苦笑を禁じ得ない。こういうのを、ほら、何ていうんだっけ?そうそう、公開処刑というヤツだ。
<社説>NATO拡大 軍事対立激化避けねば
2023年7月14日 07時01分
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は北欧スウェーデンの加盟を認めて三十二カ国に拡大する一方、ウクライナの加盟を巡り時期などの道筋を示さなかった。
東京新聞より
冒頭に紹介した画像は、Twitterでチェックを受けたもの。下の引用記事がその社説である。見事に赤が入れられている。僕も東京新聞の記事をネタにすることはあるが、まあ、散々だな。
事実を踏まえないアジビラ
Twitterでファクトチェック
慶応義塾大学の准教授のtweetらしい。まあ、気持ちは分かる。
このブログでは、一応ソース付きでツッコミを入れておこう。あ、結論は同じなので、鶴岡氏のTweetで満足できた方は、以下の記事は特に読む価値はない。
一行目から事実と異なる
で、赤が入っている一行目だが……。このブログでも、間違いだと思われる部分には、わかりやすいように赤くしておこうかな。問題のある部分は青くしておこう。
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は北欧スウェーデンの加盟を認めて三十二カ国に拡大する一方、ウクライナの加盟を巡り時期などの道筋を示さなかった。
東京新聞より
実に哀れだな。デスクでのチェックすら受けないのかよ。一行に複数の間違いが有るというのはかなり拙いのではないだろうか。
NATO参加、批准は10月以降 スウェーデンをなおけん制―トルコ大統領
023年07月13日05時31分
トルコのエルドアン大統領は12日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれたリトアニアのビリニュスで記者会見し、スウェーデンのNATO参加を承認する加盟議定書の批准について、10月以降になるとの見通しを示した。
時事通信より
NATOの首脳会議は、スウェーデンの加盟を認めてはいない。NATOへの新規加盟は各国の承認を必要としていて、スウェーデンの加盟に関して最後まで反対していたトルコが、首脳会議で「良いけど議会にかけてからね」と言ったところだ。
エルドアン氏は「批准の権限はトルコ国会にある」と指摘し、国会議員らは経緯を注意深く観察していると強調。
時事通信より
トルコが気にしているのは、スウェーデン国内にいるクルド人武装勢力への支援者たちの処遇である。左派王国スウェーデンで、クルド人の亡命者を受け容れた時代があった。そして、スウェーデン国内で民族教育を許可しているので。まあ、トルコとしては面白くないわな。
「あまりに酷い社説」とはよくぞ言ったものである。
NATO首脳会議が閉幕 ウクライナ加盟見通し示さず G7長期支援へ
2023年7月13日 13時07分
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議は12日閉幕し、最大の焦点となっていたウクライナの加盟について、具体的な見通しは示しませんでした。一方で、G7の各国が加盟が実現するまでの間、ウクライナを守るため長期的な支援を行う方針を表明しました。
NHKニュースより
NATOがウクライナの加盟に消極的なのは事実だが、そもそもウクライナが加盟するためには紛争の終結が不可欠である。その事実をすっ飛ばして「道筋を示さなかった」は可笑しいだろう。ギャグか?
