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ある原作者の死と、映像化の弊害

国内ニュース
この記事は約11分で読めます。

原作漫画の実写化ほど地雷案件はないな、と思っている口だったので、今回の話は本当に腹立たしいし、悔しい。

「セクシー田中さん」原作者死去めぐりシナリオ作家協会が謝罪 ユーチューブ動画批判受け

2024/2/4 21:27

映画やドラマの脚本家らでつくる「日本シナリオ作家協会」は4日、日本テレビがドラマ化した漫画「セクシー田中さん」の原作者、芦原妃名子さんの死去を巡り、「原作者と脚本家の関わり方などに関して敬意や配慮を欠いた動画を配信」したとして「深くお詫び申し上げます」と公式サイトで謝罪した。

産経新聞より

この産経新聞の取り扱っているYouTubeの番組がまたヒドくて、余り言及したくないのでこれを直接取り上げることは、止めておく。

著作権侵害だがパワーバランスで決まる権利

漫画家の自殺で

この原作に関する知識はなかったので、第一報に触れた時には、「何が起こったのか」という感じだった。

漫画家の芦原妃名子さん死亡 「砂時計」作者、栃木で発見―警視庁

2024年01月29日20時22分配信

漫画家の芦原妃名子さん(50)が29日、栃木県日光市内で死亡しているのが見つかった。捜査関係者への取材で分かった。自宅からは遺書が見つかっており、警視庁は自殺とみて調べている。

時事通信より

どうしてそうなったのか?に関しては想像するしかないのだが、朝日新聞の報道など、色々な情報に触れるに付け、碌でもないことが起こったことだけは間違いなさそうである。

日テレ、芦原さん訃報にコメント

2024.01.30

日本テレビは30日、公式サイトを更新。同局系昨年10月クールに放送された、連続ドラマ『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんが亡くなったことを受け、改めてコメントを発表した。

~~略~~

ドラマの公式サイトが29日に更新され「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております」とつづられていた。

朝日新聞より

1月29日に日テレのドラマ公式サイトには、まるで他人事のような日テレ側のコメントが紹介されたが、ドラマ制作者サイドと原作者の間のトラブルがあったことは間違いなさそうである。

その事を、日テレは認めてはいないのだけれど。

現在はサイトのトップにこんなコメントが掲げられている。「誹謗中傷は止せ」だ?原作者を誹謗中傷したのは脚本家じゃなかったのか?

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原作毀損

故人の話を追求するのは、死人に口なしと言うことになりかねないし、或いはこれ以上に死人を増やすことに繋がりかねないので止めておきたい。

ただ、僕自身はこの手のトラブルをよく見かけるので、何とも言えない気持ちになっている。

フジと絶縁の「海猿」原作者、急死の芦原妃名子さんは「普通の人だったんじゃ」と推察 出版社の対応には不信感示す

2024.02.02

「海猿」「ブラックジャックによろしく」などの作者として知られる漫画家の佐藤秀峰氏が2日、自身のnoteを更新。昨年10~12月に日本テレビ系で放送されたドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、1月29日に死亡しているのが発見された漫画家・芦原妃名子さんについて「普通の人だったんじゃないか」と推し量った。

デイリーより

ただ、僕の推し漫画家であった佐藤秀峰氏のコメントを見るに付け、この佐藤氏も随分と原作者として蔑ろにされたのだなと、思い出した。

思い出深い海猿のドラマ化について、確かに色々問題はあれど格好いいドラマになっていたが原作マンガとは何もかもが違って、あれは同じタイトルの別作品だったと納得した思いがある。

なお、ブラックジャックによろしくもドラマを見たが……、こっちの方が酷かった。ドラマとしては完成度はそれなりだったと思うんだけど、同タイトルを付ける理由が分からない程度には改編されていたのである。

まあ、この他にも様々な映像化クソ作品があって、列挙に暇がないわけだが。でも、映像化に成功した事案もそれなりにあるので、全てがクソというわけではないんだ。原作リスペクトというのは、大抵、成功条件になるんだけど。

先に紹介した、両作品の映像化に共通する点は、「映像化にあたってモチーフだけ使われた」という点である。原作タイトルを使っていなければ剽窃にあたる行為だ。原作リスペクト?ナニソレ美味しいの?という感じの映像化の失敗事例だね。それでも海猿の映像化作品は売れたんだけどさ。

