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トルコ大統領選挙、エルドアン氏が再選

トルコニュース
この記事は約11分で読めます。

今度こそダメかと思ったけれども、エルドアン氏はトルコ大統領選挙で再選された。そして、大統領に就任して宣誓を行ったようだ。エルドアン政権継続が決定したわけだ。

コラム:エルドアン氏再選、経済重視で選挙に勝てない時代を証明か

2023年5月30日9:25 午前

トルコのエルドアン大統領が再選を決めたことで、世界中の指導者は強烈なメッセージを受け取った。「政治は健全な経済を押しのけてしまう」のだと。

ロイターより

危ないところではあったが。

強い指導者を望んだトルコ

トルコ経済に悪影響?

ロイターの記事を読むと、エルドアン氏の再選を歓迎していないようだね。

今回の大統領選で、エルドアン氏が20年にわたる政権をさらに継続する流れが最初から決まっていたわけではない。同氏は28日の決選投票を経て、野党統一候補で経済学者のクルチダルオール氏にかろうじて勝利したのだ。公式の開票結果を見ると、エルドアン氏の得票率は52%で、同氏再選の是非を巡って国民がはっきりと分断された様子がうかがえる。

実際エルドアン氏の勝利によって、国民が長らく味わってきたさまざまな経済上の苦しみは悪化する公算が大きい。

ロイターより

しかし、トルコにとってエルドアン氏の方針の全てが悪かったかというと、寧ろ良い面の方が沢山あったと僕は評価している。

これがトルコの名国GDPの推移なのだが、エルドアン氏がトルコの首相になった2003年~2014年と大統領となった2014年以降もGDPは伸びている。

前年比で見ても、2020年頃に大きく落ち込んでいたものの、回復基調にある。もちろんGDPだけで経済を語るのは悪手ではあるが、1つの指標にはなる。ただし、このGDPの伸びはリラ安にも大きく影響を受けている。

2011年に勃発したシリア内戦の影響によって流通が滞っていることと、ここ数年特にトルコリラが安値を更新していることを考えると、トルコ国民にとっての生活は苦しくなる一方である。エルドアン政権は謎の金利安政策を続けているんだけどね。

トルコリラ、対ドルで最安値圏に エルドアン氏の当選受けてリラ売り

2023年5月29日 20時00分

トルコ大統領選の決選投票でエルドアン大統領が勝利したことを受け、29日の外国為替市場ではトルコの通貨リラは前週末より小幅に下落し、1ドル=20リラ台と最安値圏で取引されている。トルコは物価高に見舞われているが、エルドアン氏のもとで低金利政策が続き、インフレ対策が遅れるとの見方が出ている。

朝日新聞より

「過去最低を更新!」とメディアは騒いでいるが、シリア内戦勃発以降ずっとリラ安傾向は続いている。そのお陰でトルコ国内ではインフレ傾向に歯止めがかからない状況だ。

インフレ率50%越えというのはなかなかヤバイ。今年に入ってから少し落ち着いた感じだけれども。何れにしてもトルコ国民の生活には影響が大きい話ではある。こうした印象があって、今回の大統領選挙では随分と苦戦したんだけどね。

独裁政権

更にエルドアン氏は独裁政権を敷いているので、これまた外国からの評判が悪い。

エルドアン大統領は「独裁者」 伊首相が非難

2021年4月10日 4:48

トルコのエルドアン大統領は「独裁者」ーー。イタリアのドラギ首相がこんな発言をし、両国が火花を散らしている。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長がエルドアン氏と会談した際に椅子が用意されなかったのがきっかけだ。トルコは猛反発し、イタリア大使に厳重抗議した。

ドラギ氏は8日の記者会見で「フォンデアライエン氏が受けた屈辱は非常に残念だ」と述べた上で、「こうした独裁者には意見やビジョンの違いを素直に表現していかなければならない」とエルドアン氏をこき下ろした。

日本経済新聞より

一国の首相が、他国のトップに対して「独裁者」呼ばわりはどうかと思うが、しかし事実だから仕方がない。

というか、トルコは西側諸国との付き合いはあるけれども、西側陣営からの評判は宜しくないのである。

トルコ、少数民族政党を弾圧

2021年3月30日 2:00

トルコ政府が少数民族のクルド人主体の政党への締め付けを強めている。著名議員から資格を剥奪したほか、検察は党の解散を裁判所に求めた。エルドアン政権は人権状況や司法の改革を掲げるが、言動の矛盾ぶりを露呈している。人権問題を重視する米欧との関係改善にも水を差しそうだ。

