在韓米軍基地に配備のTHAAD、運用は更に先延ばしか

大韓民国

環境調査の草案が出てきたという話もあったけど、かなりきな臭いな。

THAAD基地の環境影響評価の草案完成 国防部

Write: 2023-02-24 14:50:11/Update: 2023-02-24 14:52:13

アメリカの高高度迎撃ミサイルシステム「サード(THAAD)」の韓国への配備について、中国が問題提起を繰り返す一方で、配備先の住民からも反発が続いています。こうしたなか、システムの早期配備を目指す国防部は、慶尚北道星州郡にあるサード基地の環境影響評価の草案が完成したと、24日、明らかにしました。

KBS WORLDより

この話題は随分と前から取り扱ってきたんだけど、未だ決着が付いていない案件である。この記事を読んで「ようやく決着が付くのか」と思う人もいると思うが、僕はそれに関しては否定的な立場だ。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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運用を引き延ばした韓国

3不1限の誓い

そもそも、在韓米軍がTHAADを韓国国内に配備しようという判断になった理由がいまいちよく分からないのだが、おそらくは地政学的に支那がアメリカ大陸に向けてICBMを発射した場合に、朝鮮半島にTHAADが配備されている事が最も効果的に迎撃できるという事なのだろう。

だが、軍事的意味はそれだけではないという分析がなされている。

中国はなぜ韓国のTHAADをこれほどまでに警戒するのか

登録:2022-08-12 06:32 修正:2022-08-12 08:59

中国が最近、THAAD(高高度防衛ミサイル)問題と関連し、これまで公には主張しなかった新しい要求まで持ち出し、韓国に対する圧力を強めている。米中戦略争いの範囲とその激しさが、THAADが韓国に配備された2016~2017年とは全く変わった状況であり、これが台湾問題のように東アジア全体の情勢を揺るがす「厄介な問題」に浮上する恐れもある。

文在寅政権が2017年10月、THAAD三不を宣言した後、水面下に沈んだかに思われたこの問題が再浮上したのは、今年の大統領選挙運動期間中だった。当時、「国民の力」の尹錫悦大統領選候補は1月末、フェイスブックに「THAAD追加配備」という書き込みを載せた。弾道ミサイル迎撃システムのTHAADは2016年7月、朴槿恵政権時代に配備が決定されてから、翌年4月に慶尚北道星州の在韓米軍基地に配備された。これをきっかけに韓中関係が険悪になり、中国は韓国に経済報復を加えた。同年5月に発足した文在寅政権は、10月に中国と「THAADを追加配備せず、米国のミサイル防衛システムに参加せず、韓米日軍事同盟を結ばない」といういわゆるTHAAD三不協議を通じてこの軋轢を「封印」した。

ハンギョレより

韓国左派系メディアのハンギョレの分析が信頼できるか?という問題はあるが、この記事に寄れば、THAADミサイルそのものよりも、迎撃に用いるレーダーの能力が問題だということのようだ。