二次的著作権

通常、原作は著作権に守られているので、本来であれば、映像化などにおいては二次的著作権というのが発生する「ハズ」だ。

これが原作者の権利でもある「ハズ」なのだが、これが守られないことが多い。

二次的著作物とは?弁護士がわかりやすく解説します - 広島で企業法務に強い顧問弁護士なら山下江法律事務所
「二次的著作物とは『著作物から創作される著作物』だ」と言ったら、どの様な物を思い浮かべるでしょうか

詳しい説明は弁護士先生にお任せするとして、大体の映像化は「翻案」と呼ばれるモノに該当する。

記憶の中にあるヒドイ事案としては、鋼の錬金術師だろう。この作品、2回アニメ化されているのだが、1回目のアニメ化は原作ガン無視のラストを迎えていて、非常に評判が悪かった。2回目のアニメ化は「FULLMETAL ALCHEMIST」と銘打たれて、最初から作り直しになっていた。

尤も、1作目アニメ化の際には原作未完で、「原作者がOKを出した」ということで制作スタート。内容が改編されるのは仕方がなかった面もあるんだけど。

実は最近実写化もされたのだが、これがまたヒドイ。まあ、言及する必要もあるまい。三作も作られたのは信じられない話である。

で、先出の法律事務所のQ&Aを紹介したのは、「二次的著作物を捜索するときの注意点」という項目で説明している文章を紹介したかったからだ。

(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)

第二十八条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

e-GoV「著作権法」より

基本的に、著作権法では原著作物の著作者は、二次的著作物の「利用」に関する権利を「専有」している。

したがって、厳密に言うと、原作漫画主人公のフィギアが作られた場合、二次著作物が勝手の販売されることは原作者の著作権の侵害に当たる。

もちろん、原作を勝手に翻案してドラマ化した場合、これを放映することは原作者の権利を侵害するのだ。

当然ながら、芦原妃名子の著作権を日テレが「侵害」した疑いは濃厚である。本件は、他にも契約違反による損害賠償などが発生しうる事案なんだけれど、そこはさておこう。

テレビ局側はこれを知りながら「契約自由の原則」から、二次創作物を勝手に放映する権利を契約で手に入れるのが普通なのである。漫画原作者は、これにサインしてはならない。業界の慣例だろうが何だろうが、断固として断るべきである。

おそらくは、翻案権、複製権、付随著作物の利用権、などが侵害されることになるからだ。そして、漫画家個人がこれを侵害されたことを知っても、法的措置に訴えることは難しい。

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音楽著作権協会JASRAC

なお、こうした漫画家の著作物を守る団体は存在しないが、音楽の分野であれば悪名高いJASRACが色々とやってくれる。

個人で音楽を楽しむ場合、JASRACは非常に厄介な相手である。ただ、音楽家にとってJASRACはありがたい存在となる。彼らが音楽家の上前をはねて色々とやっている事実はあるのだろうが、権利行使においてこれほど強い組織はなかなかない。

著作権使用料が徴収されるまで
日本音楽出版社協会のサイトより

個人の利益と利用者の利益バランスが、現在は余り上手く調整できていないことは問題視されるのだが、一旦問題が発生した時にJASRACに権利を管理して貰っている音楽家は、JASRACがケツ持ちをしてくれるという構図になる。

小説にせよ漫画にせよ、映像化するにあたっては個人対組織の構図になりがちである。そういう場合に、法的対抗手段を持っている組織に属していることは非常に大きいのだが……、本来、盾になってくれるハズの出版社が弱体化しているので、漫画原作で映像化する場合にロクデモナイ結果になることが多い。

原作者にとっても、原作ファンにとっても、原作毀損は許されざるべき大罪なのである。だから、映像化などにあたって原作者との権利・利益調整を行う団体というのは、利用者にとっても大きな利益に結びつくだろう。

前出の海猿に関して言えば、最初に原作者に200万円支払われて、それでオシマイ。再映像化、再放送、映画化などは実に勝手に行われ、原作者に何も利益は還元されなかったようだ。

小学館は動くらしいんだけど

なお、この件、小学館は一応抗議する構えのようだ。

日テレVS小学館の〝抗争〟に発展か 「セクシー田中さん」作者・芦原さん急死、真相は「番組担当者と脚本家のやりとり」

2/2(金) 17:00配信

ドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ系)の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが死亡していた問題は、さらに騒動が拡大しそうな様相を呈している。真相の解明が進まなければ、日本テレビと漫画の版元である小学館の抗争にも発展しかねない状況なのだ。

