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ニューラリンクは人類への福音となるか?

科学技術
この記事は約17分で読めます。

コメントで要望いただいたのでちょいと調べてみたのだが、色々と複雑な気分になった。四肢麻痺で苦労していた知り合いのことを思い出したからである。これが実用化できていれば、と。

さておき、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)、すなわち脳からの信号を直接コンピュータに繋ぎ、コンピュータを操作する技術に、イーロン・マスク氏が取り組んでいる話である。

“脳に小型機器を埋め込む臨床試験開始” マスク氏の企業

2024年1月30日 15時44分

アメリカの起業家、イーロン・マスク氏は、自身が立ち上げた企業が、患者の脳に小型の機器を埋め込んでコンピューターに直接つなぐ臨床試験を開始したと明らかにしました。体の不自由な人がコンピューターを操作できるようにする技術として注目されています。

NHKニュースより

言っちゃあ悪いが、脳に電極を埋め込んでコンピュータに接続するという発想は昔からSFの世界ではよくあるネタだ。だが、それを実行しようと考えるのは狂人のソレだろう。

あ、そうそう、お題を頂いて書き始めたものの、調査不足で満足な内容にはならなかったことは先にお詫びしたい。もうちょっとしっかり勉強しないと、もっと深い内容には踏み込めそうにないので、あくまで表面的な話に終始していることはご了承願いたい。

技術とその先にあるもの

希代のアイデアマンの正体

で、マスク氏が様々なアイデアに対してお金を出し、実際に挑戦を行っていることは、良い面も悪い面もある。

このブログで過去に触れた話だと、ハイパーループ輸送の話がある。

イーロン・マスクが提唱、「ハイパーループ輸送」には数百年の歴史があった

Aug. 23, 2017, 12:00 PM

テスラおよびスペースXのCEOのイーロン・マスク氏は2013年、真空チューブ内を超高速で走行する磁気浮上式ポッド(列車)を考案した。ハイパーループと呼ばれる高速次世代輸送システムだ。

Business Insiderより

これも過去に様々な人が計画し、結局、無理だろうとうち捨てられたアイデアの1つだ。そして、マスク氏も諦めるに至った。トライ&エラーは技術革新には必要で、今の技術ではハイパーループ輸送は無理だという結論になった。そういう話である。

マスク氏のことを「希代のアイデアマン」とは書いたものの、彼が採用しているアイデアは、殆ど全てか過去に出されたものの焼き直しである。注目すべき点は、おそらくダメだろうと誰もが考えるアイデアに対して投資をし、挑戦するところである。

孫正義氏が似たようなタイプなのだろうが、その規模や実行力は天と地ほどの差があるので、「一緒にするな」とマスク氏に怒られそうではある。孫氏は技術革新には寄与しないしね。

さておき、マスク氏はアイデアに優れているのではなく、その実行力に優れているのだ。尤も、そこにモラルがあるかは別の話だが。

脳内にチップを埋め込む

さて、最初にブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の類型に関して少し言及しておこう。

先ずは、「侵襲式」と「非侵襲式」の類型となる。

「侵襲」とは、医学で生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激全般をいう用語で、ここでは直接脳内に電極を埋め込むことを指している。

そして、「侵襲式」には細胞外記録(SUA, MUA, LFP,FSCV)の記録方式によって違いがあるが、総じて脳内、それも頭蓋骨の内側のどこかに電極を埋め込んでいく方式である。

非侵襲式」は頭蓋骨の内側に埋め込まない方式なのだけれど、頭蓋骨の外に何らかの電気信号を拾う電極を配置する方式だ。皮膚に密着させて電極を配置するものも含まれる。しかしどちらにしても、空間分解能が低く検出精度が落ちるという問題がある。これは、脳のどこが信号を出しているのかを、三次元的に補足することが難しいからだ。

マスク氏のニューラリンクは、侵襲式を採用しているようだね。

それによりますと、自身の立ち上げたベンチャー企業「ニューラリンク」は小型の機器を初めて、患者の脳に埋め込んでコンピューターに直接つなぐ臨床試験を28日、開始したということです。

NHKニュース「脳に小型機器を埋め込む臨床試験開始」より

誰が好き好んで自身の脳にチップを埋め込むのか?という話だが、そこはそれなりの需要がある。

「ニューラリンク」によりますと、小型の機器は去年、FDA=アメリカ食品医薬品局から臨床試験が承認されたとして、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症などの人を対象に参加者の募集が行われていました。