中国はTHAADシステムに使われる「Xバンドレーダー」(AN/TPY2)が中国東部と東北部地域の軍事活動を監視する用途に使われるとみている。

ハンギョレより

THAADシステムは、複数の機器より構成される終末高高度防衛ミサイルシステムである。

  • 10連装ミサイル発射機
  • Xバンドのフェーズドアレイレーダー AN/TPY-2
  • C4Iシステム

大雑把に言うとこの3つの機器よりなり、レーダーは1,000km以上の探知距離を持つとされている。ただ、この懸念は不合理ではある。

この配備を支那は嫌がって、韓国政府に「使わないように」と誓わせた。これが3不1限の誓いである。

<3不>

  1. アメリカのミサイル防衛に参加しない
  2. 日・米・韓の安保協力を軍事同盟化しない
  3. THAADの追加配備をしない

<1限>

THAADの運用を制限する

割と荒唐無稽な内容ではあるが、しかし韓国政府はコレを守ってきた。

配備は2017年6月

何をもって配備完了とするかで時期が変わってくるが、少なくとも2017年6月には韓国の配備先、星州郡の基地に機器の搬入が終わっている。

しかし、韓国政府は唐突に「環境調査を始める!」とか言い出した。

韓国、THAAD配備の環境への影響に関する調査を開始

8月 13, 2017 17:33 Asia/Tokyo

韓国が、アメリカのミサイル迎撃システムTHAADの配備地の環境への影響に関する調査を開始しました。

韓国・ヨンハプ通信によりますと、この環境調査は、配備地のソンジュの住民の抗議と、政府への配備見直しの要請を受けて開始されました。

この報告によりますと、韓国の国防省と環境省の専門家は、12日土曜、韓国南部のソンジュに入りました。

韓国とアメリカは、昨年7月、5ヶ月に及ぶ協議の末、北朝鮮の弾道ミサイルを追跡する目的で、韓国にTHAADを配備することで合意しました。

両国は、THAAD配備の目的は、北朝鮮のミサイルの脅威に対抗することだと強調しています。

Pars Todayより

韓国にも色々事情があるので、この点を突っ込んでも仕方のない面はあるが、時系列的に整理しておくと、以下のような流れになる。

  1. 2016年7月、朴槿恵政権がTHAAD導入を決定。6カ月程度で終了する「小規模な環境調査」を実施して正式にTHAADを配備する事に合意
  2. 同年9月に配備先が慶尚北道星州郡にあったゴルフ場「ロッテスカイヒル星州カントリークラブ」に決定
  3. 2017年3月、支那が自国民の韓国観光を全面統制しはじめる。コレと前後して、韓流と呼ばれる韓国政府ゴリ押しコンテンツ輸出も禁止される
  4. 同年4月、THAAD機器搬入開始
  5. 同年6月、5月に発足した文在寅政権が、環境調査の先延ばしを決定。1年以上にわたる本格的かつ綿密な調査を求めた
  6. 同年9月、6基すべてのTHAADシステムが配備先の基地に揃う
  7. 2022年8月、5月に発足した尹錫悦政権が、THAAD基地の一般環境影響評価を完了し、在韓米軍の任務遂行条件を保障しTHAAD基地を同月に正常化すると発表

呼んでいただければ分かる通り、完全にムン君がTHAAD運用開始を邪魔した格好である。そりゃ、アメリカの不興を買うのも無理はない。

5月に就任した韓国のムンジェイン大統領は、これまで何度も、議会の承認を受けずにTHAADの配備を受け入れた前政権を批判してきました。

Pars Todayより

議会承認ねぇ。不毛な話ではあるが、建前としては有効なんだろう。実際に、ムン君の政権下では運用を阻止し続けたのだから。

ユンユンは決断できるのか?

ただ……、では現韓国大統領のユンユンが決断できるのか?というとこれがまた難しい。

韓国、THAAD配備は「自衛手段」 制限求める中国と対立

2022年8月11日3:52 午後

韓国大統領府は11日、米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国国内への配備は自衛手段だと表明した。砲台の追加配備を行わず、既存の砲台の使用を制限するよう中国から求められたことを受けた。

中央日報より

環境評価が終わったから、早速運用開始するぜ!と息巻いていたユンユンは、早速支那からダメ出しされる。

img

現地に機器を移動させるだけでも、多数の警備員を配置して見守らないと、反対派が妨害工作をしてとんでもないことになる。

どう考えても支那や北朝鮮からの働きかけがあるのだが、そこは追求しても仕方が無い。

だが、どういう組織が暗躍しているかはともかくとして、支那に経済を依存している韓国にとって、今更足抜けは困難だ。

おそらく、THAADの運用開始で一悶着があることは必至。

国防部の関係者は、「評価の結果、電磁波を含めすべての評価項目が基準値以下であることが分かった」と話しています。

国防部は来月2日、住民説明会を開催する予定ですが、住民などの反発によって説明会が開けなかったとしても、2回以上開催を試みた場合は、関係法令に従って説明会を省略することも可能とされています。

