空中給油は、戦闘機を運用する上では必須とまでは言わなくとも重要な装備品であるとは思う。ただ、空中給油をしながら戦闘機を運用するというのは、パイロットの負担が大きくなることを考えると、何処まで有用かは冷静に見定める必要はあるだろう。
超高速で飛行する戦闘機のパイロットは、戦闘機の後続時間が伸びると精神的負担が増大する。30分の作戦時間が1時間に伸びるというようなレベルであれば良いかも知れないが。
地上に降りて休憩する事も、パイロットには必要なのである。そんなわけで、空中給油機をして延々飛び続けるということは現実的とは言い難い。
空中給油機を買うぜ!
空中給油機の必要性
では、空中給油機にどんな使い方があるかというと、戦闘機は最大離陸重量よりも総重量が重いなんてケースがままある。これは、最大離陸重量が戦闘機の脚部などの強度に起因するのに対して、総重量は実際に飛んでいられる重さを示すためである。
つまり、飛んでいる分には問題無いけれど、離陸や着陸の際(着陸の時に最も負荷がかかる)には問題になる重量というのがある訳だ。戦闘機によるんだけれど。
だから、空中給油機を導入メリットとしては、「飛びながら給油を受けられるので戦闘機の飛行距離を伸ばせる」というのが1つと、「戦闘機にフル装備させて離陸させた後に給油し、フル装備時の飛行距離を伸ばす」というのがある。
飛びながら給油するので、こんな感じの絵面に。
でも、韓国空軍って、相手が北朝鮮の戦闘機なんだよねぇ。
北朝鮮の朝鮮人民空軍は、戦闘機の数も質も貧弱だ。だから、韓国空軍に空中給油の必要性があるのかはちょっと疑問なんだが……。
空中給油へのパフォーマンス
しかし、韓国空軍は空中給油機が欲しいらしい。
韓国空軍、レッドフラッグ・アラスカ演習に参加
2013/8/14
北太平洋空軍司令部(Pacific Air Force)が主管するレッドフラッグ・アラスカ(Red Flag Alaska)演習にが12日~23日(現地時間)の日程で実施されている。
「KOREA.net」より
ノンストップでアラスカに向かうのが、何のパフォーマンスかさっぱり分からないが、F-15Kで長距離を飛ぶとのこと。
もちろん、アメリカの空中給油機に給油して貰う形でのパフォーマンスだ。
西海上空で初の米韓合同空中給油訓練実施
2011年09月20日08時25分
韓国領空で行われる初めての空中給油訓練が16日から30日まで西海(ソヘ、黄海)上空で2週間にわたり実施される。今回の訓練は韓国空軍のF-15K、KF-16の操縦士16人と米空軍教官操縦士9人が参加する。
「中央日報」より
米空中給油機、韓国戦闘機に給油中
2012年05月11日08時31分
韓米空軍総合戦闘訓練「2012年1次マックスサンダー訓練に参加している韓国空軍のF-15K戦闘機が9日、西海(ソヘ、黄海)沖の上空で米空軍の空中給油機 KC-135から給油を受けている。
「中央日報」より
このように、かなり空中給油の訓練に熱心な韓国空軍。
優先順位が意味不明な韓国空軍
ただ、作戦に本当に空中給油機が必要なのかは……。
【取材日記】韓国空軍は買い物中毒なのか
2012.11.12 12:00
8日の国会国防委員会予算決算小委員会が空中給油機導入に向けた手付金として467億ウォン(約34億円)を編成した。企画財政部が削減した予算を国会が復活させたのだ。空中給油機導入を宿願事業と考えてきた空軍はまるで死んだ子どもでも生き返ったような雰囲気だ。
「中央日報」より
韓国国内の記者にも突っ込まれているが、空中給油なんかよりも先にもっとやるべき事があるだろうに。
記事にもあるが、「SLAM-ERミサイルは空軍全体で40発余り」だということらしい。まずはこの辺りから何とかすべきだろう。F-15Kはハープーンも装備できるって話だったけれど、肝心のミサイルがなければ意味が無い。
韓国空軍の戦略は、一体どうなっているのかと。
それでも欲しい空中給油機
でも、やっぱり空中給油機が欲しいらしい。
空中給油機導入へ 独島上空で90分戦闘可能=韓国
聯合ニュース 8月12日(月)17時39分配信
韓国の防衛事業庁は12日、海外から空中給油機を導入することを決めた。主力機のF15KとKF16戦闘機の作戦遂行時間を大幅に延ばす方針だ。
「総合ニュース」より
本気で導入するっぽいな。
ただ、その理由が「竹島上空で90分戦闘可能になる」というというのはドウなんだろう。なぜ、韓国軍は日本の自衛隊と戦う想定でいるのだろうか。