NHKニュース「脳に小型機器を埋め込む臨床試験開始」より

そして、こうした発想はマスク氏が最初に着想を得たという話でもない。SFにも散々登場してきた話だが、これを研究したいと思う人も少なくは無い。

ニューラリンクの患者がBCIを装着した最初の人間というわけでは決してない。これまで世界中で数十人の人々が調査研究の一環としてBCIを装着している。

最初の被験者マット・ネイグルがBCIを装着したのは、2004年のことだ。それから長年にわたり、それらのシステムはまひした人々がビデオゲームをプレイしたり、ロボットアームを動かしたり、思考だけを使ってメールを書いたりすることを可能にしてきた。

最近までBCIは、主に大学の研究室によって開発が進められていた。それらの装置は太いケーブルを使った不格好なセットアップが必要なもので、家庭での使用には現実的ではなかった。

これに対してニューラリンクのシステムはワイヤレス設計になっており、人間の毛髪より細い64本の糸に分散して取り付けられた1,000個以上の電極を通して神経活動を記録する。BCIの研究で最もよく使われる「ユタアレイ電極」と呼ばれる装置は、100個の電極から記録する仕組みになっている。

Wiredより

ただ、そこに多額の資金を投入しようという人がいなかっただけで、マスク氏はそういう意味で思い切りが良いというか、常人離れしているというか。

まあ、火星に移住する計画を立てるくらいなので、脳に電極を埋め込むくらいはなんでもないのかもしれない。

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マウス操作に成功

そして、このニューラリンクの実験に関しては、「成果」も報告されるようになった。

ニューラリンク治験者が回復、考えるだけでマウス操作=マスク氏

2024年2月20日午後 6:28

新興企業ニューラリンクが実施した超小型デバイスを人間の脳に埋め込む初の臨床試験(治験)について、創設者のイーロン・マスク氏は19日夜、被験者は思考によってコンピューターマウスを動かせるようになったと明かした。

ロイターより

事故で四肢麻痺になってしまうようなことは、現代医学をもってしてもまま発生しうることで、ベッドから起き上がれない重症患者も世の中には少なからずいる。

そういった人々にとって、指先は動かなくてもマウスが自在に動かせる、或いは文字入力ができることは、非常に大きな意味があるだろう。

Watch Neuralink’s first human patient play ‘Mario Kart’ with his mind

Mar 26, 2024, 3:37 AM JST

Neuralink has shared a video that appeared to show its first human patient using his brain-chip implant to play “Mario Kart.”

Business Insiderより

更に患者がチェスやマリオカートなどのゲームを楽しむことが実現するなど、着実に「結果」を出している様子が報じられた。

Neuralink reveals first human-trial patient, a 29-year-old quadriplegic who says brain chip is 'not perfect' but has changed his life
Elon Musk's Neuralink reveals first human-trial patient, a 29-year-old quadriplegic who says brain c...

いくつかの失敗を経て、「完璧では無い」にせよ、成果に辿り着いたのだから、賞賛に値する。

Neuralink
Creating a generalized brain interface to restore autonomy to those with unmet medical needs today a...

具体的な成果はサイトを参照すると読むことは出来るが、脳内の神経細胞が出す微弱な電気信号を解析して、体外にある機械を動作させることに成功しているようだ。

原理的には、脳内のニューロンが発する電気信号を拾って外部で処理できるようになれば、失われた手足を補う義手や義足を思う通りに動かすなどの段階に進む可能性があり、実際にその初期段階には成功したとされる。また、コンピュータに接続し、考えただけでテキストの入力やマウスの移動、クリック、Web閲覧などの機能を持たせることも実現できているようだ。文字は1分間に40文字程度の入力速度のようだが、それでも考えただけで文章を構成できるという世界に突入しているのは驚異的ではある。

そういう意味では、将来性を感じる研究ではある。

オルガノイドの研究

さて、ニューラリンク社の取り組みとは少し外れた話をしておきたい。

脳の一部を実験室で作る「神経オルガノイド」 病気再現、治療法探る

2023年12月23日 9時30分

胎児の脳ができる過程をお手本にして、その一部を実験室で再現して組織を作る。「脳の特定の領域になれ」と教えるように培養するのがコツ――。

12月、神戸市で開かれた日本分子生物学会で、名古屋大の須賀英隆准教授がこんな発表をした。体のさまざまなホルモンの分泌を制御する脳の器官が働かないと、脱水や血圧低下など命にかかわる。この機能を代替する新治療法の開発をめざし、「神経オルガノイド」作りに取り組んでいるという。

