F-15が68機で6465億円は高い買い物か

防衛政策

日本の航空自衛隊に配備されたF-15戦闘機の能力向上プログラムに関する情報が出てきた。

F-15能力向上プロジェクト、総額6,465億円 68機対象

配信日: 2022/02/07 11:51

防衛省は、F-15能力向上プロジェクト30年間のコストは暫定的に6,465億円の見込みと発表しました。F-15能力向上は、多段階能力向上改修計画(MSIP:Multi-Stage Improvement Program)が適用された近代化改修機を対象に、電子戦能力の向上、スタンド・オフ・ミサイル搭載、搭載ミサイル数の増加などの能力向上を計画的に推進するプロジェクトです。能力向上改修は、F-15近代化改修機の68機を対象として実施されます。

「Fly Team」より

しかし、68機か。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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近代化改修の必要性

近代化改修は何故必要か

自衛隊に配備されたF-15は、F-15C/Dが原型となっていて、昭和52年(1977年)12月に制式採用されてより、40年以上も日本の空を守ってきた。

これは航空自衛隊のサイトに説明される日本ADIZ(Air Defense Identification Zone)である。このADIZに無通告で進入してくる航空機に対してスクランブルをかけるアラート任務と呼ばれる任務があって、航空自衛隊は常に日本の領空侵犯をさせないように目を光らせている。その任務の一翼を担うのがF-15Jである。

このADIZの線の引き方に違和感を感じる方もいるとは思うが、そこは脇に置いておくとして、ADIZに侵入してくる航空機があれば数分後には、或いは場所によっては数秒後には領空侵犯する可能性があり、制空権を脅かされる。

爆撃機が領空侵犯してこれば、場合によっては日本の国民の命に関わる事態になりかねない。

スクランブルをかけることで相手に対する牽制になるため、アラート任務は必要であるし、その任務を果たすために戦闘機の状態を常に最善のものにしておく必要がある。日本のADIZに進入してくるのはロシア機と支那機のツートップだが、これらの国々は次々と最新の戦闘機を導入している。

日本の近隣諸国が新しい戦闘機を次々と導入する中で、近代化改修はその目的において重要な事業なのである。

航空自衛隊に配備されたF-15は213機

納入時期によってF-15Jは、Pre-MSIP機110機と、J-MSIP機103機と分けられる。J-MSIP機に関しては、平成21年(2009年)頃から近代化改修されてF-15J改となっている。Pre-MSIP機に関しては一部が近代化改修されるはずだったが、結局、F-35AとF-35Bを代替取得する方向で調整されることとなった。

で、今回はMSIP機の再近代化改修という話なんだが……、残りはどうするんですか、と。

そもそも近代化改修というのは、日進月歩の戦闘機関連技術を反映させることで性能を高めることなので、航空自衛隊の中でもトップレベルの実力を誇るF-15J戦闘機の機能を高める事は国益に資する。

が、本来ならばまだ100機ほど残っているハズのMSIP機が68機だけ対象にして改修される話になったのはちょっと腑に落ちなかったが、別の記事で解説があった。これについては後述する。

アメリカ国防総省(DOD)は2021年12月末、日本のF-15スーパーインターセプタープログラム(近代化改修プログラム)でボーイングを契約相手方として指名しています。その契約内容は、4機の兵器練習機の開発・試験・納入を含む統合システムの設計・開発を想定し、4億7,131万3,000ドル(約543.6億円)と公表していました。

「Fly Team」より

近代化改修は当然ながらF-15開発元となったボーイングが請け負う事になっているらしいね。

近代化改修に関する紆余曲折

実はこの計画、ここ数年で漂流していた。

当初の計画では、F-15EXと同等の機能にJ-MSIP機103機を改修する予定であったが、アメリカが難色を示したのである。

なぜ? 空自F-15改修計画が暗礁に 予算膨らみすぎ 中断も示唆…やらないとどうなるか

2021.05.07

防衛省が進めている航空自衛隊のF-15J戦闘機の能力向上改修計画が、暗礁に乗り上げています。その理由は「価格」です。

2021年4月7日付の時事通信は、改修の初期費用が膨張したことから同省が改修内容を見直し、2020年度予算に計上されていた約390億円の予算執行を見送ったと報じています。

