この記事は取り上げようと思っていたのだけれど、後回しにはしていたんだよね。ただ、コメントをいただいたので触れておこうと思う。
米、日本に最大50発のJASSM-ER売却承認
2023.08.30
米国防安全保障協力局(DSCA)は8月28日(ワシントン現地時間)、日本政府に対し、ロッキード・マーティンが製造する「JASSM-ER」(JASSM-ER/AGM-158B)50発分、さらに関連装備品を対外有償軍事援助(FMS)で売却することを承認する決定を下したことを発表した。米国防安全保障協力局は同日、売却承認を議会に通知するため、必要な証明書を提出した。
航空新聞社より
報じられたのは28日で、引用した航空新聞社の記事は30日付の記事で報じられている。
スタンドオフ能力獲得へ
JASSM-ER
さて、この記事を何故気にかけていたかというと、JASSM-ERがスタンドオフ能力を持っているからだ。
敵基地攻撃の「スタンド・オフ・ミサイル部隊」設置へ 陸自の基幹に
2022年12月13日 12時01分
政府が改定する安全保障関連3文書に敵基地攻撃能力(反撃能力)を担う「スタンド・オフ・ミサイル部隊」を明記することがわかった。スタンド・オフ・ミサイルは遠方から敵を攻撃する長射程のミサイルで、3文書の骨子案には敵基地攻撃の際に活用することが明記されていた。13日に開かれた自民党の会議で政府が示した。
朝日新聞より
去年末にはスタンドオフミサイルの導入は確定次項になっていて、アメリカからはトマホークを買うという話が出ていた。
装備としては、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」や現在改良中の国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」(地上、艦艇、航空機発射型)、極超音速誘導弾などを盛り込んだ。
朝日新聞より
ところが、蓋を開けてみたらJASSM-ERを買う事に。どっちも巡航ミサイルなのだが、射程距離がちょっと違う。
航空機搭載型の巡航ミサイルはLRASMを採用する案もあったんだけどね。
31中期防
中期防衛力整備計画2019(31中期防)では、F-15の近代化改修計画が盛り込まれ、その改修内容の1つに「JASSMおよびLRASMの整備を進めること」が明記されている。
この時にはJASSM-ERの導入は視野に入っていたわけだ。ただ、F-15J-MSIP機の近代化改修に費用の問題が出てきて、LRASMの導入は見送られることになった。
【独自】空自F15、空対艦ミサイルの導入見送り…米が改修費の大幅増額要求
2021/08/04 06:52
防衛省は、航空自衛隊のF15戦闘機の能力向上を巡り、搭載予定だった空対艦・空対地長射程ミサイル「LRASM」の導入を見送る方針を固めた。開発元の米国側から改修費の大幅な増額を求められたことを受け、導入は困難と判断した。
対艦機能を見送ることから、「12式地対艦誘導弾」を基に開発する新たな国産の長射程ミサイルを改良し、F2戦闘機などに搭載して役割を代替する考えだ。
さらに中国の戦闘機の急速な近代化に対応するため、電子戦能力の向上を図り、米国製の空対地長射程ミサイル「JASSM」を搭載する方針だ。
讀賣新聞より
というわけでJASSM-ERである。
こんな感じの巡航ミサイルだね。
トマホークはまた別の話になると思うんだけど、とりあえずは先にJASSM-ERだな。
うんうん、……うん?