朝日新聞より

「オルガン(臓器)」と「オイド(似たもの)」をあわせた造語であるオルガノイドは、臓器に似せた立体組織のことである。この分野の研究では、ES細胞など細胞分化を誘導する技術によって、狙った体細胞を作ることに成功しつつあり、記憶を司る海馬オルガノイドを作ったという報道も出てきた。

坂口 秀哉 | 神経器官創出研究(特別プログラム)

なかなか強烈なビジュアルの人物ではあるが、先進的な研究をなされているようで。海馬は人の記憶を司る器官であるといわれており、これを人工的に作り出したという話である。

この分野の研究は、病気を再現してそれの治療に利用出来るという話ではあるが、そこから先に進んでオルガノイドによる人体の器官への置き換えなどにまで発展しうる分野の研究である。

人工的に作り出した脳を研究すれば、より正確な電気信号の取り出しにも成功するだろう。ニューラリンク社の取り組みにもおそらくは関わってくる技術であるといえる。

同業他社

また、マスク氏の存在によって報道されやすいニューラリンク社の取り組みの他にも、似たような分野の研究を行っている会社または機関は存在する。

脳インプラントチップの米シンクロン、大規模臨床試験を準備

2024年4月9日午前 9:18

脳インプラントチップ開発の米新興企業シンクロンは、製品の市販承認申請に欠かせない大規模臨床試験に向けて患者の募集を行う準備を進めている。トーマス・オクスリー最高経営責任者(CEO)がロイターに明らかにした。

~~略~~

シンクロンは脳に装置やチップを埋め込んで電気信号をやり取りする脳インプラントの試験で、イーロン・マスク氏が率いるニューラリンクに大きく先行している。2021年7月には米国で初期的な試験についての認可を取得し、6人の患者に機器を移植。またオーストラリアで患者4人を対象に実施した事前の試験で重い副作用は出なかったと報告している。

ロイターより

アメリカのシンクロン社もそのうちの1つで、ニューラリンク社よりも研究は先行していると言われている。

開頭手術なしで脳によるデバイス操作が可能に?米企業が新技術を開発中

2023年09月28日 07時30分

コンピューターを脳波で操る技術、いわゆるブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)という夢の研究は、数十年前から続いている。これまでのところ、その技術のほとんどは、臨床試験や臨床研究の段階にとどまってきた。実際に頭蓋骨の内部に埋め込むデバイスとなると、特にそうだ。Synchronという企業が、その状況を変えようとしている。

~~略~~

Synchronの最高経営責任者(CEO)を務めるTom Oxley氏は、既存の医療技術を出発点にしたと説明している。中でも大きいのがステントとカテーテルで、どちらも血管を通して体内に挿入する技術だ。

「首の頸静脈から入り、脳まで到達したら、運動皮質と呼ばれる脳の部位でステントが展開する」、とOxley氏は語る。そこから、インプラントは「無線で外部と通信し、パーソナルデバイスを制御する」のだという。

CNETより

シンクロン社の技術によれば、血管を利用したインプラント技術で、脳に直接電極を埋め込むタイプよりは侵襲性が低い。つまり、安全性が高いと言える。

運動皮質における信号は、人が動こうとする意思を伝える。Synchron Switchインプラントのアンテナが脳内のその信号を読み取るので、使用者は身体のどこかを動かそうと考えるだけでデバイスを制御し、テキストメッセージの入力、オンラインショッピング、オンラインバンキングといった操作ができるようになる。

CNETより

詳しい情報は出ていないのだが、いくつかの情報を統合していくとシンクロン社もコンピュータに接続した上で、テキストの入力などのPCの操作に成功したということのようだ。

似たような取り組みはフェイスブック社も行っているようで、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームと組んで脳波から情報を取り出し、1000語以上の単語の取り出しに成功し1分間に30文字程度の入力ができるとしている。

この手のBCI、BMI技術は様々なアプローチが為されている最中であるので、数年内にまた新しい成果が報道されることになると思う。

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将来性はあるが倫理はどこまでを許すのか

ただ、現在の技術では多数のニューロン(100億から1000億程度あるといわれている)に対応するプローブを脳内に埋め込んで、ネットワークから情報を取り出すには電極が大雑把すぎる。

したがって、現段階では義手や義足を動かすのでも、大雑把な動きを実現するに留まるようだ。

外部端末の処理能力的な問題もあるのだろう。

脳に埋め込み神経細胞と接続する電子プローブ――脳医学研究や生体信号によるロボット制御が狙い

2018-3-30

スウェーデンのリンショーピング大学は、ヒトの組織のように柔らかく、体に埋め込んで神経信号を収集できる生体適合性のある導電性素材を開発した。研究成果は論文「High-Density Stretchable Electrode Grids for Chronic Neural Recording」として、『Advanced Materials』誌に掲載されている。

