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韓国アパートの地下駐車場崩落事件は更に話が拡大

ビルディング
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韓国における無梁版構造は、梁も鉄筋も使わないという意味らしい

LHアパート6軒中1軒「鉄筋抜け」… 「無梁版問題ではない」「不良文化」

入力2023. 8. 1. 08:48修正2023. 8. 1. 09:18

韓国土地住宅公社(LH)が発注した無梁版構造アパート91個のうち15ヶ所で鉄筋が欠落した事実が確認された。専門家たちは、設計上のエラーが発生しやすいシステムだと指摘しながら、検証手続きを強化しなければならないという意見を出した。

Daumより

15/91はだいたい1/66ぶんの1か。なかなかの確率で骨抜きアパートがあったようなんだけど、記事を読むともっと衝撃の事実が。

「全数検査だ!」って、それ、全数ですか?

1カ所も補強鉄筋がない

……。

国土交通部とLHは去る31日、政府ソウル庁舎でブリーフィングを開き、鉄筋抜けアパート名簿を公開した。このうち柱154個のうち、たった1箇所も補強鉄筋が設置されないなど深刻な水準の団地もあることが分かった。

Daumより

徹底しているな?!

154本柱を使って、そのうちの1本も補強鉄筋が設置されていなかった団地があったらしい。

良く無事だね?

この話はこちらの2つの記事に関係している。

実は、韓国のアパートの地下駐車場が突如崩れて大騒ぎになった。で、調べてみたら地下駐車場の構造が問題だったという話。無梁版構造は、日本でも採用が検討され始めている比較的最近の技術。といっても、古代建築にも使われている程度には珍しくないんだけどね。

日本で採用が検討されているというのは、「耐震性に難あり」とされる構造だからである。

さておき、韓国では「スペース効率が良い」とか「材料費が節約できる」とかで人気のある工法のようだ。

だけど、柱に鉄筋がないというのはある意味衝撃だな。

ここで言う「柱に鉄筋が無い」というのは、おそらく鉄筋が入っていなかったという意味では無い。

柱構造

以前説明したRC造の柱の構造だが、流石に主筋は入っているだろうし、剪断補強筋のスパンが広い問題は見受けられたけれども、それも入ってはいると思う。

では何が無いのか?といえば、床と柱とを繋ぐ補強鉄筋のことだ。これについては後述する。

しかし、それにしたって全部入っていないというのは衝撃的な話である。

安全な工法

そして、ソレよりももっと驚きなのは、専門家(自称)達のコメントである。

専門家らは無梁版工法自体には問題はないと説明した。無梁板構造が鉄筋抜けに特に脆弱であっても、鉄筋が設置さえすれば安全な工法と口をそろえた。

匿名を求めたある専門家は「部分的に問題があるからといって源泉的に取り除くよりは問題を解決するのが正しい」とし「無梁版構造で設計や施工がきちんとなるように制度を改善する方向が正しい」と伝えた。

Daumより

無梁版工法をどのような物か説明するのでも無し、「安全だ!理論上は」ということらしい。

で、本来なら安全なはずの工法が、鉄筋抜けによって安全でないことになってしまった案件は、入居が終わっているところもあるようだ。

15の団地のうち竣工した団地は9カ所、工事が進行中の団地は6カ所。すでに入居が完了した団地は5カ所、入居が進行中中の団地は3カ所、未入居団地は7カ所です。

Money1さまより

いやはや。

原因は何だ?!