日本経済新聞より

その理由の1つにトルコ国内での少数民族・クルド人弾圧がある。

シリア内戦に関与

また、トルコは2019年10月より、北東シリアに越境攻撃を開始している。

トルコのシリア侵攻――誤算と打算

2019年10月

トルコは2019年10月9日、北東シリアに越境攻撃を開始した。その標的は、トルコがテロ組織と見なすクルド民主統一党(PYD)である。トルコはPYDがシリア側からトルコを攻撃することを防ぐため、国境沿いに幅30km、長さ480km程度の安全地帯を設定することなどを目的としている。トルコの空爆の対象は事前の諜報活動で特定したPYDの地下壕・トンネルや兵器庫であるが、民間人犠牲者の発生は不可避である1。このような事態はなぜ発生し、どのような顛末を迎えるのか。本稿はその答えへの糸口を、トルコおよびPYD双方の過去の誤算と現在の打算に求める。なお、過去40年にわたるクルド人武装勢力とトルコ国軍の紛争の経緯については文末の「解説」を参照されたい。

アジア経済研究所より

「独裁者エルドアンが軍事侵攻を開始した」と、当時もえらく評判が悪かったことを覚えているのだが、シリア内戦の勃発はトルコにとっても困ったことであった。

直接的には、難民が山のように押し寄せたことが経済に大きな影響を及ぼしたからである。

トルコ大統領選、28日決選投票 シリア難民巡り摩擦

2023/5/25 17:34

中東の地域大国トルコで28日、大統領選の決選投票が行われる。現職のエルドアン大統領(69)と野党統一候補のクルチダルオール氏(74)の争いだ。経済低迷が長期化するトルコでは、隣国シリアの内戦を逃れて流入した大量の難民に対する風当たりが強まっており、選挙に影響を与える可能性も出てきた。

~~略~~

2011年から続くシリア内戦を受けて周辺国に逃げたシリア人のうち、トルコでは最も多い約340万人が暮らす。都市部などで家賃が急上昇し、「シリア難民が大挙して移り住んだからだ」といった反発が高まっている。

産経新聞より

エルドアン政権の失敗によって、シリア難民が増えたのだという論調で戦った野党統一候補は、ここで躓いた。西欧諸国で評判の悪いエルドアン氏の決断は、シリア国内では一定の評価が得られているのである。その印象を覆すことに、野党統一候補は失敗してしまったのだ。

地政学的な問題

色々並べてみたが、これらの問題はトルコの地政学的なリスクに起因する。しかし、エルドアン氏はそこを上手いこと利用するという方針を掲げ、そのことがトルコ国民に評価されたのだろう。

地図を見ていただければ分かるようにトルコはシリアの隣国であり、黒海に臨む国でもある。

ロシアが外海に出ようと思うと、黒海は重要で、その出口に位置するトルコの存在はかなり大きな意味を持つ。トルコがNATOに加わったことも、ロシアとの関係を深めていることも、そういった背景があるからこその話である。

西欧諸国にとってトルコは中東に位置する国であり、「仲間意識」は希薄だった。一方で、宗教問題があってイスラームの国々との付き合いも程々にしたい。前述したシリア難民問題が絡むからね。

そのような状況にあって、エルドアン氏は地政学的な強みを活かして、何処の国とも仲良くしようというような立ち位置を確立している。日本の隣国にも似たような事をやっている国はあるけど、あそこは、あっちこっちに尻尾を振っているだけなんだよなぁ。

強い指導者を望む理由

なお、スウェーデンのNATO加盟に反対する理由もまた、クルド人問題なんだよね。

強まるエルドアン氏への働きかけ スウェーデンのNATO加盟めぐり

2023年6月5日 0時30分

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は4日、訪問先のトルコ・イスタンブールで、同国のエルドアン大統領と会談した。トルコが難色を示す北欧スウェーデンのNATO加盟について、ストルテンベルグ氏は「スウェーデンは義務を果たしている」と述べ、改めて加盟承認を働きかけた。7月に開かれるNATO首脳会議までにトルコが態度を軟化させるかが焦点だが、大きな進展はなかったとみられる。

朝日新聞より

エルドアン氏にしてみれば、スウェーデンはまさにテロ支援国家なのだ。

トルコ エルドアン大統領が就任宣誓 経済回復に取り組む姿勢

2023年6月4日 10時22分

先月のトルコ大統領選挙の決選投票で当選したエルドアン大統領が3日、議会で就任の宣誓をしました。長期政権となる中、ウクライナ情勢をめぐる仲介外交の行方や、スウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟をめぐり、今後どのように対応するのか注目されます。