Fab-crossより

この手の研究は様々なところで行われていて、ある程度の神経信号の収集には成功しているようだ。

この素材を使い、リンショーピング大学はチューリッヒ工科大学と共同で先端に多数の微少電極を取り付けた神経信号収集用プローブを作製した。写真のプローブは幅3.2mm、厚さ80μm。電極の大きさは50μm、電極の間隔は200μmで、32個の電極を形成できる。研究チームはこのプローブを実験用のラットの脳に取り付け、3カ月にわたって自由に動き回るラットの神経信号を収集することに成功した。

Fab-crossより

世界中でこうした研究が進められて、神経信号収集用プローブの小型化は進んでいくのだと思う。更に低侵襲性が求められるため、現在の技術だけではまだまだ足りない部分が多い。日本でも電極の太さを数μmレベルの微細化に成功しているが、電極を微細化すれば今度はそれを正確にターゲットとなる場所に埋め込む技術が必要となる。ニューラリンク社では手術用のロボットの開発にも成功しているようだが、プローブが微細化すればもっと高精度な手術ができるような技術を要するだろう。

更に、神経細胞は一生同じ機能を果たすのかについては不明な点も多く、実際に埋め込んだ電極が素材の強度的にいつまで使えるものか?という問題もある。今後研究が進んでいくものと思われるが、多分、義足を任意に動かして単純な歩行が出来るようになるにも数年から数十年程度、義手を動かすのであれば数十年から数百年程度の時間は必要だろうと思う。

そして、その為の犠牲がどこまで許されるのか?というような話も出ている。

Exclusive: Musk’s Neuralink faces federal probe, employee backlash over animal tests

December 6, 202211:57 PM 

Dec 5 (Reuters) – Elon Musk’s Neuralink, a medical device, opens new tab company, is under federal investigation for potential animal-welfare violations amid internal staff complaints that its animal testing is being rushed, causing needless suffering and deaths, according to documents reviewed by Reuters and sources familiar with the investigation and company operations.

~~対訳~~

独占記事:マスクのニューラリンク、動物実験問題で連邦政府の調査や従業員の反発に直面

イーロン・マスク氏が経営する医療機器会社ニューリンク社(opens new tab)は、動物実験が急がれ、不必要な苦痛や死を引き起こしているとの社内からの苦情がある中、動物福祉違反の可能性があるとして連邦政府の調査を受けている。

ロイターより

これまでもままあった話ではあるが、脳を直接実験の対象にする以上は、失敗した時に犠牲になるものも大きいわけで。

In all, the company has killed about 1,500 animals, including more than 280 sheep, pigs and monkeys, following experiments since 2018, according to records reviewed by Reuters and sources with direct knowledge of the company’s animal-testing operations. The sources characterized that figure as a rough estimate because the company does not keep precise records on the number of animals tested and killed. Neuralink has also conducted research using rats and mice.

~~対訳~~

ロイターが確認した記録と、同社の動物実験業務を直接知る情報筋によると、同社は2018年以降、280頭以上のヒツジ、ブタ、サルを含む約1,500頭の動物を実験後に殺している。この情報筋は、同社が実験と殺処分を行った動物の数を正確に記録していないため、この数字は概算であるとしている。ニューラルリンク社はラットやマウスを使った研究も行っている。

ロイターより

動物実験をすれば、当然ながら実験後には処分ということになる。「命を弄んだ」などという批判が適当だとは言い難い部分もあるが、こういった実験をいつまでも続けることが倫理的に許されるのか?という問題は考えるべきだと思う。

SFの世界はどこまで許されるのか

そして、研究が進んだ暁には概ね脳内の電気信号を漏れなく拾える日が来たとして、この情報を元に脳からの指令を受け取り、フィードバックが返せるようになると、VRの世界も格段に進歩するのだろうが……。

「どこまでやって良いのか」という世界に入っていくのだろうと思われる。そして、そうした話は技術が進んでいない時点で積極的に行っていくべきだろう。

色々なSF作品があるが、この手の話で僕が真っ先に思い出すのが攻殻機動隊だろうか。或いはコメントいただいた戦闘妖精・雪風みたいな話にも繋がるのだろう。他にもBMI技術をモチーフにしたSF作品には事欠かないが、何れにせよ倫理の話になってくる。

