これもネタ的な話である。
「原子力潜水艦沈没」を否定する中国…「乗組員５５人死亡」英機密文書が登場
2023.10.05 08:07
中国原子力潜水艦が西側潜水艦を捕らえようとする罠にかかり、酸素システムが故障して乗組員５５人が死亡したという報道が出てきた。８月にもこのような主張がソーシャルメディアで流れていたが、中国は公式的にはこのような事件があったという事実を否定していた。
中央日報より
日本の福島第1原発から処理水を海洋放出し始めた時、「支那の原子力潜水艦が沈んだ！」という噂が出たことがあった。しかし、これ、結局その時は裏取り出来なかったんだよね。
情報戦か諜報戦か
沈没したのは093型潜水艦か
えーと、その時の記事を引用しておこう。
中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」？ 乗組員全員死亡説も
2023年8月24日（木）16時10分
中国政府が台湾やアメリカに対する「重大な警告」として、台湾周辺で軍事演習を始めてから数日。中国の原子力潜水艦が、中国本土と台湾を隔てる台湾海峡で重大事故に見舞われたという未確認情報が入った。
インターネット上に出回っている情報によれば、中国が保有する093型（商級）攻撃型原子力潜水艦が過去数日のどこかで、詳細不明の重大事故に見舞われたという。乗組員は全員死亡、とする報道もある。
Newsweekより
この時噂になった潜水艦は093型潜水艦である。
いわゆる商級潜水艦で、排水量は6,000t～7,000ｔクラスの割と大型の潜水艦である。2006年12月に一番艦が就役していて、建造開始が1994年なので就役までに12年を要した。
１～３番艦は騒音問題が解決出来ていなかった。噂によると、艦内で作る中華料理の鍋を振る音が漏れ聞こえるという噂（単なる噂である）が流れていた。が、この水中放射雑音問題を改良したのが４～６番艦で、093A型として就役している。現在確認されているのは9番艦までらしい。
で、今は095型潜水艦という093型潜水艦の改良版を建造しているという話なのだが、未だ就役されたことを確認出来ていないので、093型潜水艦が最新型ということになる。
この時点では裏付けがとれなかった
で、この8月の時点では、このニュースの裏付けがとれず、記事にも「確実な証拠はまだない」という扱いだった。
潜水艦に詳しいアナリストのH・I・サットンは22日、X（旧ツイッター）への投稿の中で、一連の報道を裏づける「説得力のある証拠はまだ一つもない」と述べた。
Newsweekより
そして、支那当局はこの噂を否定した。今回の報道でも否定している。まあ、事実であろうとなかろうと支那当局が否定するのは当たり前というか、納得というか。
中国の原子力潜水艦が西側の潜水艦を捕獲するため設置した障害物に自ら衝突し、酸素システムが故障したため50人以上の乗組員が死亡したという。英国の機密文書として公開された。今年8月にも同じような指摘がSNS（交流サイト）などを通じて広がったが、その際中国は「根も葉もないうわさ」として取り合わなかった。
朝鮮日報より
そして、潜水艦が沈んでしまったら、その証拠を見つけることもかなり困難である。水中分解して何か破片とかが浮かんでこれば別なんだけどね。
何が起こったのか
で、中央日報の報じるデイリー・メールの情報は、引用元を見るとこんな内容だった。
EXCLUSIVE: 55 Chinese sailors are feared dead after nuclear submarine ‘gets caught in a trap intended to snare British and US vessels in the Yellow Sea’
PUBLISHED: 17:25 BST, 3 October 2023 | UPDATED: 23:51 BST, 3 October 2023
Fifty-five Chinese sailors are feared dead after their nuclear submarine apparently got caught in a trap intended to ensnare British sub-surface vessels in the Yellow Sea.
According to a secret UK report the seamen died following a catastrophic failure of the submarine’s oxygen systems which poisoned the crew.
The captain of the Chinese PLA Navy submarine ‘093-417’ is understood to be among the deceased, as were 21 other officers.