NHKニュースより

トルコ国内で治安を悪化させている一因になっているのがクルド人武装勢力で、スウェーデン国内にもコレを支援するクルド人勢力が存在する。これがトルコがスウェーデンのNATO加盟に反対する理由なんだよね。スウェーデンがクルド人達を保護している形になっているから。

トルコ国内にクルド人は2480万人いると言われているが、その多くはイスラム教徒であり、過激思想に染まっている方々も多数いる。

クルド人達はクルド人の国を作ろうとして、トルコ、イラク、シリア、イラン、アルメニアなどでそれぞれ活動をしている。まあ、この国境線を引いたのはイギリスとフランスとロシアなので、彼らの主張にも一理はあるのだが、だからといって武器を持ち、反政府活動に邁進することが許されるわけでもない。

シリア内戦への関与も、対クルド人という視点で語ると国内問題に直結してしまう辺りが、ここいらの国の厄介さを物語っている。

そして、その一派がスウェーデン国内にもいると。

というわけで、強い指導力を発揮して国内問題に取り組んでくれる大統領というのは、トルコにおいては重視される傾向にあり、それが独裁かを進めたエルドアン氏の支持に繋がっている。

大統領就任宣誓で、「経済回復を!」とぶち上げたようだが、ロシアがあの状況なので、トルコは暫く綱渡りの経済が続くだろう。

それでも、軍事独裁の状態よりもマイルドな民主主義的な独裁が続く理由は、トルコを独自路線で力強く引っ張っていくというようなイメージ戦略が成功しているからだと思うし、実際にどこかの国に阿ることで方向性を誤ったという事にはなっていないので、未だに民衆から信頼されているからエルドアン政権は継続することが出来るのだろう。

このような方向性だからこそ、日本政府はトルコとも上手いことやっていくと、それなりの利益に繋がるんじゃないかな。

追記

スウェーデンの話は軽く流す程度に触れているのだけれど、コメントをいただいたことだし少し触れておきたい。これは別の機会に触れても良いんだけど。

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、トルコのエルドアン大統領が反対の意向を表明している。反対の理由は、両国が「(クルド人の)テロリストを匿っている」ことと、2019年のトルコ軍による北東シリアへの越境攻撃を機にトルコへの制裁(武器の禁輸措置等)を行っていることの主に2点である。トルコが越境攻撃を行ったのは、PYD(クルド民主統一党)へ打撃を与えるためで、トルコは、PYDを米国、EUがテロ組織と認定しているPKK(クルディスタン労働者党)の姉妹組織とみなしている。すなわち、この2つの理由は「クルド人勢力の拡大に対する懸念」という点でつながっている。なかでもスウェーデンに対して、エルドアン大統領は、2022年5月16日の会見でテロ組織の「揺籃の中心地」(kuluçka merkezi)であると呼び、スウェーデンに(PKKと結びつきがあるとエルドアン大統領が考える)クルド系国会議員がいることや、クルド系の活動家らがスウェーデンの国会に招致されたことなどを強い口調で非難した。

IDE-JETROより

トルコがスウェーデンのNATO加盟を反対している理由は、スウェーデンが多数のクルド人移民を受け入れているからである。

クルド人指名手配犯の身柄引き渡し不可=スウェーデン最高裁

2022年12月20日

スウェーデンの最高裁判所は19日、トルコで指名手配されているクルド人男性のトルコへの身柄引き渡し要請を退けた。

判事は「これは政治的な性質を持つ問題であり、身柄引き渡しを認めることはできない」と裁定した。

また判事は身柄を引き渡した場合、男性は政治的見解に基づく迫害を受ける可能性があると警告した。

公共放送スウェーデン・テレビ(SVT)によると、トルコ政府はスウェーデンに亡命中のケネス(Bulent Kenes)氏が2016年のクーデター未遂に関与しているとして、身柄の引き渡しを求めているという。

ケネス氏は米国に拠点を置くトルコ人のイスラム教指導者ギュレン(Fethullah Gulen)師とつながりのあるメディアが所有する新聞社の編集長を務めていた。

KWPより

困ったことに、スウェーデンは「人権国家」を標榜していて、多数のテロリストを国内に受け入れているのだ。テロリストというよりは政治犯に近い性格の人材のようだが、しかし、クルド人過激派組織への支援などを行っているとされ、トルコとしては国内の安定化の為にもそんなことをされては困るのである。

実際、トルコと西側諸国の認識とではかなりの隔たりがある。

エルドアン・トランプ会談でもPYDに対する認識の差は埋まらず
<トルコのエルドアン大統領はトランプ大統領と会談し、アメリカによるクルド民主統一...

