このニュース、余り気にしていなかったんだけど、よく読んだら悪意を感じる内容だな。
マイナンバーとひも付けの保険証情報 台帳と不一致 約139万件
2023年12月12日 13時15分
マイナンバーとひも付けられた健康保険証の情報について、政府が住民基本台帳と照合したところ、氏名などが一致しないケースがおよそ139万件にのぼっていることが分かりました。このうち、別人の情報がひも付けられているのは450件程度と推計していて、来年春までに確認作業を終えるとしています。
NHKニュースより
139万件もエラーがあったのか!という怒りが湧いてくるようなタイトルの付け方だもんね。
偏向される理由
別人に紐付けたケースは1万6千件
NHKとは別のソースを紹介しておく。こちらは産経新聞の今日のニュースである。
マイナンバー「別人にひも付け」1万6千件 総点検が終了
2023/12/12 19:15
岸田文雄首相は12日、マイナンバー情報総点検本部の会合で、従来の方針通り来秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに統一した「マイナ保険証」に移行することを表明した。総点検本部は同日、個人情報を誤って別人のマイナンバーにひも付けた例が計1万5907件確認されたと発表。一部のデータを除き、点検は終了した。
産経新聞より
印象としては、マイナンバーカードは「ダメ」という印象は強いんだが、NHKニュースの139万件と産経新聞の1万5907件と比べると100倍近い数字の乖離がある。
何で?
これはNHKニュースの数字が、「マイナンバーとひも付けられたすべての健康保険証の情報」に、「住民基本台帳と氏名や生年月日、性別などが一致しないケースがおよそ139万件」という事になっているのに対して、産経新聞ニュースは、「個人情報を誤って別人のマイナンバーにひも付けた例が計1万5907件」と、別の数字を示しているからだ。
数字が違うのは示している対象が違う。そりゃ、当たり前である。
健康保険証の情報は正しかったのか?
気になるのはNHKニュースの方の数字で、健康保険証の情報が住民基本台帳の情報と齟齬があるという事が問題だと思われる。
詳しい情報がどこか似ないかと思ったら、こちらに詳しい内容が。
マイナ保険証を巡っては、医療情報や医療費の負担割合にも影響することから、保険者による総点検に加え、住民基本台帳との突合も実施してきた。その結果、マイナ保険証と住民基本台帳の間で、生年月日や性別の不一致が2779件、氏名等の不一致が約139万件判明した。氏名等の不一致とは、(1)氏名の漢字とかな表記がいずれも異なる場合、(2)もしくは氏名の漢字とかな表記のいずれかが異なり、かつ住所も異なる場合――を指す。大半が表記の揺らぎとみられるが、先行して5保険者(146万人分)を調べたところ、双子や家族内での取り違いがあり、生年月日や性別の不一致のうち3.6%、氏名等の不一致のうち0.025%は別人と紐付けられていた。
m3.comより
この記事は、日本最大級の医療専門サイトを謳うm3.comさんのニュース記事なのだけれど、139万件の氏名などの不一致のうち表記の揺らぎが大半であるということのようだ。
例えば、「渡辺」と「渡邊」とか、そういう表記揺れだってことらしいね。住民基本台帳の情報が正しいとすると、保険証の情報やマイナンバーカードの申請時には「正確な情報」を入力しなくとも登録が可能なケースが考えられるので、日常的に簡略記載を使っている方なんかは、エラーに含まれるって事になるんだろうと思う。
これ、保険証作成時にそもそも住民基本台帳との照合を行っていないため、本当は健康保険証の情報が正しいのか、マイナンバーカード申請時の情報が正しいのかがハッキリしない。
このほか、総点検などの結果が報告され、マイナ保険証が別人に紐付けられるミスが累計8695件に上った。患者の負担割合が異なっていたケースも計2万1574件あった。負担割合については、2023年度中にシステム改修を行い、その後も定期的にチェックする仕組みを導入する。
m3.comより
その上、マイナンバーカードの情報も人手で入力するために、誤った情報が入力された可能性がある。
つまり、健康保険証とマイナ保険証の情報の齟齬というのは、3つパターンが考えられる。
- マイナンバーカード申請時に発生した申請者による入力ミス
- 健康保険証申請時に発生した申請者による入力ミス
- マイナ保険証とマイナンバーカードとの紐付け時に発生する保険者の手続きミス
