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自衛隊投入が「後手後手」だった!との、とんでもない批判

報道
この記事は約8分で読めます。

これ、既に説明された後の話なんだが。

自衛隊投入は「後手後手」 能登地震で秋田知事

2024年01月09日19時34分

秋田県の佐竹敬久知事は9日、能登半島地震で政府が自衛隊の派遣規模を段階的に増やしていることについて、「(対応が)少し後手後手だ」と批判した。秋田市内で同日開かれた、連合秋田の新春賀詞交換会でのあいさつで述べた。

時事通信より

秋田県知事の佐竹氏って、四国に対して失言しちゃった人物か。あの失言を考えると、主観だけでモノを言う人物っぽいね。

自衛隊投入の逐次投入は本当か

ランチェスターの法則

「軍隊の逐次投入」という言葉は、日本軍が行った愚策としても紹介されるのだが、結構間違った使い方が為されているケースもあるようだ。僕も勘違いしていたしね。

そもそもこの言葉、ランチェスターの法則から引いているようだ。

ランチェスター戦略を唱えたイギリスのエンジニア、フレデリック・ランチェスターは、第1次世界大戦の際に軍隊の運用に数理モデルを使って説明した。

第1法則:戦闘力が同じであれば、兵士の多いほうが勝つ(約意)

第2法則:集団と集団が狙い打つ状態で、攻撃力は兵力数の2乗に比例する(約意)

数理モデルなので、言葉で説明するのは正しく表現できない。実際には、こういった数理モデルである。

<第一法則> 一騎打ちの寄せ集めのような古典的な戦闘に適用可能

時刻tにおける自軍、敵軍の人数をそれぞれxtytとする。αβはそれぞれ敵軍、自軍における兵器や戦闘員の能力を表す定数である。

{\displaystyle {x_{t} \over \alpha }-{y_{t} \over \beta }}

が、戦闘がはじまってからの経過時間tによらず一定であるという法則。

<第二法則> 近代的な戦闘に適用可能

{\displaystyle {x_{t}{}^{2} \over \alpha }-{y_{t}{}^{2} \over \beta }}

が、tによらず一定であるという法則。

要は、集団戦闘における数理モデルであり、ここから経営学への応用などがなされているので、一概に「戦争にしか使えない」というモノではないのだけれど、前提として「兵力が戦場で消耗する」という事実があることに留意されたい。

そしてどちらの法則にも戦力の投入はないことが前提になっている。

そうすると、ランチェスターの法則が現場に合わないということは、当然想定される話で、よく言われる「戦力の逐次投入」の話は第2法則の話で、戦闘員の消耗は味方の人数と敵の人数の2次式(双曲線)になるため、一度に大人数を投入した方が有利になると理解出来る。だから逐次投入は止めようね、戦局を覆す力がないよ、という話に繋がるわけだ。

つまり、前提からしてこのランチェスターの法則に基づいた話をするのは間違っていると言う事になる。

災害に対する人員投入は地理条件などを加味する必要がある

んで、今回の話は果たしてあて嵌め可能なケースだったのか?逐次投入が批難されるような状況だったか、については、既に説明され、報道されている。

自衛隊「逐次投入」に批判も 地理条件で規模制約、任務は拡大―能登地震

2024年01月10日07時17分

能登半島地震を受け、自衛隊は派遣規模を段階的に増やし、現地に投入した隊員数は9日時点で約6300人となった。半島先端部への災害派遣という地理的制約から、過去の同規模の地震に比べて少数での対応を余儀なくされ、「逐次投入」との批判も受ける。その中で救助や捜索に加え、避難所で要望を聞き取るなど被災者支援任務が従来以上に拡大している。

時事通信より

批判があるという冒頭部分の説明に対して、防衛大臣の木原稔氏がしっかりと説明をしている。以下は、防衛省のサイトで分かる範囲の内容を纏めたモノだ。

  • 令和6年1月1日16:10 地震発生
  • 同日同時刻より 第14普通科連隊幹部が現地に向けて出発し情報収集開始
  • 同日16:45 石川県知事から災害派遣要請あり、同時刻受理
  • 同日20:45 舞鶴港から護衛艦「せとぎり(DD-156)」、「せんだい(DE-232)」、多用途支援艦「ひうち(AMS-4301)」が毛布、紙おむつ、ミルクなどの災害救援物資搭載して出港
  • 1月2日05:00 CH-47輸送ヘリコプターが金沢駐屯地より出発
  • 同日9時 護衛艦「あさぎり(DD-151)」も消防の広域応援部隊約40名の輸送を目的に出港
  • 同日10:40 陸上自衛隊中部方面総監を指揮官とし、陸海空3自衛隊部隊の指揮系統を一本化した1万人態勢の統合任務部隊を編成
  • 同日11:14 防衛大臣会見により、1,000名の隊員が活動中。また、航空自衛隊輪島分屯基地への避難者受け入れと、地域の情報収集、救助活動が実施中であると説明される。
  • 同日15:00 おおすみ型輸送艦1番艦「おおすみ」が呉港を出港
  • 1月3日11:30 防衛大臣会見により、現地で2,000名態勢で人命救助や給水等の生活支援活動を実施と説明される。