そのため、星州サード基地に対する環境影響評価は、来月中に完了するものとみられます。

KBS WORLDより

この環境評価の結果って奴も、既にアメリカや他の国でも何度も行われている事を確認しただけに過ぎない話。

騒がれていた電磁波の影響も、基準値「1平方メートル当たり10W」を大幅に下回る「1平方メートル当たり0.003845W」、つまり1/2600という結果に。

そりゃまあ、近距離で直接照射されているのであればともかく、漏れてくる電磁波ならばその程度でも何の不思議もない。寧ろ、基地内で働く兵士達への健康を考えれば、その周りの周辺地域に健康被害が出るような数値が出てくるわけがない。

故に、環境調査という名の時間稼ぎであることは、調査する前から明白だったんだが。

THAAD配備の何が嫌なのか

さて、上でTHAAD配備を支那が何故嫌がるのか?という点について、ハンギョレの記事を批判した。

Xバンドレーダーが問題だったという結論は、おかしい。

コレがおそらく、韓国に配備されたTHAADの探知範囲である。ただし、韓国政府は探知距離は800km程度だとしているので、その通りであれば支那の国土を捉えない程度の探知範囲と言うことになる。

ちなみに似たタイプのXバンドレーダーは日本にも配備されている。その探知範囲はこの通り。

なお、実際にはフェイズドアレイ方式で左右各60度、合計120度の捜査範囲となっているのでJFS氏がこちらで示す通りである。

韓国配備のTHAADレーダーと日本配備のXバンドレーダーの関係(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース
韓国に配備することが決まった在韓アメリカ軍のTHAADのレーダーは日本に配備されているXバンドレーダーと同じもので、これらはお互いにデータリンクで繋がり補完し合います。

つまり、何れにしてもたいした影響があるとも思えない。

ハンギョレでは、支那の沿岸部の活動が丸見えになる旨が示唆されているが、そんなワケはないのである。

サードをめぐっては、中国側は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権がいわゆる「3不1限」を約束したとして、その遵守を繰り返し主張しています。

「3不1限」とは、「サードを追加配備せず、アメリカのミサイル防御に参加せず、韓日米軍事同盟を結成しない」ことに加え「配備されたサードに制限する」ことを意味します。

KBS WORLDより

冒頭の記事では、こんな結びになっていて、「防衛用だから気にしないでね」という方面で、ユンユンは押し通す気であるようだ。

だけど、韓国経済は非常に危険な状況を迎えていて、そこをなんとかするために支那に身売りする可能性は否定できない。

支那工場撤退を想定せざるを得ない韓国

ちょっと前の記事で、こんなものがあった。

【2月25日付社説】韓国の半導体、「中国工場撤退」という最悪の事態まで想定せよ

記事入力 : 2023/02/25 10:54

サムスン電子とSKハイニックスが中国にある工場で製造している半導体に関して、韓米経済安保フォーラムに出席した米商務省の産業安全保障担当次官が「製造できる半導体の水準に限度を設ける可能性が高い」と発言した。米国は昨年、半導体製造装置の中国輸出を禁止する際、サムスン電子・SKハイニックスの中国工場に対しては1年間の猶予措置を取った。担当次官のこの発言は、同フォーラムで「猶予期間が終了したら、その後はどうなるのか」という質問を受けてのものだ。

朝鮮日報より

アメリカはチップ4包囲網を強化しつつあり、支那で作った半導体を締め出す方針を打ち出した。

ところが、サムスン電子もSKハイニクスも支那に大工場を持っている。

サムスン電子は現在、NAND型フラッシュメモリの40%を中国・西安工場で、SKハイニックスはDRAM半導体の40%を中国・無錫工場で製造している。今は米国が提示した基準以下の製品を製造しているが、問題は今後のことだ。

朝鮮日報より

この工場の何れも巨大投資をして入手したもので、アメリカはここを範囲外だとしてくれたのだが……、今後のことを考えると状況は極めて厳しい。

不良債権を買い取ったSKハイニクス

なお、上の記事には含まれていないようなのだが、SKハイニクスはインテルに嵌められた(実際には、理解した上で買収しただろうと思われるが)ので、四川省成都にある工場も持っている。