この3つの類型にも申請方法の違いなどから生じる細かい派生要因は考えられるが、結局のところマイナ保険証を直ちに導入すると困るのが2万1574件ということっぽいね。
公表時点や集計方法によって若干数字が異なるのだが、1億人程度の人口のウチ、3万件弱にエラーがあったという事なので、割合としては0.03%程度。
人海戦術で入力していることを考えたら、まあ、優秀なんじゃないでしょうか。
人海戦術がそもそも問題
しかし、こうした人海戦術での作業でミスが起こりうる事が問題なのだが、こうしたミスは発覚したら修正すれば良く、1度修正すればそれ以降の同一要因によるトラブルは考えにくい。
再発防止策として、住民基本台帳ネットワークでの情報照会を厳格化するほか、総点検後も通常業務の中で確認を徹底するなどとした。
産経新聞より
運用としては、チェックを多重化するということを考えているようなので、ミスが発生したとしても、被害は抑えられるだろう。
しかし、「人海戦術」つまり「人による手入力が問題」というのであれば、寧ろ健康保険証利用時の方が問題であるという報告もなされている。
保険情報の誤りや不正使用は、全国で年間600万件にも上っており、その処理のための経費は1000億円を越えると推定されている。これは、クレジットカードの様な認証システムを導入すれば解決することである。本研究は、保険者の持つ被保険者データのデータベースと医療機関等をインターネットを介して結び、保険証の有効性を即時的に認証を行うシステムの開発である。しかし、健康保険情報はその安全管理に十分注意を払う必要があり、慎重な準備と技術的な検討が必要である。本研究は、実用可能なシステムの要件を整理して、システムの設計を行い、システムの動作検証を行う。
厚生労働省科学研究成果データベースのサイトより
実は、保険証の入力業務に関するミスや不正使用によって、全国で年間600万件ものトラブルがあるようで、その経費は1,000億円を超えるのだとか。
マスコミはこうした数字は公表したがらないが、今回のマイナ保険証に関する総点検に同額がかかっていたとしても、1回きりで終わる。
健康保険証の照合に関する事務的負担が、一体どの程度生ずるのかは把握していないが、マイナ保険証を導入すれば機械的に照合できるのでその負担は軽減するだろう。
まあ、新しいシステムへの対応を迫られる医療業界にとっては、面倒な話だとは思うけれども。
日弁連は反対
さて、こうした動きに対して反対を唱えているのが……、なんと日本弁護士連合会である。日弁連、何がしたいの?
マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書
2023年11月14日
~~略~~
1 政府は、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続するべきである。
2 政府は、マイナンバーカードの利活用については、カードを取得しない自由を保障するとともに、カードの取得を希望する者に対してプライバシーを最大限保障し、さらに、地方自治体等の意向を踏まえて現場に過度の負担をかけないようにするべきである。
日本弁護士連合会のサイトより
「何か良く分からんが、反対!」と言うことらしい。
いやいや、「現場に過度の負担をかけないようにすべき」って、日本医師会はそんな意見ではないようだけど。
現時点でのマイナ保険証に関する日本医師会の見解を説明
令和5年(2023年)8月5日(土)
オンライン資格確認におけるマイナ保険証のひも付けの誤りなどが報道され、国民や医療現場に不安と混乱が生じていることを受け、長島公之常任理事は、この問題の解決が喫緊の課題であり、現行の健康保険証が廃止される令和6年秋までに万が一体制が整わない場合は、保険証の有効期限延長の要請をし得るとの姿勢を示した。
同常任理事はまず、国が推進するオンライン資格確認を基盤とする医療DXが、日本医師会の目指す「国民・患者の皆様への安心・安全でより質の高い医療提供」と「医療現場の負担軽減」の実現に資するものであることから、全面的に協力してきたことを説明。
日医onlineより
「国民・患者の皆様のためには基本的に賛成」「でも、ミスはしっかり対処してよ」「間に合わなかったら延期で」という実に現実的な声明である。
業界的には面倒を背負い込む部分はあっても、メリットもあるだろうという判断なんだろうね。
外国人の医療費未払い 病院の約2割が経験 総額9300万円
2019/3/27 12:58
日本を訪れている外国人患者を受け入れた病院の約2割が、医療費の未払いを経験していることが、27日公表された厚生労働省の調査で分かった。未払い総額は約9300万円となり、最大で約1422万円に上る病院もあった。
