ジョージア(旧グルジア)は、何やらおかしな事になっているようだね。
ジョージア、親欧米路線放棄 「28年までEU加盟交渉凍結」発表 対露接近も
2024/11/29 08:40
欧州連合(EU)から昨年末に「加盟候補国」の地位を付与された南カフカス地方の旧ソ連構成国、ジョージア(グルジア)のコバヒゼ首相は28日、同国が2028年までEU加盟交渉を凍結することを決定したと発表した。EUがジョージアを「不当に批判」していることを受けた措置だとしている。タス通信などが伝えた。
産経新聞より
どうした、ジョージアと思ったが、「タス通信などが伝えた」というところで思い留まった。タス通信はロシア国営通信者である。
ロシアの影響がちらつくジョージア政府
地政学的なリスク
さて、もう少し記事を読んでいこう。
ジョージアは08年にロシアの軍事侵攻を受けて以降、反露を「国是」とし、欧米諸国との関係強化を進めてきた。しかし、コバヒゼ政権は今回の決定で事実上、親欧米路線を放棄する方針を示した形。今後、ジョージアを巡る政治情勢が流動化しそうだ。
ジョージアでは今年、コバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が、外国から資金提供を受けて活動する団体を規制する「反スパイ法」と、性的少数者(LGBTなど)の権利を制限する「LGBT規制法」を可決。両法は類似した法律がロシアで施行され、政治・言論弾圧の手段として使われていることから、EUは「夢」の強権化を批判し、加盟手続きの一時停止を発表した。EUは反スパイ法を巡る抗議デモを政権側が弾圧したことも非難した。
産経新聞「ジョージア、親欧米路線放棄」より
記事にあるように、ジョージアはロシアに接する国家で、旧ソ連構成国であった。
ウクライナの惨状を考えれば、ジョージアの立場としても抵抗するか服従するかをハッキリする必要がある。
「地政学的に」などという言葉を持ち出すまでもなく、隣国ロシアの脅威や影響力を排除できないのである。
今年10月にあった選挙結果
さて、こんな事態になる背景には、10月の選挙の結果が影響している。
東欧ジョージア議会選、不正選挙と野党が批判 首相は反論
2024年10月28日
東欧ジョージアで26日、議会(定数150)選挙の投開票があった。イラクリ・コバヒゼ首相は、選挙結果を「圧勝」と歓迎するとともに、不正選挙や暴力行為の疑惑を否定した。
ジョージア選挙管理委員会が発表した公式の暫定結果では、与党「ジョージアの夢」は89議席を獲得。野党は61議席だったという。「ジョージアの夢」は過半数を得たものの、同党が望むような憲法改正や、野党の活動禁止などを実施するには不足している。
野党4派は今回の選挙結果を認めず、不正選挙だと非難。与党が票を盗んだと主張している。野党4派のうち、「変革のための連合」と「統一国民運動」の2派は議会をボイコットすると表明している。
BBCより
最近の傾向として、日本でもアメリカでも、思い通りの選挙結果にならないと「不正選挙だ」と騒ぐような事が目立つので、これに関しても直ちに不正選挙だったと認定することは難しい。
与党の「ジョージアの夢」は、元々はEU加盟を目標とする政党で、2011年に立ち上げられた政党である。そして、2016年に全体議席の約8割の議席を獲得するところまで成長する。この時も不正選挙だと騒ぎになったらしいのだが。
ただ今回の選挙は、国際選挙監視団の指摘もあって、ややグレー度合いは高い模様。
国際選挙監視団は、多数の投票違反が選挙結果に影響を与えた可能性があると指摘し、第三者による調査を呼びかけた。アメリカと欧州連合(EU)もこれを支持している。しかしコバヒゼ首相は、3111カ所の投票所のうち、不測の事態があったのは「ほんの数カ所の選挙区」だったと主張している。
欧州議会のシャルル・ミシェル議長(EU大統領)は27日夜の声明で、「不正の疑いは真摯に解明し、対応しなくてはならない」と述べ、迅速かつ透明性のある独立調査を求めた。アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、「法の支配」を尊重するようジョージア政府に呼びかけた。
一連の批判についてコバヒセ首相はBBCのインタビューで、「不規則な事態は、あらゆる場所で、どの国でも起きる」と述べた。
BBC「東欧ジョージア議会選、不正選挙と野党が批判」より
そして、結党した大富豪の発言もやや怪しい。
他方、「ジョージアの夢」を結党した大富豪ビジナ・イヴァニシヴィリ氏は数カ月前から、西側に敵対的な言説を展開。不特定の「地球戦争政党」がジョージアをウクライナでの戦争に引きずりこもうとしているなど、主張してきた。裏付けのない同氏の数々の主張から、「ジョージアの夢」がロシア式の法律を採用するほか、ロシアの勢力圏に戻るとしているのではないかとの懸念が高まっている。
BBC「東欧ジョージア議会選、不正選挙と野党が批判」より
なるほどねぇ。
