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アメリカにFA50を売り込むぞ!と意気込む韓国

韓国空軍
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「頑張ってね」としか言えないが、条件を限定していけば全く絵空事というわけでもない。

米国から学んだ技術で製造した韓国製戦闘機FA50、米国へ500機の輸出が実現か

記事入力 : 2023/11/19 16:11

今年9月20日午前、慶尚南道泗川にある韓国航空宇宙産業(KAI)の固定翼棟。サッカーグラウンド3面分に相当する長さ180メートル、幅120メートル規模の工場の真ん中では、ポーランドに輸出される韓国製軽戦闘機FA50-007号機および008号機の装備交換の真っ最中だった。両機はこの日、レーダーなど一部の装備と部品をポーランド式のものに交換した後、現地へ向かった。

朝鮮日報より

ただ、「自国で製造した」というようなアピールは恥ずかしいから止めた方がいい。

トライすることに意義がある

T-50高等練習機の派生型

FA50軽戦闘機というのは、韓国が誇る練習機T-50ベースの軽戦闘機である。色々このブログでも記事にさせていただいているので、敢えて説明する必要もないとは思う。

が、軽く触れておこう。

img

これはT-50高等練習機である。この角度のシルエットは自衛隊のT-4練習機に似ているんだけど、ベースはF-16戦闘機である。

F-16戦闘機ベースの練習機または戦闘機を作る流れというのは割とあって、日本のF-2戦闘機もF-16戦闘機ベース(期待設計図の95%を変更したといわれる別物であるが)だし、台湾のF-CK-1「経国」戦闘機(後に近代化改修で大幅に仕様変更されている)もそうだ。

韓国もそういった流れがあってF-16ベースの練習機を手に入れる話がでて、そこから出てきたのがFA-50軽戦闘機なのである。ザックリした説明ではあるが。

ただ、高等練習機の国産化計画が走り出した1992年の韓国には、自国で戦闘機やその派生型となる練習機の設計する経験も、財政の面でも不安要素が多く(韓国は1997年には最初の経済危機を迎えている)、韓国政府70%、三星/KAI 17%、ロッキード・マーティン13%の共同出資という形でプロジェクトがスタートしている。

ロッキード・マーティン社は、F-16戦闘機を設計、製造した会社なので、当然、ダウングレードモデルの提供はお手の物である。過去には輸出モデルとして設計されたF-16/79という試作機も存在するし、F-2戦闘機の開発は1996年には終了しているし、F-CK-1戦闘機も1992年に制式採用されているので、その辺りの経験を活かしたのだろう。

で、T-50高等練習機は2003年から量産されて、その派生型としてFA-50軽戦闘機が2012年に誕生(2011年初飛行)している。

T-50A高等練習機

さて、FA-50戦闘機の話は脇に置いておいて、T-50A高等練習機の話を少ししておきたい。

ロッキード・マーティン社、米空軍の次期練習機に韓国と共同開発した「T-50A」を提案

2016-02-16

ロッキード・マーティン社は2月11日、米空軍の高等パイロット訓練(APT)に使用する次世代練習機(T-X)に、韓国の韓国航空宇宙産業(KAI)と共同開発した「T-50A」を提案すると発表した。

米空軍は現在、練習機として「T-38」を使用しているが、原型機の初飛行からすでに50年以上が経ち、旧式化や老朽化が進んでいることから、次世代の練習機の導入計画を進めている。

SORAEより

ロッキード・マーティン社が主導で、アメリカ空軍の練習機更新計画に乗っかった時に作られたのがT-50Aである。

T-50AはT-50と比べ、胴体の背中部分にドーサルスパインが追加されているなど、外見も大きく変化している。その内部には空中給油用のプローブが収められているという。空中給油機能はもとのT-50にはなく、APT計画の要求で必要とされたもので、このほかコクピット内や電子機器なども要求に従い、改修や追加が行われているという。

SORAEより

T-38「タロン」は、アメリカ空軍の練習機として使われていたけれども、老朽化が進んだので、更新が必要になった。この話、最終的には対抗馬だったボーイング/サーブ組が勝利してT7高等練習機が採用されるに至っている。

