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【アルメニア】ロシア離れが加速する旧ソ連加盟地域

東欧
この記事は約10分で読めます。

地味な記事だが、ロシアの戦況に関わる話として触れておきたい。

アルメニア首相 ウクライナ侵攻反対の立場明言 ロシア離れ鮮明

2024年2月20日 6時35分

旧ソビエトのアルメニアのパシニャン首相は、18日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関して「アルメニアはロシアの同盟国ではない」と述べ、ウクライナ侵攻に反対する立場を明言し、ロシア離れの動きをいっそう鮮明にしています。

NHKニュースより

ニュースとしてはアルメニア首相が「アルメニアはロシアの同盟国じゃない」「ウクライナ侵攻に反対」と、立場を明らかにしたというだけの記事である。

ソ連時代の犠牲国家

ナゴルノ・カラバフの悲劇

ただ、過去の事情も踏まえて考えると、新たな紛争の可能性も踏まえてなかなか興味深い結論が導けるのだと思う。

過去に触れたニュースとして、アルメニアとアゼルバイジャンの係争事実がある。

https://annex2.site/wp-content/uploads/2023/10/nagoruno-karabahu.jpg

アルメニアとアゼルバイジャンは隣接する国家であり、両国ともソビエト連邦加盟国家である。

ただ、ソ連であった当時もあまり幸せな扱いはされていなかった。ソ連の都合によって、ナゴルノ・カラバフやナヒチュワン自治共和国などの飛び地が意図的に作られたのである。

その狙いは、アルメニアとアゼルバイジャンの両国に係争地を意図的に設ける事で、両国の争いを継続させ、ソ連が仲裁する関係を続けることだとされている。

アルメニア人とアゼルバイジャン人を争わせ続けることがソ連の利益であり、ロシア連邦時代になってもその構図が続いていたということである。

なお、アルメニア人が最も多く暮らしているのはアルメニアであるが、アゼルバイジャン人が最も多く暮らしているのはイランである。民族同士の紛争という文脈で見ると、中東戦争にもかなり影響のありそうな話ではあるし、アルメニア人は第一次世界大戦中にオスマン帝国によって100万人以上虐殺された過去を持っているので、その辺りの恨み辛みも紛争に関わりそうではある。

ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンに帰属

で、上で引用した記事で示した通りに、飛び地であったナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの領地となることとなった。

軍事的には圧倒的にアゼルバイジャンの方がアルメニアよりも強く、アルメニアはロシアの支援を受けていたのだが、ロシアがウクライナ侵攻を行ったこともあって、軍事的支援が受けられなくなった。

もうちょっと詳しく話をすると、アルツァフ共和国(別名ナゴルノ・カラバフ共和国)などを登場させなければならず、ややこしい話になってしまうのでその辺りは割愛しておく。

これ以外にも、アルメニア首相に民主化を進めるパシニャン氏が就任したことも関係していると言えるだろう。

アルメニアのパシニャン首相は、18日、安全保障の国際会議のため訪問していたドイツで行われた会合で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「アルメニアはウクライナ問題に関してロシアの同盟国ではない。ウクライナの国民はわれわれにとって友人だ」と述べました。

アルメニアは、ロシアが主導する軍事同盟CSTOに加盟するなど、安全保障や経済分野などでロシアの強い影響下にありますが、ウクライナへの侵攻について反対の立場を明言したかたちです。

NHKニュースより

ロシアに対して不満はあるけれども、現時点では「ウクライナ問題に関してロシアの同盟国ではない」と言うのに留めている。

しかし、現実問題としてアルメニアとしては何時までもロシアの庇護下でいられるとは考えていないようだ。

露同盟国アルメニア、米と合同演習 露に不満、疎遠化加速

2023/9/7 09:22

南カフカス地方の旧ソ連構成国アルメニアは6日、11~20日に国内で米軍との合同軍事演習を行うと発表した。タス通信が伝えた。アルメニアはロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」加盟6カ国の一国だが、最近はロシアへの不満を公然と表明。今月のCSTO合同軍事演習にも参加しなかったとみられ、ロシアとの疎遠化が目立つ。ロシアもアルメニアを批判し、両国関係に緊張が高まっている。

産経新聞より

なんと、アルメニアはアメリカとの合同軍事演習に参加する一方で、ロシア主導の軍事同盟のCSTO合同軍事演習には参加しなかったという事が去年にもあって、この選択が正しかったかどうかどうかは、その後に起こるナゴルノ・カラバフを失う結果になった話を考えても、微妙と言わざるを得ない。

