酷いな、この記事。そもそも悲鳴を上げているのは、本当に「農業を営む方」なのか?
太陽光の売電収入、突然半減「えげつない」 九州の出力制御に悲鳴
2023年12月21日 13時00分
太陽光でつくった電気の受け入れを大手電力が一時的に止める「出力制御」が、今年は過去最大に膨らんでいる。九州では、月によっては収入が半減した人もいる。なぜ、こういう事態が起きているのか。
熊本市東区で農業を営む春口豊徳さん(72)は7月下旬、九州電力から届いた明細書を見て目をむいた。
朝日新聞より
これ、記事の後半は読めないのだが、おそらくは原発再稼働が影響しているというお話に繋がっているのだと予想。確認していないので、違っていたら申し訳ない。
増えたのは再エネ業者
出力制御で買い取り一時停止
この話のそもそもの誤解は、ロクデモナイ民主党政権時代の政策であるFIT・FIPに起因している。
資源エネルギー庁のFIT・FIPに関する解説サイトなのだが、正直なところ気持ちとしては「読むのも嫌」だ。
再生可能エネルギーの固定価格買取制度という、歪んだ制度を導入したことで日本の電力産業のあり方も大きく歪められたからである。
そうそう、余談ではあるが我が家も太陽光発電を利用しているために、固定費買い取りは現在もして貰っている。恩恵を受けておいてなんだが、敢えて言おうこの制度はクソであると。
何が許せないのかと言えば、太陽光発電などの再生可能エネルギー発電をしたら、電力会社は決められた料金で全量買い取れということになっている点だ。
もちろん、これは再生可能エネルギー発電の総量が低いウチは成立していた話なのだが、比率が高くなるともういけない。
電力供給は、需要に対して供給がちょっとだけ上回るように電力調整をしてあげる必要がある。この均衡が崩れるとブラックアウト(広域停電)を引き起こすからだ。
視覚的にはこんな感じで、色々な発電方式を組み合わせながら電力を上手く活用しようとはしているのだが、現実はそんなに上手く行かない。
太陽光が増えた九州
ところで、日本はかつて太陽光発電(パネル)ではかなりのシェアを占めていた時代があったが、あっという間に支那に追い抜かされた。
2010年には既にこの状態である。今は支那の独壇場かな。
理由は簡単で、支那製の太陽光パネルは価格が安いからだ。原材料が自国で掘れて、環境配慮義務や人権を無視できるあたりが強みなのだ。
で、今では太陽光発電を推進することは、支那に利することに繋がる状況が続いている。
日本国内でも太陽光発電は、国内でパネルを生産しなくなっても増えている。
とくに九州の伸びはなかなか凄い。
これは、九州が太陽光発電の効率が良く、適した環境にあるからだと言われている。実際に土地価格は安いし、産業が活発で電力需要も多い。地域的に太陽光発電による発電効率が良いのである。
その結果、どうなったかと言えば、電力会社は買い取れなくなった。
出力制限を定期的に行うようになったのである。
原発再稼働
日本国内で、再稼働している原子力発電所はこんな状況である。
西日本は再稼働が進んでいる事が分かる。
電気料金 大手電力7社 きょうから値上げ 最大で2700円余値上げ
2023年6月1日 19時12分
東京電力や東北電力など大手電力7社は、6月1日の使用分から電気料金を値上げします。電気料金は値上げ前と比べて最大で2700円余り値上がりします。
~~略~~
電力各社が平均的な使用量とする家庭の電気料金は、値上げ前と比べて ▽北海道電力が1518円上がって8299円 ▽東北電力が1621円あがって7833円 ▽東京電力が881円上がって7690円 ▽北陸電力が2196円上がって6786円 ▽中国電力が1667円上がって7720円 ▽四国電力が1783円上がって7345円 ▽沖縄電力が2771円上がって9265円となります。
NHKニュースより
で、今年6月に電気料金の改定があって、沖縄が一番高額になるという状況になっている。ただ、このタイミングで値上げがなかった電力事業者もあるので、それも加味した表を以下に示しておく。
