あ、はい。
韓国のK9自走砲 エジプトへの輸出決定
2022.02.01 20:50
韓国の防衛事業庁は1日、国内軍需企業のハンファディフェンスがエジプトと韓国のK9自走砲の輸出契約を結んだと明らかにした。契約額は2兆ウォン(約1900億円)台で、K9自走砲の輸出額としては過去最高。昨年12月に契約を結んだオーストラリア向け(1兆ウォン台)の約2倍に達する。
「聯合ニュース」より
売れたみたいだね。
何故、K9自走砲は世界で売れるのか
名品兵器K9
その性能はともかくとして、自走砲という兵器を輸出出来る国というのは実はそれほど多くない。
韓国陸軍が運用するK9自走砲は、そういう中で希有な存在であると言えよう。そして、豊富な輸出実績を誇っており、韓国軍が保有する兵器の中ではトップレベルに優秀な輸出実績を持っている。
現状で、自国で開発下時双方を保有する国は7カ国程度だが、輸出までしてくれる国となるとなかなか少ない。
- アメリカ M109(1962年~:最新バージョンM109A7は2017年より運用)
- イギリス AS-90(1993年~)
- ドイツ PzH.2000(1998年~)
- 日本 99式(1999年~)
- 韓国 K9(1999年~)
- 支那 05式(2008年~)
- ロシア 2S35(2015年~)
リストアップするとこんな感じだが、このうちアメリカM109とイギリスAS-90は設計が古くなったこともあって輸出には消極的だ。日本は99式を輸出した実績がなくこれも選択肢として入れるべきでは無いだろう。
支那製05式やロシア製2S35も意外にも輸出実績がなく選択肢となり得ない。西側諸国はそもそも選択肢に入れられないしね。
そうなると、ドイツ製PzH.2000か韓国製K9のいずれかしか購入ができない。本来なら、アメリカ製M109を更新したかったようだが、後述する理由によってその選択肢は選ばなかった模様。
ドイツ製PzH.2000か韓国製K9は、カタログスペックはほぼ同じだが、残念な事に価格が倍以上違うので、数を揃えたい場合には韓国製K9を選ぶということに。
一時期は契約が絶望的に
ところで、このエジプトのK9購入の話、実は先週くらいまでは「多分無理」という感じになっていた。
韓国の文大統領、エジプト訪問中のK9輸出契約諦める…「帰国後も交渉は続ける」
2022/01/22 07:46配信
韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領がエジプト訪問中に、K9自走砲の輸出契約が、事実上難しくなったことが分かった。
カン・ウノ防衛事業庁長は21日(現地時間)午後、エジプト・カイロのプレスセンターで記者団に「今回の歴訪期間内に輸出契約書の署名式ができたらと期待していた。しかし、無理するよりは文大統領の指示に従い、両国がお互いに良い方向で契約を結ぶことが重要だと判断した」とK9の輸出契約ができなかったことを明らかにした。
~~略~~
また「昨日夕方から議論した内容には、合意に至る部分がたくさんあった。エジプトには、多様なオプションを選択できるように提案したが、まだ返事がなく、判断する時間が必要だと思う」と述べた。
「WowKorea」より
エジプトは即断が出来ずに、ムン君がエジプト訪問していた時には答えを保留していたようなのだが、正式な回答があった模様。
このK9自走砲というのは、色々問題を抱えているのだが、カタログスペックだけは優秀である。韓国は様々なオプションを付けて格安でエジプトにK9自走砲の提案を行っていたようだが、エジプトもそれなりの情報を持っていたために、直ぐに返答できなかったのだろう。
例えば、連射性能には嘘があり、砲身が過熱して連射が出来なくなってしまうのでカタログスペックに示す6 – 8発/分という性能が出せず、3発/分程度の性能に落ちてしまったという実例がある他、燃焼室のトラブルで出火した事があることとか、一次資料にあたれてはいないが制御プログラムがハングルでエラーを吐くので他国の兵士は理解が出来ないこととか、様々である。

しかし、オプションはエジプトにとって余程魅力的だったのか、結果的には購入を選択したようだ。
これまでにトルコ、ポーランド、フィンランド、エストニア、インド、ノルウェー、オーストラリアへの輸出という成果をあげている。今回の契約は韓国兵器の技術力の高さが改めて認められたことを意味する。
「聯合ニュース」より
導入国が既に9カ国に上っていることも影響していると思うよ。
なお、韓国はK9のエンジンを内製化する計画を持っている様だけれど、余計な事はやらない方が良いと思う。
ディフェンスニュースの分析
ちょっと興味深かったのは、DefenseNewsがこんな分析を出していたことだ。
なぜエジプトは韓国のK9ハウィッツァーを購入することを選んだのですか?
