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抜群の安定力、H2A打ち上げ成功で月面探査に近づく

科学技術
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偶には朗報も書かないとやっていられない。

H2A打ち上げ成功、年末ごろ月に探査機到達 観測衛星も搭載

2023年9月7日午後 2:16 GMT+91日前更新

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発したH2Aロケット47号機が7日午前、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、月探査機と観測衛星を予定通り分離した。探査機は年末ごろ月の周回軌道に到達する。着陸は年明けを見込み、成功すれば8月のインドに続き5カ国目となる。

ロイターより

今回打ち上げたH2Aロケットは、無人月探査機SLIMを搭載していることで注目が集まっていた。

打ち上げ成功によって広がる可能性

H2Aの成功率は97.9%

日本の誇るロケット技術の粋を詰め込んだH2Aロケットは47回打ち上げ、46回の打ち上げに成功している。

失敗したのは6回目の打ち上げの時で、この時は固体ロケットブースターの分離に失敗してその分デッドウェイトが増えたせいで予定速度に達することが出来なかったため、衛星軌道投入が不可能と判断されて破壊指令が出されている。

H2Aの打ち上げ費用は1基あたり110億円程度。国際的にみて割高な面があり、H3ロケットが開発されているのだが、H3ロケット1号機は打ち上げに失敗。打ち上げ費用は50億円程度の圧縮できると言われているが、成功してこそである。

無人月探査機「SLIM(スリム)」は打ち上げから3─4カ月後に月の周回軌道に到達、4─6カ月後に月面に着陸する。目標地点に誤差100メートル以内で着陸することを目指し、狙った地点に降りる技術を実証する。月の岩石なども調べる。これまでの着陸機は数キロから十数キロの範囲に降りていた。

スリムの取得データは宇宙飛行士の月着陸を目指す米国主導の国際プロジェクト「アルテミス計画」にも活用される。

X線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」は、X線で宇宙を観測する。星や銀河の構造などを探る。

ロイターより

何しろ、宇宙に衛星を運んでナンボという部分があるからだ。

無人月探査機「SLIM(スリム)」

そして今回、宇宙に運んだのは無人月探査機「SLIM」だ。

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なんかちょっと面白い形をしているのだが、これは月面への着陸方法を工夫したからこそってことらしい。

SLIMは限られたリソース(許容重量)を各コンポーネントにうまく割り当てて月を目指します。その対象には、月へ辿り着き、着陸するまでに必要な推進薬も含まれます。そこで、SLIMでは下図のような軌道を検討しています。地球の周りを周回しながらタイミングを見計らい、遠地点(=地球とSLIM探査機が一番離れる点)を月軌道の距離まで押し上げます。その後、月の近傍を通過する際に月の重力を利用して軌道変更する月スイングバイを行い、遠地点高度をさらに上げます。月スイングバイ後は、太陽潮汐力を利用して月との会合ポイントへ到達します。

JAXAのサイトより
img

先ずはスイングバイで月周回軌道を目指し、そこから着陸を目指すんだけど、興味深いことに何故か横向きに着陸することになっているらしい。

img

これはどうやら着陸姿勢の工夫で軽量化を実現したってことらしい。簡単に説明するとダンパー機構を省略したのである。

「アポロ」などでは、一種の“関節”(リンク機構)をもつ脚で衝撃を吸収していました。しかしリンク機構を採用すると、着陸着部分が大きく・重くなってしまいます。  そこでSLIMでは全く新しい発想での着陸脚を開発しています。現在開発中の脚は、金属を3次元積層造形(3Dプリント)でスポンジ状に出力して作ったシンプルな構造です。スポンジ状の構造が潰れることにより着陸の衝撃を吸収する仕組みです。地上でのテストでは実用に足る結果が出ており、採用を有望視されています。

JAXAのサイトより

サイトの動画を見てもらうとわかるのだけれど、車のクラッシャブルゾーン的な発想で、足先に付けた球体が潰れる時に力を分散しながら着陸する計画のようだ。

月にも重力があるので、着地の時に探査機の全重量を足で受け止める必要がある。そこでこれまではダンパー機構を使って衝撃を吸収していたのだけれど、ダンパーはどうしても重くなる。しかし、そもそも着陸は1回だけだ。1回きりの着陸なら、他の方法があるのでは?ということになったようだ。

着陸は難しい

なお、このSLIM計画が成功できるかは「運」の要素もあるとは思う。

月面着陸失敗 ベンチャー企業「高度の認識ずれ 燃料尽き落下」

2023年5月26日 21時28分

世界初の民間による月面着陸を目指し、地球からおよそ38万キロ離れた月に着陸船を送ったものの、先月、着陸に失敗した日本のベンチャー企業が会見を開き、着陸船が月面にある崖の上を通過したあと高度の認識にずれが生じ、燃料が尽きて5キロほどの高さから落下したと明らかにしました。この企業では、対策を講じたうえで来年、再び着陸に挑む予定です。

NHKニュースより

今年5月に月面着陸を目指した日本の民間企業の着陸船は、着陸に失敗。

8月にはロシアも失敗をしている。

ロシア宇宙機関、無人探査機が「月面に衝突し消滅」 約半世紀ぶりの計画失敗

2023年8月21日

ロシアの国営宇宙公社ロスコスモスは20日、11日に打ち上げた無人月面探査機「ルナ25号」が制御不能になり月面に墜落したと発表した。約半世紀ぶりの月探査は失敗に終わった。

