昨日の記事で、支那では「利下げは禁忌」という話を書いたけれども、あまり説明を入れなかったので、せっかくだから少しだけ解説を。
「ドルに取って代わる」と豪語していた人民元の凋落【コラム】
記事入力 : 2023/08/18 14:22
中国人民元の対ドル相場が2カ月近く弱含んでいます。5月中旬に1ドル=7元(オフショア人民元ベース)を割り込んだのに続き、6月末には7.25元まで下落しました。
朝鮮日報より
この、朝鮮日報の記事が秀逸だったので、これをベースに説明しておきたい。
困難な通貨防衛
金利差がある
先ずは昨日の記事のリンクを。
で、最初に、アメリカと支那との金利差というのが問題だとされている。構造的に、対ドルでの金利差が開くと、通貨にも影響が出る。
人民元安の最も直接的な要因は、米国と中国の金利差です。米国は昨年3月以降、物価上昇に対処するために急激に金利を引き上げています。一方、中国はゼロコロナによる景気低迷や不動産バブル崩壊に対応するため、利下げを続けました。
朝鮮日報より
アメリカの政策金利は5.25%~5.5%となっており、22年ぶりの高水準にある。アメリカはインフレが進んでしまっているので、これにブレーキを掛けたいという思惑があってのことだ。このFRBの政策は、一部で「失敗ではないか」と、囁かれていて、出口戦略を模索しているところである。
一方の支那だが、実質上の政策金利にあたるLPRは7月の時点で期間1年が年3.55%、同5年超が年4.20%となっている。
韓国経済も同じだが、支那経済にとっても政策金利はできるだけアメリカの数値に追従したいのが本音だ。アメリカのほうが利率が高ければ、アメリカに投資する人が多くなるので、資本逃避が起きやすくなるんだよね。外資頼みの経済政策を展開している両国にとっては致命的である。
ついに昨年9月、米中の金利が逆転し、最近は5年物国債利回りベースで金利差が1.5%まで拡大しました。
朝鮮日報より
そんなわけで、金利差は通貨に影響しており、アメリカのほうが金利が高いため、結果的に人民元安を牽引する結果になっている。
通過防衛に必死
で、小手先の対応で通過防衛をやってはいるのだけれど、あまり高価がないというのが現状である。
人民元相場は昨年10月に7.3753元まで下落したことがあります。ゼロコロナ政策がピークに達した時期です。海外投資家が相次いで中国市場から資金を引き揚げ、人民元の価値が急落しました。ゼロコロナ政策が解除された昨年12月になってようやく1ドル=7元以上の正常水準を回復しました。
年明けに6.7元まで戻した人民元相場が再び危険水位に陥ったのは5月中旬でした。ゼロコロナ解除後も中国経済の回復速度が遅いことが明らかになり、人民元が再び力を失い始めたのです。5月の輸出が前年同月比7.5%減を記録したと発表された6月中旬からは下落ペースが速まり、7.2元を割り込みました。
朝鮮日報より
1ドル=7元を割り込むことを警戒して、様々な政策をやっているのだけれども、どうにも上手いこと行かない。
ロシアによる人民元売り
というのは、人民元売りをやっている国が隣りにあるからなのだ。
面白いのは、中国とともに「ドルからの脱却」を叫んでいたロシアが人民元を大規模に処分していることです。ロシアは昨年、対中貿易で354億ドルの黒字を上げました。人民元建てとルーブル建てで取引したので、それに相当する巨額の人民元がロシアに渡ったのです。今年も年初来5月までに80億ドルの黒字を出しました。
ロシアは貿易で得た人民元のうち45億ドル相当を昨年1年間に売却しました。国内の為替市場でルーブルに変えた分があるほか、中国の国有銀行の口座を経由し、欧米の債権者に送金を行ったということです。人民元を売って確保したルーブルで財政の不足分を補ったほか、人民元を海外の債権者に対する債務返済にも使ったのです。今年に入っても毎月数億ドル相当の人民元を売却しているといいます。現在外貨準備高に占める人民元は約30億ドルにすぎないとされます。
朝鮮日報より
人民元が売られれば、人民元安が進んでしまう。ロシアの貿易の規模は大したことはなく、対支那貿易で354億ドルの黒字が出て、今年は対支那貿易で80億ドルの黒字を出している程度だ。
しかしロシアは45億ドル相当の人民元を売ってしまった。ロシアは、人民元建て決済をして物を売ったあとに、その人民元をドルやユーロに変えてしまう。
一方、ロシアは中国がロシア国内で流通するのに十分な量の人民元現金を供給していないことに不満があります。そのため、自国通貨のルーブルやドル、ユーロなどに交換して使うしかないという言い分です。それに国際制裁のせいでドルを使うことができず、人民元を代用として使ってはいますが、長期保有する価値のある通貨だとは考えていないのです。
もちろん1日で数千億ドルに上るオフショア人民元の取引規模からみて、ロシアの人民元売りが人民元相場に大きな影響を及ぼすことはないでしょう。しかし、人民元がドルに取って代わると信じてきた中国国内の国粋主義者にとっては、ロシアの人民元投げ売りが相当なショックとなっているようです。
朝鮮日報より
ロシアにとっては人民元売りはあまり良い手であるとは言えない(人民元暴落によって得られるドルやユーロが目減りしてしまう上、人民元に経済依存している状況なので、ロシア経済の悪化にもつながる)のだが、背に腹は変えられないのだろう。
