さて、原発の在り方の是非も問われる一方で、次世代の発電手段も模索されている。
核融合「もう一つの選択肢」ヘリカル型でも成果続く
2019/4/8 6:3
2018年10月にインドで開いた国際原子力機関(IAEA)の核融合エネルギー会議で日本の研究成果が世界の注目を集めた。自然科学研究機構・核融合科学研究所(岐阜県土岐市)がヘリカル型核融合実験装置での1億2千万度の超高温プラズマの生成を報告したのだ。ヘリカル型は、フランスで国際共同実験炉の建設が進む「トカマク型」とライバルであり補完関係にある。ヘリカル型の研究の現状を紹介する。
「日本経済新聞」より
日本がこの分野でも秀でている話は、どれだけの人が理解しているやら。ただ、次世代とはいえ、いつから使えるのか?という点を考えると、未だ未だ実用化には覚束ない。
核融合発電とは
原子力発電とは大きく異なる
良く混同される(意図的にせよ、無知だからにせよ)原子力発電と核融合発電は原理からして違う。
もちろん、燃料も違う。
核融合反応は、軽い核種同士が融合してより重い核種になる核反応を言う。「え、核反応?!やっぱり原発と同じじゃない!!!」と、話を聞かない方はもはやどうしようも無い。が、もうちょっと辛抱して聞いて頂ける方には、原子力発電は核分裂反応を利用して熱を取り出すのだ、ということを思い出して頂きたい。
分裂するか、融合するか、では、根本的に異なる。
また、核分裂反応と核融合反応の運用面における最大の違いは、連鎖的に反応を発生する事ができるか否か、という点だ。核融合反応は連鎖的に起こすことが、困難である点だ。
つまり、現時点で、の話ではあるが核融合反応はその反応自体を維持することが難しい故に、核分裂反応のように暴走する心配をする必要が無い。
核分裂反応の最大のメリットは一度トリガーを引いてしまえば、加速度的にその反応が続くという点にある。だからこそ、核爆弾が実現できる訳なんだけど、核融合の場合にはこれがはるかに困難である。つまり、発電所が出来たとしても、原子力発電所とは事なり安全性に優位があると言えるのである。
尤も、核融合反応は、熱核融合というスタイルで水素爆弾に用いられる事実があるため、原爆と違うから安全だという主張を素直に受け入れられない方もいるとは思うが、この辺りの説明は後ほどしたい。
D-T反応
ど、ど、童貞ちゃうわ!
……失礼しました。

えーと、核融合反応の中では最も有望だと言われている、二重水素と三重水素を用いた反応のことである。
Dはデューテリウム、Tはトリチウムである。
「トリチウム?!危険やんけ!!!」と言う方もお見えだと思うが、まあ、実際に人体にとって安全とは言い難いものではあるのだけれど、これも程度によりにけりである。何しろ、一般的な水道水の中にもごく微量のトリチウムが入っている。トリチウムの含有量が微量であれば、その影響も微々たるものである。
水道水に含まれている程度のトリチウムであれば、影響は皆無だ。
さておき、D-T反応で放出されるエネルギーは同じ質量のウランによる核分裂反応のおよそ4.5倍、石油を燃やして得られるエネルギーの8000万倍に達する。
この他にもD-D反応とか陽子ー陽子連鎖反応だとか、CNOサイクルだとか、ヘリウム燃焼だとか色々な方式が確認され、考えられているが、今のところD-T反応が最も有力だとされている。
実は、理論的には重い元素でも核融合は可能だとされているのだけれど、元素は重くなれば重くなるほど核子1個辺りの結合エネルギーが増える傾向にあるので、条件が厳しくなる。
ヘリカル型、トカマク型
今のところ、核融合炉の方式としては2つの方式が提案されている。


ヘリカル型(上)とトカマク型(下)である。
将来の核融合炉に有力とされるやり方なのだけれど、基本的には磁気を使ってプラズマを反応炉内に閉じ込めるという点では変わらない。
核融合反応を起こすことが難しい理由として、その条件が発電路内で超高温、超高真空を保つ必要があり、具体的にはプラズマ状態で1億℃以上、10−9 Pa台の超高真空、さらに1秒以上閉じ込める、という事が必要だと言われている。