Yahooニュースより

ただ、構図として、今回の件は小学館担当者が原作者と話をし、担当者が窓口になって日テレ側との交渉を行った模様。そうすると、小学館のスタンスとしては抗議をするという形を見せざるを得ない。何故なら、他の作者を大勢抱えているのだから。

「版元の小学館としては、大切な作家さんをひとり奪われたようなものです。今回の真相が明らかにならないかぎり、今後、版元としては大切な作家の作品を預けることは難しくなるのではないでしょうか。これまでの作品はともかく、少なくとも新たな作品のアニメ化は、いったん様子をみるということになってもおかしくありません」 ボタンの掛け違えということでは済まなくなっている。

Yahooニュースより

ところが、建前はともかく本音としては映像化してもっと宣伝して欲しいというのが小学館の立場なので、必ずしも原作者に寄り添ってくれるとは限らない。

悪し様に言われるJASRACだが、その辺りはきっちり音楽家側に寄り添う立ち位置にある。それだけを飯の種にしているんだからね。それが上手く機能しているかはまた別の話ではあるが、立ち位置としてはそうだ。

そういう意味で、似たような組織を作って漫画家を保護することは、今の日本文化を大切にすると言う観点では大きな意味があると思う。あと、この件とは全く関係ないけれど、アニメーターも随分とヒドイ立場に立たされている。日本文化という括りでは、こちらも何とかして欲しいと思う。

……文化庁が動く案件だと思うんだけどな。

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追記

脚本家の視点を入れなかったので、少し言及しておきたい。

「逃げ恥」脚本家、経験踏まえ原作者と脚本家の関係性説明 テレビ局の姿勢には苦言呈し共感、賛同の声殺到

2/2(金) 17:04配信

2016年に放送されたTBS系人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」などの脚本を手がけた脚本家の野木亜紀子氏が2日、自身のX(旧ツイッター)を更新。昨年放送された日本テレビドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんが1月29日に死亡しているのが発見されたことに関連し、自身の経験を踏まえて原作者と脚本家の関係性を明かした。

~~略~~

その上で「脚本家からしたら、プロデューサーが話す『原作サイドがこう言ってた』が全てになります。私自身も過去に、話がどうにも通じなくて『原作の先生は、正確にはどう言ってたんですか?』と詰め寄ったり、しまいには『私が直接会いに行って話していいですか!?』と言って、止められたことがあります」と過去の体験を回想。さらに「プロデューサーも、先生の意見を直接聞いているかというとそうでもない。半年以上に及ぶやり取りの中で、地方在住の方もいらっしゃいますし、ご自身の仕事が多忙でそんな暇ないということもある。そのため大抵は、出版社の担当者やライツを通した、伝言の伝言になります。もしそこで誤解や齟齬が生じても、プロデューサーとライツ・担当者が話し合って双方に還元すれば、解決したりもします」と解説した。

Yahooニュースより

冒頭のケースでは脚本家が原作者を貶していた事が指摘されていたが、映像化の「現場」では様々なケースがあるので、何が本当だったのかはハッキリとは分からない。

脚本家が映像化した時に、全く別作品になっても成功した事例だって少なからずあるわけで、映像化が全てダメだとは言わない。原作者の拘りを入れたから成功するとも限らないしね。テレビの現場を知っている人間がドラマ化した方が、成功率が高くなると本人達が信じていても不思議はないし、映画でも同じ事が言える。

そういえば、「風の谷のナウシカ」は(監督本人原作だが)原作と大きく話が違うし、「魔女の宅急便」は原作者が「余りに違うのでビックリした」と言われているが、実際原作と映画とではテイストも内容も大きく違う。映画を先に見て原作を読むと、「これを良く映画化したな」と感心すると共に、「どこが同じなのか」と悩むような内容でもある。序でに言うと、原作が面白いかというと、そうでもない。

息子の作品である「ゲド戦記」は、原作者が激怒したと言われている。なお、「ゲド戦記」の原作が面白いかというと、世界各国で色々な賞を貰っているしファンタジー古典の1つと並び称されるのだけれど、個人的には余り評価をしていない。

原作を作った時の設定が、映像化にあたって時代に合わないなんてことも結構あるしね。

脚本家の翻案の全てがいけないとは思わないんだけど、結局のところ脚本家は人の褌で相撲を取るわけだから、原作者の意向を無視するというのが最もやってはいけないことなんだと思う。というか、原作無視なら、自分でオリジナルの話を作れば良いのである。