で、原因は一体?という話なんだけど、これは記事に言及されているようで、言及されていない。

  • 構造設計過程でアウトソーシングが連鎖的に続く構造
  • 構造技術士が自分が直接構造設計をせずにキャリアの低い職員に仕事を任せる
  • 構造計算が終わった後には図面を描く過程も外部にアウトソーシングする
  • 現場で設計どおり施工が進まない
  • 設計が施工を正しく反映していない場合もある
  • 監理も自分もよく分からない領域である構造上の問題について、現場の立場を尊重する方向で判断する

日本の現場でも起こりがちなトラブルではあるが、だからといって154/154の鉄筋抜けが発生するという原因にはなり得ないだろう。

いや、寧ろ全部鉄筋が抜けていたら分からないかな?それよりも、126/302とか75/90とか、結構な割合で鉄筋抜けの柱がある方が問題が大きいのかも知れない。

……いやいや、何言ってるの。そもそも、柱の構造なんて、現場毎に大きく違うわけがない。施工している段階で「こんなの絶対ダメだろう」と、気づかない方がおかしい。もちろん、設計している段階でもそうだ。

欠陥構造

こんな状態になっても「正常だ」と判断してしまう辺り、韓国建築業界の「文化」が問題だという、辺りは的を射ているのかも知れない。

ああ、ここでも分かるか。縦に入っている鉄筋が主筋で、ギリギリ剪断補強筋も入っているようには見受けられる。

ただ、これが床スラブと柱との接続部分だとすると、床スラブと結合する補強鉄筋はここでも見当たらない。

梁がないが、室内を広く活用できる無梁板構造の安全性は、補強鉄筋などで十分に確保できるとし、不良建築文化を改善しなければならないという意見だ。

Daumより

うんうん、補強鉄筋があれば良かったのにね。

しかし、それにしても「不良建築文化」って、どんな文化なんだよ。

調査はLH発注の地下駐車場

この話、日本語版でも記事が出ていて、よりニュアンスが正確に分かるのだが、そこで衝撃の内容が。どれだけ衝撃を受けるのか……。

マンションの図面も読めない「建設大国」韓国

記事入力 : 2023/08/01 14:00

重要な鉄筋構造(前端補強筋)が欠落していることが判明した韓国土地住宅公社(LH)のマンション15団地で地下駐車場の中には柱154本全てに鉄筋が使われていないケースがあることが7月31日までに明らかになった。

国土交通部は今年4月、仁川市の黔丹マンション地下駐車場崩壊事故を受け、LHが発注し、2017年から22年にかけて着工した無梁版構造(フラットスラブ構造)のマンション団地91カ所の地下駐車場に対する全数調査を実施した。前日に15カ所で不良を確認した事実を公表したのに続き、マンション名、設計・施工・監理業者、不良施工の規模と原因を明らかにした。

朝鮮日報より

韓国語版とほぼ同じ内容なのはソースが同じだからなのだが、細部で少々異なる部分がある。

LHが発注し、2017年から22年にかけて着工した無梁版構造(フラットスラブ構造)のマンション団地91カ所の地下駐車場に対する全数調査を実施した。」

うんうん、全数検査ね。

……?!

地下駐車場だけ?!

本気なの?

それも、LHが発注した物だけというのも不安を助長する。

無梁版構造が問題なのではない

尹錫悦政権は全数検査を指示

そもそも、韓国における不良建築は「文化」であるとすれば、地下駐車場だけが心配だという話ではないだろう。

深刻な状況が明らかになると、尹錫悦大統領は同日、首席秘書官会議でマンション地下駐車場の不良工事を全数調査し、直ちに安全措置に万全を期すよう指示した。国土交通部は無梁版構造の採用が本格化した17年以降に着工された全国の民間マンション団地293カ所に対する全数調査を行うことを決めた。無梁版構造は地下駐車場の建設時に採用される。

朝鮮日報より

何か、全国の民間マンション団地全てを調査する積もりのようだが、今のところ調査した91件のうち15件で問題が把握され、その半数程度はかなり深刻な状況だと分かっている。

ユンユンは頑張って調査し、補強工事をする積もりらしい。

鉄筋欠落は設計、施工、監理など基本的な過程で発生したことが分かった。これら団地の施工業者リストにはDL建設(旧大林建設)、テボ建設、東門建設、三煥企業、梨樹建設など知名度が高い建設会社が多数含まれている。国土交通部とLHは問題のマンションに対し、柱の追加設置など補強工事を行うと表明したが、入居者が「どうやって安全性を保証するのか」と反発し、波紋が広がっている。

朝鮮日報より

だが……、本来、無梁版構造で問題となるのは、補強鉄筋の有無だけではない。ラーメン構造を採用しないことで、パンチング破壊が懸念されることである。

構造の理解が足りていない?