産経新聞より
実は日本に外国人が増えることで、医療費を巡るトラブルも増えているのだ。
特に訪日外国人患者に関するトラブルが多いのだとか。もちろん、マイナ保険証を導入したらこの手のトラブルが無くなるという話ではないのだが、この話は直接的に関係しないまでも、こういう話と繋がってくる。
24歳年下になりすました女を再逮捕 健康保険証を不正取得した容疑
2023年11月10日 14時19分
実在しない人物の戸籍を作成し、24歳年下の「妹」になりすましたとして警備員の吉野千鶴容疑者(73)=東京都大田区=と夫(65)が有印私文書偽造・同行使などの疑いで逮捕された事件で、警視庁は10日、偽造書類で国民健康保険証をだまし取るなどしたとして千鶴容疑者を詐欺容疑などで再逮捕し、発表した。容疑を認めているという。
朝日新聞より
こうした不正取得のケース、或いは健康保険証の貸し借りをするというケースなど、医療費のトラブルは結構多い。恐らく億単位の損害を生じている。
が、保険医協会はこれを否定しているんだよねぇ。
……嘘くさい。
そして、医療機関側の転記ミスは存在していることは認めている。それに「損害が生じている」かどうかは触れていないね。
反対する方々
で、この件、誰が反対しているのか?と言うお話。
実施させぬたたかい これから
2023年6月3日(土)
マイナンバーカードをめぐる誤交付、誤登録が制度の土台を揺るがすなか、保険証を廃止しマイナンバーカードを国民に強要する改定マイナンバー法が2日、参院本会議で、自民、公明、維新、国民などの賛成で可決、成立しました。日本共産党、立憲民主党は反対しました。
しんぶん赤旗より
あ、日本共産党ですか。
河野デジタル相「イデオロギー的に反対する人はいつまでも不安」来秋の保険証廃止、国民の不安「措置した」
2023年12月12日 18時48分
政府は12日、来年秋に現行の健康保険証を廃止する方針を打ち出した。河野太郎デジタル相は記者会見で、健康保険証を来年秋に廃止する理由について、マイナンバーを巡る総点検が終了したことを念頭に「国民の不安を払拭する措置を取った」と強調。「イデオロギー(政治思想や理念)的に反対される方は、いつまで経っても『不安だ』『不安だ』とおっしゃるでしょう。それでは物事が進みませんので、きちんとした措置をとったということで進めます」と述べた。
東京新聞より
そして、この手のことをハッキリと言ってしまうのが河野太郎氏である。この人、信用は出来ないけどこういうところは好きだよ。
イデオロギー的に反対される方、ですか。
つまり、NHKはそっち側ってことっすかね。単純な入力ミスで運用に問題がほぼないだろうと思われる数字の方を取り上げて批判的に情報を流す。完全に偏向を意図しているんだろう。
個人的に、マイナ保険証の導入はありがたい。が、これ、導入するならばお願いだから診察券と統合して欲しい。お薬手帳との統合は可能になったのでコレはありがたいんだけど、もう一歩やって欲しいところ。何だったら、マイナ保険証で医療費の支払いってところまで行って欲しいんだが。
余談になるが、このブログではインボイス制度には賛成していた。消費税に軽減税率を適用するならば、制度的に必要という立場だからだ。ただ、個人事業者との付き合いがあって、色々ヒアリングしたら、まあ面倒くさい手続きが必要になったということを理解した。この辺りは会社員には実感の無い部分なので申し訳なく思うのだが、納税コスト(作業コスト)がかかるのは本当にダメだと思う。方向性は悪くないんだけど、もっとシステムをしっかり考えて手続きが単純化出来るようにして欲しい。
マイナンバーカード絡みの話も同じで、多くの方の利便性が向上し、違法な使い方がしにくくなるようになるべきであると思っている。是非とも、その辺りも念頭に政策を進めて欲しいね。
追記
マイナンバー情報総点検をやっているのは、デジタル庁である。
マイナンバー情報総点検本部
マイナンバーの紐付けに誤りのある事案が複数発生していることを踏まえ、デジタル庁を中心として、関係府省と連携して政府全体で総点検と再発防止を強力に推進するために設置します。
デジタル庁のサイトより
コメント頂いたのだが、この記事で引用したNHKニュースの記事の数字、「139万人分の数字」とは一体何なのか?という事は、実は僕が良く分かっていない。
最新のデータはこちらで、これによれば、以下のような数字となるようだ。
- 紐付け誤り 8,351件
……あれ?総点検本部のデータがNHKの報道と違うのは何で??