いきなりプロパガンダ
そして二行目だ。
ロシアの暴挙は許されないが、ウクライナへの武器供与や加盟国の軍備増強により軍事対立をこれ以上、激化させてはならない。
東京新聞より
鶴岡氏は「!!」と書いているが、まさに、馬鹿につける薬はない感じだと、僕も二の句が継げない。前段、「ロシアの暴挙は許されないが」は、まあそうなんだろうけど、後段はナニコレ。
侵略されたウクライナに抵抗するなとでも言いたいのだろうか。頭おかしいんじゃないか?ああ、おかしいんですね。
プーチン氏の代弁
そして三行目。
NATO拡大に反対してきたロシアのプーチン大統領には皮肉な展開ではなかろうか。
東京新聞より
確かにプーチン氏はNATO拡大に批判的であったが、結果的に拡大しただけで、その実、ロシアの権威の失墜である。そもそも「NATO拡大に反対」は侵略者側の理論ではないか。
間違いを重ねる
そして次の節。
四月に加盟が正式に認められたフィンランドに続き、スウェーデンの加盟が認められた。人権批判への反発から反対していたトルコとハンガリーが容認に転じたためだ。バイデン米大統領がトルコのエルドアン大統領の求めに応じ、F16戦闘機を売却する意向を伝えたためともみられている。
東京新聞より
確かに、フィンランドがNATOに加盟したのは4月のことである。
フィンランド、NATOに加盟、今後はスウェーデンの早期加盟が目標に
2023年04月05日
フィンランド政府は4月4日、NATOに加盟したことを発表した。
JETROより
ところが、再び「スウェーデンの加盟が認められた」などと書く始末である。尤も、フィンランドは「加盟が正式に認められた」という記載ぶりになっているので、スウェーデンの加盟が認められたというのは事実ではないにせよ、間違いとまでは言えない。
だが、その次の文章は明確な間違いだ。「人権批判への反発から反対していたトルコ」の部分は前述した通り、トルコが反対していた理由はクルド人系テロリストの擁護をしている疑いがスウェーデンにあるからだ。人権批判への反発などではない。
スウェーデン、NATOの32番目の加盟国へ…難色示したトルコが同意に転じる
2023/07/11 11:33
11日からリトアニアの首都ビリニュスで開かれる北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に先立ち、スウェーデンのウルフ・クリステション首相とトルコのタイップ・エルドアン大統領が10日、ビリニュスで会談し、トルコがスウェーデンのNATO加盟手続きを進めることに同意した。加盟に難色を示していたトルコが同意に転じたことで、スウェーデンは32番目の加盟国になる見通しとなった。
~~略~~
ハンガリーは今月、加盟を容認する意向を示したが、トルコはスウェーデンに亡命したクルド人武装勢力らの身柄引き渡しなどを求め、加盟に難色を示していた。スウェーデンでイスラム教の聖典コーランに火をつけるデモが行われたことにも反発していた。
~~略~~
ロイター通信によると、エルドアン氏は会談前、「トルコのEU入りの道を開けば、我々もスウェーデンに道を開く」と述べていた。切望するEU加盟への支持をスウェーデンから引き出したことで、トルコが態度を軟化させた可能性がある。
読売新聞より
讀賣新聞なども報じているが、ハンガリーもトルコも当初はスウェーデンのNATO加盟に難色を示していた。トルコは記事にあるようにクルド人武装勢力関連のトラブルが主な原因である。
なお、トルコが意見を転じた理由について、前の記事では僕もF-16のことを指摘はしたが、アレは副次的な理由であって、本題は別にある。クルド人武装勢力関連のことで反対していたのだから、当然そこが解決されなければならない。
スウェーデンもトルコの求めに応じて厳しい反テロ法の制定を進めていると聞く。が、まだ完了していない。
スウェーデンNATO加盟、トルコ議会批准は10月以降=エルドアン大統領
2023年7月13日3:33 午前
トルコのエルドアン大統領は12日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、トルコ議会が10月に再開された後に批准案を議会に提出すると述べた。同時に、NATO加盟の見返りとしてスウェーデンがテロ対策に対し何らかの措置を取ることを期待しているとも述べた。
ロイターより
おそらく、トルコはスウェーデン議会がテロ対策に関する何らかの対応が取られなかった場合に、議会批准を引き伸ばすか、あるいは批准しないことが考えられる。つまり、スウェーデンのNATO加盟は、未だ確定ではないのだ。
一方のハンガリーはロシアとの結び付きが強く、議会承認に時間がかかっていた。こちらの事情はトルコとは全く違うんだけれど、ハンガリーはソ連に支配された社会主義国の時代があったことを語ると長くなりそうなので、割愛したい。
フィンランドもスウェーデンも中立ではなかった
さて、次だ。
ロシアと約千三百キロの国境を接し、第二次世界大戦中、旧ソ連との戦争で敗れたフィンランドと、隣国スウェーデンは戦後、ロシアとの対立を避けてNATOに加盟せず、中立を保ってきた。
東京新聞より
うーん、ここは鶴岡氏の指摘の意味が通りにくいが、おそらく「戦後」と書いてあるので、1991年ソ連崩壊まではソ連との対立を避けていたという意味だろう。
そして、その後、ロシアとの対立を避けた事実は有るのだが、中立かどうかはかなり怪しい。むしろ、親露派政策を展開してきたというべきだろう。
カリーニングラード
なぜ、各節に必ず間違いを埋め込むのか。次!