このパシニャン氏、2018年5月にアルメニアの首相となってから、採ることの関係改善に奔走したり、アゼルバイジャンとの関係改善に努めたりと、色々と動いているようだ。

実際に、ナゴルノ・カラバフの件についても、領域内のアルメニア系住人の安全確保を条件としてナゴルノ・カラバフの主権をアゼルバイジャンに認める用意があることを示唆するなど、果たして本当にアルメニアの利益になる動きをしているのかどうか?という点については少々疑わしい部分もある。コレに関してパシニャン氏に対して辞任要求が出されるなどの事態にもなっているらしい。

散発的な戦闘は継続中

なお、アルメニアとアゼルバイジャンとの紛争はまだ継続中であるようで、先日は砲撃による死者が出たというニュースもあった。

アルメニア兵4人死亡 アゼルバイジャン軍が砲撃“前日の報復”

2024年2月14日 7時02分

旧ソビエトのアルメニアは隣国アゼルバイジャン側から砲撃を受け、兵士4人が死亡したと発表しました。

これに対し、アゼルバイジャンは前日の砲撃に対する報復攻撃だと非難していて、係争地をめぐり対立してきた両国の間で再び緊張が高まらないか、懸念の声が上がっています。

アルメニア国防省は13日、南部の国境でアゼルバイジャン軍から砲撃を受け、兵士4人が死亡し、1人がけがをしたと発表し、これに対し、アゼルバイジャンは前日の砲撃に対する報復攻撃だと非難しました。

NHKニュースより

おそらくアゼルバイジャンとしては、アルメニア側にある飛び地のナヒチュワン自治共和国に繋がるザンズゲル回廊の取得計画を進めるのだと思われる。

img

色分けすると分かり易いが、アゼルバイジャンにとってアルメニアに分断されている地域があるという認識なのだろうね。

そして、その次はアルメニア本国を蹂躙する可能性がある。

アゼルバイジャンは、イルハム・アリエフ氏が大統領として就任している独裁国家である。社会体制は社会主義を維持しているものの脱ロシアの方向での動きが模索されているそうな。

現時点で、アゼルバイジャンが悪いとかアルメニアが悪いとか、そういう話をする積もりはないが、しいて言えばロシアが悪い。

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ウクライナとの関係

さて、こうした争いが起こっているアルメニアとアゼルバイジャンの話なのだが、二国間の争いという構図ではなくて、ウクライナとの関係もありそうだ。

ゼレンスキー氏、アルメニア首相と会談 アゼルバイジャン大統領とも電話会談

2023年10月6日午前 12:50

ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、スペインで開かれている欧州政治共同体(EPC)の首脳会議に出席した際、アルメニアのパシニャン首相と会談し、南コーカサスの治安情勢について協議した。

ゼレンスキー氏は「ウクライナは南コーカサスの安定と、この地域の国々との友好関係に関心を持っている」と短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に投稿。パシニャン首相と二国間協力のほか、地域経済プロジェクトについても協議したと明らかにした。

ウクライナのクレバ外相はこれに先立ち、ゼレンスキー大統領がアゼルバイジャンのアリエフ大統領と電話会談を行ったと明らかにしていた。

ロイターより

この記事は去年の10月7日のものなので、アルメニアとアゼルバイジャンの間におけるナゴルノ・カラバフ紛争の直後くらいの話である。

アルメニアがロシアの助けを得られなかったのは、パシニャン氏が首相に就任した結果、民主化が進んだからだとも言われている。

しかしながら、逆に言えばロシアの権威が失墜したからこその動きであるとも言える。

ウクライナにとって、アルメニアやアゼルバイジャンは「次はオマエのところだぞ」と言える関係なのだ。プーチン氏が夢見る大ロシア構想は、再び周辺国への影響を高めるという意味でもある。

アルメニアにとってもアゼルバイジャンにとっても、ロシアから距離をとることは当然だし、ロシアの庇護は受けられないことは特にアルメニアにとっては明白な事実となってしまった。