トカマク型として有名なのはITER(フランスで建設)とJT-60(JT-60SA)、QUEST(九州大学筑紫キャンパス)、EAST(支那)あたりで、JT-60SAは茨城県那珂市に建設中である。
【クローズアップ科学】日本の新核融合炉、建設大詰め エネルギー問題解決へ
2019.1.20 10:00
人類のエネルギー問題を解決するともいわれる「核融合発電」を実現させるため、2020年の完成に向け世界最先端の大型実験装置「JT-60SA」(茨城県那珂市)の建設が大詰めを迎えている。日本は核融合の技術で世界をリードしており、フランスを舞台に国際協力で進む「ITER(イーター)」計画とも協調することで、今世紀半ばの技術確立に向けた貢献が期待される。
「産経新聞」より
一方のヘリカル型は、LHD(岐阜県土岐市:核融合科学研究所)、ヴェンデルシュタイン7-X(ドイツ)、CHS(岐阜県土岐市:核融合科学研究所)、Heliotron J(京都大学)にある。
冒頭の記事は、LHDの話のようだね、会員限定の記事なので中身は読めないけど。
核融合反応には課題も多い
そんな訳で、日本に多くの核融合実験設備があるのだけれど、課題も多い。
それは、実験炉を作るのには莫大な費用が必要となると言うことだ。何しろ、小型の装置だと安定的な条件達成が困難となり、連続的な反応を生み出すことも難しい。だからこそ、大型の設備を必要とし、その建設費用は天文学的となる。
例えば、フランスに建設中の実験炉ITERだが、建設費には33億ドル必要だと言われている。流石にこれを1国で支えるのは困難である為に資金的にも国際協調を必要とするわけだ。
もちろん、建設に必要な頭脳も、だが。
なお、トカマク型のイータヘリカル型だと更に複雑な形になるので、更に高額になると予想される。……まあ、見た方が早いね。

美しくはあるけれども、こんなものを作らなければならないのでハードルは高い。右下に人がいるのが見えると思うが、商用炉だとすると、もっと巨大なスケールとなるハズだ。これがヘリカル型核融合炉が日本とドイツにしかない理由でもある。
そして、そもそもプラズマを長時間維持するだけの実績が未だないというのが、現状である。
JT-60でやLHDで実績を積み重ねてはいるが、あくまで実験炉の段階であり、商用炉ともなると未だ数十年は先の話となる。
実現すれば、莫大なエネルギーを生み出すことができるとは言われているけれど、実現するまでにはまだまだ時間がかかるし、燃料となるトリチウムの安定的な生産方法も確立されていないことも課題である。
原子炉よりも安全だけど
第4世代原子炉の建設計画は未だ続行中
原子炉よりも安全、とは言われるものの、現在の第3世代原子炉よりも、数十年先にできると言われている第4世代原子炉の方が安全性は高いと言われている。
そして、第4世代原子炉のうち最も早くできると言われている超高温ガス炉だが、日本原子力開発機構が日夜研究を行っている段階である。
ただ、資金的には支那の方が有利なようで、支那が既に25万kW級高温ガス炉を2基商用運転させたというスケジュールが報じられている(2016年に完成し、2017年には商用運転開始する予定だとされている)。また、60万kW級高温ガス炉の建設も決定していると言われている。
次世代原発「高温ガス炉」開発再始動へ 東欧と協力
2017/10/16 6:30
いまの原子力発電の主流である軽水炉より安全性が高いとされる次世代原子炉「高温ガス炉」の開発が再始動する。政府がインフラ輸出をにらみ、ポーランドとの共同研究が動き出すからだ。東京電力福島第1原発事故後は日本国内での建設が難しくなり、技術開発は凍結を迫られた。だが海外立地を視野に実用化の可能性も出てきた。
「日本経済新聞」より
日本も高温ガス炉建設を海外に求めるなどの動きがある。が、その後の報道を探してみても、順調かどうかは定かでは無い。予定では2020年代に1万kwの研究炉を作り、2030年代には16万5千kwの商用炉を稼働するというロードマップを描いているらしく、ポーランドに商用炉を輸出できるのはその先の話。
こうした次世代原子炉の開発を続ける一方で、核融合炉の方にも精力的に研究をしているのが日本の現状である。ただし、何れも予算は厳しい状況にあるようだ。
予算や人材は確保できるのか