ついに空中給油機の選定が
そして、空中給油機を選定するに至った。
韓国空軍、空中給油機にエアバス選定
2015年07月01日09時35分韓国空軍が空中給油機にエアバス社のA-330 MRTT(4機)を選択した。
~~略~~
この日も米空軍が使用する予定のボーイングKC-46Aに決まるという予想が多かった。しかし昨年末からの防衛事業不正の余波もあり、機種選定過程では「性能」が勝敗を分けた。キム・シチョル防衛事業庁報道官は「A-330 MRTTが(海外派兵など)作戦任務地域での滞空時間や空中給油量、人員および貨物空輸などで優秀な性能を見せた」と説明した。
「中央日報」より
何故、運用実績の無いエアバス製の空中給油機なのか、と言う疑問はあるが、運用可能であれば悪い選択肢では無い。
寧ろ、大本命のKC-46は完成の目処が立っていない模様であることを考えれば、運用注のエアバスA330MRTTという選択肢は悪くない。
ただ、後にそれがKC-45Aが売って貰えなかった、という事実が発覚するに至る。
「仮想敵は日本」韓国GSOMIA破棄の裏に軍備増強の歴史あり! 田岡俊次が解説〈AERA〉
9/2(月) 15:12配信
~~略~~
また韓国空軍は「1千キロ圏」での制空権確保を目標としており、その圏内には東京が入る。韓国空軍の代表が米国防総省を訪れ、空中給油機の売却を要請したこともある。米国側が「北朝鮮の奥行きは300マイル程度。給油機は不要では」と問うと、「東京を爆撃する際に必要だ」と言い放ったという。国防総省の担当者は驚いて日本側にそれを伝え、給油機は売らなかった。
「yahooニュース」より
噂の域を出ない話だが、さもありなん。日本が仮想敵国である事は以前から知られていたし、隣国を仮想敵国にすることそのものは悪い話では無い。ただ、同盟国に準ずる立場の国を仮想敵国にするのは常軌を逸していると言うだけで。
それでも、お笑い要素を仕込むのが韓国軍なんだけどね。
そして配備される空中給油機
そんな訳で、KC-46が売って貰えなくてA-330 MRTTを選んだ韓国だったが、結果から言えばソレは正しかったようだ。KC-46は色々開発が遅れて購入する航空自衛隊の受領は2021年以降にずれ込んでしまったからね。そして、未だにKC-46のトラブルは完全には解消していない状況だと言うから、困ったものである。
韓国空軍が空中給油機を初配備 戦闘機の作戦能力向上へ
2019.01.30 13:52
韓国空軍は30日、釜山の金海空軍基地で空中給油機KC330の戦力化行事を行った。
欧州のエアバス・ディフェンス・アンド・スペース(ADS)が製造したKC330は、昨年11月に1号機が韓国に到着した。今年4月に2号機、8月に3号機、12月に4号機が導入され、計4機で2020年7月から作戦を遂行する予定だ。
「聯合ニュース」より
韓国空軍は、2020年には4機を受領できて、早速戦力化もしたようだ。
テストも順調らしく、空中給油を受けている小汚い感じの戦闘機はKF-16っぽい。相変わらず、戦闘機は汚れたまま使っているのね。
移送任務に使われるKC330
実際に任務も熟しているようで、何故か在イラク韓国人を迎えに行ったのがKC300だったというニュースを見かけた。
在外国民移送になぜ空中給油機…給油・輸送の多機能を実行可能
2020-07-24 16:21
空軍空中給油機がイラク派遣労働者を乗せて帰還したのは輸送機ではなく、空中給油機が在外国民移送に投入された背景に関心が集まっている。
「聯合ニュース」より
本来任務では無かったようだが、元気に稼働していて何よりである。
”尿素水の緊急空輸”で軍輸送機投入した韓国政府、費用めぐる反対意見に反論 「いまは国家的な災害状況」
2021/11/11 12:44配信
尿素水の緊急空輸のためオーストラリアに派遣された韓国空軍の輸送機が11日、オーストラリアを出発し韓国に帰国する。
軍関係者によると、前日(10日)現地に派遣された空軍の多目的空中給油輸送機「シグナス(KC-330)」は、尿素水2万7000リットルを積んで日本時間の11日午前8時30分ごろオーストラリアを離陸した。金海空港への到着時間は午後5時20分ごろ。
「WowKorea」より
おおっと?ここで名前判明。KC-330「シグナス」らしいぞ。
いや、そこじゃない。えーと、これもちょっと本来の任務とは違う事に使われている模様。でもいつの間にか名前が「多目的空中給油輸送機」に変わっていますな。「多目的」なら仕方が無い!