攻殻機動隊に関しては詳しい人も多いだろうから説明は省くが、この作品の世界観では義体化技術が進んでいて、主人公は全身が義体化されている。脳や神経だけを残してサイボーグ化するという前提にある話は、脳の信号を取り出す技術が完成されていることだ。

サイボーグ化はどこまで行ったら人でなくなるのか?という話にも繋がっていく訳なんだけど、この作品では他に電脳化(マイクロマシンを脳内に注入して電気信号を取り出す)という概念もあって、BMIという技術のある意味完成形の話になっている。BMIは、マスク氏が取り組んでいる技術の先にある話でもあるのだが、そこまで行ってしまうと脳に疑似信号を与えることで脳に錯覚を起こさせることができるようになる。

SFネタではあるのだが、脳内に麻薬を作る指令を出すことができるので、廃人まっしぐらという。或いは洗脳なども容易になるだろう。攻殻機動隊ネタで言えば、ゴーストハックと呼ばれる記憶の改竄・行動操作・人格乗っ取りなどまで視野に入ってくる。

技術革新に倫理問題は付きものなのでこれに限った話ではないのだが、技術革新のスピードよりも倫理は遅れがちであり、取り返しのつかない事態を招いてから帳尻を合わせるように縫合していくのが世の常ではあるが、事前に予測される悲惨な事態にはある程度対応出来る様にすべきだろう。

しかし一方で、技術は常に進歩させていく必要はある。使う側の問題はあっても、技術自体は悪ではないのだから。そういう意味でもニューラリンク社のような企業や研究機関には頑張って欲しいものである。現状の技術だけでも、四肢麻痺して動けない人々にとっては選択肢となり、福音と言えるのだから。

コメント

  1. アバター 山童 より:

    木霊様ありがとうございます。私が把握できた内容より、より詳しくかつ周辺技術に関する話まで書いて頂きとてもおもしろかったです。
    ニューラリンク社は頭蓋骨の開頭のみ人間のドクターが行い、血管を避けて脳に埋め込む工程はロボットが行うと聞きました。そこまで聞いたので、あ、もうすぐ疑体いけんじゃん…とか思ったのですが浅はか過ぎました。よく考えてみればアウトプットにフィットする機械って……。
    手先の仕事していたから解るんですが、例えば親指の付け根は球関節で、このような全方向的に回る関節って、なかなか機械的に再現できないんですね。ロボットは一回に一方向にしか動けない。人のように屈強・伸展と回内・回外の2動作を「同時に」行う事が難しい。人間なら1動作がロボットだと2動作になる。ソフトもハードも。二足歩行すら制御は難しい。医学的な問題はクリアできても工学的な問題はまだまだだろうなぁ。
    倫理観については。うん、まぁ……なのですが。その辺りはマスク的な人たちに求めてもムダでせうね。
    彼らのような人たちはSQと言って、システム化知能……バラバラの群衆のような情報から方則性とかパターンを見い出す知能の持ち主で、このタイプは人の感情などを非言語パターンから読み取るEQが極端に低い事が解ってます。まぁ1言で言うとサイコパスですね。
    だからこうした技術をガンガン進められるのですし(マスクの場合、リスクで身を焼かれるのを求めてるきらいも感じる)、そこ倫理観との折り合いはなぁ。
    ナチスのように強制人体実験してるのならばいざ知らず、四肢麻痺で苦しむ人たちに合意の上でやってる事なら、それは倫理に背かないのでは?
    「どこからが人間なの?」という話で、
    テセウスの船のような(パーツを全て入れ替えたら元の船と言えるか問題)哲学的な所まで掘り下げてくださったのは、
    やはり木霊様の人格なんだろなぁ。
    たしかに擬体に、人の意識をアップロードした電子頭脳を搭載した場合、それは人間なのか?と言われると判断に困る。
    記事をねだったのは私なのですけれど、
    そこまで考えて無かったのですよ。
    マスク自身はサイコパスだろうけれど、
    例えば火星移住で、初期から中期への段階で、数多くの人が死ぬに違いないと断言しています。それでも構わないと思うのがサイコパスたる所以ですが、それを隠さず、人に強要しないという点で、彼は「誠実なサイコパス」だと思います。
    とはいえ……記事の最終感想が以下ですが。やっぱり理工系を学んだ人には、
    木霊様のようなIQ、SQ、EQと三拍子揃えて、そこに理想や倫理観を持って欲しいものです。う〜む、なんかチグハグな感想で済みませぬ。
    とくに生命倫理か……神道という信仰を持つ者として、そこをあまり考えないで興奮していたのはお恥ずかしい。