日本の原子力開発が先細る中で、技術者は年々減っている。
アメリカでは既に原子炉を建設するだけの技術者が確保できない状況にあり、東芝はそこで大きな失敗をしたという。
核融合炉にも高い建設技術が要求されるだけに、技術者の枯渇は非常に深刻な問題である。第4世代原子炉も高温ガス炉が有望だとされているが、原理的に大型化は困難なので、対費用効果が薄いのがネックだとされている。
つまり、電力会社も積極的にここに資金を出すとは考えにくく、結果的に同じくクリで考えられてしまう核融合の方にも資金が流れにくい状況が出来上がりつつある。
未来を考える上で、どの技術に投資するのか?というのはなかなか難しい事ではあると思うんだけど、研究開発には金がかかるんだぜ。
それが理解されておらず、とにかく成果を求めている現状では、日本の技術開発力は先細る一方である。選択と集中は政治判断でもあると思うんだよ。政治的選択で、方向性を決めても良いんじゃ無いの?それが出来るのは政府だけだと思うんだけど。
コメント
政治家は技術者でなく、技術者で政治家にわかるように説明してメリットを語れる人材は極めて希少。
結果、相互の無理解が……となって損することが多いですよね。
何年か前に一瞬だけ臨界に必要な状況を作れたという記事がありましたね。
h ttps://www.nikkei.com/article/DGXLZO19946660T10C17A8TJM000/
現行の核分裂炉、原発は極論すれば燃料が超効率化された蒸気機関。火力発電の進化系。
核分裂炉は理論上、機械的な可動部分を持たずに電力を生み出せますが……まぁ、こういう分野には予算を惜しまず支援してほしいところです。
いっそ政治家には「いつかはリアルにガンダム」でいいんじゃないかな、と思わなくもないですがw
政治家が技術を分からないと言うのは、彼らの詭弁だと思っています。
分かろうとしないだけだと思うのですよ。
虚言癖など指摘される青山氏は、メタンハイドレートを資源化することに躍起になっている様ですが、あれは彼の利益になることかも知れませんが、それはそれとして僕もやるべきだと思っています。及び腰になっている理由は何なのでしょうねぇ。
ともあれ、話を聞かない政治家が大勢いますが、技術への理解が乏しい政治家は更に多いですから困ったものですね。
木霊さん、こんにちは。
原発問題と温暖化や各国の事情・歴史まで記事にして頂き、改めて大事な問題と考えさせられました。
さて、テーマの核融合技術では日本は先頭を走っているようですけど、クリアしなければならない課題(難題かな?)も多く、しかも莫大な予算や科学者&建設技術者の育成など難問山積みのようですね。
核分裂とは違い運用できたら安全面で有利な事(メルトダウンの様な暴発がないようですし、コントロールできる)、何より高レベルは元より低レベルの核廃棄物が出ないようですから、平和利用目的に限れば魅力的なエネルギーと思います。
但し、人間の哀しい性で兵器に利用されると、原爆とは比較にならない破壊力や、人体に致命的なダメージを与える大量の中性子が放出され非常にマズいですから、強力な歯止めが必要でしょう。
それでも実用化されたら効率の良い動力を求める、空母やイージス艦には搭載されそうですけど、ミサイル搭載だけは絶対に阻止が必要。
ご指摘の通りまずは政府の大決断が求められるところですし、兵器利用を恐れて引きこもりがちな日本の研究者達も、正々堂々と実用化した時の効果や歯止めが必要な理由を訴えて欲しい。
メディアも反原発やら脱原発の話題は取り上げ散々煽るクセに、こういう科学技術も研究中という事実には無関心...、実に偏向していると思います。
メリット(ハイパワー・運用の安全性・廃棄物が出ない)とデメリット(大がかりな開発費と設備ですから、莫大な予算と時間が掛かる)をちゃんと紹介し、議論を深めるきっかけを創るのが大きな使命のはずなのに、本当に腐りきっていますね。
潜在するリスクも含めこういう議論がたくさん出てきて、初めて開発費・建設費~メンテナンスを含めた運用コスト~寿命が来た時の廃炉に掛かるコストを算出し、国民が負担する電気料金は最終いくら位になるのかを比較すべきじゃないかなァ~?
