これはまた……。
イラン軍事精鋭部隊 隣国パキスタンの武装組織の拠点を攻撃か
2024年1月17日 21時28分
イランのメディアは、軍事精鋭部隊が隣国パキスタンにある武装組織の拠点を攻撃したと伝え、これにパキスタン政府が反発しています。イランはイラクやシリアにも越境攻撃を行ったばかりで、地域情勢の不安定化が懸念されます。
NHKニュースより
なんというか、ろくな事しないなイランの革命防衛隊は。インドも黙っていないと思うんだが。
宗教に国境はない
宗教組織の軍隊
で、イラン軍(革命防衛隊)が何故、パキスタンに軍事的な攻撃を加えたかということなんだけど、表向きは宗教対立ということになっている。
イランのメディアは16日、軍事精鋭部隊の革命防衛隊が、隣国パキスタン南西部のバロチスタン州にあるイスラム教スンニ派の武装組織の拠点をミサイルと無人機で攻撃したと伝えました。
NHKニュースより
イランはシーア派が多数派を占めていて、スンニ派との武力衝突を起こすこともしばしばあるという。しかし、シーア派とスンニ派というのは経典の解釈の違いがあるだけで、必ずしもお互いを憎悪しあっているというわけではないようだ。
ただ、対立構図として分かり易いので、シーア派、スンニ派がどうのと言う話がされるし、実際、対立しているのも事実だ。ただ、今回の話は「それだけではない」ということだと思う。
何故ならば、革命防衛隊はイランの正規軍ではあるのだけれども、イスラームの宗教指導者直属の部隊である。イスラム軍はイスラム政府に属する軍隊であるので、イスラム革命防衛隊とは指揮系統が異なる。イスラム軍扱いはされているんだけどね。
故に、今回の作戦は宗教指導者の意向を反映したものである可能性が極めて高い。
イランの軍事構造はこんな感じになっていて、正規軍と革命防衛隊の指揮系統が異なる事は既に前述した通り。そして、イラン国内では正規軍と革命防衛隊は同格か寧ろ革命防衛隊の方が重視されている傾向にあるようだ。なお、図にあるコッズ部隊とは対外テロ活動をしている組織であると公安調査庁に紹介されている。尤も、テロ組織認定したのはアメリカ国務省なんだけどね。
イスラエルのテロ組織ハマスを支援
そして、そのコッズ部隊がイスラエルの戦争に深く関わっているという。
イランはイスラム・テロ組織ハマスともかなり親密な関係を続けていたと言われていて、自身もその事を認めている。
イラン「コッズ部隊」司令官、ハマス支援を表明
2023年11月17日午前 6:47
イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のイスマイル・ガアニ司令官は16日、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの戦争においてハマスを支援すると述べた。イランのタスニム通信が報じた。
ロイターより
そもそもハマスの軍事訓練をイランで行っていたという話もあって、イランとハマスの関係は深い。
そして、イエメンの件にもイランが関わっていて、軍事的にも支援しているというから、「なにをしてくれてんねん」と思わず関西弁で突っ込みを入れるほど、現在の国際情勢に大きく関わっているのがイランなのである。
イランにしてみたら、「アメリカが悪い」という事になるのだけれど、彼らのロジックは彼らのロジックとして尊重したとして、それが日本から見て納得できるものであるかはまた別だ。
イラン革命防衛隊が米国などに警告 「イスラエル支援なら地中海封鎖」
2023年12月25日(月)12時45分
イラン革命防衛隊のナクディ調整司令官は、米国やその同盟国がパレスチナ自治区ガザで「犯罪」に関与し続ければ、「程なく地中海、すなわち(欧州とアフリカを隔てる)ジブラルタル海峡などの封鎖に直面することになる」と警告した。イランのタスニム通信が23日に伝えた。
Newsweekより