順位 | 電力会社 | 平均価格 | 稼働原発数 |
---|---|---|---|
1 | 沖縄電力 | 9,265円 | 0基 |
2 | 北海道電力 | 8,299円 | 0基 |
3 | 東北電力 | 7,833円 | 0基 |
4 | 中国電力 | 7,720円 | 0基 |
5 | 四国電力 | 7,690円 | 1基 |
6 | 中部電力 | 6,945円 | 0基 |
7 | 北陸電力 | 6,786円 | 0基 |
8 | 九州電力 | 5,251円 | 4基 |
9 | 関西電力 | 5,236円 | 3基 |
うんまあ、原子力発電所の稼働が料金値下げに大きく関わっている事実が良く分かるね。
引用したNHKニュースの記事には、「値上げに対応するために再生可能エネルギー発電を導入するところも」などというふざけた内容を書いていたが、まあ、値下げするには原発再稼働なのである。良くも悪くもそれが現実だ。
再稼働で都合が悪いこと
で、原発再稼働で電気料金が下がれば良いことじゃないか、という話にしたいのだけれど、多くのメディアはそう言いたくはないようで。
冒頭の朝日新聞などがその最たる例なのだが、実におかしな話を書いている。
太陽光発電の電気の買い取り額は例年並みの86万5616円だったが、半分以上の46万7280円が「出力制御分」として天引きされていた。
8月の明細書でも半分近くが引かれていた。
春口さんは2014年に、自分の農地に出力270キロワットの太陽光発電所を設置。国の固定価格買い取り制度(FIT)で電気を売ってきた。
朝日新聞より
「「出力制御分」が天引き」ってあーた、違うって。買い取り拒否されただけだから。
そもそもFIT制度では、電力会社の使命である電力の安定供給を優先して良いってことになっているので、残念ながら「全量買い取り」は言わば「努力義務」になっている。
そこへ原発再稼働の影響が出てきたんだー、と言うのがおそらくは左派の主張なんだけれども、現実は違う。
電力安定供給のためには、再生可能エネルギー発電は一定割合以下に抑えておかないと、電力会社の義務である「電力の安定供給」に大きく響くのだ。
だからこそ、出力制御がなされるわけである。
ザックリいうと、冒頭の農園主が割を食っている理由は、メガソーラーなどの事業者が増えたことが背景にあるのであって、原発再稼働が行われたという主張は正しくない。
出力制御
出力制御の話は分かりにくくで様々なサイトで解説がなされている。
大雑把に言うと、全電源に対して出力制限の対象にされていて、多すぎる場合には発電を止めて貰うという趣旨の話である。
発電事業者から発電した電力を送るためには、当然の如く電力線が必要なんだけれども、その容量は残念ながら有限である。
そして、「空き容量」の余裕というのは簡単に増やせない。だから、急速に増えた太陽光発電が「割を食う」のはある意味当然なのだ。
現在はこれを工夫して「コネクト&マネージ」という手法を導入しようとしているのだが、そう簡単でもないんだよね。
詳しい解説は避けるけれども、要は全ての発電所から生み出される電力が電力会社側から制御可能な状態でなければならず、太陽光発電のような太陽が照っている時に発電下電力を垂れ流すシステムとは相性が悪い。
ザックリいうと、太陽光発電や風力発電に割り当てられる「容量」は決められていて、九州ではそれを超える状況を迎えている。それだけの話なのである。
コネクト&マネージが実現すればもう少し買い取り量は増やせる可能性があるが、それにしたって限度はある。
再生可能エネルギー発電の推進事業失敗
再エネ賦課金は実質税金
一番最悪なのは再エネ賦課金と言うヤツだ。
電気を使うと、使用量にあわせて「再生可能エネルギー発電促進賦課金」というものが徴収される。
これがまあ酷いモノで。
開始当初は大した金額ではなかったのだけれど、今や年間2.4兆円規模(2020年度現在の金額だが、2023年度は改訂により初の値下げとなっている)の金額に膨らんでいる。