僕としては大量に保存されている核廃棄物の、「難題中の難題である処理技術」と合わせて、国家規模で取り組み世界をリードするモデルとなって欲しい。
科学技術全てにおいて完全はないのですけど、クリーンで少しでも安全なエネルギーの創造は、それこそ100年単位の大事業なのは間違いありませんからね。
僕らにやれる事は省エネを意識して、省エネ機器を使いこまめに無駄な電力を切るとかしかないですけど...。(笑)
最初に、幾つか訂正をしておいた方が良いかなと思います。
> 高レベルは元より低レベルの核廃棄物が出ない
残念ながら出てしまいます。ただ、原発よりもはるかに少ないレベルではありますが。
> 兵器に利用されると、原爆とは比較にならない破壊力や、人体に致命的なダメージを与える大量の中性子が放出され
水爆(核融合技術が使われています)は確かに原爆より破壊力が1桁か2桁大きいのですが、技術的には原爆よりはるかに達成が困難なため、経済性の意味でもあまり心配はないと思いますよ。そして、原爆より大型名装置を必要としますので、現時点でミサイルに搭載するというのは難しいです。投下型の爆弾が関の山でしょう。
それ故、日本の技術者や研究者でも手の出しやすい分野ではあるんですが、理論が難しい上に多額のコストがかかるので、研究が進んでいないのが現状ですね。
国策として勧めれば別の話なんですが。
そんな訳で、政治的決断でもっと予算を付けて欲しいのは本音ですが、高音核融合は「理論的には実現できるでしょう」というレベルで、常温核融合は「可能性は否定しきれない」というレベル。予算も付けにくいんでしょうね。
木霊さん、おはようございます。
訂正ありがとうございます。
>>高レベルは元より低レベルの核廃棄物が出ない
>残念ながら出てしまいます。ただ、原発よりもはるかに少ないレベルではありますが。
完全に出ない訳ではないのですね、僕としては原子力と核問題の中で廃棄物の危険性(&将来への無責任)は、最も関心がある部分でこれが原発反対の理由なんですが、それでも低減されるのなら(どのレベルなのか知識はありません)期待したいです。
兵器化もミサイル搭載なんかは無理と理解していましたが、商用ベースで実現化されポピュラーになっちゃうと、良からぬ考えを持つ連中が基礎技術から何かを創りだすのが増えるのを懸念してです。
>そんな訳で、政治的決断でもっと予算を付けて欲しいのは本音ですが、高音核融合は「理論的には実現できるでしょう」というレベルで、常温核融合は「可能性は否定しきれない」というレベル。予算も付けにくいんでしょうね。
う~ん、卵が先か的な話というのが現実なんでしょうかねエ~、天文学的規模の予算を投じても確実に実現可能というレベルまで至っていないのなら、政治が判断しようがないのも仕方ないですね。
画期的な技術の開発待ち(=大発明になるのかな?)っていうのが、現実で高いハードルなんでしょうか?
でも、先日ブラックホールの画像撮影に初めて成功したように、研究者が諦めずに日夜努力して克服してくれる事を期待します。
記事とは全く無関係な、新しいブログになって変わったことについて、コメントします。
・コメント件数には、返信を含んでいない感じ
・記事を飛ばして、返信だけを読むことができない
旧ブログでは、コメント件数をクリックすると、コメント欄の先頭に飛びましたが、このブログでは、そのような機能はなさそうですね。
ちょっと不便になったのは、その2点です。
コメント件数に関しては、多分ですが返信を含んでいますね。
ただ、記事を飛ばしてコメントだけ読むようには変更が難しい様ですね。
ワンアクション挟んで、ならイケルかも知れません。