～～対訳～～
独占記事：原子力潜水艦が黄海で英米の艦船を捕らえるための罠にかかり、中国船員55人が死亡の恐れ
原潜が黄海で英国の潜水艦を捕らえるための罠にかかり、55人の中国人船員が死亡した恐れがある。
英国の極秘報告書によると、潜水艦の酸素システムが壊滅的な故障を起こし、乗組員が中毒死したという。
中国PLA海軍の潜水艦「093-417」の艦長も、他の21人の将校と同様に、死亡者の中に含まれている。
Dailymailより
デイリー・メールって、タブロイド紙なんだよね。要は割とゴシップ記事なんかを載せることの多いメディアなんだよね。よって、情報の信頼性という意味では怪しいとは思う。
ただ、タイムズ紙もこのニュースを扱っていて、恐らくある程度の裏取りはしただろうと思われる。中央日報はその孫引き情報だと思うのだが、デイリー・メールを引用する形をとっている。
まあそれはともかく、水中の障害物に接触した支那の潜水艦が、沈没。この際に、酸素供給システムが損傷してしまったので乗組員の大半が死亡したという事になっている。
水中の障害物は、他国の潜水艦を攻撃するための罠という事らしいので、何ともお粗末な話ではあるのだが、事故に遭われた方にはお悔やみを申し上げたい。
台湾国防部は否定
さて、情報の確度について疑わしいと言われる理由は、台湾国防部がこの噂を否定している事も関係している。
これに対して台湾国防部の孫立芳報道官は「台湾軍は情報・監視・偵察などを通して台湾海峡付近のすべての海空域の動きを綿密かつ慎重に把握している」としつつも「現在まで（中国）原子力潜水艦事故のような情報を聞いたことがなく、このような情報がＳＮＳを通じて流布してはいるが確認できるニュースはない」と明らかにした。
中央日報より
台湾国防部は、支那海軍の監視を恒常的に行っているので、台湾国防部が否定したことがどういう意味を持つのか考える必要はある。
情報を整理すると、イギリスの極秘報告書から出た情報を元にタブロイド紙が2度にわたって「潜水艦沈没」の情報を報じた。「極秘」なのに何故か情報が漏れてきた事も気になるが、2度にわたるリークを「させた」ということと、タイムズ紙がこれに便乗したということ。
それに対して台湾国防部が否定した。
イギリスの報道は、おそらくは諜報機関が意図的に流したリーク情報だと思うのだが、その内容はかなり具体的だ。何と記事中で艦名まで明らかになっている。093-417というのがそれで、417は艦番号となり、艦名は「長征14号」だ。そして、何名が命を落とし、その構成がどう（艦長と将校２１人を含む中国乗員５５人が死亡）ということまで言及しているのだ。
支那が否定し、台湾も確認出来ていないとしたこの記事だが、さて、支那に対しての揺さぶりという事なのかな。「オマエの隠している事故は知っているぞ」と。
追記
コメントで情報を頂いたので追記しておきたい。
PLA Submarine ‘Missing’, China’s Defense Minister Underground, Speculations On Mishap Reignites
September 16, 2023
In August 2023, unconfirmed reports swirled about a Chinese nuclear-powered submarine meeting a serious mishap while transiting the Taiwan Strait, and all hands were reportedly lost.
China’s Defense Ministry remained tight-lipped about it, but its defense minister Li Shangfu has become conspicuous by his absence from the public eye for two weeks now.
eurasiantimesより
記事はEurAsianTimesというデジタルメディアに掲載されたモノ。この記事には、台湾当局からのコメントがもう少し詳細に紹介されている。
There has been a change in the stance of the Taiwan Ministry of National Defense. Last month, the Taiwan MND said there was “no information to confirm” about the submarine mishap.
But this week, it responded that “this matter concerns sensitivity. It’s not for us to comment.” However, contrary to initial reports that suggested the accident happened in the narrow Taiwan Strait, the reports now indicate the disaster occurred in the Yellow Sea.
Major General Huang Wenqi, assistant deputy director of the Intelligence Office of the General Staff Headquarters of Taiwan’s Ministry of National Defense, said he would not comment on this as the relevant information is “absolutely confidential.” He added that “it is not convenient to disclose because of the sensitivity involved.”
The reports of the mishap concerning the Type 093 or Shang Class nuclear submarines, one of the most potent submarines in the PLA-Navy’s fleet, started on August 21. Some reports suggested that the entire crew of 100 onboard the vessel perished. China did not substantiate any of the reports. China has six Shang-class nuclear-powered submarines.
