関東大震災発生から100年で史実を書き換えようとする勢力

日本にとって関東大震災というのは、歴史に残る大災害として記録されている事件である。

関東大震災から100年　10万人超えの犠牲者を出した被害拡大の背景とは

2023/09/01 05:30

9月1日は1923（大正12）年に発生し、大きな被害をもたらした関東大震災からちょうど100年にあたります。

当時の東京府、神奈川県など関東地方7府県で計約10万5000人の死者・行方不明者が生じましたが、そのうち約3万8000人は東京市本所区（現・東京都墨田区）にあった旧陸軍被服廠跡の約6ha（約2万坪）の狭い範囲で、「火災旋風」という現象により焼死したとされています。

ウェザーニュースより

100年前に発生した大災害だが、教訓としなければならないことも多い。被害者は10万5,000人を数え、甚大な被害を関東一円に生じた訳なんだけど、今年になってどうもきな臭い動きもあるようだ。

史実を見つめるには背景も含めた考察を

歴史的背景について

さて、関東大震災が発生した頃の日本はどんな世の中だったのかについて、最初に少し言及しておきたい。

大正12年（1923年）9月1日に関東大震災が発生し、日本は甚大な被害を被ることになる。被害総額は当時の国家予算の37％にあたる55億円であったとされている。

大正時代の日本は、明治時代に近代化した後で大正デモクラシーと呼ばれる護憲運動が巻き起こった時代であった。様々な政治運動があって、米騒動（大正7年：1918年）の後には普通選挙の導入が始まっている。この際には当時の内閣総理大臣であった原敬暗殺事件（大正10年11月4日）が発生した。

その事件を受けて高橋是清内閣が発足したが、僅か1年で交代。高橋是清も後に二・二六事件で暗殺されてしまう（昭和11年2月26日）ので何とも皮肉な話である。

その次の内閣、加藤友三郎内閣の時に、関東大震災は発生する。その当時首相を務めていた加藤友三郎は、海軍大将を勤めていた軍人であり、海軍大臣も兼任している。ただし、加藤友三郎自身は大正12年8月24日に首相在任のまま死去。死因は大腸がんの悪化によるものだったとされている。よって、震災を迎えたのは内閣総辞職が決定して首相代理を務めていた外相の内田康哉が采配を振るっていた時期である。

なお、加藤友三郎内閣は同年9月2日、つまり震災発生翌日に解散を行っている。次の内閣は海軍大将の経験のある山本権兵衛が首相を務めているのだが、同年12月27日に発生した虎ノ門事件（無政府主義者による皇太子・摂政宮裕仁親王（後の昭和天皇）の暗殺未遂）による引責辞任を行っている。

このような不安定な社会となっていた背景には、ロシア革命（1917年）の発生とコミンテルンの暗躍があった。社会主義や共産主義思想が日本国内でも台頭し、日本共産党が出来上がったのもこの頃（大正10年4月に秘密裏に発足）である。

無政府主義者や社会主義者、共産主義者などがテロ活動を行って社会不安が増大する時代で、関東大震災の混乱に乗じてその活動を活発化させていた。コレに対抗するために治安維持法（大正14年4月22日）が制定されている。

とまあ、こんな社会情勢の時の出来事である。

火災旋風での被害

関東大震災で被害者を増やした理由の1つが火災旋風の発生だとされている。

火災旋風は、「火災が起きた際に、燃えている所や、そのまわりで発生する激しく回転する渦柱のこと」だと説明されていて、発生のメカニズムには諸説あるが、火災による上昇気流の発生などが作用して、広範囲に破壊をまき散らす現象であるとされている。

山火事などが発生した場合にも、観測される現象なんだとか。

関東大震災では、昼食時間帯の発生で煮炊きの火を使っていた家庭が多かったせいなどもあり、人的被害のほとんどが火災によるものでした。

「約10万5000人の死者・行方不明者のうち、9万2000人が火災による焼死者だったとされています。

そのうち旧東京市（15区）での焼死者は5万2000人。さらにそのうちの7割を超える3万8000人が、東京市の焼失面積の0.2％しかない陸軍被服廠の跡地を襲った火災旋風の影響で亡くなったと言われています」（篠原さん）

被服廠とは軍服や軍靴などを製造する旧帝国陸軍の工場で、関東大震災前年の1922（大正11）年に王子区（現・北区）へ移転し、東京市が公園として再利用するため、当時は敷地のほとんどが空き地になっていたそうです。現在の都立横網町公園や日本大学第一中学・高等学校周辺にあたります。