ただ、この時にロッキード・マーティン社と組んでかなりT-50に手を入れた経験は、FA-50 Block20の方に活かされているようだ。

Phantom Strike

FA-50戦闘機はBlock10とBlock20が提案されていて、FA-50 Block10に関してはスナイパーポッドを統合しただけだ。とはいえ、スナイパーポッド(AN/AAQ-33)は、前方監視型赤外線装置(forward looking infra-red : FLIR)やデュアルモードレーザー、レーザー目標追跡装置および指示装置、レーザー測量機、CCDイメージセンサ、画像データリンクなどを備えていて、戦闘機としての能力を大幅にアップしてくれる近代装備である。それだけでもFA-50戦闘機の能力は大幅に向上したといって良いと思う。

ただ、注目されているのはBlock20の方で、こちらは米国レイセオン社製Phantom Strikeの搭載が予定されている。

レイセオンが生んだ小型AESAレーダー「ファントムストライク」

2023.04.20

レイセオン・テクノロジーズ傘下のレイセオン・インテリジェンス&スペースが開発した「ファントムストライク」は、小型化することが難しかったアクティブ・フェーズド・アレイ(AESA)レーダーを、見事なまでに小型化することに成功した。それにより、ドローンなど、小型の機体にも搭載することが可能になった。

航空新聞社より

これがかなり画期的なAESAレーダーで、レーダー本体の小型化に加えて空冷方式を採用したので、小型機にも搭載できるという点が極めて優秀である。軽量化を図ることが出来たことも大きい。

これによって、FA-50戦闘機の性能を引き上げることが可能となり、最大離陸重量や航続距離、最大速度の面では劣るもののF-16C/D Block52+に劣らない性能を発揮できると一部では評価されている(注:恐らく運用面でカバーできるという意味だろうと思う)。

TF-50のセールス

で、冒頭の朝鮮日報の話に戻るのだが、アメリカへのセールスというのはどういうことか、という話である。

KAIは、防衛産業の本場である米国への輸出にも挑戦する。米国海軍・空軍は高等・戦術入門機と戦術練習機の事業を進める予定だが、この事業でKAIは米国の防衛関連企業ロッキード・マーチンと手を組み、戦闘機およそ500機の納品契約を狙っているのだ。

朝鮮日報より

500機のFA-50が販売できたら凄いね!ということになるが、アメリカが戦闘機として劣る機体をわざわざ購入するか?といえば、そんなことはない。アメリカが欲しているのは、あくまで練習機である。

KAI、FA-50いとこである1人乗り「F-50」を開発し、戦闘機の米国輸出に挑戦する

入力2023. 3. 21. 16:54修正2023. 3. 21. 17:15

韓国航空宇宙産業(KAI)が複座型(2人乗り)である軽攻撃機FA-50を改造し、いとこ格の「単座型(1人乗り)F-50」を新たに製作し、米国輸出を本格的に推進する。

KAIはこの「単座型F-50」をもとに現在開発中の国産超音速4.5世代戦闘機KF-21輸出型のメリットを追加し、米国輸出型のTF-50を製作し、米国海・空軍が進行中の高等戦術入門機購買事業に挑戦する。単座型F-50は、過去にも複座型FA-50と別途製作企画案を立てたが、費用など問題として放棄されたことがある。

daumより

過去にも引用しているが、この話はT-45「ゴズホーク」海軍練習機の更新プログラムに食い込むことを狙っているという意味だ。

米海軍、T-45 ゴスホーク海軍練習機の後継機を求める

18月2020

USN (米海軍) は、若い米海軍パイロットを訓練する現在のボーイング T-45 Goshawk に代わる新しい海軍訓練機を探しています。

情報によると、海軍は新しい練習機が 2028 年までに、あるいはそれ以前に、原子力推進を含む空母で運用できるようになることを望んでいます。

USN はまた、ボーイング F/A-18E/F スーパー ホーネットを空母に着陸させるために使用される精密着陸モードなどの高度な技術を新しいジェット機に統合できるようにすることも望んでいます。

AEROFLAPより

このTF-50練習機計画は、「無謀」というわけではない。寧ろ、韓国にとって有利なのではないか?と考えている。

TF-50が有利か?