～～対訳～～
台湾国防部の姿勢に変化があった。先月、台湾国防省は潜水艦の遭難について「確認できる情報はない」と述べた。
しかし今週、台湾国防省は「この問題は機微に関わる。私たちがコメントすることではありません 」と答えた。しかし、事故は狭い台湾海峡で起きたとする当初の報道とは異なり、現在は黄海で起きたとする報道がなされている。
台湾国防部参謀本部情報処の黄文基副処長補佐は、関連情報は “絶対的な機密事項 “であるため、コメントは差し控えると述べた。また、”機密事項であるため、公開するのは都合が悪い “と付け加えた。
PLA海軍の最も強力な潜水艦のひとつである093型原子力潜水艦または香級原子力潜水艦に関する災難の報道は、8月21日に始まった。乗組員100人全員が死亡したとの報道もあった。中国はいずれの報道も立証していない。中国は6隻の商級原子力潜水艦を保有している。
eurasiantimesより
何とも評価しにくい台湾国防部の姿勢と、参謀本部情報処の態度だな。事故が発生した場所について、台湾海峡ではなく黄海だという扱いになったことが、この態度の変化に起因しているのかも知れない。
おそらく、台湾軍はこの事故の情報を持っていない。そして、黄海に関してもある程度は監視していて、どの程度の監視網があるかを知られたくないので、機密にしているという風にも考えられる。
何れにしてもさほど深さのない海であり、台湾海軍は支那の艦船の動きをモニターしているはずで、そうするとノーマークだったと言うことはちょっと考えにくいのだが、潜水艦の動きというのはなかなか察知しにくいモノであるから、ちょっと追いかけられていないのかも知れない。
台湾でＰ３Ｃ部隊完成 中国に対抗 南シナ海哨戒も
2017/12/1 18:12
台湾が米国から購入した哨戒機Ｐ３Ｃ１２機の部隊編成が完了し１日、台湾南部・屏東県の空軍基地で式典が行われた。
産経新聞より
台湾軍はこれ以外にも対潜哨戒機を保有しているのだが、十分ではない。そしてP3Cもたったの12機である。3交代ローテを組むと同時に4機しか任務に就いていない計算になる。
能力的には捕捉できていなかった可能性が高いな。
追記２
追加情報が出てこない案件だが、コレに関してガセ情報ではないかという指摘が出てきた。
「ネタだったか」で済めば良いのだが、こうした形態の認知戦を支那が仕掛けてきていることもあって、これが「ネタだから安心」という話ではないだろう。
記事の最後に書かれるように、沈没したとされる「長征14号」が後に確認されれば、この件はそこで修了と言うことになる。ただ、情報の伝達経路などの確認に使われたとすれば、コレは別の問題を孕む話でもある。
そのうちまた報じられるとは思うので、続報を待ちたいと思う。
コメント
こんにちは。不謹慎かも知れないけど、
面白かった。
木霊様の推理での、各国の諜報と軍の探り合い、ブラフに揺さぶり、はったり。
二転三転でスリリング。
しかし、亡くなったクルーには悪いが、
情けない事故だなぁ。
こんばんは。
まさにスパイ大作戦ですから。なかなか面白いネタではありますが、どこまで本当か？というところも含めて、注意して見ないといけませんね。
米国は確か、1960年代か70年代の初頭に、沈没したソ連の原潜を、
千メートル以上の深海から引き揚げているんですよ。世界最大のサルベージ船をハワード・ヒューズに建造させて。そのノンフィクションを持ってるんですが未読。いずれ読んで見るつもりなので、面白そうな事が書いてあったら報告します。
すでにベトナム戦争前夜から、かなり海底の動きを察知する技術を開発していたようですね。一般に米国の
コンピュータ技術が発達したのは、
レーガン大統領のスターウォーズ計画からだと言われてます。スターウォーズ計画は計画倒れだったが、ハード、ソフト両面で進化するという副産物を伴ったと。
しかし、実はこのキューバ危機からベトナム戦争までの間に起きた、ソ連原潜サルベージ作戦が、米国のコンピュータ技術とくに、位置情報や海底地形を図化・可視化した事が、
米国をIT大国へと変えた泉でないかと私は疑ってるんです。
台湾当局による本件に関する情報がEurAsian TimesにPLA Submarine ‘Missing’, China’s Defense Minister Underground, Speculations On Mishap Reignitesといタイトルで記事がありました
以下自動翻訳での抜粋
台湾国防部の姿勢に変化がありました。先月、台湾の国防軍は、潜水艦の事故について「確認する情報はない」と述べた。
しかし、今週は、「この問題は敏感さに関係しています。私たちがコメントするのは私たちのためではありません。」しかし、事故が狭い台湾海峡で起こったことを示唆した最初の報告に反して、報告は現在、災害が黄海で起こったことを示しています。
台湾国防部総参謀本部情報弁公室の黄文奇少将は、関連情報は「絶対に機密」であるため、これについてコメントしないと述べた。彼は、「機密性が関係しているため、開示するのは便利ではない」と付け加えた。
以上抜粋終わり
黄海で事故はあったらしいが機密なので断言しないというもやもやする話で終わってます。
10月５日にはEurAsian Timesもデイリーメールの記事を紹介してしてました。
情報ありがとうございます。
追記させていただきました。
別ネタ
中国国有企業が有事の際に人民解放軍指揮下に入る人民武装部を設立させている、キナ臭さが増してきました。
コレも凄い話ですね。
ちょいと情報が足りないので、まだ記事にできていませんが…。
こんにちは。
・黄海のような浅い海で、
・攻撃型原潜を
へらへら遊弋させておく意味が分からないので、八割ガセだと思っています。
※自分でしかけた罠にはまるバカも……いや……しかし……
ただまあ、原因はともかく、何らかの理由で乗員の半数を失う事故を起こした可能性はあるかも。
K-219みたいに。
※でもって、レインコート着て原子炉止めに行けば、そりゃ半数は死ぬかと。
こんばんは。
台湾軍も同じ様に「黄海で原潜事故？そんなバカな」と考えたことでしょう。
しかし、イギリスからのレポートはやけに詳細ですし、黄海以外の近海という方向に広げると、多分、十分な情報収集が行えていないので、トーンダウンしたということのような気がします。
それと、実際に、093-417の追跡が行えない状況なんじゃないでしょうか？だから、「もしかして」というスタンスに変わったと。
まあ、妄想の域を出ない話ではありますが。