2014年秋以降、シリアでクルド民主統一党(PYD)への支援をアメリカが始めた時にも、トルコは強く反対した。西側諸国にとって、クルド人はトルコ政府に弾圧されたかわいそうな人々という認識であり、トルコ政府の認識とは乖離があるのだ。

1970年代中頃以降の移住者の多くが政治難民あるいは戦争難民に該当する。労働移民としてクルド人を多く受け入れたドイツやオランダと異なり、スウェーデンやフィンランドなどの北欧諸国には難民として受け入れられたクルド人が多い。特にスウェーデンは、1970年代のトルコにおける右派と左派による活動の先鋭化と治安の悪化、そして1980年の軍事クーデター前後の活動家への弾圧によってトルコから亡命した政治難民を多く受け入れた。彼らの多くは左派の知識人、文化人であった

IDE-JETROより

トルコ側の言い分も、スウェーデン側の言い分も理解できる部分はあるのだが、ここでどちらが正しいなどという意味はあまりない。利害が一致しないという事を分かってもらえればいいだろう。

コメント

  1. アバター BOOK より:

    木霊さま 皆様 こんばんは

    >トルコ国内にクルド人は2480万人いると言われているが、その多くはイスラム教徒であり、
    >過激思想に染まっている方々も多数いる。

    クルドの方々の中ににイスラム原理主義・過激派の方々は、いるかも知れません

    が、スウェーデンにもいる 問題の過激派 「PKK」は「マルクス・レーニン主義・過激派」要するに 赤軍や中〇派といった極左過激派と同じカテゴリーの武装テロリストですよ。

    https://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ME_N-africa/PKK.html

    の、(6) 沿革 を参照

    どこかで(笑) 安全保障・陣営の問題 と言及した手前、PKKの陣営ははっきりさせとかなきゃね(笑)

    それにしてもギリギリの舵取りが上手と感じられるエルドアン大統領。 経済、日本も低金利円安なわけですが輸出企業大儲け状態。トルコは、、、、このあたり経済素人だと判りにくいですね(苦笑)
    ただ、非常に才能・人望・実行力ある人とは思います。

    • 木霊 木霊 より:

      何処の国にも過激派は一定数いるものですが、マルクス・レーニン主義というのは厄介ですよね。話が通じませんから。
      追記に少しだけ言及しましたが、トルコ側の主張にも十分にうなずける部分があります。
      スウェーデンが人権を最優先にするあまり、他国の利益を損なっているという構図はなかなか困った話ですね。ただ、これは構図を変えれば支那が西側諸国に主張する構文でもあります。もっとも、支那共産党は自国民を弾圧する側でもあるのですが。

      エルドアン大統領の経済的なセンスは理解しがたい部分もありますが、インフレ状況下でも低金利を続ける理由は、輸出が主力になっているという部分も大きいのでしょう。国民には別方面での利益を図ると。経済成長が続いて賃金が上がっていればインフレは多少あっても問題ありませんからね。

  2. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    全てを是とはしませんが、この不安定な世界の局面においては、実績があり、強権もある程度発動出来るエルドアン氏を推すものであります。

    トルコの事情はトルコにしか解決出来ない、西側の理論を押しつける方が業腹でもあるかと。
    まあ、程度問題でもありますが>クルド問題

    というか、中東にしろアフリカにしろ、そもそも論として、国境という概念が薄い民族(しょっちゅう勢力圏が変動する)の土地に、西側(特にブリカスとカエル食い)が定規で引いた国境線が問題の一端なんだよな……

    エルドアンさんももう少しこう、手心というか、とは思いますが、EU、特に北欧系の主義主張押しつけもたいがいだと感じます。
    これだから一神教は……とおもってしまうあたり、当方もかなり偏見にまみれてますが(笑)

    • 木霊 木霊 より:

      個人的にはエルドアン氏は嫌いではありませんし、それなりに優れた政治手腕を発揮していると思いますよ。
      そうでなければ長年トルコのトップに居られませんし。

      そして、勝手に線を引いた西側諸国のお陰で苦しんでいる国が結構あるのがまた。
      ともあれ、他国が介入して良いことはないんですよね、この手の問題は。

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