しかし、ロシアのウクライナ侵攻に危機感を強めた両国は方針を転換。両国加盟でバルト海はNATO加盟国=地図=に囲まれ、ロシアの飛び地カリーニングラードは孤立する形になった。NATOとロシアの緩衝地帯はなくなり、直接向き合うことになる。
東京新聞より
ハイ嘘ー!
カリーニングラードが孤立しているのは以前からである。
カリーニングラード及びカリーニングラード州は、リトアニアとポーランドに挟まれたロシアの飛び地である。リトアニアは2004年にNATOに加盟。ポーランドは1999年にNATOに加盟している。両国加盟でなにか変化があったか?というと、無い。
いや、厳密に言うとカリーニングラード州はバルト海に面しているので、対岸のスウェーデンのNATO加盟が影響しないとは断言できない。が、海を隔てた対岸が大きく影響するかと言えば、さほど影響はない。
文脈から理解すれば、バルト海の両岸がNATO加盟国に埋め尽くされたから、カリーニングラードが孤立したと読めるが、そもそも陸地では前から孤立しているし、バルト海を使ってカリーニングラードにアクセスする状態は変わらない。対岸のスウェーデンがNATOに加盟したことが、カリーニングラードの孤立に繋がるというロジックはおかしいだろう。
自動参戦義務
はい次。
米欧の軍事同盟、NATOは加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を発動することができる、としている。
東京新聞より
お、この行はあっているのか?と思ったが間違いだね。
NATOとは 米欧30カ国加盟「攻撃受けたら反撃」明記
2022年3月15日 2:00
▼NATO North Atlantic Treaty Organizationの頭文字を取った略語。第2次世界大戦後の東西対立にともない、米国や欧州諸国が中心となって1949年に結成した。本部はベルギーのブリュッセルにあり、現在30カ国が加盟している。元ノルウェー首相のストルテンベルグ氏が事務総長を務める。
加盟国が武力攻撃を受けた場合、全加盟国に対する攻撃とみなして兵力使用を含む反撃をする集団的自衛権を北大西洋条約の第5条に明記している。2001年の米同時テロ発生時に初めて同条を発動した。集団防衛、危機管理、協調的安全保障を中核的任務に据える。
日本経済新聞より
むしろ、集団安全保障こそがNATOの中核的任務である。加盟国が武力攻撃を受ければ、全加盟国に対する攻撃とみなして反撃するというのが、NATOのキモである。
この点は、ツッコミを入れた鶴岡氏が詳しく解説している。
紛争中の国は加盟ができない
それ故に、ウクライナはNATOに加盟ができない。
ロシアと戦闘中のウクライナの加盟を認めるとNATOも戦争に巻き込まれる恐れがある。踏みとどまったのは妥当な判断だ。
東京新聞より
「巻き込まれる」ではなくて、戦争の当事者になるという意味なので、当然、現在進行系で戦争をやっている国が加盟できる構成になっていないのである。
鶴岡氏も「戦争中に入れる可能性は最初からゼロ」と断じている。それでも、情勢に鑑みてなんとかウクライナを助けたいとして集まったのが今回のNATO会議なのだから、最初から趣旨が違う。
ロシアの侵攻後、NATOは自らを民主主義陣営、ロシアや中国を権威主義陣営と色分けして対決構図を際立たせている。NATO加盟国はウクライナに戦車などの武器を次々と供与し、戦闘は激化する一方だ。
東京新聞より
ここも酷い。そもそもNATOは対ソ連軍事同盟として作り上げられた組織である。だから、ソ連の後継者として名乗りを上げたロシアとは最初から対決姿勢があった。それ故にロシアはNATO加盟国が増えるのを嫌がるのである。
別に「色分け」「対立構図を際立たせている」わけではない。最初からだ。
そして、戦争を始めたのはロシアだし、ウクライナは徹底的に防衛戦争を行っている。NATO加盟国からの武器供与は、ウクライナを救うためであって戦争を継続するためではないのである。ウクライナへの武器供与を止めれば、その時点でウクライナはロシアに占領されてしまうことが決定づけられる。
