予想通りではあるが、半年で足りるのか?
初の韓国国産ロケット「ヌリ号」打ち上げ半年延期へ
記事入力 : 2020/07/06 07:56
韓国が独自開発している3段式宇宙ロケット「ヌリ号」の初の打ち上げが部品製作に支障が生じたため、当初予定の来年2月から半年後に延期される可能性が高まった。
「朝鮮日報」より
そして、理由が「武漢肺炎ガ-」というのはどうなのだろうか。
2021年打ち上げ予定!
予定は未定
このブログでは追いかけているニュースの1つが韓国の国産ロケットの話である。
この辺りに経緯を含めて触れているのだけれど、事実上、今回のロケットは韓国の純国産……、いや、準国産ロケットとしては初の試みが山積している。
まあ、個人的には随分苦労しているなという印象ではあったが。
ザックリ説明しておくと、韓国の国産ロケット、今まで存在しなかったわけではない。ただ、一つ前の「KSLV-I」までの何れのロケットも人工衛星を打ち上げる能力は持っていなかった。
結局、ロケットエンジンの開発に手を拱いていた状況なんだけど、韓国の判断でロシアに協力して貰おうという気になったらしい。
よって、1つ前の「KSLV-I」ロケットは、一番出力の必要な1段目をロシアにお任せして打ち上げるに至る。説明に必要なので箇条書きで挙げておこうか。
- KSR-I 無誘導1段式固体燃料ロケット 高度66.7kmに到達(打ち上げ回数2回:1993年6月4日、同年9月1日)
- KSR-II 誘導式2段式固体燃料ロケット 高度160kmに到達(打ち上げ回数2回:1997年7月9日、1998年6月11日)
- KSR-III 無誘導1段式液体燃料ロケット 高度42.7kmに到達(打ち上げ回数1回:2002年11月28日)
- KSLV-I 羅老号 2段式ロケット 打ち上げ回数3回で3回目のみ成功(1段目はロシアで、2009年8月、2010年6月、2013年1月30日)
こんな感じで打ち上げをやっていて、他にも固体燃料ロケットを民間で打ち上げたみたいなニュースも何処かで見たけれど、ハッキリいうと実に少ない。
特にKSR-IIIの打ち上げは1回だけで液体燃料ロケットだったのだけれど、ロケットエンジンの技術は実はロシアの技術者からという話だった。KSLV-Iロケットを打ち上げる際に、ロシアにお願いする流れは、ある意味当然だったのかも知れない。
ただ、KSLV-Iロケットの一段目のロケットの技術は、韓国の目論見から外れてロシアが持って帰ってしまった。もちろん、そういう契約だったのだから仕方は無いのだが、多分韓国としては済し崩し的に技術を盗み出せると信じていたのだろう。とはいえ、経験値になったことは間違い無かったと思うんだけどね。
お粗末な話ではあるが、現在の韓国に液体燃料ロケットエンジンのノウハウは無いのだ。
つまり、今現在、韓国には打ち上げスケジュールを決定出来るだけの材料が無いのである。
多分半年後には……
そんな訳で、この様な発言に。
韓国航空宇宙研究院のチョ・サンヨン発射体保証チーム長は今月3日、韓国科学記者協会のサイエンスメディアアカデミーで「ヌリ号が2段目の性能を立証し、1・2段目の最終試験段階に入ったが、新型コロナウイルスの影響があるほか、国内企業が担当する部品の信頼性が確保できていない」と述べた。
~~略~~
同院によると、国内メーカーによる燃料タンク外皮の製作が4カ月遅れた。最近には全羅南道高興郡の羅老宇宙センターに派遣された韓国航空宇宙産業(KAI)の職員が新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触していたことが明らかになり、発射体の組み立てと燃焼試験が2週間中断した。これに先立ち、昨年2月に大田市のハンファ工場が爆発事故の影響で6カ月稼働を中断し、同工場で生産していたパイロスターターの製作にも問題が生じた。パイロスターターはエンジンで火花を発生させ、燃料に点火するのに用いる部品。