えっと、別の情報から引用しよう。
こちらは記者会見の要旨が纏められている。
- 個別データの点検対象となったデータ件数 8,208万件
- 紐付け誤り 8,351件
おかしいな。
要旨を読み進めていくと、下の方にこんなQ&Aがある。
(問)4点質問させていただきます。本日、10月以降の医療現場におけるマイナトラブル調査を発表させていただきました。総点検本部では、医療保険者による総点検を7月に終了したとしておりますけれども、その後も医療現場では紐付けミスが生じております。国民の不安払拭とはほど遠い現状について、政府としてどう認識されておるのでしょうか。2点目、登録済みデータの住民基本台帳との突合について、少なくとも139万件で氏名等不一致があったことが報告されております。総点検はまだ終わっていないのではないでしょうか。旧字又は異体字などの漢字氏名においては、5情報で住民記録との一致を点検したことにはならないのではないでしょうか。3点目、負担割合の相違が再点検で15,879件判明したこと。最終的には被保険者は正しい割合で負担となっているとおっしゃっていますけれども、緊急調査では10月以降で127医療機関から返戻があったと回答されております。オンライン資格確認のデータを信じられないとの受け止めが広がっております。不安払拭とはほど遠い状況だと言えます。負担割合の誤登録は今後もなくならないのではないでしょうか。4点目、顔認証マイナカードは、自治体現場と医療現場に大きな混乱をもたらすことになります。マイナカードを保有する方でマイナ保険証の利用登録をしていない方が電子証明書の暗証番号をロックした場合、顔認証しか利用登録できなくなります。顔認証付きカードリーダーのトラブル自体が39%で確認されており、相当な混乱が予想されます。そのことについて、どのように認識されておられますか。
(答)紐付け誤りは、健康保険証につきましては、何重にもチェックをしておりますので、かなり少ないと思っております。残っている部分は、厚生労働省が春に向けて点検しておりますので、もしあればそこで修正ができるものだと思っております。厚生労働省の点検の中で、異体字その他まだ残っているものについては、春までに点検いたします。返戻につきまして、若干あるという話は聞いておりますが、おそらく紙の保険証よりははるかに少ない確率になると思いますので、むしろ病院にとってはプラスだと思います。顔認証のカードは医療DXにとっては大きなプラスになると思っておりますので、これは現場の話を聞きながら、また総務省と相談して、改善点があれば改善してまいりたいと思います。
河野太郎記者会見の内容より
……質問やんけ!
質悪いなぁ、NHKはおそらくは全国保険医団体連合からの質問をベースにしているようだ。
で、これが全国保険医団体連合のニュースによるもので、氏名等の不一致として報告された数字が「139万人分」の正体っぽい。
コメント
139万人分の、保険証の不正利用が白日の元にさらされた、でFA?
※むしろ、その不正利用を遡って立件していただきたい。
※誰が不正利用しているのでしょうね?
少なくとも、139万件の「不正な情報」が、マイナンバーだと450件ほどに激減した、そういう事ですよね。
いやー、139万人分の数字、何なのかハッキリしないんですよね。
デジタル庁が公開している数字を追記しておきます。