悪いのはロシアなのだ。
それがわからない東京新聞の記者は相当な阿呆だな。
ロシアが撤退すれば戦争は終わる
そもそもこの戦争を始めたのはロシアなのだから、ロシアが撤退すれば戦争は終わる。
戦闘開始から一年半近く。多くの人が傷つき、命を失った。軍事的対応ではなく、外交で戦争終結への道筋を探る局面ではないか。
東京新聞より
だから、ロシアに「戦争をやめろ」と言うべきで、NATOやウクライナに「外交で戦争終結への道筋を探る」などと要求することこそが間違っている。
アジビラの社説ごときにツッコミを入れることこそが間違っているのだが、それにしたって酷い。でも、救いがあるとしたら、専門家から直接指導がなされることで、ネットに何が間違っているかが拡散されることだろう。
それにしたって、徹頭徹尾誤りを入れ込んでくる東京新聞には恐れ入るな。
何故こんなことになるのか
NATOの原則を知らない?
東京新聞が社説でなぜこんなことを書いてしまうのか?という事を少し考えてみたが、恐らくはNATOの条文を読んでいないのだろう。
前文
この条約の締約国は、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及び政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認する。
締約国は、民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配の上に築かれたその国民の自由、共同の遺産及び文明を擁護する決意を有する。
締約国は、北大西洋地域における安定及び福祉の助長に努力する。
締約国は、集団的防衛並びに平和及び安全の維持のためにその努力を結集する決意を有する。
よつて、締約国は、この北大西洋条約を協定する。
データベースより
これが前文で、地域の平和と安全を維持することと集団的防衛に努力することを決意した、シンプルなものになっている。
第一条
締約国は国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて、国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びに、それぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、国際連合の目的と両立しないいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
データベースより
したがって、基本は国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように、平和的手段によって解決することになっているが、ひとたび攻撃を受けた場合にはこんな規定になっている。
第五条
締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
データベースより
一カ国でも他国から攻撃を受ければ、全締約国に対する武力攻撃とみなし、集団的自衛権を行使しろという事になっている。
実例は2度
そして、過去に5条に基づく「集団的自衛権の行使」が行われたのは1度きり。アメリカが2001年に受けた同時多発テロに対処した時だけだ。
その後にもう1例、発令が検討された事案がある。
それが、ウクライナから発射された対空ミサイルがポーランドに着弾した事例だ。
という訳で、東京新聞の社説を書いた記者が、北大西洋条約を読み、過去のこうした実例を知っていれば、まさかあんな内容になる筈もない。一行ごとに間違いが入るくらいに酷い社説は、恐らく何かの間違いか、あるいは読者をだまそうとして出されたものである。
まさか「新聞」を名乗る会社が、そのようなお粗末なことをするはずがないので、新聞社ではないか、間違って投稿されたかのいずれかに違いない。
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