~~略~~

防衛省はF-15Jのアップデートにあたり必要となる設計費や、改修作業に用いるための施設などを整備するための初期費用として、2019年度と2020年度に契約ベースで802億円を計上します。

しかし、アメリカ側から数回に渡って初期費用の上積みを求められた結果、その費用は膨張し、4月12日に行われた参議院決算委員会に出席した岸信夫防衛大臣の説明では、2020年末の時点で当初見積もりの3倍近くにまで増加したといいます。

「乗り物ニュース」より

アメリカ側が見積もりの3倍の金額を提示してきたと言って怒り心頭だった防衛省は、中断を示唆した。これがアメリカのやり方である。とはいえ、計画自体が止められるはずもない。航空自衛隊の実情を考えても近代化改修をやらないという選択肢はないのだ。

現在、退役の進んでいるF-4Jは今更現役復帰をさせるわけにも行かず、一線で活躍しているF-15J系とF-2、そして導入の進んでいるF-35系で日本の空を守る必要がある。

  • F-15MJ102機、F-15J(Pre-MSIP)99機
  • F-2 91機
  • F-35A 42機+63機、F-35B 42機

数字が若干違うかも知れないが、これが日本の空を守る戦闘機全てである。ただし、F-35系の戦闘機に関しては、2025年を目処に実戦配備の予定とされているので、事実上はF-15JとF2だけで対応していることになる。

これでF-15Jが飛べなくなってしまえば、F-15Jよりも早い退役が予定されているF-2とあわせて誰も日本の空を守れないという危機的な状況になる。

当然、航空自衛隊は危機感を持って近代化改修を進めているのだが、アメリカ側としてもそれなりの事情がある。

F-15EX「イーグルII」命名 最大144機調達

2021年4月8日 21:26 JST

F-15EXは、米国専用の双発複座戦闘機。パイロット1人でも運用でき、フライ・バイ・ワイヤ方式の飛行制御や新たな電子戦システム、最新のコックピットやミッションコンピューターなどを採用している。2020年4月に初飛行したカタール空軍向けF-15QAがもっとも近い機体で、フライ・バイ・ワイヤやデジタルコックピットなどを採用している。

実はアメリカ空軍としてもF-22は生産中止に追い込まれてしまい、F-35Aも調達が思わしくない。そんな中、2025年までに442機の当時運用していたF-15を退役させる予定だったが、F-15Cの空中崩壊事件が発生して、慌てて点検したら4割も怪しい機体がある事が発覚。慌ててF-16VとF-15EXの調達を決めて、運用宙のF-15系戦闘機のウチ安全が確認された期待を対象にして近代化改修を進めたのである。

将来的には144機までF-15EXの調達を増やす予定にしているアメリカだが、どう考えても数が足りない。

NGADと呼ばれる次世代戦闘機の開発を進めているアメリカだが、アメリカですら防空防衛を担う機体に苦労している状況なのである。

ここで日本が割り込んで、「何とか近代化改修してくれ」と頼み込んでも、なかなか首を縦に振るとは思えない。巨額の費用をふっかけられても仕方ない面はあるのだ。

アメリカの要求をどのレベルで飲んだのか

結局のところ、防衛省はアメリカ側の要求をある程度は吞んだ格好になったようだ。

このプロジェクトは、アメリカによる日本との対外有償軍事援助(FMS)を活用した事業で、F-15近代化改修機68機に対して能力向上の改修を実施するだけでなく、必要な施設の整備や運用基盤の確立、訓練用シミュレータ取得と教育・訓練態勢の確立が含まれています。

計画されているうち、主な項目の金額は、試験などに173億円、改修作業に5,653億円、教育・訓練に404億円です。このほか、補用品、修理役務、整備用器材などの費用は今後、加算される予定です。プロジェクト30年間のコストは、6〜7年間の開始当初は年間の費用負担が大きく、8年目以降は4〜500億円程度と一定の増加額に落ち着く予定です。

「Fly Team」より

えーと、当初予定していたLRASM導入は見送ったんだっけ。

防衛省、F-15能力向上計画で対艦ミサイル搭載を見送りか?
マジ?F15の対艦ミサイル見送りへ2021/6/19 20:59 (JST)6/19 21:13 (JST)政府は、航空自衛隊の主力戦闘機F15への搭載計画を進めている米国製長距離巡航ミサイル2種類のうち、対艦艇ミサイル搭載を見送...