このようにイエメンの件は、去年末に革命防衛隊からアメリカに向けて警告があった。しかし、アメリカの立場を考えると、革命防衛隊に脅されたから「じゃあ、イスラエルを見捨てます」とはならない訳で。それが出来るくらいならば、最初からイスラエルに肩入れするようなアホな真似はしない。
今回に限って言えば、イスラエルのテロ掃討作戦はお題目だけには賛同できるが、その作戦を考えるとどう見ても応援できる内容ではないのだ。
アメリカだってそのような立場なのだが、それを表だって言うと国内のユダヤ人達が暴れ出してしまう。
イスラエルのスパイ拠点を攻撃
そして、冒頭の事件の前日にはこんな話が。
イラン革命防衛隊、イラクでイスラエルの「スパイ拠点」攻撃
2024年1月16日午後 12:13
イラン革命防衛隊は、イラク北部クルド人自治区の主要都市アルビル近郊にあるイスラエルの「スパイ拠点」を攻撃したと明らかにした。国営メディアが15日に報じた。
革命防衛隊は声明で「イランと敵対するテロ集団のスパイ拠点」を弾道ミサイルで攻撃したとし、イスラエルの情報機関モサドに言及した。
ロイターより
イラン革命防衛隊、各国に戦争ふっかけすぎである。
治安筋によると、アルビルの北東約40キロの地域で爆発音がした。米領事館や一般市民の住宅に近い地域という。
ロイターより
そして、アメリカの逆鱗に触れそうなことも平気らしい。何なんだろうね。何がしたいのやら。
革命防衛隊はさらに、シリア領内の過激派組織「イスラム国」(IS)に対しても攻撃を行ったと表明。イランで「テロ活動」を展開する勢力を攻撃したとしている。
ロイターより
なお、シリアにも攻撃を加えた模様。
これも、テロ組織ISへの攻撃ということなんだけど、なぜ越境攻撃をいとも簡単にやらかすのか。
そういえば、イラクにも攻撃していたな。
イラン“イラクにあるイスラエル情報機関を攻撃”国営通信
2024年1月16日 10時13分
イランの軍事精鋭部隊は、司令官らを殺害された報復として、隣国イラクにあるイスラエルの情報機関の拠点を弾道ミサイルで攻撃したと発表しました。両国の間で報復の応酬がエスカレートすることが懸念されます。
NHKニュースより
本当に何がしたいんだ。
イラン国内で大佐が射殺される
で、報復の話なんだが……。イラン革命防衛隊がパキスタンにある武装組織の拠点を無人機などを使って空爆したら、何故かイラン国内で暗殺事件発生。
イランとパキスタンは隣国同士なので、越境攻撃もドローンを使えば余裕なんだろうが、その報復がイラン国内でイランのスンニ派武装勢力の手によって行われているところが、今回の問題の根深さを感じる。
イラン革命防衛隊大佐、射殺される=スンニ派武装勢力が犯行主張
2024-01-18 06:52
イラン国営メディアによると、同国の精鋭部隊、革命防衛隊の大佐が17日、南東部シスタン・バルチスタン州で何者かに射殺された。イランのイスラム教スンニ派反政府武装組織「ジェイシュ・アルアドル」が犯行を主張。イランが16日に、隣国パキスタンにある同組織の拠点をミサイルや無人機で攻撃したことへの報復とみられる。
時事通信より
もうメチャクチャだよ。
ただ、この話を「宗教に国境はない」という風に整理すると、単純な宗教戦争のようにも映るし分かり易い。分かり易いが、宗教を御旗に掲げた部族の闘争という風に整理した方が最も実態に近いのではないか。
革命防衛隊に国境は関係ない
ことの顛末はどうなるか未だ分からないが、イランは今日になってこんなことを言い始めた。
イラン、パキスタンと良好な関係を保つと確約 ロシアなど自制呼びかけ
2024年1月19日午前 5:24
イラン外務省は18日、パキスタンと良好な隣人関係を保つと確約する声明を発表した。同時に、パキスタンがイラン領内に「テロリストの拠点」を設置することを阻止する必要があると強調した。
イランが16日にパキスタン領内の武装組織拠点を攻撃したことを受け、パキスタンは18日、隣接するイランのシスタンバルチェスタン州で武装勢力を標的に軍事攻撃を行ったと表明。
ロイターより
何言っているんだ、コイツ。元はといえば革命防衛隊の暴発が原因だろう!