まあ、それもそのはず、無秩序に再エネ発電を増やしすぎたのだ。
特に太陽光発電の伸び率が酷い。
メディアは総じて「再生可能エネルギー発電を増やそう」キャンペーンを展開しているが、もはや海外では方針転換せざるを得ない状況になった国が幾つもある。
ドイツは脱原発方針を続けるが
なお、メディアが良く話題にするのはドイツの事例だ。
ドイツの脱原発が完了、再生可能エネルギー全面移行目指す
2023年4月17日午後 2:09
ドイツで15日、最後の原子炉3基が発電のための運転を停止し、2011年の東京電力福島第1原発事故を受けて決めた脱原発が完了した。2035年までに再生可能エネルギーのみによる電力供給を目指す。
ロイターより
今年4月にはこんな記事も目にしたが、日本とドイツが決定的に違うのは、欧州では電力融通のできる電力網が確立されている点だ。
電力融通はトータルで見るとドイツの輸出量が多いようだが、輸入なしには成り立たないのも事実である。この点は自然エネルギー財団にも解説がある。
ドイツは原発を多数保有するフランスに対しても電力輸出超過であるのは事実なのだけれど、両国が相互依存関係にあるのも事実である。
そしてこちら。
ドイツ 連邦議会が再生可能エネルギー法賦課金廃止を承認
2022.05.20
ドイツ連邦議会は、再生可能エネルギー法で定められている賦課金を2022年7月1日に廃止する法案を可決した。連立政権は、2023年以降、再生可能エネルギー法賦課金の財源は全てエネルギー・気候基金から拠出することに合意してきたが、今回承認された法律により、現在の物価高騰下における消費者の電気料金の負担軽減を早期に実現する。
EICネットより
現在、ドイツの再生可能エネルギー発電は全体需要の5割程度とされている。これを100%に引き上げる予定にしているんだけど、それは電力融通があってこそである。
つまり、ドイツの話は日本にはほぼ参考にならない。
農業、農業ねぇ
さて、冒頭の記事に突っ込みを入れておこう。最後に、ではあるが。
あー、農業を営む?
何を育てていらっしゃるんですかね?パネルの下で?
別の写真を見るとも牛を飼育されているとあるので、「畜産業を営む」というのであれば(写真ではそう説明されている)まだ分かるのだけれど、「農業を営む」はちょっと……。
朝日新聞は出力制御に関して文句を付ける路線を続けているんだけど、そもそも太陽光発電を増やすと火力発電を増やさなければならないという話、忘れているよね?そして、そもそも悲鳴を上げたいのは専業で電力を作っているメガソーラー業者だよ、農業とか畜産業を営んでいる方じゃなくて。
そもそも、夜間は電力を産まないのが太陽光発電なんだぜ?え?揚水発電を使え?
揚水発電所って簡単に増やせないんだよね……。何しろ、揚水発電所の設備利用率って10%に満たないケースが多い(全国の利用平均は4.6%)のと、年中使えない(オーバーホールが必要)ので、多数建設すると確実に電気料金に響くことに。
というわけで、話を総括すると、以下のような点について朝日新聞の記事を読んでねと言うことになる。
- 朝日新聞の再エネ関連記事であること
- 出力制限は再エネ発電が増えていることが原因なこと
- 悲鳴を上げているのはメガソーラー業者なこと
え?身も蓋もない?いえいえそんな。
コメント
こんにちは。
>揚水発電所って簡単に増やせないんだよね
そこで新規にダム建設ですよ!
水害対策も出来てバッチリだ!
……って事には、絶対ならないし、とにかく何でもかんでも反対するんでしょうね、アカヒは……
※揚水用ダムはあまり水害対策にならない事はさておきます。
こんにちは。
ダム建設って、すっごく時間かかりますから余り現実的ではないですよね。
作ろうと思ってから、作り出すところに向かう時には、「あー、もうあんまり要らないかな」という感じになっちゃうことも珍しくないくらい時間がかかりますよ。