2月2日午前0時29分
ベイルート—韓国の防衛事業庁による2月1日の発表によると、エジプトはハンファ防衛にK9自走榴弾砲と他の支援車両を注文しました。
取引の知識を持つ情報筋は、大砲と車両のほとんどがエジプトの首都のすぐ外にある国営の防衛製造施設であるファクトリー200で現地生産される予定であり、最初のバッチはハンファによって配達される予定であるとディフェンスニュースに語った。
~~略~~
エジプトの陸軍は現在、アメリカ製のM109榴弾砲のバージョンA2、A3、A5を運用しています。軍事研究者であり作家でもあるアブデル・ハミド・ハーフィ氏は、韓国の榴弾砲がエジプトの老朽化した艦隊に取って代わると述べた。
~~略~~
「K9サンダー榴弾砲はアメリカの榴弾砲と非常に似ています。このシステムの特定の選択は、コストや技術移転など、エジプト軍の仕様に従って行われました」とエリバはディフェンスニュースに語り、最新の取引はエジプトと韓国の防衛協力の成長の兆候であると付け加えました。
ハーフィは同意し、K9サンダーはドイツのエンジン、アメリカの弾薬、アメリカとドイツの銃を使用したことを強調しました。「したがって、スペアパーツの1つが供給されなくなると、システム全体が使用できなくなります。しかし、この取引がエジプトに与えるものは、技術移転の例であり、将来エジプトの武器を開発するための地元の知識と専門知識を構築することです。」
「DefenseNews」より
やはり、技術供与が条件に入っていることが大きかったようだ。
エジプトとしてはK9自走砲よりも、K9自走砲を運用する為の環境を含めた技術を手に入れる事が大きく、自国で製造出来るようになることで、輸入に頼ることなく自走砲を作る事が出来るようになることを目論んでいるようだ。
エジプトがアメリカ製M109を多数保有していたことで、M109榴弾砲を流用できる見込みがある事もメリットと考えたのだろうね。
DAPAは約17億ドル相当のエジプトとの取引の詳細を明らかにしなかったが、取引の情報筋によると、エジプト軍に供給されるK9砲兵システムの数は、約200であり、 K10弾薬補給車などの支援車を含んでいる。
「DefenseNews」より
結構な数のK9自走砲を買ったエジプトだが、自国の防衛力強化という方向性を考えると、妥当な選択肢だったのかも知れない。
親米路線から路線変更を目論むエジプト
ちなみに、エジプトがこの様な選択肢を選んだ理由は、アメリカが中東から撤退していくことを決定した事とも関係している。
エジプトとロシア、リビア危機解決のため、共同での取り組みを強化へ
26 Dec 2021 02:12:12
ロンドン:エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は25日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、現在のリビア情勢について議論した。
両首脳はリビアの危機を解決し、リビア国民が望む願いを実現し、武装民兵やテロ組織と戦い、リビア問題への外国の違法な干渉を終わらせるために共同での取り組みと連携を強化することで合意したと、エジプト大統領府が声明の中で述べた。
「ARAB NEWS」より
エジプトはかなりの親米国として知られていたが、ここのところロシアへの接近が目立っている。
これは、オバマ政権時代にあったこんな出来事も影響しているようだ。
オバマ大統領、エジプトへのAH-64引き渡しを拒否
配信日: 2014/03/13 12:50
アメリカのオバマ大統領は、エジプトへのAH-64アパッチ・ヘリコプター10機の引き渡しを拒み続けています。2014年3月12日、Fox Newsが報じています。
アメリカ政府は、エジプト現政権とモルシ前大統領の支持母体であるムスリム同胞団の衝突が激化したため、2013年10月からエジプトへのAH-64の10機引き渡しを中止しています。
「Fly team」より
米国、露Su-35戦闘機の購入に対しエジプトを制裁で脅迫
2019年11月15日, 23:08
米国は、エジプトがロシアのSu-35戦闘機を購入した場合、ネガティブな結果がもたらされるだろうと脅迫した。米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が、マイク・ポンペオ米国務長官とマーク・エスパー米国防長官がエジプトのモハメド・ザキ国防相に送った書簡を引用して報じた。
「SPUTNIK」より