いや、映像化するにあたって脚本家が「金を出すスポンサーの意向を汲む」事を優先したくなるのは、分かるんだけどもね。そう、結局のところ、この問題の一番の問題はプロデューサーの手腕が未熟だとダメって話なんだな。あと、スポンサーも金を出す以上は収益を追求する必要があるんだろうけど、原作者に利益を配らなくて良いという文化は撲滅すべきだと思うんだ。

コメント

  1. アバター みみこ より:

    漫画に限らず原作がある作品の映像化が抱えている問題ですよね。
    アニメ化は脚本の比重が大きいかもしれませんが、
    映像化の場合は脚本に加えて「キャスティング」の問題もあるわけで。
    (脚本はともかくキャストがひどい、とか。
    「映画化するなら誰がいいアンケート(?)」でトップになった俳優が主演した映画は納得のキャストだったなぁ。)

    視聴率或いは観客動員数による「制裁」を受けても、
    それで原作者の思いが報われるわけでもないし下手すれば原作に被害が及ぶし。

    映像がおもしろかったので原作を読んだらつまらなかった、ということがあるのも事実だし。

    「原作者が納得できる」のが理想ですけど難しいのでしょうね。
    ただ「原作者との約束なんてどうでもいい」という態度はいかがなものかと。

    • 木霊 木霊 より:

      小説の映像化は、様々な裁量の余地があるのですが、漫画の映像化は絵ありきのところから始まりますからねぇ。
      キャスティングの話は、色々と外見が重要視されるように思えますが、映画化されたカイジみたいに、演者の実力さえあればやれると思うんですよね。
      結局のところ、原作に対するリスペクトがどこまであるか?のように思えます。

  2. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    本件、「黙っていることが出来ない」脚本家の人達が各個に騒いではネットで撃沈されている感がありますが、それはともかく。
    日テレの原作軽視、お山の大将体質は業界内外で有名だったようで、それはもう、テレビ業界の宿痾であり、こうして一度壮絶に痛い目を見ないと直らない(痛い目見ても直らないシエクスンとか居ますが)と思ってます。

    そして、本件で一番の悪は、小学館だと思ってもいます。
    なにしろ、作家を守れなかった。
    作家個人が巨大なテレビ局制作集団に徒手空拳で抗議しているのに、何もしていなかった印象があるのです。
    多分、七面鳥と同世代くらいの漫画読みには、雷句氏や久米田氏が小学館から離反したあたりの編集部のグダグダ具合が印象強く残ってると思いますが、そういう、作家を大事にしない体質がまだまるっと残っているのだと、そう思えてなりません。

    テレビ局や脚本家よりも、作家を守らない編集をまず真っ先に糾弾すべき、改心を迫るべきと、漫画大好きの七面鳥は憤っている次第であります。

    ※アニメやドラマの原作レイプは枚挙に暇がない。そういえば、「八神君の家庭の事情」も小学館だったっけ……あれは、最悪四天王の一つだと思います。

    • 木霊 木霊 より:

      こんにちは。

      そうですねぇ、小学館は何故、あんな後手に回ってしまったのやら。
      後付けで何を言っても仕方がないわけですが、ヒットメーカーの高橋留美子原作のアレですら、まあヒドイモノでした。過去の話ですけどねぇ。
      「八神君の家庭の事情」ですか?アレは映像化されていませんよ?良いですね?そんな過去はなかった(圧

      • アバター 七面鳥 より:

        >アレは映像化されていませんよ?良いですね?そんな過去はなかった(圧

        おや?
        当時、学友と「何故、安達祐実でやらなかった!」と憤ったような気がするのですが、そうですか、「存在しない記憶」でしたか……

        ※「存在しない記憶」といえば「呪術廻戦」の、東堂葵の「領域展開」と言われる(東堂の術式に領域展開はない)「高田ちゃんイメージビデオ」は、良い意味での原作改変なんですが、そういうWin-Winの関係って、原作リスペクトがあってこそ、ですよね。

        • 木霊 木霊 より:

          高田ちゃんイメージビデオ!

          いやー、息子が「呪術廻戦」を見ていたので、序でに見ていたのですが……、唐突に始まるイメージビデオ!一体何が始まったのかと。凄惨な敵との応酬の間に、「最高潮☆JUMPING!」とか言われましても、と思いました。
          いやー、アレはなかなか良いモノでした。(小並感)

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