韓国の携帯用地対空ミサイルの話だが、韓国語の特性もあって「シングン」という読みなのだけれど、「神弓」と訳される場合と「新弓」と訳される場合がある。
そのKP-SAM「新弓」携帯式防空ミサイルシステム関連のニュースがあったので、軽く触れておきたい。
韓国、ウクライナの対空ミサイル援助要請を拒否
登録:2022-04-12 03:15 修正:2022-04-12 07:27
ロシアと戦争中のウクライナが、ヘリコプターや飛行機を撃墜するための対空兵器システムの援助を韓国に要請したが、韓国政府は「殺傷兵器援助不可」の方針を重ねて表明し、拒否した。
~~略~~
韓国軍の対空兵器システムには天弓(中距離地対空ミサイル)、パトリオット、天馬(短距離地対空ミサイル)、ホーク(短距離地対空ミサイル)、新弓(携帯用地対空ミサイル)などがある。
「ハンギョレ」より
ウクライナからミサイルの支援を要求されて、韓国が断ったという内容の記事なのだけれど、この中で、「新弓」の話が出てくる。
携帯用地対空ミサイル
ウクライナはジャベリンを送って貰っている
アメリカ製の携帯用ミサイルジャベリンだが、先週だったか、アメリカ国防総省がウクライナへの軍事支援として追加の発送を決めたというニュースがあった。
ウクライナに124億円支援 対戦車ミサイルを追加―米
2022年04月06日10時44分
米国防総省は5日、ロシア軍の侵攻を受けたウクライナへの軍事支援として、新たに1億ドル(約124億円)相当の武器を支援すると発表した。ウクライナが緊急に必要としている対戦車ミサイル「ジャベリン」を追加支援するためという。
「時事通信」より
FGM-148ジャベリンは、歩兵携行式多目的ミサイルである。このロシア軍のウクライナ侵攻で一躍有名になった感はあるな。

射程距離は65m/150m~2,000mで、ミサイルは、赤外線画像追尾と内蔵コンピュータによって、事前に捕捉した目標に向かって自律誘導される。
ウクライナ軍はこのジャベリンを使ってロシア軍の戦車を撃退したと報じられていて、数に劣るウクライナ軍がロシア軍の猛攻を凌ぐのに非常に役立った装備だと報じられた。
自立誘導機能を備えている故に、射撃講習直後のオペレーターでも94%の命中率を誇る。つまり、適当に撃っても目標に当たるのだ。
ただ、ネックになるのはミサイル重量で、22.3kg(6.4kg(CLU)+4.1kg(LTA)+11.8kg(ミサイル))にもなることだろう。歩兵で運用するのには、待ち伏せならば有効かもしれないが、こんな重い装備を抱えて行軍するにはちょっと大変である。
あと、お高いことが問題だと言われている。
新弓は低コスト?
これに比べて、「新弓」は少し安いらしい。
韓国はレッドアイ、ジャベリン、ミストラル、イグラなどの様々な外国製の対空ミサイルを使用していたが、韓国独自の技術で「新弓」を開発し、2006年から戦力化した。全長1.6メートル、重量15キロの新弓は小さく軽いため、2人の兵士が持ち歩いて使用できる。新弓は有効射程距離が5キロで、主に低空で侵入してくるヘリ、航空機の撃墜に使われる。米国などの北大西洋条約機構(NATO)はロシアによる侵攻後、ウクライナに携帯用対戦車・地対空誘導兵器を数千基以上提供しており、ウクライナはこの兵器でロシアの戦車、ヘリコプター、戦闘機を阻止している。
「ハンギョレ」より
価格は1発あたり約1億8,000万ウォンと設定されていて、性能は優れているというから、韓国のいつもの戦略のような気はするな。要はカタログスペック詐欺である。