    • 木霊 木霊 より:

      いやはやお恥ずかしい。

      職業柄、あっちこっちから情報を集めてきてまとめていくという事に慣れていますので、多少は参考になる部分があったかもしれません。ですが、過分な評価を頂きましたが、あくまでも参考と言うことにしてください。深い部分の分析ができていませんから。

      そして倫理面の話は、SFベースで色々考えている人が居ますから、導入しやすかったというか。アーサーCクラークの作品などは沢山読みましたが、技術発展とどのように使うかの倫理面の話がストーリーのベースになっていますからね。

  2. アバター 山童 より:

    山童追記)
    なんだか散漫でイミフな感想になってしまい済みません。夢見たテクノロジーですので、ついつい浮かれてしまって。
    倫理観について考えた時に狼狽してしまったのです。

    木霊様の視点というか、あり方というか
    解った事があります。
    低い視点と高い視点ですかね。
    今回の記事は、その可能性から周辺技術や生命倫理まで広く観ておられるです。
    私みたいに「雪風できるヤター」てはない。それ視点が高いんだと思うです。
    (注)意識高いではない!!
    視点の高い人てのは、バラバラに見える群衆の中から普遍性や方則性を発見できる。 またあまり感情に振り回されない。
    私は前に匿名氏とモメた時を振り返っても、感情が高ぶると目先しか見えなくなる。目先しか観ないから、個々の間にある方則性が見えない。
    この方則が見えないと、「道を突き当たりまで行ってから考える」ようなもので、
    それは未開拓地が多く、試行錯誤の余地が多い時代には「バカの強味」になるのですが、今の時代はそうじゃない。
    色々と挑戦しないと人類の存続が危うい。しかし「失敗時の失地回復の余地」というかバッファゾーンがら19・20世紀に比べて極端に狭くなってます。
    視野を高く持ち、アクセルワークとブレーキワークの両方を使えないとならない時代で、そこはやはり貴兄は地頭が良いんだなぁと感心いたしました。
    神道の氏子で、医療人でありながら、
    生命倫理とか考えないでアクセル踏んでしまいたいクチなんですね。
    実はチクッ!と刺さりました(T_T)
    反省の弁と共に、木霊様へ感謝m(_ _)m

  3. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    >多数のニューロン(100億から1000億程度あるといわれている)に対応するプローブを脳内に埋め込んで、ネットワークから情報を取り出すには電極が大雑把すぎる。

    結局これですね。
    あと、脳は、と言うか脳細胞の、特に樹状突起あたりは、常に成長と衰弱を繰り返していて、これが回路を形成して記憶やら行動(馴れとか訓練とか)を司っているので、固定的かつ機械的接続だけでは長期的にダメなんじゃないかって思います。
    「攻殻機動隊」では、この接続をナノマシンでやる事にしてましたね。で、ナノマシン自体に成長因子組み込んだり、ナノマシンそのものの入れ替えをやる描写もあったり。

    そこまでやっても、今度は信号が多すぎて処理がパンクするのでは、とも思います。
    今もてはやされているビッグデータですが、あれの解析はブラックボックするで、実は何やってるか把握出来てないとか。大量のデータベースを相手に、こちらから「こう言うときはこういう出力をする」を教え込んで「教育」するのですが、その教育が具体的にどんなプログラミングになっているのか実は解析不可能と聞いた事があります。
    その延長線上が「雪風」であり「ジャム」であり、同じ物理現象に対し、人間と全く違うアーキテクチャで思考するので、コミュニケーション自体成立するか怪しい。「雪風」では、深井零やアンセル・ロンバートなどごく少数は限定的なコミュニケートに成功してますが……
    ……あ、このあたり、クトゥルーの「旧神」「蕃神」「邪神」も似たようなものか。

    という事で、七面鳥は、短期的には義肢義足の分野で発展してほしいけれど、長期的には、脳を置換する何者かまでは相当先だとは思ってます。むしろ、同じ機能を持ち、処理はブラックボックスの「陽電子脳」の方が早いかと。

    ※今流行のAI、あれはビッグデータの利用方法の一つでしかない、とも思ってます。

    • アバター 山童 より:

      なるほど。ビッグデーターの利用という事は、七面鳥様は「AIの本日は辞典」とお考えな訳ですね。たしかにAIに自我が生まれるか?というと疑問の余地ある。
      また邪神と例えでお書きのように、人を超越した知性があった場合、より高度なロジックで思考しているてしょう。
      人は一定数以上の関係代名詞や接続詞が並ぶと文の意味を理解できなくなる。
      ので超知性体を生み出しても根本的なコミュケーションは期待できない。
      んが、私はそもそも「人に自由意志など無いのでないか?」と疑ってる人です。
      我々はアナログ(継続的)な人格を持ち、その人格(個性)が意識下で決定して行動していると思ってる。
      でも、実際は「意識」が決定する前に判断は下されていて、意識は決定と行動を認識して記憶に記録するだけなんすね。
      これ実験(任意のタイミングでボタンを押す実験。前後の脳の電位発生の部位
      記録した結果)で明らかにになってる。
      記憶と個性(人格)は密接なものなので
      あたかも「自分の意識が決定」したかのように記憶してるだけ。
      つまり人間は身体だけでなく精神もゼンマイ仕掛けの「機械」って話です。
      別に突飛な話ではなくて、カルヴァン派のプロテスタントは「決定論」で、もともと「こっち系」ですよ。
      米国人とくにトランプ氏のあの異様な行動力は何に由来するかと言うとコレす。
      人も世界も予め神によって運命、未来は定められている。努力の介在する余地はない。だからこそあの国はプラグマティズムに傾ける事ができる。
      神によって全ては終末まで定められてるのですが、その未来は「神のノート」に記載されていて、神ノートは決して人には読む事ができない! 
      だから「自分は勝者に選ばれし者」と信じて、ひたすら勝利へと突進するしかない。内省など無用で、勝利を信じて突き進め!
      これがトランプ氏(カルヴァン派の中の長老派)のアグレッシブさの秘密。
      それは人が「意識の無い操り人形」である事を認めた故のアグレッシブなんです。
      こう書いていると木霊様へのコメに矛盾するようですが、実はオカルトでも3大世界宗教でも「霊魂に人格が宿る」などは1言も言ってないんですね。
      むしろ「そうではない」と言う方が多くの信仰のドグマに合致する。 
      なので「辞書に過ぎない」≒「意識など芽生えない」という七面鳥様の御意見には賛成なのですが、だから人間的なAIは有り得ない的な考えには反対なのですね。
      だって人の精神そのものが機械であり、
      自由意志なんて存在しないと考えるから。ちなみに私はホログラム宇宙説やシミュレーション仮説を肯定する方です。

      • アバター 山童 より:

        そもそも英語の霊魂にソウルとスピリットの2つの単語があるのは、
        心や精神に寄り添った意味の魂と、
        システムとしての霊の2つの概念があったからでしょう。
        中国人も魂と魄、古代エジプト人はカアとバアに分けてましたしね。

        • アバター 七面鳥 より:

          脳という情報処理システム自体、原生動物のいろんな反射を効率良く行う為の中枢回路に過ぎないと思ってます。
          人間の思考とかそういうのだって、
          「自分をより豊かにして、自分の遺伝子を残しやすくする」
          という生命原則に従って、「こうすればいい」という(各固体の勝手な)遺伝子の指示に従っているだけに過ぎない。
          だから、「こうすればいい」の方向性は千差万別で、社会という自然淘汰の中で、勝者と敗者が生まれる。当然、勝者の遺伝子の方が残りやすい。
          ここでの勝者とは、大金持ちであったり、権力者であったり。社会だって自然淘汰の環境の一つに過ぎない。

          今コメント書いている七面鳥だって、自己顕示欲を満たす事で生命体として満足感、充実感が得られ、それは結局の所、生命体としての自己をより上手いことコントロールし、ストレスの低い状態≒生き残りやすい状態に保つ為、とも理解出来ますよね。
          そう考えてしまうと、人類と、梯子状神経の昆虫と、神経すらない反射だけのアメーバとの違いなんて、大したことないって思えます。
          やってる事に大差ないじゃん、って。
          ただ、人類は、言葉と文字を手に入れたことで、その思考の過程に芸術性だの神性だのといった「概念」をつけてしまった。そしたら概念が一人歩きしだしてしまった。特に宗教。おっかない事です。

          で、蕃神だ何だを持ちだしたのは、地球外、太陽系外の環境で発生した生命体、知性体であったら、その成り立ちから構造から何一つ我々と似ていなくても不思議ではない、思考(と呼べるかどうかすら怪しい)のアーキテクチャ自体がまるで違う、そんなモノなのじゃないかな?という事でして。
          恐らくは「概念」からして全く違う。だからこその「宇宙的恐怖」であり、底を理解出来てしまうとSANチェックロールが必須、と。