BBCより

一方、インドは成功させたようで、大きなニュースになっていた。

インドの無人探査機が月の南極に着陸 世界初

2023年8月24日

インド宇宙研究機関(ISRO)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が23日、世界で初めて月の南極に着陸した。

BBCより

では、日本の技術はインドより遅れているかというと、それもちょっと違う。インドのチャンドラヤーン3号によって打ち上げられた着陸船の総重量は1,752㎏。難しい南極地点に着陸させたことで「世界初だ」と称賛の声が上がった。

確かに重量物を安全に着地させる技術は素晴らしいと思う。そして、確実に着陸ポイントにたどり着けたことも素晴らしい。だが、インドの場合は着地地点が南極地点だったことが素晴らしいかったが、技術的課題は既にアメリカなどが達成したモノではある。

一方、日本のSLIMは210㎏しかない。重量が軽い=詰め込める機能が少ないということにはなるけれど、ロケット打ち上げ費用を下げられるという大きなメリットがある。重量リソースを他の事に回せるというのは、大きな意味があるのだ。

そして、こういった工夫は日本の得意分野でもある。頑張って欲しいところだ。

なお、月の表面への着陸は来年の2月になるらしい。

X線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」

さて、SILMと一緒に載せてH2A47号機に打ち上げられたも1つの観測機がX線分光撮像衛星「XRISM」である。

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XRISMプロジェクトのミッションは、2016年に運用を停止したX線天文衛星ひとみASTRO-Hが担っていたサイエンスである「超高分解能X線分光による宇宙物理の課題の解明」を早期にかつ確実に回復すること。

XRISMには、従来の30倍のエネルギー分解能を有する分光計、焦点距離12mの望遠鏡を保持する構体の熱歪制御などの高度な技術が搭載されている。

X線分光器というのが、何をするのかという事を説明するのは難しいのだけれど、X線スペクトルを得ることで、元素組成比などを調べることが可能となる。

図1

これはひとみASTRO-Hの成果の1つで、ペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトルである。此れで何が分かるのかと言えば、宇宙の化学進化史や物質循環の歴史を解明することができる。

……まあ、ロマンだよね。

X線天文衛星ひとみASTRO-Hは、2016年2月に打ち上げられて様々なデータを取得出来て期待されたのだが、事故により僅か1か月でその運用が終わってしまった。

姿勢制御系が暴走し、強度の限界を超えて回転速度が上がり続け、最終的に分解したという壮絶な最期だったようだけど。

なお、今回打ち上げられたXRISMの重量は2.3tとSLIMに比べてかなり重量級である。SLIMが軽量だったために、一緒に打ち上げることが可能だったという訳だね。

まあ、何にせよ、ひとまずは両方とも軌道投入を確認できたので一安心だね。

コメント

  1. アバター けん より:

    おはようございます、

    宇宙関連には様々な研究分野があり裾野が広く、宇宙は深海と並ぶフロンティアです。
    打ち上げロケット技術を持っているかどうかが、今後のアドバンテージに関わるので、
    JAXAも民間も頑張ってほしい。
    H3やイプシロンの失敗原因も把握されたようなので、これからに期待しています。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。
      日本が長年培ってきた技術の集大成的な部分があります。
      外国に勝てる分野がある、そうなるように頑張って欲しいですね。

  2. アバター 河太郎 より:

    こんばんわ。直陸がこんな難しいとは思いませんでした。たしかに大気ないから
    翼のフラップとか使えないですものね。
    いや、コレは今後の外宇宙探査とか、将来に隕石の軌道を変えて避ける技術とかに繋がるかと想像してます。
    しかし、何十年も前に月面に着陸させたNASAは凄かったのだなぁ。高校の時の同窓が日産の航空宇宙研究所だかに勤めてましたけど。彼は弾道学とか流体力学の人でしたから、宇宙ゆくのと月やら他の衛星、惑星に着陸するのは違うと昔に言ってましたが、まさにそうか!な記事でした。あいつ今なにやってるだろ?

    • 木霊 木霊 より:

      重力が少ないのはプラスにも作用しますがマイナスにもなります。
      僕自身は航空力学の知識に乏しいのですが、地球上での常識が通用しないというのはなかなか厄介なようですね。
      小惑星に着陸することもかなり困難だったようですが、月のようにそこそこ重力のある天体はまた別の難しさがあるようで。これも継続してこそ、知見を高めることが出来るので、色々頑張って欲しいところです。

  3. アバター 匿名 より:

    H2Aの打ち上げが成功してホッとしました。
    H3ロケットの失敗はどうやら電気系統だったみたいですね。仮にエンジンや耐圧容器の異常といった機体そのものの不具合となると根本的な技術的要因となるので大幅な設計変更や基礎研究のやり直しが必要となります。そうなると延期は長期にわたる可能性もありました。しかし、今回はそうではなさそうで良かったです。そう遠くないうちに2号機は打ち上げられるでしょう。
    恐らくですが安全性や正確性をあまりにも意識し過ぎてしまい、過剰な設計になっていたのではないかと考えられます。

    • 木霊 木霊 より:

      H3ロケットの失敗原因が電気系統という話だったらしいというのは報道されていて、どうやら従来の設計を流用した部分に不整合があったようだと言うことですね。
      原因が特定できたことは喜ばしい話ですが、H2Aで問題にならなかった部分がH3で問題になった、というのはH2Aはかなりのオーバースペックで作られていた可能性がありますね。
      設計する上で、検討すべきところが漏れていたという可能性があったわけで、そこはどうかと思うんですが。
      まあ、次成功出来ればそれでOKなんですが。

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