……仕方が無いか?
空中給油機導入の効果
さて、KC-300が導入されてから数年が経って、どんな運用をされているのかは気になるところ。タイムリーにこんな記事が出ていたので紹介しておく。
【TV朝鮮ニュース動画】高度4500メートルで空中給油…韓国空軍の「空飛ぶGS」を初の同乗取材
記事入力 : 2023/04/14 09:31
少し前まで、韓国空軍の主力戦闘機は独島で30分の作戦飛行をした後、給油のため部隊へ復帰しなければなりませんでした。けれども2019年に空中給油機を配備した後は、時速500キロ以上で飛びながら空中で給油を受けることも可能になりました。
~~略~~
韓国空軍の主力戦闘機の作戦時間は30分ほどですが、2019年の空中給油機配備で作戦時間は1時間伸び、韓国防空識別区域、KADIZで最も遠方にある独島と離於島でも1時間以上の作戦遂行が可能になりました。
朝鮮日報より
韓国空軍の主力戦闘機といえば、F-15KとKF-16である。何れも作戦時間は30分程度。この記事では「どこで」という事が明確に書かれていないのだが、竹島(韓国では独島と呼ぶ)と蘇岩礁(韓国では離於島と呼ぶ)で作戦を行うことを前提にして言及している。
過去の報道にこんな記事がある。
韓国、空中給油機を導入…F-15Kの独島作戦は1時間延長可能
2018.11.12 15:26
周辺国との神経戦が続いている独島(ドクト、日本名・竹島)と離於島(イオド、中国名・蘇岩礁)で非常事態が発生した状況を仮定しよう。韓国空軍が緊急出動させた戦闘機はどれほど飛行できるだろうか。現在保有する戦闘機のうち最も機体が大きいF-15Kは燃料をすべて満たしても独島で30分間、離於島で20分間ほどしか作戦を遂行できない。主力機のKF-16の場合、独島では約10分間、離於島では5分間に減る。戦闘機にとって短い作戦時間は片手を縛って戦うようなものだ。
~~略~~
空中給油機から燃料供給を受ければ戦闘機の作戦時間は1時間増える。激しい戦闘機動をすれば作戦時間は短くなる。独島・離於島付近の上空で空中給油機が待機すれば、空軍戦闘機には頼もしい友軍となる。
軍事専門誌ディフェンスタイムズのアン・スンボム代表は「空中給油機4機では現在410機ほどの戦闘機を十分に支援するのは難しい。今後少なくとも4機を追加で保有する必要がある」と述べた。
中央日報より
記事を読んで「意味が分からない」と思う方は、恐らく正常なんだと思う。
戦闘機でアラート任務(地上待機の要撃戦闘機が警報を受けて緊急離陸すること)を考えた場合に、例えば竹島上空で作戦をする必要があるとすると、増槽を考慮せず、空中給油もやらない前提だとF-15Kで30分、KF-16で10分程度しか作戦時間を確保できない。
例えば、レーダーで敵影を確認してKF-16を竹島上空まで飛ばして、その周囲を見渡して敵影を探す。しかし、その空域に留まれるのは10分程度なので、すぐに同空域を離脱する必要がある。実際には、早期警戒機などが飛行していてデータ収集をやっているだろうから、ミサイルを発射するくらいの仕事はできるだろう。が、悠長に警告して無線通信をして相手方にお帰り願うような余裕ができるかというと、10分では少々厳しい。
F-15Kなら30分留まれる事になっているので、ある程度の作戦は可能だろう。
が、恐らくこの数字はさばを読んだ数字で、兵装満載で飛んでいれば作戦時間は更に短くなるハズだ。だから空中給油機導入というと、なんとなく理屈が通る気がするが、記事では作戦時間が1時間増えるとか言っている。