ただ、ここで思い出して欲しいのはイラン政府には革命防衛隊の手綱が握れないと言うことだ。上でも言及したが革命防衛隊は宗教指導者の直属の軍隊であり、国軍扱いであるがその実、宗教指導者の意向で動く私兵のようなものだ。
イランの現政権は1979年に革命によって成立した政権であり、その革命は最高指導者はホメイニ氏によって為された。元々イランは王政であり、王の直轄軍が国軍であったが、革命によって王は国外逃亡した。その結果、国軍は政府の指揮下に入った訳なんだけど、革命防衛隊は革命の精神を国内外から守るために創設されている。革命防衛隊にとって国境は関係ないのだ。
そして、イラン国軍は革命防衛隊から監視される対象でもある。
ひとまずは混乱の拡大に抑止力が働きそうだが
ロシアが仲裁に入る
今回のこの件に関して、何故かロシアが口出しをしてきた。
こうした事態を受け、ロシアは両国に対し最大限の自制を示し外交を通じて意見の相違を解決するよう要請。ザハロワ外務省報道官は、両国が共に地域協力組織「上海協力機構(SCO)」に加盟していることに言及し「パートナーシップ関係を発展させている友好的なSCO加盟国の間でこうした事態になっていることは遺憾だ」と述べた。
ロイターより
何故ロシアが?と思われる方は、こんなニュースを思い出していただきたい。
【解説】ロシアがイランにも接近 無人機など供与の可能性
ロシアは、ウクライナで使用する弾薬・兵器を獲得するため、北朝鮮に接近していますが、同様に接近した国がイランです。
NHKニュースより
イランは、すでにロシアに対して大量の無人機を供与したと見られています。
イラン政府はロシアへの武器供与を否定しているが、そりゃ事実でも否定はするだろう。しかし、イラン製の無人機はウクライナを飛び交っていることが確認されている。
この話を矛盾なく解決するには、革命防衛隊からの武器供与の可能性である。尤も、そうだったとしてもイラン政府が「知らない」と言ったり、「関与していない」と言ったりするのはおかしい訳で、結果的にはイラン政府が嘘を付いていることになるのだが、イラン政府がロシアへの武器供与に否定的でも、革命防衛隊からの武器供与はイラン政府にも止められないのが現実である。
で、ロシアが何故、イランとパキスタンとの仲裁に乗り出したのかといえば、話は単純だ。
イランはロシアに無人機だけでなく弾道ミサイルを供与する可能性もあるとされています。北朝鮮に加えてイランの動向も目が離せない状況です。
NHKニュースより
今、イランからの武器供与の道が途絶えては困るのだ。北朝鮮からの武器はあまり役に立っておらず、イラン製の武器、金銭的な援助は止められると困る。
トルコもイランとパキスタンに加え、イラクに自制と良識を示すよう呼びかけている。
NHKニュースより
トルコとしては、これ以上混乱が拡大するのを避けたいのだろう。
パキスタンは越境攻撃
既にパキスタンは軍を動かしてしまっている。
パキスタン、イラン領内を攻撃 9人死亡、越境攻撃の報復か
2024年01月18日17時52分
パキスタン外務省は18日、パキスタン軍が同日朝に隣国イラン南東部シスタンバルチェスタン州を攻撃し、複数人を殺害したと発表した。イランメディアによると複数回爆発があり、少なくとも9人が死亡した。イランの精鋭部隊、革命防衛隊が16日にパキスタンを越境攻撃したことへの報復とみられる。
時事通信より
イランのテロ組織、革命防衛隊(記事ではイランの精鋭部隊となっているが、鼻で嗤う表現である。どう考えても国際テロ組織だ)は、パキスタンに対する越境攻撃を加えたのだから、パキスタンとしても何らかの報復を行うのは当たり前だろう。それが良いとか悪いとかそういう話をしているのではなく、舐められたらオシマイなのだから。