ちょっと構造的な説明をしておこう。絵になっている方が分かり易いかな。

img

日本でマンションを作るのに良く用いられるのは、居住スペースは壁式構造で、駐車場はラーメン構造だ。

ラーメン構造は、柱と梁でスケルトンを作って、そこに壁や床を張る構造となる。

イラスト

この方が分かり易いかな。

ところが、無梁版構造はこの梁を無くすことで空間の広がりを出すことと、鋼材の量を減らすことが出来る。

ところが、本来、柱と梁が剛体として接合されなければならないところ、梁を省略するので、床材と柱との接合が大切になる。

img

そうすると、接合部分でパンチング破壊と呼ばれる破壊が発生しやすくなるので、これを防ぐために韓国では柱と床材の間に補強鉄筋を入れて接合するようなやり方をしているらしい。

専門家は、フラットスラブ構造の地下駐車場は設計と施工、管理監督など、建築過程全般に対する徹底した管理・監督が再整備されなければならないと指摘する。2017年からアパート地下駐車場に用いられはじめたフラットスラブ構造は、上部の重さを支える梁がなく、柱がスラブ(コンクリート天井)を直接支持する構造だ。柱と接する部分に荷重が集中するため、スラブが破壊されるのを防ぐために柱の周りのスラブにせん断補強筋を入れる精密な設計・施工が重要になる。

ハンギョレより

どうも、これ(柱の周りの床スラブに柱と結合するようなせん断補強筋を入れる)がやられていないという話になる。

韓国政府は、そもそも設計業界に「無梁版構造への理解が足りていない」ので、補強鉄筋が抜けてしまったということにしたいらしいが、僕はそうではないと思う。

配筋の不思議

そもそも、倒壊部分の様子を見ると、配筋の結束も不十分のように見受けられる。

天井崩落

これが天井が抜け落ちた現場の天井なんだけど、縦に配置される鉄筋と横に配置される鉄筋の交差部分、通常は結束されるハズなんだが。

結束線を引っ掛ける。撮影・とも丸*

こんな感じの結束だ。

これをやらないと、コンクリートを流し込んだ時に鉄筋が動いてしまうような事になる。そうすると構造強度に影響するんだが。

いやまさかね。

手抜きは本当に無梁版構造だけなのか

そして、そもそも一番心配なのは、果たして無梁版構造だけが問題なのか?という点だ。

シャビコンを使うとかいう問題もあって、「不良建築文化」そのものが、今回のような惨事を招いたという風に理解すれば、おそらくは無梁版構造が問題と言うより、無梁版構造に現れただけで、他の場所にもそこかしこに手抜きが見られる可能性が高い。

上では「構造の無理解からくる施工不良」というような説明もしているが、意図的に鉄筋の量を減らしているように思える。

そもそも、無梁版構造の採用はラーメン構造よりも使用する鉄鋼の量を減らせるというメリットがあり、その他に構造的にすっきり見せたり、工数を減らしたりというようなコストダウンに繋がる良い点がある。

一方で、それと引き替えに鉄筋同士の結びつきをしっかりと施工する必要がある(それなりの技術を要求される)し、配筋の編み込みなど要所での結合の強化を必要とする。

コストダウンや工数削減の方に注目し過ぎた結果がこれだとすると、全体的に問題を抱えている可能性は高い。つまり、これに限らず色々なトラブルを抱えている可能性があることが示唆される。