……どこで空中給油する積もりなんだ?まさか、戦闘機で竹島上空に飛んでいった時に、空中給油機は竹島上空で待っているとでも言うのだろうか?制空権のない空域で空中給油機を飛ばす気なのだろうか?チョット意味が分からない。
コメント
こんにちは。
>独島・離於島付近の上空で空中給油機が待機すれば
鉄火場の上空でドン亀タンカーが遊弋するとは、良い度胸してますよね。
そもそも、そこは戦略・戦術的に殆ど意味の無い離れ小島なんだが。
(その気はない、完璧にない、けど)やるなら、そんな価値のない小島ほっといて鬱陵島を先に落しちまうのが戦術ってものではないかと……
やはり、スタート位置が間違ってると、そこから先の全部が間違うのですよね……
※給油機買う金で、ミサイルとスペアのエンジンがいくつ買えたか……
やっぱりおかしいですよねぇ、前提が。
ただ、国民に説明する上では便利だからそのまま報道しているのだと思いますよ。
流石にそんな戦略を立てていたとしたら、本当にお付き合いを避けたいところですよ。
こんばんは。
いつも楽しく読ませていただいています。
気になったことがあったのでコメントしようと思います。
ソウル東京間は1,200kmだとか。そう考えるとソウル竹島間はその3分の1程度、長めに見積もって500kmくらいではないかと。
引用記事からすると、F15Kの作戦行動半径は500km前後、KF16の作戦行動半径は400km以下と読めてしまうのです。
軍事関連は素人ですが、ネットで探せるスペックから見てもちょっと低すぎはしないか。
と、思った次第です。
飛行時間だと…(素人計算ですが)
離陸してから急いでぶーんって飛んで(マッハ2前後)15分位、帰りは巡航位でぷーんって飛んで(気持ち急いでマッハ1)30分位。
と考えるとF15Kで1時間半程度、KF16で1時間あるかないか。
そんなものなのでしょうか?
戦闘機の最大航続距離と、作戦を行える距離というのはイコールでは結べません。
例えば、F-15であれば、最大航続距離は増槽を3本積めば4000km程度と言われていますが、増槽1本+空対空ミサイルAIM-7Fと爆弾Mk.84を積んでの戦闘行動半径は1000km程度。制空権戦闘を前提とするのであれば、500km程度となってしまいます。(いずれの数字もWikiに開示されています)
戦闘行動半径は最大航続距離の3分の1~4分の1くらいの数値になるのが普通なので、兵器を積んでの作戦行動を考えると、思ったよりも飛べないのが現実のようですね。
F-15KはF-15E系統なので、最大航続距離は5,750kmで、戦闘行動半径は1,270km程度なのだと思います。
そうすると、500kmは短すぎるという意見は確かにご尤もだと思います。
ここで気になるのは、韓国のメディアがどんな数字を想定して使っているか?ということで、恐らくは韓国空軍が出している数字そのまま。
そして、韓国空軍は空中給油機の必要性を訴えているシーンです。つまり、最大限兵器を満載して、増槽は積んでいない数字を採用しての主張だ、と、そう読めます。
なので、実際の戦闘行動半径は長いのでしょうし、確実に帰投することを前提に考えなければ、F-15Kで日本を爆撃するなんて芸当も恐らくは可能。まあ、メリットがないのでやらないでしょうが。
なるほど…
「空中給油機導入のために…」
という側面からの数字と言う視点は抜けておりました。
ありがとうございます。