          それと似た話で、その構造や規模、形態に関係なく、AIが進化して「我は人なり」って言いだしても別にいいんじゃない?って思ってます。現状のAIはまだまだその域のはしっこにすらたどり着いていないとも思ってますが。
          そしてそのAIを構成する自我のアーキテクチャは、恐らくは我々人類とは違っているのだろうな、とも。
          七面鳥は、人工知性肯定派です。

          • アバター 山童 より:

            なるほどなるほど。
            七面鳥さまはベクトルの差異はあれ、感覚的には私とそんなに変わらないのだなぁ。AI生命?をひていしてないし。

            あとコズミックホラーが
            何故に「宇宙的恐怖」なのか「猿でも解る説明」てありました。
            うん、「宇宙からの色」とか「遊星からの物体X」とかと「価値の共有」やら「理解」やらできると思わないし。インスマウス住民すら山童はムリ!

            あと七面鳥様が承認欲求としてお書きだとしても、その小説で私はワクワクしてウサが晴れる。
            世の中は良くて来てるものです。ありがとう。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      ご指摘の、「固定的かつ機械的接続だけでは長期的にダメなんじゃないか」という点なんですが、技術文献など読みあさっていくと、電気情報を読み取ってイメージを構築し、指令として処理する感じなんですよね。ちょっと電気回路的なイメージを持っていましたが、脳内ではもうちょっと違う働きをしているご様子。これが、一部がダメになったら別の部分で代替できる可能性があるという話に繋がるようなんですね。僕の懸念はこれが切り替わった時に、アウトプットが正確にコンピュータで理解できるのか?という部分があるんですよね。

      • アバター 七面鳥 より:

        大学の時、ちょっとだけ脳ミソ囓った(物理的に、じゃないです(笑))のですが、
        ・脳波(≒電気信号)は結果的に観測されるだけであって、神経の情報伝達はイオンチャンネルの脱分極(化学物質による反応)の連鎖(化学反応の際に電位変化が発生し、これがものすごい数集ったモノが脳波となる)
        ・複数の脳細胞は綿密なネットワークを形成しており、これは常に成長(変化)し続ける(なので、新しい記憶や行動を得たり、忘れたりする)
        と理解していて、つまるところ、
        「脳波レベルのおおざっぱな解析では使い物にならない。やるなら最低限、神経細胞一個一個にアクセス出来ないとダメ」
        と考えてます(仕事でも脳波いじりました)。
        脳細胞は常に成長し合理化を続けているので、ある程度は脳の損傷もリカバー出来るとかそういう事ですが、有り難い事に、そういった重要な細胞は皮質、表面に殆どがありますから、プローブが充分に小さければ細胞一個単位でのアクセスも可能とは思います。
        ただ、その細胞が、加齢現象で死んじゃうと意味が無いんですよね……という所が心配で。

        それと、「脳と同じ機能」があるなら、それは脳を模倣する必要はないとも思ってます。ニューラルネットワークが廃れた(廃れましたよね?)のは、模倣に意味が無いとわかったからだと。で、模倣じゃなくて、何でも良いから結果が出るビッグデータになって、その延長線上でAIが復活して来た、とも。
        「人工無能」の頃からそういうので遊んでた世代としては、あんなもの、巨大な辞書データから現状に一番マッチする回答を選ぶか、マッチする回答を複数から合成するか、結局はそれだけのシリコンのバケモノに過ぎないと思ってます。
        じゃあそれが人工生命、人工知性に繋がるかというと……倫理も絡んで難しいですが、実は七面鳥は「人工知性と呼んで差し支えない、ただ、現状はまだその域に達していない」とも思ってます。

        「シーザーを理解するのに、シーザーである必要はない」から「脳を理解するのに以下略」ですが、じゃあ、その理解用の「シーザーでないもの」「脳でないもの」がオリジナルと意味的に等価であるかというと……答えは出ないと思います。
        そもそも、理解とかは十人十色なんで、学者があーでもないこーでもない言う片隅に、AIの意見が追加されるだけ、そんな程度でしょ?って思ってるというのが本音ではあります。
        ※その意味で、七面鳥は、進化したAIだのシリコンのオバケだのは、人間と呼んでいいと思う派でもあります。
        ※ずっと前にどっかにコメした記憶がありますが「戦闘マシーン ソロ」って小説が、ティーンの頃の七面鳥の、こういったマインドセットに大きく影響しているのは自覚してます。

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