関東大震災の際、火災旋風は被服廠跡以外でも発生していたのでしょうか。

「東京市内で約110個、横浜市内で30個発生したという報告がなされています。

ただし、被服廠跡も含めて関東大震災時に発生した火災旋風の写真や映像は残されていないため、発生時の詳しい状況は被災者の証言から知るほかありません」（篠原さん）

ウェザーニュースより

地震発生時には、地震だけではなくてその他の原因によっても被害が拡大するということだ。

地震規模よりも付随して発生する火災や火災旋風、津波などによる被害の拡大が問題となる。9割が焼死で、10万5,000人の被害者って、どれだけ火災旋風の影響が大きかったのかと。

救援活動に纏わる話

こうした被害発生を受けて、様々な救助活動が行われたようだが、個人的に興味深かったのがこちら。

指示待ってられるか！ 関東大震災の「災害派遣」一番乗りした戦艦とは 他艦も“独断専行”で急行

2023.09.01

今から100年前の9月1日に関東大震災が発生しました。当時海軍の連合艦隊は訓練中で旅順にいましたが、急遽訓練をとりやめ、関東方面に急行することになりました。

乗り物ニュースより

震災発生時、訓練中だった海軍の連合艦隊が、支援活動のために動いたという話だ。

現代では自衛隊が災害派遣の要請を受けて動くことになっているが、当時も軍隊が救助に動くことはあった。考えてみれば当然なのではあるが……。

駆逐艦や軽巡洋艦など船速の速い艦艇を先行させると共に、当時第一艦隊に所属していた戦艦「長門」「陸奥」「日向」「伊勢」の4隻は地震発生の2日後の9月4日に、九州の志布志湾に到着、ここで「長門」は、「陸奥」「日向」「伊勢」の食料品や医療品を全て積み込み、3隻に先行し、東京に直行しました。

急行した「長門」は9月5日16時に品川沖へ到着。なお、この時点まで海軍大臣からは正式な許可が降りておらず、ある意味では独断専行行為でしたが、この到着からしばらくした19時、正式任務が付与されることとなり、災害支援活動をしていくことになります。

乗り物ニュースより

興味深かったのは、正式な命令無しに動いたという点である。もちろん、軍紀違反は重罪となる。このケースでは、正式任務が後追いで付与されたようだが、判断を下した司令官は何らかの処分を受けた可能性はある。調べられなかったが。

なお、長門の品川到着とほぼ同じ頃に、装甲巡洋艦「ヒューロン」を中核とした米国のアジア艦隊の一部も、救援のため外国艦隊としては一番乗りで品川に入港しています。当時の米国大統領選だったジョン・カルビン・クーリッジ・ジュニアは現地時間の9月1日の夜には関東での大地震の報を知り、ただちに対日支援を決断しました。

通信能力が圧倒的に違うにもかかわらず2011年3月11日に発生した東日本大震災のときの支援作戦「トモダチ作戦」のような動きで支援体制を整えており、同国の情報収集能力が当時から高かったことが伺えます。

乗り物ニュースより

そして、興味深いもう１つの事案が、アメリカの艦隊も動いたという話。対米開戦は昭和16年（1941年）12月8日なので、大正12年（1923年）頃は未だ良好な関係を保っていたという訳だね。

朝鮮人虐殺

さて、こうした話の中でメディアが殊更取り上げるのが朝鮮人虐殺の話である。

関東大震災100年　記録写真や生々しい言葉も　港区の在日韓人歴史資料館で朝鮮人虐殺伝える企画展

2023年9月2日 07時24分

関東大震災後に、デマや流言に端を発して広がった朝鮮人虐殺を伝える企画展「１９２３－２０２３歴史の証言者たち」が、東京都港区の在日韓人歴史資料館（南麻布１）で始まった。同館が主催し、１１月２４日まで。

関東大震災では、朝鮮人を敵視するデマが拡散し、それを信じた民衆による「自警団」や軍、警察が朝鮮人を暴行、虐殺した。

東京新聞より

あまり活動アジビラからの引用は好ましくないのだが、「朝鮮人を敵視するデマ」だとか「それを信じた民衆による「自警団」や軍、警察が朝鮮人を暴行、虐殺」とか、実に悪意のある記事だ。

こうした新聞記事は、当時、テレビもラジオも存在しない世界観において、国民に対してかなりの説得力を持っていたと考えられる。流言飛語の問題を指摘しているが、そういった情報を拡散したのは他ならぬ新聞紙なのである。この他にも官憲資料にもそういった情報が見られるため、社会的に「不逞鮮人」のレッテルが醸成されていたことは事実なんだろうと思う。

https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/669-01.pdf

そうした事を研究されている方もいるのだが、このレポートの著者金富子は、在日朝鮮人歴史学者で、慰安婦問題に取り組みVAWW-NETジャパンの活動に運営委員として関わる人物でもある。公平性に関して割り引いて考えるべきだろう。