パキスタン外務省は声明で、イラン領内にあるパキスタンのテロリストの潜伏先を狙ったと主張。「複数人のテロリスト」を殺害したとして「あらゆる脅威から国の安全を守る揺るぎない決意を示した」と強調した。
時事通信より
尤も、その主張は「イラン領内にあるパキスタンのテロリストの潜入先を狙った」と言う事になっていて、報復措置ではないとしている。
つまり、イランもパキスタンも表向きはテロ組織壊滅を狙った作戦であるということにしているのだ。国家同士の戦争に発展しないようにする方便ではあるが、建前は大切である。
手塚治虫の漫画「ブラックジャック」の中で「戦争はなおも続く」というタイトルの回があるのだが、その中で、イラヌ国とイル国の戦争という表現が出てくる。
何がドウとは言わないけどさぁ、イランは本当にイランことを。
パキスタンは核兵器を保有しているといわれているし、イランもおそらくはソレに近しい兵器を保有している。
イラン最高指導者、核兵器保有「西側は止められず」
2023年6月12日 8:47
イランの最高指導者ハメネイ師は11日、同国の核兵器保有について、西側諸国に「止めることはできない」と述べた。一方で、「宗教上の信念から(保有を)求めていない」とも語った。ロイター通信がイラン国営メディアを引用する形で伝えた。
日本経済新聞より
最高指導者のハメネイ氏(誤記ではない)も、こんなことを抜かしおる。ロシアとしても核戦争を始めて貰っては困るんだろうね。
これもかなり気になる事案ではあるが、注視するしかない。日本のシーレーンにも関わってくる話だけに無関係でもいられないところが辛いところだ。
それにしてもイランの行動のチグハグ感は、革命防衛隊の暴走というよりは内部で意思統一ができていない感じの方が強そうだな。残念ながらその勘を裏付ける情報は今のところ無いのだけれど。
コメント
イスラエルはハマス、フーシ、ヒズボラのような武装組織に多数囲まれてても多正面攻撃する能力があります。
軍事力も相当ですが情報機関も凄まじいのでしょう。
イスラエルは軍事国家ですから多数の武装組織でも相手にするのでしょうが、イランもかなり軍事に力を入れていますから、正面から激突するようなことになると目も当てられませんね。
諜報機関もかなり暗躍しているようですが、そも両国がやっているわけで。
こんにちは。
>何なんだろうね。何がしたいのやら。
日本人にとってわかりづらいのが、私見ですが、
日本人:バチは神様から直接来る(ほとんどの場合、災害という形で)
彼ら:自分は神の代弁者、神の使いであり、自分の言動はすなわち神のそれと同義である。従ってこれ(テロ行為)は神の意志の具現化に他ならない(自分の欲求を神の意志と同一化出来る)
の違いなのでは。
>宗教を御旗に掲げた部族の闘争
恐らく、アラブ地域には(アフリカも)国家と言う概念は無くて、せいぜいにたような意見の部族の寄せ集め程度の認識で、だから、部族間対立で簡単に内戦にもなるし、利益を共有する集団(≒国家)は簡単に他部族にケンカ売るのでしょう。
これを上手いことだまくらかして、一時的に共闘させて英国の利益に繋げたのがアラビアのロレンスで、だから戦後、彼は(事故を装って)闇に葬られたのでは……なんて。
>革命防衛隊に国境は関係ない
「革命」をお題目にする連中に、ろくなヤツが居た歴史は見たことないですね。
本当に「第三次大戦は既に始まっている」のでしょうね……
こんばんは。
取り敢えずはイランが和平を模索という方向に動いているという報道を見かけましたが、それが出来れば苦労はしないわけで。
革命防衛隊の尻ぬぐいって感じですが、どうなることやら。