アルメニアにはロシア軍が駐留しているが、その事が逆に恐怖をかきたてる事態になっているのである。

ナワリヌイ氏の一件も

このことと関係ありそうなのが、先日のナワリヌイ氏の殺害の話である。

いってみれば、これはプーチン氏の過剰反応なのだ。

こちらの記事の追記で触れているが、ロシア中部のバシコルトスタン共和国で大規模なデモが発生した。

そして、ナワリヌイ氏の殺害後に更にプーチン氏にとっての事態悪化を招いている。

ナワリヌイ氏の遺体、ロシア当局「14日間引き渡さない」…「証拠隠滅」と支持者反発

2024/02/20 11:08

ロシア北極圏の刑務所で死亡した同国の反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の報道担当者は19日、当局がナワリヌイ氏の遺体について、少なくとも14日間引き渡しを行わないとの見通しを遺族や弁護士に伝えたと、X(旧ツイッター)で明らかにした。死因特定のために「化学的検査」を行うと説明しているという。

讀賣新聞より

ロシア大統領選挙目前にして、あちらこちらで厄介な事態が進んでいるのだ。

これを絶妙な手腕でプーチン氏がコントロール出来るか?という興味は在るものの、全体的な構図を見るとロシアという国、或いはプーチン氏の独裁体制にかなり揺らぎが出ていて、それがあちらこちらに表れているのだという理解をすると、事態は加速度的に侵攻する可能性が出てきていると思う。

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追記

コレ、直接関係ある記事でもないんだけど。

ウクライナに投降の露軍ヘリ操縦士、スペインで死亡 露が事前に「抹殺」示唆

2024/2/20 08:22

タス通信は19日、昨年8月にロシアの軍用ヘリコプター「ミル8」を操縦してウクライナに投降した元露軍ヘリパイロット、クズミノフ氏がスペインで死亡しているのが見つかり、地元当局が捜査しているとスペインメディアを引用する形で伝えた。ウクライナメディアによると、ウクライナ国防省情報総局高官のユソフ氏も同日、クズミノフ氏の死亡を確認した。

クズミノフ氏に関し、露国営テレビは昨年10月、露軍参謀本部情報総局(GRU)の特殊部隊員が「裏切り者はどこにいようと見つけ出して処罰する」「裁判まで生きられない」と話す様子を放映。取材した記者は「抹殺命令が下された」との見方を示していた。

産経新聞より

プーチン氏「オレに逆らうモノは許されない」

ナワリヌイ氏の話もそうだし、大きな枠としてはウクライナもそうだったと思う。プーチン氏は被害者意識というか妄想が酷すぎないか?そして、それを許してしまう国家や国民性というのもなかなかすごいものがある。

追記2

アルメニアは、ついにCSTOから離脱準備かな。

アルメニア、ロシア主導軍事同盟への参加凍結=首相

2024年2月23日午後 3:29

アルメニアのパシニャン首相は、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」への参加を凍結したと明らかにした。22日に放送されたフランス24テレビのインタビューで述べた。同盟が義務を果たさなかったためとしている。

ロイターより

ロシアを信用したからコレである。

パシニャン氏はこのところ、ロシアとの長年の関係に不満を示しており、防衛でロシアに頼ることはもはやできないとし、CSTOへの参加について見直しを行っていることを示唆していた。

ロイターより

アルメニアが直ぐにCSTOから離脱するとは思わないけれども、それでも数年のウチには決断しそうである。アメリカが動けば直ぐにでも、ということかも知れないけれども。

コメント

  1. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    じわじわと、周辺の側近に愛想をつかされているの図、ですね>ロシア
    「国家に真の友人無し」ですが、そりゃ、いつ気が変わるかわからない狂王についてく臣下はそんなには居ないですよね。
    状況としては「総統はお怒り」動画に近い気がしますが、アッチの方がかなりマシな気がします。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      確証のない話で申し訳ないんですが、ザックリ見るとそう見えるんですよ、実際。
      「総統はお怒りです」って、あっちこっちでパロディが作られるだけでなく書籍になっている始末ですが、プーチン氏の方は笑えませんねぇ。

  2. アバター 砂漠の男 より:

    ロシアは「武士は食わねど…」的な強面を崩さず、国内では暗黒面が支配していますが、経済をみると相当やせ我慢している様子が見えます。
    有体にいうと、いまのロシアを取り巻く環境は、旧ソ連時代のような冷戦状態です。
    プーチン氏は米欧によるNATO東方拡大に恨み骨髄ですが、以前NATOはグルジアとアルメニアのNATO加盟を推進していました。周辺に寄る辺のないアルメニアは新たな火種になるかも。

    • 木霊 木霊 より:

      ロシアは恐怖支配が主流ですから。
      力こそ正義であり、歴史観もなんだかおかしいんですよね。
      どこに向かっているのやら。

      どこにでも火種が転がっている状態が、ロシアの実情なのでしょう。

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