なお、フランスのミストラルは1発2億3000万ウォン程度のコストらしいので、同じ様な用途の兵器より随分と安いことになるな。
ロシア製兵器がベース
モデルとしたのはフランス製対空ミサイル「ミストラル」らしいのだが、開発にあたって韓国側がフランスに技術供与をお願いしたらフランスは断った模様。
で、結果的にロシア製の9K39「イグラ」の技術を元に開発したという事になっている。……この技術、何処から手に入れたんですかねぇ?
Chiron KP-SAM / KPSAM
ニューボウ(シンガン、シンガンまたはシンクン、おそらく神のボウまたはディバインボウ)は、ヘリコプター、または低空飛行の戦闘機および輸送機を標的とする肩から発射されるミサイルです。KP-SAM [ジェーンは、NEX1フューチャーカイロンとして再指定されたと報告しました]は、三脚に取り付けられたミストラルと同じ方法で発射される2人のファイアアンドフォーゲットシステムです。
~~略~~
KP-SAMプログラムは、もともと、序文領域の軍隊を保護するための新しい携帯型SAMの開発を目的としていました。しかし、2003年までに、韓国へのロシアの債務の支払いとしてロシアからIgla SAMを引き渡すことで、問題は解決したようです。ロシアのIglaシステムとKP-SAMの主な違いは、ランチャーの前方に取り付けられたIFFシステムです。
「Global Security」より
どうやら、ロシアの債務のカタとして技術供与を受けた模様。スゲーな、韓国。
なお、ロシア製の9K39「イグラ」の射程距離は5.2kmで、重量は10.8kgなんだそうな。お値段は6万~8万USドルということなので、約8億~10億ウォンくらいか。ただしこれはシステムのお値段なので、新弓とは直接比較が難しい。多分似たような価格帯なんじゃないかな。
対空自走砲に装備する?
で、僕がこの携帯用ミサイル「新弓」のことを知っていたのは、「神弓」という名前で、以前紹介したことがあったのだ。
そう、何故か対空自走砲にくっつけようとしたのである。
まあ、対空自走砲もハイブリッド化が進んでいて、ミサイルも搭載するケースが見られるので、方向性として間違っているとまでは言わない。が、韓国の技術力で本当にそんな事ができるのかは不明だ。
ただ、携帯用地対空ミサイル「新弓」は、実は他の携帯用ミサイルと異なり「肩撃ち」ができない。運用上、肩撃ちができないことがどの程度問題になるのかは知らないが、発射には発射台を必須とすることとなると、即応性には難があると言えよう。
そういう意味では、対空自走砲にくっつけることは間違いではないのかな?この辺りは、構想が報道されただけなので良くわからないが。
個人で戦車に対抗できる
とはいえ、この手のロケットランチャーの類、アメリカ製SMAW ロケットランチャーは、歩兵を支援する武器としては優れており(注:SMAWは大型・複雑化が進むロケットランチャーに対抗して「小型で経済性に優れる」というコンセプトで開発されたため、一緒に考えるのは適切ではないかもしれないが)、個人であっても戦車に対抗できるという点は、大きなアドバンテージだと言える。
特に、ロシア軍のウクライナ侵略のようにウクライナ側は乏しい戦力で、ロシア軍の機械化部隊に対抗せねばならず、そういう意味で「ジャベリン」は戦略によくハマった武器だったということなんだろう。
故に、ソレに類する携帯武器をウクライナ軍が欲しがったというのは、当然の帰結だ。尤も、韓国軍が保有する携帯用地対空ミサイル「新弓」がその戦略に使えるかはまた別の話なんだけどね。
韓国の国防科学研究所によれば『神弓はアメリカ製FIM-92「スティンガー」、露製9K39「イグラ」、仏製「ミストラル」などの外国製携帯対空ミサイルと比べて、命中率、運搬の容易性、価格の面で優れている』という。

運搬の容易性……、ねぇ。
弾頭部のコンポーネントはロシアから供給を受けているというので、案外、今後使えなくなる兵器の筆頭かも知れないが、流石に2007年に開発完了した兵器だ、いつまでも弾頭をロシアに依存しているのもおかしな話なので、国産化は済んでいるのかもしれない。
……だったらいいな。
コメント
韓国の国防科学研究所によれば、神弓はアメリカ製FIM-92「スティンガー」、
露製9K39「イグラ」、仏製「ミストラル」など…と比べて『命中率』….で優れて….
ここにカタログスペック詐欺の真髄がある(笑)。
まさか実戦で使われるとカタログスペック詐欺がバレるから提供を断ったなんてことはないでしょうね(笑)。
新弓関連だと2014年に新弓の赤外線シーカー開発に成功「米国やロシアなど一部の軍事先進国だけが開発に成功している先端技術とされる。」とホルホルした記事が出でましたが日本はすでに赤外線と可視光によるハイブリッド型のフレアなどの欺瞞にも強いシーカーを搭載した91式PSAMを開発済みでしたね。
「命中率」に関しては、色々な条件下で誤魔化すことができそうですからね。
発射台が必須って時点で、携行性はマイナス評価では……。小型ってのも、(なお、発射台を含めると他の同種武器より大きくなる)が伏せられているっぽいから、どう考えても詐欺ですね……
分解したら、小型です!
……本当に詐欺ですな。