党・民進党の頼清徳氏が勝利すれば、台湾で独立運動がさらに進み、中台の関係は危うくなるだろうとする声明を発表。
国務院は頼氏について、「『独立』をそそのかす邪悪な道を歩み続け、(中略)台湾を平和と繁栄からいっそう遠ざけ、戦争と衰退にますます近づけるだろう」とした。
また、アメリカが中国に対し、選挙前に緊張をあおるなと警告したことについて、「厚かましく口出し」しているとアメリカを批判した。
BBCより
ただまあ、アメリカだって台湾が支那に切り取られるのを恐れて、事前に色々な政治的動きがあっただけに、支那だけが選挙介入していたのかと言うとそれは違うのだろう。
中国外務省は、アメリカが台湾での選挙後に非公式代表団を現地に派遣すると表明したことを受け、アメリカを強く非難した。
同省の報道官は、米政府に対し「選挙介入は控えなくてはならない。(中略)米中関係に深刻なダメージを与えないためにだ」と注文。
BBCより
支那が牽制していたが、「どの口が言うのか」というレベルの話である。アメリカも口では「関与していない」としているが、どうなのかな。
中国 “台湾に武器売却 米企業5社に制裁” 総統選前にけん制か
2024年1月7日 15時52分
中国外務省は、台湾への武器売却などをめぐりアメリカの軍事企業5社に対して制裁を科すと発表し、台湾総統選挙の投票日まで1週間を切る中、台湾への関与を強めるアメリカを改めてけん制したものとみられます。
中国外務省は7日、報道官の談話を発表し、台湾への武器売却などをめぐり軍事物資などを製造する「BAEシステムズ・ランド・アンド・アーマメンツ」などアメリカの企業5社に対して制裁を科すと明らかにしました。
NHKニュースより
今回は、支那が過剰に反応しすぎて裏目に出た可能性も否定できないため、何とも言えないところはあるが。
中国、激しく反発 台湾統一に手詰まり感―総統選
2024年01月14日09時05分
中国の習近平政権は、台湾総統選で頼清徳副総統が勝利し、「台湾独立勢力」と敵視する民進党政権の長期化が決まったことから、激しく反発している。ただ、民主主義が定着している台湾の有権者が中国と距離を置くことを選択し、台湾統一を目指す習政権の手詰まり感は強い。
~~略~~
少なくとも22年の演習では、台湾の物流に影響が出ており、演習が長期化した場合には深刻な被害が及ぶのは必至だ。直接の武力行使を控えながら台湾を屈服させる手段として、「事実上の港湾封鎖を狙って演習を行う可能性」も北京の外交筋の間で指摘される。
時事通信より
手詰まり感が出ていて、無理をした感じは強いね。
選挙後のアメリカの動き
ともあれ、頼清徳氏は圧勝。アメリカも従来通りの方針を続ける……、とはならないらしい。
焦点:台湾総統選、どちらが勝っても米国の対中戦略に課題
2024年1月10日午前 8:05
13日に実施される台湾の総統選挙は、どの候補が勝った場合でも米政府に課題を突きつけそうだ。与党が勝利すれば対中関係が一段と緊迫化するのは確実とみられる一方、野党が勝てば台湾の防衛政策を巡って難しい問題が生じるかもしれない。
13日の総統選と立法委員(国会議員)選は、対中関係の安定を目指すバイデン政権にとって今年最初のワイルドカードとなる。
ロイターより
今回、頼清徳氏の勝利と、立法院の民進党過半数維持失敗によって、台湾政治は混乱・停滞するおそれがある。
ただでさえ対支那姿勢の強い民進党の勝利によって、支那は態度を硬化させる可能性が高く、事態の進行を避けられない。
スタンフォード大学フーバー研究所のカリス・テンプルマン氏は、国民党の防衛協力への覚悟を巡る疑問はもっともだが、果たしてどの候補者が米国の利益にとってベストなのか、米政府内でもはっきり意見は分かれていると説明。「侯総統になれば中国との関係はある程度安定し、目先の脅威レベルが下がり、台湾が防衛改革を実施するための時間稼ぎができるかもしれない」と語った。
ロイターより
アメリカとしては、誰が勝利しても痛し痒しのところがある。
興味深いことに、今回の台湾総統選挙の3候補は何れも台湾と支那との関係について「現状維持が望ましい」というスタンスを示した。もちろん、民進党の言う「現状維持」と、国民党の言う「現状維持」は意味が異なる。
民進党は、親米路線で軍備増強をしつつ、支那との関係維持をしていく路線を狙っていくのに対して、国民党は、支那との関係改善を優先して軍備拡大を抑えていく路線としていた。つまり、双方の主張はかなり乖離しているのである。
民衆党は、政権担当の経験もないために未知数だったし、実際に勝利する可能性は低かったためにあまり重視していないことと、仮に勝ってしまうとアメリカとしては手探りで関係構築をしなければならないために、政治の停滞は避けられない状況だったようだ。
そんなわけで、アメリカとしては今後も台湾との連携を強める政策を展開する可能性は高いが、支那の動きに注意しながらのことになりそうだ。
日本と台湾の関係
日本としては、台湾の新政権とも連携を高めていきたいところではあるが、これもなかなか大変そうである。
中国が日本に抗議 台湾への祝意表明に「深刻な内政干渉」と反発
2024/1/14 12:04
在日中国大使館の報道官は14日発表した談話で、上川陽子外相が台湾の総統選で勝利した民主進歩党の頼清徳氏に祝意を表したことに対し、「中国の内政を深刻に干渉した」と主張し、反発した。中国として「強い不満と断固とした反対」を表明し、日本側に抗議したことを明らかにした。
産経新聞より
日本からの祝電に対して、支那がさっそく反発している。何故、「強い宇不満と断固とした反対」なのか意味が良く分からない。単なる祝電だぞ。