ラピッド・ドラゴン
そういえば、JASSM-ERといえばアレだ。ラピッド・ドラゴンだよ。
ミサイルごそっと一度に投下 輸送機が攻撃兵器に一変する「ラピッドドラゴン」とは
2021.12.31
2021年12月13日(月)、アメリカのフロリダ州にあるエグリン空軍基地の洋上試験場にて、アメリカ空軍の特殊作戦機MC-130Jの機内から長射程巡航空対地ミサイルJASSM-ERの試験弾(FTV)を搭載したパレットが投下されました。
その後、パレットから下向きに垂直に切り離されたFTVは、翼を展張してエンジンを点火し飛行を開始、目標に命中しました。このパレットとJASSM-ER、そして目標の位置情報などを受信する装置などを組み合わせたシステムこそ、現在アメリカ空軍が開発を進めている新兵器、「ラピッドドラゴン」です。
乗り物ニュースより
これは、ハッキリ言って動画見てもらうべきだと思う。
あっはっは。アレだ。此れの凄いところは輸送機からJASSM-ERを大量投下できるってところだよね。
C-2輸送機の攻撃機化
当然、日本でも運用するって話は出ている。
そんな戦い方!? 空自C-2輸送機「ほとんど攻撃機化」の全貌 ミサイル搭載だけじゃない
2023.08.16
2023年8月7日(月)の時事通信は複数の政府関係者の話として、防衛省が航空自衛隊の「C-2」輸送機に長射程ミサイルを搭載する検討に入ったと報じました。かねて話のあった「輸送機の攻撃機化」ともいえる構想が、かなり具体的になってきているようです。
日本政府は2022年12月16日に発表した国家安全保障戦略に、敵の防空システムなどがカバーする範囲の外側、それも可能な限り遠方から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の強化を打ち出しており、その一環として航空自衛隊の輸送機に搭載する長射程ミサイルの発射システムの開発を盛り込んでいます。ただ、このときには対象の航空機については「航空自衛隊の輸送機」としか書かれていませんでした。
乗り物ニュースより
ラピッド・ドラゴン自体はアメリカ軍で運用可能であることが確認されているので、JASSM-ERの販売承認のニュースが出た段階で、C-2へのラピッド・ドラゴン搭載計画はGOが出たんだなと理解すべきだろう。
同局は「F-15Jに限定されず、航空自衛隊が運用する戦闘機に搭載するための先進的な長距離攻撃システムを通じてスタンドオフ能力を提供することで、現在および将来の脅威に対応する日本の安全保障能力を向上することに繋がる」との見方を示しており、F-15Jへの搭載はもとより、F-35への搭載を視野に入れている様相だ。
航空新聞社より
航空新聞社はF-15Jへの搭載だけじゃなくて、F-35Aへの搭載を視野にいれているんじゃないの?と指摘しているが、恐らくはC-2への搭載を視野に入れていると思う。
また防衛装備庁は2023年2月27日に「C-2輸送機用誘導弾等発射システムの開発に係るデータ取得の検討」という業務の契約希望者を募集しています。この業務や時事通信の報道などから、日本政府と防衛省は長射程ミサイルの搭載母機となる航空自衛隊の輸送機を、C-2に絞り込んだと見て間違いないものと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
乗り物ニュースより
実際にそういう話が出ているという情報もあるので、まあ確定だろうね。
射程は1,000㎞だが
JASSM-ERを導入し、ラピッド・ドラゴンの運用を視野に入れてくると、C-2輸送機を使った後方からの攻撃が可能となる。
つまり、JASSM-ERの射程は1000km程度なんだけど、航空機にこれを乗っけるだけで射程距離が延びる。発射地点まで航空機で運べばいいからね。ラピッド・ドラゴンシステムであれば複数同時発射が可能なので、戦略の幅が広がるわけだ。
テストしてからの運用だろうから、JASSM-ERを売ってもらえるようになったからと言ってすぐに使えるようになるわけじゃないんだけど。
追記
コメントで質問を頂いたので、捕捉しておきたい。
「レーダーに映らない!?」自衛隊が運用 巡航ミサイル「JASSM-ER」スゴい点はどこ?
2023.08.31
アメリカ国務省は2023年8月29日、長距離空対地巡航ミサイル「JASSM-ER」を1億400万ドル(約152億円)で日本へ売却することを承認しました。
同国国務省は今回の売却に関し「インド太平洋地域の政治的安定と経済発展の力である主要同盟国の安全を改善することにより、アメリカの外交政策目標と国家安全保障目標を支援することになる」としています。
「JASSM-ER」は航空自衛隊が運用する最新ステルス戦闘機F-35「ライトニング II」などから空中発射可能な巡航ミサイルで、射程920km以上、敵性勢力の対空ミサイル射程外から発射可能ないわゆる「スタンドオフミサイル」に分類されます。
~~略~~
「JASSM-ER」が搭載可能な機体としては戦略爆撃機ではB-52、B-1、B-2、地上攻撃も得意な戦闘機であるマルチロール機ではF-15E、F-16、F/A-18、F-35などが対応可能となっています。
自衛隊機が保有する3種類の戦闘機のなかでは、無改修で同ミサイルを搭載可能なのは恐らくF-35のみで、ほかには改修計画が現在進行中のF-15Jぐらいでしょう。