関東大震災１００年　朝鮮人犠牲者追悼式典

2023年9月2日(土)

１００年前の関東大震災時のデマにより虐殺された朝鮮人犠牲者らを追悼する式典が１日、東京都墨田区の横網町公園で行われました。「悲劇を繰り返さないために、歴史の直視を」。炎天の下、会場いっぱいの人が集まり、政府による真相究明と謝罪を求めました。同式典実行委員会の主催です。

１９２３年の震災後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言が広まり、軍隊や民衆などによって朝鮮人や中国人、日本人社会主義者らが虐殺されました。朝鮮人の犠牲者は６０００人超と言われます。

しんぶん赤旗より

アジビラをもう１つ紹介しておくが、犠牲者6,000人超という数字を上げている。

個人的に、関東大震災後に朝鮮人が不当な暴力を受けた事実があった事を否定するつもりはない。だが、戒厳業務詳報によれば、軍によって殺害された人数は少なくとも朝鮮人39人、内地人27人、軍民共同の殺害による犠牲者として朝鮮人約215名（うち約200は中国人との説あり）とされている。

内務省は248名、朝鮮総督府東京出張員は見込み数として813名を挙げている。朝鮮人犠牲者には、朝鮮総督府が死亡原因が災害か虐殺か区別せず弔慰金が832名に支払われている。

当時の混乱ぶりから、これらの数字が全てを網羅していたとは言わないが、最低限これらの数字は裏付けのとれた事案だとして、参考になるのではないだろうか。

それと、震災直後に本当に朝鮮人が暴徒と化していなかったかどうかも不明である。火のないところに煙は立たないわけで、火を付けて回った存在が確実にいたハズなのだ。

そして、社会不安が増大していたとしても、良き隣人であったはずの朝鮮人は、何故弾圧されるような事態になったのかも、余りしっかりと考察されていない気がする。

日韓併合後、独立運動派が日本国内にも随分と流入してきている時期である。大正8年2月8日、東京西神田小川町の朝鮮YMCA会館に集まった約600人の学生が朝鮮青年独立団の名のもとに独立宣言書などを採択。この際には約60人が検挙されている。この後、日本国内の独立運動派の活動は形を潜めていったようだが、朝鮮人に対する不信が官警の中で後を引いていた可能性は否定できない。

デマ拡散を気をつけるべきはメディア

というわけで、震災後100年経ってから、朝鮮人虐殺だけを不必要に膨らませようとしている勢力がいることに辟易とする昨今だ。

100年前のことを教訓に今の防災体制を見直すことは寧ろ推奨したいのだが、どうにも、日韓関係の新たなカードを作り出そうとしている雰囲気が強い気がするのだ。

陰謀論には与しない積もりだが、当時の社会情勢を考えると、不穏当な活動をしている方々が情報操作していた可能性も否定できない。特に、政府や官警を貶めようとしていた勢力がいたことも否定できないだけに（実際にそうした事例はこの時代に幾つか事件として知られている）、デマの出所や情報の拡散に関する情報の流れというのは、見直すべきだろう。

「朝鮮人が暴動」 流言は当時の新聞にも…災害時のデマ拡散、SNSでリスク増大　関東大震災から100年

2023/08/31 18:01

１９２３年の関東大震災では「朝鮮人が暴動を起こす」などの流言が広がり、朝鮮半島出身者らが虐殺された。流言やデマが被災地を混乱に陥れる光景は、今も変わらない。２０１６年の熊本地震では誤情報が交流サイト（ＳＮＳ）で瞬く間に拡散。専門家は「信頼できる発信元を見極める習慣を身に付けて」と呼びかける。

～～略～～

虚偽情報は事実と比べて６倍の速さでＳＮＳ上を拡散し、拡散範囲は１００倍になるという研究結果もある。「人工知能の発達で、偽の画像か被災地の画像か判別しづらくなることも考えられる。報道機関の責任は今も重く、デマを打ち消す役割も担ってほしい」と小笠原教授。

南日本新聞より

南日本新聞に意外に良い記事が出ていて、SNSを敵視する一方で報道機関の責任について言及している。

実際に、武漢ウイルス感染症感染拡大期にトイレットペーパーが消えた事件では、SNSの影響もあったようだが、テレビや新聞などのメディアによる煽りもかなり影響したのだと思う。