IntelがSK hynixにSSD事業売却、米Solidigm始動

2022.01.05

米Intel(インテル)のNANDフラッシュメモリー事業の韓国SK hynix(SKハイニックス)への売却。その第1段階が完了したと、Intelは2021年12月29日(現地時間)、SK hynixは同年12月30日(現地時間)にそれぞれ発表した Intelのニュースリリース SK hynixのニュースリリース 。

XTechより

去年年明けに報道されたこの巨大買収の話だが、このニュースはこちらの話の延長線上にある話。

インテルの中国での半導体増産計画、ホワイトハウスが退ける-関係者

2021年11月13日 13:10 JST

バイデン政権は米インテルによる中国での増産計画について、安全保障上の懸念を理由に退けたことが事情に詳しい複数の関係者の話で分かった。米国の半導体不足問題の解決策として打ち出された同案は頓挫した。

関係者が匿名を条件に話したところでは、半導体メーカー最大手のインテルは四川省成都にある工場を使ったシリコンウエハー製造を提案。2022年末までに稼働させ、世界的な供給不足の緩和を図る計画だった。同社は一方で、米国での研究と生産を強化するため連邦政府の支援も求めている。

Bloombergより

いやー、アメリカさんも人が悪い。SKハイニクスがこの買収話に乗ったのがそもそもの間違いだと思うのだが、おそらく韓国政府への働きかけで韓国ならアメリカからお目こぼしが貰えるだろうというもくろみがあったはずだ。

だが、例外なしでアメリカは支那を半導体関連事業から締め出すつもりだ。

現時点で韓国の半導体関連は赤字事業になっているのに、SKハイニクスのこの買収案件は赤字には含まれていない。完全な不良債権なんだが。

韓国の半導体は40%が中国に輸出されている。政府と企業は対米通商外交チャンネルを総動員し、中国工場の稼働年限を最大限延長する解決策を模索しているが、中国工場撤退に備える「プランB(代替案)」も用意しなければならない。

朝鮮日報より

何より、韓国の半導体は支那に売れなくなりつつある。工場云々という話以前の問題を抱えていて、朝鮮日報の言うプランBは1年の猶予を貰えると分かった去年の時点で決定していなければならない話。

結局のところ、ユンユンも結論を先延ばししたという事になる。

THAADも半導体関連事業も、共通点は支那関連という事で、そこに明確な決断をしていない時点で、THAADに関する決断も怪しい。

そうなってくると、結論が出て半年経ってから草案が出てきている状況は、極めて危うい状況である。……これは、決断を先延ばしをするという事になりそうである。

正直、今、半導体関連で支那との関係を絶つと、韓国は生き残れない。それは、少なくとも経済的な見通しが立たなければ決断できないと言うことを意味する。先行きは暗そうだね。

コメント

  1. え? まだ運用してなかったの??
    というのが記事を読んでの素直な感想です。そんなに嫌なら撤去すれば良いじゃん。で、堂々とレッドチームに行く。
    シナの少数民族では最大派になれますよ。というのが本音なんですが、まぁ今まで「緩衝材がなくなると日本が…」というお話を何度も聞いて、あの国に毛を逆立てて怒るのはヤメにしたんですが。
    とはいえ、どうなんですかね?
    経済的にキモをシナに握られた国で、本当に運用でこるのだろうか?
    在韓米軍が起動した瞬間に、韓国軍が基地を攻撃するのではないか?
    そういうような疑いの目線で見てしまうんですね。正面から来る多勢の敵より、
    味方のフリして後ろから撃ってくる奴らの方が危険ですから。
    もう、このシステム諦めた方が良いのでは?

    • いやー、僕自身、韓国の緩衝材作用って何年か前に「ああ、もう無理だ」と諦めたんですよね。
      ブログでも「レッドチームに入った」とか「ルビコン川を渡った」とか書きましたが。
      もはや、付き合う価値を見いだせないのが韓国で、まだ北朝鮮の方がマシ、まであるでしょう。
      勝手に「アメリカも無理だと考えている」と想定しています。おそらく、どの時点で店じまい(撤退)をするのか?というレベルではないのかと。