具体的なメニューは定かでは無いものの、以前報じられた内容を参照すれば以下の通りだと思われる。

  • レイセオンのAN/APG-82(V)1 AESAレーダー
  • ハネウェルのADCPⅡミッションコンピューター
  • BAEシステムズのAN/ALQ-239「DEWS」統合電子戦システム
  • JMPS(任務計画システム)
  • SAASM GPSモジュール
  • ARC-210通信機

電子戦能力の向上が中心だが、残念な事に世界的な半導体不足の話もあって色々と話が不透明である。案外、九州の半導体工場誘致はこれに大きく関わる可能性があるのではないかな。

この他に、「JASSM(空対地ミサイル)」や「LRASM(長距離対艦ミサイル)」などを統合する予定だったが、LRASMの導入は諦めて国内開発に切り替えたとの報道があった。

F15戦闘機改修の総コストは68機分で6465億円 防衛装備庁が発表

2/5(土) 19:35

防衛装備庁は4日、航空自衛隊F15戦闘機の能力向上のための改修について、装備品の取得費や維持整備費を含めた総コストが68機分で6465億円(暫定値)になると発表した。

~~略~~

防衛装備庁によると、今回の新たな能力向上の改修対象となる68機は、近代化改修を終えた102機のF15J/DJのうち、単座型のF15Jとなっている。残りの近代化改修を受けた複座型のF15DJの34機は、能力向上のための改修に適さないとして対象から外された。

「yahooニュース」より

で、対象となるのは、MSIP機のうち単座型のみということなので、68機という数字になった模様。

当初は102機ほどを対象にして近代化改修を予定して、当初見積額の約3240億円より70%増の約5520億円を提示されたが、68機の近代化改修になって6465億円という数字となった。数字だけ見れば「足下を見られた」という印象は拭えないが、70%増の約5520億円は当初費用で、今出てきた数字6465億円はライフサイクルコストということであるので、結果的にはある程度コストを抑えることが出来たと理解すべきかもしれない。

但し、1機あたりに換算すると100億円弱と、寧ろF-15EXを買った方が良いんじゃ無いかというお値段にはなっている。まあ、「買えれば」という仮定の上の話で、実際にはアメリカが自分の所が手一杯で首を縦に振るとも思えないので、机上の空論なのではあるが。

スケジュールを考えると……

それと、スケジュール的な問題もある。

米空軍で実戦配備が始まった最新のF15EXを製造する同社ミズーリ州セントルイス工場で同事業は実施され、2028年12月31日に完了する予定だ。

「yahooニュース」より

MSIP機の近代改修は2028年12月31日完了を予定されており、凡そ7年弱の時間しかない。アメリカ軍のF-15EXの作業は完了が2023年となっているので、実質は5年程度の期間で入れ替えることになるだろう。そうなると年間12機程度のペースで進むことになり、運用している機体の一部を近代化改修することを考えれば、妥当な数字なのだろう。

従って、アメリカに支払うお金はけっして安くはないけれども、他に選択肢が無い以上は妥当な金額と言わざるを得ない。尤も、F-15EXの能力的に現代の防空戦にはそれほど耐えられず、2028年が敵空域近くで運用できる限度となるとされているため、これだけコストをかけても繋ぎにしかならないのが現実である。

F-15EX新規調達は現実的では無いが、出来たとしても高コスト

ちなみにF-15EXを新しく買うのは現実的では無いと断じたけれども、実際に買えるとしてお幾らかという話。

Nine Reasons Congress Should Nix the Air Force’s F-15EX Purchase

AUGUST 11, 2020

This year, the U.S. Air Force signed a contract to develop, test and buy at least 140 Boeing F-15EXs. As mistakes go, this is a big one, and its impact will be with us for decades. 