「朝鮮日報”初の韓国国産ロケット「ヌリ号」打ち上げ半年延期へ”」より
色々と、武漢肺炎の影響を臭わせてはいるが、実際に目処が立ったというような話はどこにも書かれていない。
「遅れちゃった、ゴメンネ」ということだ。
この引用部分の中で気になるのは「パイロスターター」の部分だ。無論、これだけが問題なのではないが、エンジンをクラスター化して制御する事を考えると、重要部品であることには変わりが無い。
何が言いたいかというと、韓国が必要としているクラスターエンジン制御には、パイロスターターが不可欠なので、テストすらできない状況と言うことなのだ。
なお、燃料タンク外皮の製作に関しても、ちょっとどうかなーと思っているのだが、その辺りはまた別の機会に。
3月の時点で75t級エンジンの認証完了
ともあれ、エンジンである。
皆さんご存じだとは思うが、「ヌリ号」ことKSLV-IIロケットの1段目に使うのは75t級エンジン4基である。この75t級エンジン1基を使ったロケットの打ち上げテストは、2018年11月に行われて「成功した」という事である。
ところが、KSLV-IIロケットを打ち上げる為には、4基のロケットエンジンを同調制御しなければならない。そして、そのテストが未だに行えていない。ところがこの同調制御というのは、それほど簡単な技術ではなく、殆どの国ではやっていない。
構想的にはロシアのアンガラロケットが近いと言えば近いのだけれど、しかし、アンガラロケットもURM-1 コア1基に複数のURM-1ブースターを搭載して打ち上げる構想だ。ブースターも液体燃料ロケットエンジンという点では似ているのだが、最新技術を教えて貰えるワケも無し。韓国独自でやらねばならないところに、ハードルの高さが伺える。
韓国型ロケット打ち上げ1年延期の「2021年」…月探査船は「2030年以前」
2017.11.22 10:19
2020年に予定された韓国型ロケットの打ち上げが1年延期になった。ただ、無期延期となった月着陸船の打ち上げは「2030年以前」に変更される予定だ。
科学技術情報通信部は21日、ソウル中区プレスセンターで公聴会を開き、こうした内容の「宇宙開発政策方向」を発表した。この計画によると、政府は2021年に韓国型ロケットを2回打ち上げる。
~~略~~
この事業は2017年に試験打ち上げをし、2019年と2020年にそれぞれ実際に打ち上げるというのが、2013年当時の政府の計画だった。しかし科学界はこの計画に懐疑的だった。早いということだ。このため2018年に試験打ち上げをした後、2021年に実際に打ち上げに挑戦するという日程を決めたという。しかし前政権がこの日程を1年操り上げた。
「中央日報」より
記事にあるように、元々の予定(2013年段階)では、2019年に1号機を打ち上げる予定だったようなのだが、流石に無理だろうという話になって、2018年の打ち上げをした結果に基づいて2021年に打ち上げするぞという予定にしたらしい。
それを1年前倒ししちゃったのが当時の大統領であったクネクネである。自分の政治的業績の1つに数えるために、前倒ししたがったと噂されている。
それをご破算にして、2021年打ち上げ予定に戻しましょうという話であれば良かったのだけれど……、この日程も結局、現大統領ムン君の都合で決めた感じである。
しかし現実的にはちょっと無理っぽいよね、というのが冒頭の記事であって、実際にある程度目処が付いたから日程を決定した、というわけでは無い。
つまり、まだまだ遅れそうだという事だね。
コメント
KF-XのAESAレーダーも怪しいものです
あははは、できたらしいですよ?
ただまあ、完成は等分先(未来永劫延長される可能性アリ)なのでしょうが。
皆さま、今晩は
「パイロスターター」とか「ロケットエンジン クラスタ 制御」とかググってみましたが、欲しい情報には行き当たりませんでした。知りたいのは「ロケットエンジンクラスターの制御はどのように行うか」なんですけど。お勧めのサイトとかありますか?