理由は、空軍がT-7高等練習機を選定し、供給はボーイング社とサーブ社のパートナーシップ協定に基づいて行われる。

次世代練習機T-7A、初飛行成功 米空軍が351機発注

2023年6月29日 13:54 JST

ボーイングは現地時間6月28日、新規開発したジェット複座型練習機T-7A「レッドホーク」が初飛行したと発表した。老朽化したT-38「タロン」の後継機で、2018年9月27日に米空軍がボーイングと締結した契約では、T-7Aを351機を調達するほか、シミュレーターなど46基の地上訓練設備を導入する。

Aviation Wireより

実は、空軍に納入されるT-7高等練習機は新開発の機体で、初期運用能力獲得はこれからである。

年内に最初の引き渡しが行われ、2024年までに初期運用能力、2034年までに完全な運用能力をそれぞれ獲得できる見込み。ボーイングは、日本を含む海外でのライセンス生産にも意欲を示している。

Aviation Wireより

そうすると、製造能力的にもボーイング社にとっては厳しい。新たに艦載機の開発までやる余力はなかろうという状況なのだ。そして、次はロッキード・マーティン社だよね、という空気もある。そんなわけで、頑張って艦載仕様のT-50を作ることは意味があると思う。韓国軍に艦載仕様のT-50を提供することにも繋がるしね。

ただ、競合するのはもう1社、イタリアのレオナルド社がM-346練習機を提案している。

そして、T-45「ゴズホーク」練習機の後継機としては不思議な要求仕様になっていて、精密着艦モードでの陸上空母離着陸練習と空母でのタッチアンドゴーに対応することのみが要求されていて、アレスティングワイヤーを用いた着艦に対応しなくとも良いということになっている。あくまで「現状では」という限定つきだが。

これがどう影響するのかは分からないが、艦載機設計製造経験のあるボーイング社やロッキード・マーティン社に対して、レオナルド社にはその経験があるかどうか良く分からないので、案外、レオナルド社に配慮した結果なのかもしれない。

というわけで、順番的にはロッキード・マーティン社なんだけど、F-35の開発で随分とマンパワーを喰われているので、果たしてその事がどう影響するのか。

それ以外でFA-50をアメリカが必要とするのか

色々書いて来たが、T-50A計画は挫折したしTF-50計画は可能性は結構あると思うんだけど、それでも朝鮮日報の記事では500機のFA-50をアメリカにセールスするという。

T-50AやTF-50じゃなくてFA-50軽戦闘機がアメリカで本当に求められているのかというと、これは全く謎だ。

何時も参考にさせて貰っているJSF氏もXで「良く分からない」というポストをしているが、僕も同感である。州軍がCOIN機に使いたいのであれば、中古のF-16戦闘機を購入した方が良いしね。

コメント

  1. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    FA-50なぁ……悪い飛行機じゃないはずなんだけど。
    なにしろ、ロッキード(当時はジェネラルダイナミックスだったのかな?)がF-16の縮小版として作ったようなものですから。
    ※この辺、M-1戦車の縮小版がK1戦車なのと同じ事ですよね、凄くおおざっぱに。
    とはいえ、今からアメリカが買うかって言うと……記事中にあるとおり、T-7が採用決定されている上に、タッチ&ゴーだけとはいえ、空母着艦を模すとなると降下装置も相応に強化しないとダメでしょうし、どうなんでしょうね。

    七面鳥の曇った目には、明るい未来は見えないなぁ……

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。
      いや、FA-50の設計については特に疑っていませんよ。正確に言うとT-50の設計が、ですね。確か、FA-50に関してはロッキード・マーティン社は余り積極的ではなかったようで。エンジンが非力ですから練習機としてはともかく、攻撃機としては使いにくいのですよね。航続距離も短いし。
      ただ、こういうのはかなり政治も絡んできますから、どうなるのかは。

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