記事にあるように、人民元取引規模から見てロシアの人民元売りだけが人民元安を誘発しているわけではないのだが、支那はロシアとの取引を止めない限りは、延々と人民元を売られ続ける事になる。ロシアに負けてもらっても困るので支援は止められないけれども、支援を続けると人民元が売られるという。
碧桂園は防衛に走る
そして、支那経済の悪化を象徴する話が出てきたのは、先日の記事で言及した通り。
中国経済〝終わりの始まり〟を懸念 「恒大」破産申請で日本も影響避けられず
2023/8/18 19:45
経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団が17日、米国で破産申請したことで、中国経済の減速が改めて印象付けられた。市場では中国経済の急激な悪化を危惧する声も出始めており、そうなれば経済的な結びつきが強い日本への影響も避けられない。事態の収束へ、中国政府のかじ取りに一層の注目が集まる。
産経新聞より
この、恒大集団の苦境(破産)が、碧桂園への影響を強めている。なお、この恒大集団のアメリカでの破産は、おそらくアメリカにある資産の確保を意味しているので、支那でお金を支払うより、アメリカに逃げ出すという話なんだよね。
中国・碧桂園、私募債の償還延長提案へ 債務再編急ぐ
2023年8月19日 13:23
資金繰り懸念が浮上している中国不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は私募債の償還を3年間延長する案を債権者に提案する。複数の中国メディアが報じた。同社は巨額の債務を抱え、不動産販売も低迷する。債務再編が進むか先行きは読めない。
日本経済新聞より
なんと、債務の償還延長を模索しているというのである。短期債権を3年間延長するという「提案」をするらしい。
延長ねぇ、3年後に碧桂園が存在するのかどうか。
未払い工賃が何十兆円分もあるというニュースもあったが、恒大集団が逃げたのでしわ寄せは色々なところに……。
比率としては支那経済不調が重い
とまあ、ちょっと人民元安の話を中心に書かせてもらった。
人民元安の原因の一番大きいものは支那経済不調であり、それは、外資がチャイナリスクに気がついて投資を差し控えるようになったという面が強いのだと思う。それに比べたらロシアによる人民元売りは些事ではあるんだけど、足を引っ張る要因であることには違いない。
アメリカと支那の金利差というのは、経済好調・経済不調の結果でもあるため、人民元安に影響する要因といえばそうだが、「じゃあ金利を上げれば?」という話ができないところが支那にとって辛いところだ。政策金利を上げると、借金で首が回らなくなっているところの死期を早めることになるからね。
うまく行かない時は、あっちこっちで綻びが出るものである。
そして、ロシアの事例を取り上げた理由はもうちょっと別の意味がある。つまり、現在進行系で支援を受けているロシアは、恩を仇で返した格好になっているという意味だ。支那のために何かしてやろう、という気は、ロシアにとってはサラサラ無いのだ。これは、他の国でも見られる話なので、支那は支援はしてくれる国だけど、援護する対象ではないということなのかもしれない。
コメント
こんばんわ、
ロシアによるオフショア市場での人民元売りは、長期の経済制裁で苦境にあるロシアにとっては当然の選択でしょう。ドルとユーロがないと、友好的な第三国との取引すらできなくなりますから。1998年のロシア財政危機の経験から、(経済制裁を受けていても)ドルとユーロは”絶対通貨”という財政上の教訓が染みついているんでしょう。人民元がドルに取って代わるなんて支那の妄想だとロシアは内心で切り捨てていると思います。
その支那は、いま真に不動産バブルと金融バブルの崩壊でミンスキー・モーメントの渦中と言えそうです。日本と同じ轍を踏んでいるようですね。
こんばんは。
ロシアが悪いか?といえば、人民元売りは仕方がありませんし、人民元安に直接的に影響していないことも後押ししていると思います。
ロシアが人民元をストックしていても、何の役にも立ちませんからね。
支那の経済的な苦境はかなり深刻な状況になっていますね。
こんばんわ。純粋に感想コメ。
凄くわかりやすい記事でした。経済オンチの私にも解る!感謝。
なるほど利下げすると、投資とかにお金が廻るから流動性が増す。だから、米国はインフレ対策などで利上げしてるのか。んで、シナはなるたけ米国に近い利子にしたいが、それが出来ない。
当然に利子が高くつく国へ投資のお金は流れるから、米国の方に資金が流れちゃう。けど、今のシナが米国についてゆこうと利上げすると、国内の企業の資金ぐりが危うくなるので出来ませんと。
てことは、日本の日銀と政府がやってる低金利も同じ課題を抱えているからか。
間違った理解ならすみません。間違いでなければ、そのように理解したのですが。そのへんの、ざっくりした整理がつきました。やはり木霊様の記事はわかりやすくて為になる。日経新聞もコレくらい噛み砕いて説明してくれればなぁ…。
紙の新聞はほとんど読みませんが、木霊様の記事なら有料でも読みますよ。うん
おはようございます。
概ねその認識で問題ないと思います。
日本の低金利政策は余り功を奏していませんが、基本的には金利をあげれば銀行にお金が集まって市場からお金が少なくなるので経済にブレーキが掛かります。金利を下げればその逆ですね。日銀はそろそろ出口を求めて動き出していますが、外部要因への対処が難しいようで。
参考になれば幸いです。