上川外相は13日発表の談話で、頼氏の当選と「民主的な選挙の円滑な実施」に祝意を表明。「台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ、日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく」などとの考えを示した。
産経新聞より
「おめでとう!」「これからも一緒に頑張ろうね」という定型文を送っただけで、文句を言われたでござる。
こうしたことから、日本としては台湾との関係構築がよりやりにくくなったと考えられる。
とはいえ、台湾としても日本との関係構築には心を砕いているようで。
頼氏はこのあと、日本と台湾の交流を進める超党派の議員連盟「日華議員懇談会」の会長を務める自民党の古屋・元国家公安委員長と会談し、経済や文化の交流がさらに深まることに期待を示しました。
頼氏が、当選から一夜明けてすぐに日本の代表と会ったことは、対日関係重視の姿勢のあらわれと言えそうです。
NHKニュースより
今後、どのような関係構築をするのかは、支那の顔色を伺うのでなしに積極的に決めていきたいところだ。外務大臣の上川氏は割と支那との親和性の高い人物だと聞いているだけに、多少心配は残るのだが。
防衛大臣の木原稔氏は親台湾派なんだけどね。
「台湾有事は日本の存立危機事態」 麻生氏 米国で抑止力強化訴え
2024年1月11日 15時57分
訪米中の自民党の麻生太郎副総裁は現地時間の10日、米ワシントンで記者団に対し、「(台湾海峡有事は)日本の存立危機事態だと日本政府が判断をする可能性が極めて大きい」と述べ、日本は中国の台湾侵攻時に集団的自衛権を発動する可能性が高いという考えを示した。麻生氏はこれに先立つ講演でも、中国の台湾侵攻を防ぐために国際的な抑止力を高める必要があると訴えた。
朝日新聞より
あと、麻生氏のこの発言もなかなか攻撃力が高かったようだ。
麻生氏は、台湾海峡有事の際、日本は台湾に滞在する在留邦人を救出する必要があるとして、海自艦船などを派遣する必要があると指摘。「(日本の取り得る措置を)中国は頭によく入れておいてもらわないといけない」と求めた。
朝日新聞より
この発言は、木原稔氏のスタンスに沿ったものであるようだ。木原稔氏のスタンスというのはこちらだね。
台湾有事なら日本はポーランドのような役割=自民党・木原稔氏
2023年4月14日午前 9:44
日本と台湾の交流を進める超党派議員連盟「日華議員懇談会」の木原稔・事務局長(自民党衆議院議員)はロイターとのインタビューで、仮に台湾有事が起きれば日本はウクライナ戦争で避難民を保護したポーランドの役割が求められるとの見方を示した。
ロイターより
というわけで、台湾有事に向かう動きというのはもはや止められない。だからこそ日本は台湾と共にあるよと言うメッセージを日本が出しているのであり、これは対ウクライナ支援とは毛色の異なる話であることも言及しておかねばならない。
盟友の台湾。もちろん、半導体のこと込みで経済にも大きな影響のある存在、そういう相手のトップが決まったのだ、というのが今回のニュースなのである。ただ、頼清徳氏の主張はともかくとして、与党・民進党の政局運営によって台湾国民の生活がどうだったのか?ということを考えると、立法院での過半数維持に失敗という結果から見ても台湾国民が満足できる程の物ではなかったということだろう。この辺りも重要なことなので、バランスをとりながら政局運営をして貰うしかない。
日本としてはどの程度支援できるのか?ということになるが、軍事的なバックアップは難しいので、経済的な支援の方面から力を尽くしていくのが良かろうと思う。日本政府は日本国民の生活維持にも苦慮している状況ではあるんだけど、ね。
追記
ほほう、我が国の官房長官はなかなか言うね。
林官房長官、台湾総統選巡る中国の抗議に反論 「台湾は重要なパートナーで友人」
2024/1/15 11:57
林芳正官房長官は15日の記者会見で、上川陽子外相が台湾の総統選で勝利した民主進歩党の頼清徳氏への祝意表明に中国側が抗議したことについて「台湾は日本にとって自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有し緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり大切な友人だ」と反論した。
産経新聞より
え?林氏、大丈夫?
実は媚支那派であると思われていた林芳正氏だが、違うらしい。彼は親韓派であって、支那に対しては厳しい態度が出来るとのこと。
うん、何というか、外務大臣の時代に林氏が矢面に立ってこの発言が出来ていれば、もっと支持されたと思うよ。
とはいえ、官房長官になってからの林氏の安定っぷりはなかなかのもの。これで林氏が内政担当もできるようになると、岸田氏は外交にもっと力を割くことが出来るようになる。尤も報道に載っていないだけで、林氏がそれなりに手腕を発揮している可能性もある。優秀な人らしいからね。
コメント
台湾にはTSMCがあるのが大きいですね。
TSMCはアップルやグーグルのスマホに搭載する高性能チップを作っておりアメリカはこれを作ることが出来ません。
台湾という地理的な要因以外でも、TSMCの存在はアメリカの国益に直結するので、中国の台湾侵攻に対してアメリカは武力で対抗するでしょう。ですから中国は今のところ台湾に手出し出来ません。
半導体業界ではTSMCが一つ頭が抜けていますから、大きいですよね。
台湾は上手いことやったと思います。