エジプトがアメリカ製の兵器を多数持っている事は知られているが、2013年7月に発生した軍事クーデターによってムルシ政権が倒れた後、クーデターの主導者アブドルファッターフ・アッ=シーシー氏が大統領に就任し、アメリカはエジプトとの距離を取り始めた。
シーシー大統領は、これを機にロシアからの兵器購入を進めて、支那との距離も詰めているようである。そして、オバマ氏にAH-64攻撃ヘリコプターの引き渡しを拒否され、更新予定だったF-16も購入出来なくなったことで、ロシアからSu-35戦闘機を導入しようと画策中である。これも紆余曲折あるようだが。
ともあれ、エジプトは「海外から兵器を買えば良い!」スタンスでいたのだが、こうした流れを受けて兵器の更新を自国技術でナントカすべきだと、その様に考え始めた。
韓国製のK9自走砲が多数売れた背景にはそうした事情も関係しているのである。世界各国でK9自走砲が売れる背景にも、価格だけでなくこうした事情が絡んでいるのだと思われる。
コメント
木霊さん、おはようございます。
敵対国と国境を接する国とっては必須の武器なんでしょうけど、陸自の99式は北部方面隊(つまり対ロシア用)しか配備されていません。
K9のショボい実戦での醜態や誇張カタログスペックはともかく、PzH2000の半額程度なら、数を揃えたい国はこれからも結構出てきそうです。
アメリカもM109A6の後継を開発する気はどうやらないようですから、輸出だけならK9の一人勝ちとなりそう。
陸自では後継として19式装輪自走155mmりゅう弾砲の配備が進んでいるようですが(8輪装輪式なのでコンセプトは違う感じ)、最大200両程度ですから仮に輸出するにはコスト競争力不足でしょうしね。
最大で10発/分程度の発射速度・射程距離は50~60kmの自走砲ですから、用途も限られてきますんで格安のK9を数揃えるチョイスはアリなんでしょう。
実戦で性能を発揮できるかは別にしてですけど...。
陸自の99式の使いどころを考えると、北海道というのは妥当なのかなと思います。
正直、自走砲を使うメリットが現代ではさほど大きくないと思うのですよね。
そういう意味で、韓国のK9自走砲はニッチな部分を狙った良い商品だと思いますよ。戦場で使えるかどうかは不明ですが、数を揃えるチョイスはありでしょうね。オーストラリアが買いたがる理由はイマイチ不明ですが……。
こんにちは。
正味な話、武器輸出にも、そもそも武装する事にも、なんなら核武装にもアレルギーというかヒステリーのない国は羨ましい限りです。
K-9にしても、実績である件の砲撃事件を調べずに検討しているとはあり得ない(ですよね?)と思うので、それも含めてお値段お手頃なお買い物だったのでしょう。
本邦も輸出出来ればコストダウンもあり得るのでしょうけれど、国情に特化した兵器が多いので他国の事情には適合しづらいかも……というのはありますが。P-1なんかオーバースペックの極み、ですから……
韓国は、海外に兵器を売りつけることに忌避感がないようですね。
格安の自走砲という意味で、K9が優れていると言えますので、これからも売れていくのでしょう。
本邦の99式は高すぎます。オーバースペックですしね。
日本って、色んな意味で「極地」だよなぁと思うところです。変に輸出意識し過ぎて肝心の国内での使い勝手が悪くなるようだと本末転倒ではありますし。ガラパゴス。それはそれで実に結構な事でないでしょか。
極地なので、専用仕様になっていると。
しかし、いくらガラパゴスとはいっても、他国で使えない兵器では話にならないので、外国に輸出できないということでは問題であるように思われます。もちろん、外国の国情に合わせてチューニングされるべきなので、それができるかどうかはまた実績次第ということになりそうですが。
いずれにしても、韓国のように外国にも輸出できるという形にしていくべきだろうと、そのように考えております。
既にご存じでしょうが、この武器輸出金額の9割を大韓民国が輸出先の国に貸し付けるんですって。
中東観光旅行、何も成果のないと批判された文大統領。帰国後、大統領に命令されたKoreanが頑張ったのかな?
借りたお金は返さないというこの地球の常識が前提の契約じゃないと良いですね。
ご指摘ありがとうございます。
別で記事にさせていただいておりますので、よければ御覧ください。ただ、8割の情報を見つけられなかったので、もしよろしければ紹介ください。
訂正します
× 武器輸出金額…9割を…輸出先の国に貸し付ける
○ 韓国『輸出入銀行』が「最大80%」まで貸与