クラスターだと、各エンジンの推力が等しくなるように制御しなくてはなりません。でないと、真っすぐ飛びません。エンジンの出力を制御するには燃料の供給量を制御する、と思いますが(他に方法がなさそうに思えます)必用な圧力を保って供給量を「精密に」制御するのは難しそう。
パイロスターターよりも、この方が難しいような気がします。
音楽大好きさん
クラスタの場合も、姿勢制御は偏向ノズルや小型推進装置(スラスター)などで行いますので真っすぐ飛ぶためにエンジンの出力を制御を行う必要はありません。
クラスタで一つのエンジンに問題が起きた場合でもそれが姿勢制御自体の問題に直結することは少ないですが必要な推力に届かなければ目的の軌道に乗れませんのでそこが問題となります。
例えば5個一組のクラスタなら出力可能な推力の8割で通常運用し一つ停止したら残りに停止した分の燃料を送り込み出力を上げて補うことのようなことが必要になります。
ただクラスタで信頼性を求めると
・燃料を共用してないエンジンだと出力を上げると燃料不足になるか成功時には無駄となる燃料を積むこととなりコスト的に現実的でない。(燃料代だけでなくペイロードにも影響しますしね)
・構成するエンジンが少ない場合は、通常時の出力を抑えなければならなくまた代替するためにはよる推力の大きい高コストなエンジンである必要があるためクラスタ化によるコスト低減の目的から外れる。(2個でクラスタだとトラブル時に1個で離昇できるエンジンなら1個でいいんじゃないとなるし、エンジンの出力を抑えて運用すること自体コスト的には不利)
とかコストを度外視しても信頼性を重視されるようなミッションでもないと難しいかも。
音楽大好き様、Rodney様
昔、クラスタ構成のPCサーバの構築業務をやってましたので、信頼性のあたりは勉強しました。
Rodney様がおっしゃる
>ただクラスタで信頼性を求めると
の範囲は、信頼性じゃなくて「バックアップ」(可用性)です。
旅客機のエンジンが片発止まってしまった場合に、無事に着陸できるかどうかという話ですね。
>とかコストを度外視しても信頼性を重視されるようなミッションでもないと難しいかも。
こういうミッションだと、この考え方は重要です。・・・でも、スペースシャトルでもやってませんでした。
ロケットエンジン(に限らず機械全般)には、故障する可能性があります。
このロケット場合、必要推力を確保するためにクラスタ化するということなので、どのエンジンが故障しても困ります。
各エンジンの信頼性を0.999とした場合、クラスタ化した場合の信頼性は、以下の値になります。
・二基クラスタ=0.998001=0.999×0.999
・三基クラスタ=0.997002999=0.999×0.999×0.999
・四基クラスタ=0.996005996001=0.999×0.999×0.999×0.999
このように、構成要素が増えるごとに信頼性が低下します。
ロケットエンジンの構成部品は多数に上るので、もっと信頼性は低いと考えます。
>クラスターだと、各エンジンの推力が等しくなるように制御しなくてはなりません。
ある程度の推力の差は、問題なさそうな気がします。
H-2Bですが、第一段の打ち上げ直後は、メインエンジン2基と補助ブースター2基のクラスタと考えられます。ただ、補助ブースターは固体燃料なので、推力制御はできません。
そして、メインエンジンと補助ブースターは同じ推力なのか?という疑問があります。
(メインエンジンや補助ブースターが一基稼働しなければ、まともに飛行しないと思いますが)
あるけむさん、コンピュータにおいては稼働率において可用性という言葉が用意されてるのですけど、ロケットの場合は稼働率より成功率(失敗か成功の2択)という感じで可用性という言葉よりロケットの成功に対する信頼性のほうがわかりやすいかなと思い信頼性(もちろんMTBFとかMTTRとか出てくる信頼性とは違いますが)を使ってます。
*自分もUNIX、Windows、S.u.S.E. Linux等で大規模サーバシステム構築に従事してました、汎用機時代は信頼性の計算とかしたけどPCサーバとかになるとそもそも故障率とかが当てにならないので単にスタンバイ機をどういう構成で置くとかいつ壊れてもおかしくないことが前提のシステム設計になりましたね。
音楽大好きさん、あるけむさんも書いていますが、初期のクラスタの代表であるソユーズでも各エンジンの推力の誤差により発生する程度の傾きは、バーニアスラスターで調整していますので、バーニア、偏向ノズル等の推力偏向装置で調整可能な範囲の誤差は問題になりません、クラスタはむしろ数が少ないほうが中心軸に近い配置にするとか工夫しないと一方の点火タイミングが悪かったときに傾きが大きくなりやすく姿勢制御の調整範囲を越える恐れがあり難しかったりします。(最初期ソユーズは4つのエンジンをもつモジュールが5つで合計20のエンジンなのでどれかひとつ点火が遅れても大きく傾くことはありません、とはいうもののエンジンの数が多くなると複雑になるのでクラスタが得意なソ連でもN1ロケットでひとつのモジュールで30基のエンジンをもつクラスタエンジンを作りましたが失敗してます)
ちなみにいきなり韓国が4つのエンジンなのは単に元になったロシアのエンジンが4つのメインエンジンを最小構成とするだけだからの気がする。
Rodney 様、あるけむ様、今晩は
クラスタの制御、姿勢制御の説明を頂き、ありがとうございます。
パイロスターターが重要・・・どうやら小型推進装置をOn、Off制御するのかな??