一応、3日までで終える範囲の対応を纏めてみたが……、大変申し訳ありませんでした!個人的に「遅いかな」と感じていた部分もあったのだけれど、これ、考え得る限り最速で行動しているように思える。

そして、2行目を見て頂くと分かるのだが、自衛隊は支援要請前に現地に向けて出発している。実は、緊急の場合には支援要請を待たずに出られるように運用が改定されている。

陸上自衛隊:災害派遣の仕組み
国内における地震・風水害等の自然災害や火災・航空機事故での救助に携わり国民の生命や財産の保護に寄与します。

これ以上早く動けというのであれば、1日の段階で被害の全容を把握できていなければならず、見込みでおおすみ型輸送艦には常にLCACと重機が搭載された状態で待機している必要があるだろう。ちょっと現実的な話ではないよね。舞鶴からではなく新潟や秋田あたりから船が出せればもっと早くに現地に着いた可能性はあるけれど、LCACがそもそも6隻しかないのだから現時点では非現実的な話だろう。

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アクセスが今も困難

正直、「おおすみ型輸送艦の投入タイミングをもっと早く」とかブログに書いちゃったのだけれど、これ以上前倒しは無理だろう。「おおすみ」が呉港を出港した時点が2日15時で、この時点でおそらくはLCACと重機が搭載されていた。だとすれば、4日に作戦開始は、現地の視察・作戦立案・部隊編成、等々を考えても寧ろ最速のタイミングだったのだろう。

現地入りの話もあるんだけど、陸路からはまあ酷い状況だ。

画像

これが7日の時点での通行可能な道なんだが、七尾市から穴水市への基幹ルートに灰色のバツが付いていて、志賀町から輪島市への海岸沿いの道にも灰色のバツが付いている。コレが何を意味するかというと、地震発生時に通行できなくて、現在応急措置により通行可能になったという意味だ。

1月4日から国道249号の復旧に着手しているとあるけれども、7日の時点で未だ復旧見込みなし。

石川、富山、福井3県には金沢駐屯地など3拠点しかなく、初動で投入できる人員は限られていた。能登半島への陸路のアクセスも南からの一方向しかなく、道路網が寸断され、海と山に挟まれた地形は大規模に展開しにくい事情もあった。防衛省幹部は能登半島について「どこでも震災対応できるよう日ごろから準備しているが、その中でもとりわけ厳しい」と語った。

時事通信より

そりゃ、現地入りすら厳しい状況だったのに、「逐次投入」とか分かっていないにも程があったね。

1万人規模

というわけで、佐竹氏は結局何も分かっていない状態であいさつしちゃったと。

佐竹氏は、今回の自衛隊派遣が「最初1000人、2000人、今では6000人」と指摘。「まずは最初から1万人」規模の投入が必要だったとし、「われわれ東日本大震災を経験した者として、非常に歯がゆい状況だ」と話した。

時事通信より

2日の時点で10,000人態勢の統合任務部隊が編成されていて、投入できる人員を逐次送り込んでいたのだから、全く見当違いの発言だったわけだ。

僕自身も反省しなければならない事案で、これらの情報は随時防衛省のサイトやXにポストされていて、確認が可能な内容であった。そして、それらの情報に触れれば、「自衛隊の投入が遅い」という発言は失当である事は明らかだ。ここで改めてお詫びすると共に、今後に活かしたいと思う。

そして、自衛隊員の皆様には、粉骨砕身の活躍していただき感謝を申し上げたい。

……ところで、佐竹氏はまた謝罪しなければならないようだね。

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追記1

参考までに、某新聞記者のようは阿呆な発言の否定根拠としてこんな記事を紹介しておきたい。

人道的空中投下:希望の光

2021 年 7 月 14 日, Simona Beltrami

空中投下は危険で、地上輸送の7倍もの費用がかかるうえに、一回あたりの輸送量に限りがあります。それでもなお、食料を供給する最終手段として国連WFPが空中投下を行う背景を探ります。

WFPより

物資の空中投下が、効率的でも有効でもないのだが、それでも行わねばならない事情について説明している記事で、コレを読んだ時は感動したものである。

空中投下までの道のりは、倉庫から始まります。空中投下による着地の衝撃に耐えるためには、頑丈な梱包が重要です。一つひとつの袋はミシンを用いて6重に補強されています。白は穀物、赤は豆類、青や緑は特定の栄養食品など、袋の色が内容物を表しています。

~~略~~

強風や砂嵐をはじめとした不利な気象条件では、正確な空中投下に支障をきたし、安全な作戦の成功を脅かします。

計画通りに空中投下を実施するためには、気象データの分析と、現地にいる職員から報告される実際の天候についての情報を照合し検証することが重要となります。

~~略~~

投下場所は、開けていて見通しがよく、できるだけ平らで空から確認しやすい場所である必要があります。投下高度によって、小さいものではサッカーのフィールドくらいの広さから、大きいものでは1,000メートルから1,500メートル四方の広さを要します。