関東大震災後に朝鮮人虐殺が発生したのだとすれば、その被害拡大に寄与したのは間違いなく新聞であったはずだ。警察や軍隊が朝鮮人を虐殺したみたいな記載があるが、実際には止める側に回ったのも警察や軍隊であった。大川常吉のような後世に名を残す人物もいただけに、その辺りは認識を改めておきたい。

現代でも、メディアが流す情報に「注意して読まねばならない」という実態は大きく代わっていないね。

追記

韓国メディアの動きについて、少し追記しておきたい。震災後100年の今年、随分韓国内のメディアがこの件を盛り上げている。

【社説】関東虐殺１００年、韓日の新しい時代にふさわしい歴史直視が必要

2023.09.01 09:55

ちょうど１００年前の１９２３年９月１日に発生した関東大震災の渦中に在日同胞が大規模に虐殺された。６０００人以上と推定される悲劇的虐殺事件が今日で１００周年を迎えたというのに、日本は政府次元で今まで事実を公式に認めておらず極めて遺憾だ。在日同胞の各種証言だけでなく良心的な日本人の告白などに基づいて行われたさまざまな研究によると、関東虐殺事件はマグニチュード（Ｍ）７．９の大震災の悲劇の渦中に起きた。一瞬にして１０万人以上が死亡し、約２００万人が住んでいた家を失い、深刻な社会混乱に陥ると日本政府は戒厳令まで発動した。

中央日報より

流石に、「何人被害に遭った」というような情報は載せていないが、「朝鮮人が暴徒と化している」というのが本当にデマだったのか？に関しては疑念を挟んでいない。

虐殺は歴史的事実なのだ、というスタンスらしいね。

尹錫悦大統領は三一節と８・１５光復節に日本をパートナーと認定するという前向きメッセージを発信した。岸田文雄首相の呼応で韓日関係は正常化軌道に早く復帰している。だが、善隣友好関係がさらに堅実に根を下ろすには歴史問題などに対する日本政府の誠意ある態度変化が必要だ。韓国外交部は関東虐殺に対して日本政府の歴史認定と謝罪を堂々と要求しなければならない。日本も１００周年を機に歴史を直視する勇気ある姿勢を示さなくてはならない。それでこそ両国は真の未来パートナーとして共に前進することができる。

中央日報より

いや、オマエの国もしっかり歴史を直視した方が良いぞ。

追記２

Wikipediaを読んでいたのだが、当時の証言にこんなのがあったので紹介しておこう。

「あの頃は『不逞鮮人』と言う言い方をされていましてね。共産主義者のことですね。私は福島県で経験していましたから分かっていますが『不逞鮮人』というのは共産主義を主張とし行動する朝鮮人をそのように呼称していたのであります。なかでも過激な主張や行動をするものには尾行をつけたこともあります。それらが、朝鮮人で横浜にいたものが、多少乱暴する傾向があったので、こういう混乱時にはまず『不逞鮮人』が危ないという考えを、誰かが言いだしたのが、朝鮮人襲撃の発端だったのだろうと思います」 —— 神奈川県警察部高等課長・西坂勝人の証言。

神奈川県史編集委員会編 『神奈川県史研究』、1971年11月

「今、鶴見の町に三百人ほどの朝鮮人が襲ってきた。町の青年団から頼まれて六郷方面に派遣中という軍隊に急報に来たのだが、警察にも知らせに来た。救援を望んでいるので、至急出動してください」 —— 川崎警察署を2人の男が訪れ、そう言い去った。2人の男のうち1人は橘樹郡潮田町造船所社宅に住む男であることが分かり、この男は逮捕された。

吉村昭 『関東大震災』 文藝春秋、1973年

色々検証する必要がありそうだよ。

追記３

ただ、新しい記録が見つかるかというと、なかなか難しそうではある。

関東大震災の朝鮮人虐殺、松野官房長官「事実関係把握する記録見当たらない」

2023/08/31 09:05

松野官房長官は３０日の記者会見で、関東大震災の発生時にデマによって起きた朝鮮人虐殺について「政府として調査した限り、事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と述べた。その上で、「特定の民族や国籍の人々を排斥する不当な差別的言動、暴力や犯罪は許されない」と語り、政府としてＳＮＳの発信などを通じ、外国人差別解消に向けた啓発活動に取り組んでいると強調した。

讀賣新聞より

本当に政府に資料がないかどうかは不明だが、「事実関係を把握することの出来る記録が見当たらない」というのは、事実かどうか不明な情報ならばあるという意味にもとれる。

そうすると、少なくとも政府としては情報の信憑性を疑っているということを意味するわけだ。確かに、得られる情報に関する正確性を裏付ける資料となると、なかなか難しい。それが現代でもそうだが、100年前のことともなれば、なおさらである。