となると、ロケットは「まっすぐ」上昇するのではなく「おおむねまっすぐ」上昇するのかな。所望の軌道に衛星を投入できればいいわけなので「おおむね」でいいのか。納得。
でも Wikipedia の「クラスターロケット」ページには「エンジンの数が増えるにつれて推進軸線制御の難度も高まり・・」という記述があります。ソ連のN1は30基のエンジンのクラスタですが、「同期制御する事が技術上の最大の課題であった。現在の技術をもってしても、それだけの数のロケットエンジンの同期制御はきわめて困難である。」とあります。ここで言う「同期制御」って何でしょうね。
コンピュータシステムのクラスタには可用性以外に性能を向上させるという目的もあります。同じ処理を沢山こなさなくてはならないシステムでは、同一機能のサーバーを多数配置して、ヒマそうなサーバーに処理を割り当てる・・負荷分散、分散オブジェクト、分散トランザクション・・思い出したくないなぁ。当時(20年以上前)は、かなりの部分を自作
しなくてはならなかったし、「対応」を謳ったソフトがバグだらけだったり。ロケットエンジンのクラスタは、これと似たような素人には考えもできない困難があるんでしょうね。きっと。
ロケットエンジンに関する詳しい情報は僕も把握できていなくて、「パイロスターター」は「点火器」だという程度の認識しかありませんでした。
多分これで制御しているというわけではないと思います。
韓国の開発しているであろう液体燃料ロケットエンジンはガス発生期サイクルエンジンで、燃料と酸化剤の一部を主燃焼室とは別のガス発生器で燃焼させる必要がありまして、これの燃料供給がスムーズに行かないことにはなかなか難しい様です。まあ、その辺りは経験で乗り切って欲しいところですが、韓国が一番苦手な分野かもね。
ウクライナから入手した設計図を拡大コピーしたという噂は事実なのでしょうか?
匿名様
あるけむと申します。
その件については、このブログの別記事を見ていただいたほうがよいと思います。
https://annex2.site/space-opera004/
>ウクライナのコピーエンジンだと言うことは、認めておいた方が良いぜぇ。
>まあ、ウクライナのは30tだったような気がするので、独自に75t級に改造したのは
>韓国の実績だとは思うけど、それで独自開発というと、ちょっと恥ずかしい。
https://annex2.site/space-opera003/
>いや、ウクライナから手に入れた設計図からエンジンを作る目処が立ったから、
>ということかも知れないけどね。
(中略)
>75t級エンジンの開発を始めたのは、こちらの記事を参考にすると2009年だという
>ことになろうが、 航宇研が30t級エンジンの設計図をウクライナから手に入れた
>時期は不明だ。ただ、2008年時点でテストもしていない状況であったのは間違い
>なさそうである。
木霊さん、おはようございます。
このブログの中で非常に興味を持っているテーマのひとつです。
何しろロケットエンジンさえ持っていない段階で、「月面着陸」を堂々とぶち上げちゃう恥ずかしいお笑い国家ですからねェ~。
>何が言いたいかというと、韓国が必要としているクラスターエンジン制御には、パイロスターターが不可欠なので、テストすらできない状況と言うことなのだ。
一番肝の技術で最優先でテストしなきゃいけないはず、それがどんな理由があれ部品供給が停止しちゃうってどうかと思います。
高度なロケット打ち上げ計画ですから半年や1年遅れるのは、危機管理の基本としてイロハのイなんですが、無謀な打ち上げ計画だけ先走りするのでこんな事態になってしまうのは当たり前でしょうね。
>ところが、KSLV-IIロケットを打ち上げる為には、4基のロケットエンジンを同調制御しなければならない。そして、そのテストが未だに行えていない。ところがこの同調制御というのは、それほど簡単な技術ではなく、殆どの国ではやっていない。
日本のH3は2~3基のエンジンをクラスター化する計画ではなかったですかね。
それにしてもH2ロケットなどの技術蓄積のある日本でも2~3基なのに、いきなり4基を運用しようとするとは...さすがお笑い国家ですね。(冷笑)
言いたいことは色々あるけど、とりあえず、韓国から自転方向に打ち上げると、中途半端なところでエンストされたらこっちに落っこちてくるので、信頼性の低いのはマジで止めて欲しい。