追記

本編で随分と色々説明したけれど、中央日報でも似たような話をしていた。

ただフラットスラブ構造そのものの安全に対し過度に懸念する必要はないというのが専門家らの説明だ。フラットスラブ構造は梁がなく柱の上にスラブをのせる方式だ。梁を作らなくても良いため空間活用に有利で、施工費、工事期間削減などの長所がある。ある建設会社関係者は「フラットスラブ工法はかなり以前から長所が立証され広く使われる工法。特に梁がなく高さがある車両の出入りが可能なことから2017年以降韓国のマンション地下駐車場に多く導入された」と説明した。

だがまともに設計・施工しない場合には崩落するリスクも大きい。柱と接する部位に荷重が集中すればスラブに穴があき崩落するパンチング現象が現れる恐れがあり、これを補強するためのせん断補強筋などに対する徹底した施工が必須だ。建国(コングク)大学建築工学科のアン・ヒョンジュン教授は「工法そのものの問題よりは、設計・施工・監理段階でまともに検証することが重要だ」と話す。彼は「フラットスラブ構造に対する徹底した理解も必要だが、今回の鉄筋不足と崩落事故は現場労働者に対する建設会社の教育が不足したものとみられ、コミュニケーションが難しい外国人労働者などが鉄筋設置を担当した可能性もある」と話した。

中央日報より

あー、韓国には最も不向きな施工方法ってことじゃないかい?

追記2

むしろ韓国向きの工法だった?!

1995年三豊デパート崩壊事故当時と同じ工法…手抜き工事の慣行もそのままだった

記事入力 : 2023/08/02 11:34

韓国土地住宅公社(LH)が建設したマンションの「鉄筋欠落問題」を受け、韓国政府は同じ工法(フラットスラブ工法)で建設された全国の民間マンション300カ所以上の地下駐車場に対し全数調査を行う方針を示し波紋が広がっている。

~~略~~

フラットスラブ工法は1995年に不法な増築が原因で崩落した三豊デパートでも採用されていたが、この事実が知られるようになると、韓国国内ではごく少数の住商複合施設を除いてほぼ採用されなくなった。その後2010年代後半に建設原価の削減が重視され、地下駐車場を中心に再び採用が増え始めた。各階の騒音が伝わりにくいことから一部のマンションでも採用されている。

朝鮮日報より

伝統的な手法だったようだ。

というか、三豊デパートの件、記事にしていないけれども、この話は工法が問題とかそういうレベルの問題じゃ無かったんだけどね。

コメント

  1. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。
    ・故あずまひでお氏の「失踪日記」で、失踪中に身を寄せていた工務店で、下地コンクリ打つのに鉄筋をテキトーに……というくだりはありましたね。まあ、倉庫か何かの床だったと記憶してますが……零細工務店レベルだと、本邦でもその程度はありがちなのかと。
    ・本邦でも、物流倉庫とかで、無梁版構造がスペース効率がいい!的なサイトを散見しますが、大丈夫なんだろうとは思いますが、感情的には心配ではあります。
    ・で、お隣ですが……
    >鉄筋が設置さえすれば安全な工法
    理屈だけなら、原発だって間違い無く、ある意味最も安全な建築物なんですが。
    >配筋の結束も不十分
    この写真みるにつけ、コンクリが鉄筋にきちんと絡みついてない、コンクリの質がどうなんだろう?という疑問が生じます。
    >不良建築文化
    要するに、どこまで「ポッケナイナイ」出来るかの黒髭危機一髪が常態化しているって事ですよね。

    あなおそろしや。「約束を守る」「決まり事を守る」文化がない事を声高に正当化する国とは、付き合ってられませんよね……

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。
      まあ、工務店レベルだと色々と問題ありなところもあるんでしょうね。
      シャビコン問題は当然ながら、結束不足なんて話もありますよ。だからこそ、施主も含めて現場はしっかり見ようねという話もありますしね。

      ただ、「文化」と言われてしまうと、もはや「そうですか」としか。恐ろしい話であります。

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