ただ、一方で国産ジェット輸送機のC-2に同ミサイル搭載する計画も進行中です。アメリカでは、空中投下に使用するパレットに、長射程巡航ミサイル「JASSM-ER」などのスタンドオフミサイルを搭載し、空中発射できる「ラピッド・ドラゴン」というシステムを有していますが、航空自衛隊でも同様のシステムを搭載可能な機体としてC-2を攻撃機化することを目指しています。
乗り物ニュースより
この件は、乗り物ニュースさんがやたらと食いついていて、詳しく説明されている。ちょっと引くほどである(褒め言葉)。
さておき、F-35Aでの運用が可能かという点に関しては、Yesである。ただし、それがウェポンベイに収まるのか?という点に関しては、詳しく説明されている資料は見当たらない。
ミリレポさんのチャンネルでも紹介されていて、ウェポンベイに搭載可能かは不明なんだけど、サムネを見ると翼の下に吊している様子が紹介されている。ただ、これ、どうやらLRASM/AGM-158C-2っぽいので、JASSM-ERをどう運用するかの直接的な答えとは言えないと思う。
日本が調達予定だったJSMがF-35Aのウェポンベイに収納可能なように小型化された経緯を考えれば、機外ハードポイントに搭載して運用する想定でJASSM-ERをF-35Aで運用するのだろうと、そう思う。アウトレンジから打つ事を想定しているのであれば、まあ、F-35Aでの運用もあり得ない話では無いと思うんだけど、相性は余り良くないかも知れない。
自律型の話はイスラエルが開発した「Sea Breaker」なんかが有名だと思うんだけど、「自律型致死兵器システム(LAWS)」と呼ばれるAI技術を兵器に搭載した兵器開発自体に、日本政府は反対する立場を表明しているだけに、多少普及してから動くパターンのような気はする。寧ろ開発だけは率先してやって欲しいんだけど。
コメント
こんばんは。お願いの筋の巡航ミサイルの説明ありがとうございます。
1000kmの射程距離は優秀ですねぇ。木霊様の御指摘通り、そこに輸送機の移動距離が加算されますから、沖縄に配備できれば、かなり心強い事になる。
ただ、コレを日本に配備を許可するという事は米国も台湾有事が時間の問題だと考えているのでしょうね。
気になるのは自律型ですよね。自分で勝手に軌道修正するのでせう?
対地ミサイルとはあるけれど、対艦に使えないのかなぁ? 固定目標だけでなく、移動する船舶も狙えるならばより心強い。ほら、大戦中に高射砲88ミリ砲をロンメルが対戦車砲に用いて大成功しますね。ああいう感じになるとなお心強い。とはいえ武器はたしかに導入さたからすぐに使えるという話ではなし。
試射してこもごもとした課題を果たして、訓練して、バックアップの用意して、
やっと実戦で使える。すぐに防衛力が上がるという話ではないですが。
なかなか面白い展開になっていますよね。
アメリカが自国のためにJASSM-ERの輸出を決定したことは明白です。おそらくは軍事バランスまで考慮した上での決断でしょう。
JASSM-ERの他にAGM-158C LRASMというのが開発されていて、コレも日本は取得予定だったんですが、予算の都合やら何やらで実現せず。
12式地対艦誘導弾能力向上型で対応するスケジュールになっていますから、開発次第ですかね。
ただ、何れにしても時間が掛かります。間に合うのかどうか。
木霊さん
素人質問ですいません。
このミサイルはF35のウェポンベイに入らない?だから、F15他で使うのでしょうか。
コメントではお答えしにくかったので、追記で説明しています。
F-35AのウェポンベイにJASSM-ERが入らないのはほぼ確実でしょう。なので、おそらくは翼下のハードポイントに取り付けての運用になるのかと。運用自体は出来るらしいですよ。
F-15Jで運用は出来なくて、改修して使えるようにする予定です。だから、直ぐに使えるとしたら寧ろC-2搭載型のラピッド・ドラゴンじゃないでしょうか。
こんにちは。
以下、あくまで妄想です。
C-2は足が速くて、民間旅客機とタメを張れるのが売りですから……
・トランスポンダを民間擬装して
・民間空路で飛んで
・一朝事あらば、アサッテの方向から大量のJASSM-ERが雨あられと北京南京に降り注ぐ……
……なんて、空想戦記書いたら受けますかね?
こんにちは。
C-2輸送機での運用は、メインの戦闘機での運用のおまけみたいな話です。
戦術的には「そういう使い方も出来る」というところに重きが置かれるんじゃないでしょうかね。一種類の機体で何役もこなせることは素晴らしいですが、その機種だけに頼ることになるのはデメリットが大きいですからね。
仮想戦記は面白そうですね!
こんにちは。
隣国某南半島が
「日本が持つならKも持たなければいけない!」
とか言い出しそうで……
「どこに打ち込むつもりやねーん」
というツッコミを練習している次第です。
駄ネタ失礼しました。
いや間違いなく言い出すでしょう。
何に使うのかは知りませんが、用意してしまうのが韓国ですから。
別ネタですが
インドネシアのF-15EX導入、韓国ではどう報道されているの?
インドネシアがラファールとかF-15EXだとかF-16Vだとかを物色している話は、韓国メディアでも割りと報道されている印象ですね。
ただ、「インドネシアはKF-21を買う」と信じて疑わないらしく、さほど大きな動揺をしている感じではないようです。
万が一、資金が支払われなくとも、あまり気にしないかもしれません。ポーランドあたりが買ってくれそうですしね。