~~略~~

1. Acquisition cost. In fiscal year 2022, the Air Force will pay $77.9 million for each fully equipped and ready-for-combat F-35A it acquires. Each F-15EX, on the other hand, will cost $87.7 million — but that’s for an airshow capability. If the Air Force wants to fly it in combat, then each jet needs a $12.2 million electronic countermeasures system known as the Eagle Passive Active Warning Survivability system, or EPAWSS, and a $900,000 targeting pod. This brings the cost of a combat-ready F-15EX to $102 million, 30 percent more than an F-35A. 

「Difence One」より

この記事が正しいとすると、F-15EXは1機あたり118億円相当(1億200万ドル)ということになるので、MSIP機を改造するよりは若干高い感じだと予想される。尤も、DefenseOneの分析が正しいとは限らないし、アメリカ軍が調達する場合の話なので、実際には更に割高になるだろうと考えられる。

何れにしても購入出来る可能性は低いのだから、コストを比較しても仕方は無いんだが。

近代化改修したF-15Jが果たしていつまで使えるのかという問題もあるが、割高でもそれしか道が無い様に思われる。台湾のようにF-16Vを導入するという選択肢もあるかもしれないが、しかしアメリカ空軍がF-15EX導入を選択し、F-16V導入を選ばなかったことを考えると、余り現実的な選択肢では無いのだろう。

必要経費と割り切る方が良さそうである。

コメント

  1. それにしても、あの経済規模のロシアに航空戦力で煽りまくられるというのも情けないし、ロシアの驚異的なところでもありますね。ラファール買うわけにはいきませんかw
    おっと、フランスやドイツと組むと、あまりいいことはありませんね。

    • ロシアの経済規模は思いの外小さいですからねぇ。
      ただ、地下資源を豊富に持っているというのは強みでしょう。

      ラファールを購入というのは、F-35A購入前なら選択肢としてはアリだったと思います。
      ただ、今となっては余り旨味が無いんですよね、日本にとっては。

  2. いくらお金積まれても生産ラインが足りない!というのが実情なんではないでしょうかね。元々退役させる気だった米空軍の大量受注がいきなり割り込んできてしまっては。

    • 米軍が買うF-15EXは144機程度と言うことらしいのですが、突貫工事ですからねぇ。
      大量発注で、ラインが足りない、部品が足りないという状況らしいので、日本が巨額を注ぎ込んでラインを新たに造りでもしない限りは難しいのかもしれません。
      日本で製造出来れば一番良いんですが、技術的にも色々と問題があるんですよね。

  3. 木霊さん、おはようございます。

    改修近代化で機約100億円ならF-35Aが買えますから、中々微妙な判断と思います。
    F-35AがF-15Jの役割であるスクランブル専用に適しているかは判りませんけどね。

    いずれにせよF-3の開発・実戦配備が10年後くらいと思いますから、所有機体の改修でしのぐしか戦闘機の数をギリギリ維持するの厳しい現実なんでしょうね。
    であれば躊躇している時間はないのだから、野党が格好の攻撃対象にするでしょうけどサッサと実行する選択肢しかないでしょう。

    アメリカに毎度足元見られるのは癪ですけどね。

    F-3開発の進捗をスピードアップしましょう。

    • 金額面で言えば、F-35A購入というのを代替案にする話はアリでしょう。
      ただ、F-35Aは足が短い上に、既に142機程度にまで増やす予定でありまして、3機種を揃えて運用する方針の航空自衛隊にとっては、F-15を全てF-35Aで代替という結論は出せないでしょう。
      F-2の退役も視野に入ってきていますから、F-3の開発を急ぎたいですね。

  4. F16Vも大人気でバックオーダーが積み上がっているから
    買いたくても買えないでしょうね

    • F-16Vは良い機体だと思うのですが、日本としては使い勝手的にどうなの、という感じだと思いますよ。
      F-2を選んだ時点でF-16系を選ぶという選択肢はちょっと選びにくいと思います。同系飛行禁止という話になると引っかかりますからねぇ。