WFPより

様々な条件が噛み合わないと実施できない空中投下だが、「地上から支援を届けるという選択肢が無い場合の最後の手段として、空中投下が用いられている」とある。

自衛隊の隊員が道なき道を行く写真が公開されているのだが、本当に頭が下がる。こんなことやらないで空中投下をという方もいるかも知れないが、人手で運ぶよりも困難なのが空中投下であり、開けた場所が確保できて、天候に恵まれ、地上で受け取る態勢が整わないと、空中投下は難しい。まあ、現状では有効ではないという判断が下ったからこそ、行われていないのである。

プロの仕事に素人が思いつきで口にするというのは、何のメリットもない話なのだ。

追記2

興味深いポストがあったので紹介。

ヘリコプターの運用も結構難しいのね。こういった制約も考えなければならないとは。

コメント

  1. アバター 匿名 より:

    ロシア ウクライナ戦争見ても橋一つ落とされただけでも戦線の前進に苦労するというのに能登半島の道路インフラがただでさえ脆弱な上今現在でも余震の続くなか復旧作業に携わってる自衛隊の皆様にありがたみしか感じません。
    また能登半島みたいに急峻な山地の合間に集落が点在するところに5万人規模の自衛隊送ろうにもまずは移動できるインフラを少しづつでも前線を押し上げるようにしないと渋滞でにっちもさっちも行かないと思うんですが…
    戦争でも災害救助でも補給線が無ければ大惨事になるのは過去の歴史の通りなのに、自衛隊5万人送ったら一日自衛隊員だけで15万の糧食、さらに被災した方々に食べてもらう糧食やら水が必要なんですよね。
    糧食一つとってもこれだけ大変なのに某知事とか某政党は被災された方々の食べる糧食だけで作業に当たってる自衛隊員さんには飲まず食わずで働けとでも言ってそうw

    • 木霊 木霊 より:

      兵站はマジ大事ですよ。
      それ故に、その兵站を確保するための道が必要ですよね。
      前線に多数の兵士を送ったら、兵站維持のためのインフラ確保は必須なんですがその辺りを考えていない。

      この知事も問題なんだけれども、この手の発言をする知識人を名乗る人の多いこと多いこと。
      困ったものであります。

  2. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    記事で全て書かれているので、付け加えることは何もないのですが。

    本当に、
    「僕は詳しいんだ!」
    型の文化人、知識人、意識高い系が出るわ出るわ。
    バカ発見器にしても、もう、いやになりますね……

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      それを本当に言って、事故を起こした福島第一原発に視察にいったアホがいましたね。

  3. アバター 砂漠の男 より:

    どこかの名セリフに「戦場から離れているほど、人は過激になる」というのがあったね。
    そもそも自衛隊は戦闘集団であって、災害救助隊ではないんですから、もてる資材は災害救助用ではないし、現場への導線の取り方だって戦場仕向けと被災地仕向けでは違うでしょう。
    にもかかわらず、自衛隊は独自に自然災害派遣対策すら運用しているのだから、自衛隊にできないなら、ほかの組織がやったってできないでしょう。
    ”後手後手”なんて発言をする人は、冒頭のセリフの中の”過激になる人”の類だね。こういう発言は義憤ではないね。

    • 木霊 木霊 より:

      なるほど名言ですな。

      しかし、自衛隊を災害救助に出す流れ、なんとかならんものでしょうか。
      確かに大切な任務だとは思うのだけれど、人的リソースを災害救助に割いているときに有事に発展する最悪のケースを想定すると、その段階で自衛隊が引き上げて有事に対応しても文句が出るし、留まって有事の方が疎かになっても文句が出ると思います。恐らくそれを狙ってくるでしょうから、実に狙いやすいとも言えます。

      • アバター 砂漠の男 より:

        木霊さんと全く同じ事を考えていました。
        件の秋田県知事さんに、有事の只中に大規模災害が起きたとき、
        自衛隊に対応が遅いなどと言えるのか、と。

        この問題は、今後も自衛隊に災害時の出動を依頼し続けるのか、
        それとも、海保の”海猿”とか米国のFEMAのような即応組織を
        新設するのか、に帰着しますね。

        日本なら、自然災害即応庁とかつくってもおかしくないでしょう。

        • 木霊 木霊 より:

          病院船構想とか、色々災害対策の話があったのも流れてしまいましたが、似たような感じの物を作るのは悪くはないでしょう。
          ただまあ、この病院船構想も結局誰が搭乗して働くのか?という話になってしまいます。

          そうすると、予備自衛官のような制度を拡張して災害に対応する即応組織を作るのが望ましいのか、或いは消防の延長線上に災害スペシャリストのような感じの組織を作るのが良いのか。どちらにしても自己完結できる組織である必要があり、それなりの頻度で訓練が必要となるように思います。

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