デモ隊と警察が衝突する騒ぎに
で、EU加盟を目指しているはずの政党が、何故かEU加盟交渉を停止すると言いだしたので、ジョージア国内もかなり混乱している。
ジョージアでデモ隊と警察が衝突、政府のEU加盟交渉延期決定受け
2024年11月29日午前 9:06
旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)で政権与党「ジョージアの夢」が2028年末まで欧州連合(EU)加盟交渉を停止し、EUからの資金援助も拒否すると表明したことを受け、首都トビリシで28日夜に抗議デモが繰り広げられ、参加者が警察と衝突する事態となった。
ロイターより
そりゃ、突然、「EU加盟交渉止めます」「EUからの資金援助も拒否します」とか言い始めたら、国民だって混乱する。
「ジョージアの夢」がどのような理由でこのような決断をしたかについては、こちらに記載がある。
ジョージアの夢は声明で、EUが将来の加盟交渉を「脅し」の材料に使い、同国で「革命を組織」しようとしていると主張。このため、「EUとの交渉開始を28年末まで議題にしないことを決定した。また、28年末まではEUのいかなる予算支援も拒否する」と表明した。
EUは同党が権威主義的な政策を進め、親ロシア的な立場を取っていると批判しており、関係がここ数カ月で急速に悪化している。ジョージアの夢は自らの立場は親ロシアではないとし、民主主義や西側諸国との統合へのコミットメントをうたっている。
ロイター「ジョージアでデモ隊と警察が衝突」より
正直、言っていることの意味が良く分からないのだけれど、「ジョージアの夢」にとってはEU側の姿勢が気に入らないから交渉を停止するということらしい。
まあ、北欧はなかなか気位が高いところで、EUも上から目線の指摘は当たり前だとは思うんだが。
それにしたって、整合性のとれた理屈だとは思えない。
ジョージアでは今年、コバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が、外国から資金提供を受けて活動する団体を規制する「反スパイ法」と、性的少数者(LGBTなど)の権利を制限する「LGBT規制法」を可決。両法は類似した法律がロシアで施行され、政治・言論弾圧の手段として使われていることから、EUは「夢」の強権化を批判し、加盟手続きの一時停止を発表した。EUは反スパイ法を巡る抗議デモを政権側が弾圧したことも非難した。
産経新聞「ジョージア、親欧米路線放棄」より
「ジョージアの夢」の行った政策を見る限り、親露派になったと思われても仕方がない感じではあるんだけど、産経新聞ソースだけではちょっと不安かな。
ただ、何らかの取り引きを持ちかけられているという観測もあって、ジョージアの国益を損ねていると言うところまでは断定が難しい。
「夢」は12年の政権獲得後、親欧米路線を掲げる一方、近年はウクライナ侵略に伴う欧米主導の対露制裁に参加しないなど親露的な傾向も強めていた。「夢」の創設者でありロシアで財を成した大富豪のイワニシビリ元首相は、ジョージア国内の親露分離派地域である南オセチアとアブハジアを巡る領土問題の解決を視野に、ロシアへの接近を模索しようとしているとの観測も出ている。
産経新聞「ジョージア、親欧米路線放棄」より
難しいんだけどね……。
プーチン氏は評価した
こんな話が追記されていて、どうにもロシアの影響があった可能性は高そうだという印象である。
一方、プーチン露大統領は28日、訪問先の中央アジア・カザフスタンでの記者会見でジョージア情勢に言及。ロシアとジョージア指導部に接点はないとしつつ、ジョージアが反スパイ法の制定などで「自身の観点」を守ろうとしたことは「勇敢であり、驚かされた」と評価した。
産経新聞「ジョージア、親欧米路線放棄」より
プーチン氏がどのような意図を持ってこのような発言をしたのかは不明だが、少なくともロシアにとっては「ジョージアの夢」の決定が不都合ではないことを意味していると思う。
ロシアに都合の良い展開だということになる。タス通信が大喜びで伝えた辺りの事を考えても、「そういう事なんだろう」という感想になる。
偶然にしてはちょっと出来すぎなんだよね。この辺りの関係はまたそのうち明らかになるかも知れないけれど、ジョージア国内ではおそらくかなりコレで混乱するだろう。
追記
そういえば、いつもは「ジョージア」という国の背景とか色々書くのだけれど、今回はやらなかったなぁ、と反省した。
「ジョージア」誕生
ちょっとだけ書いておこうと思う。
ジョージア撤退を仄めかすロシア …背景には、ウクライナ戦争を有利に進める「思惑あり」?
2024年10月7日(月)13時45分
2008年の侵攻以来ジョージアに軍を駐留させるロシアが、撤退交渉に応じるかもしれない。
ロシアのラブロフ外相は9月、ニューヨークの国連総会で、紛争地のアブハジアと南オセチアと、ジョージアとの和解に前向きな姿勢を示した。
「ジョージアの現政権は歴史的和解を望むと言っている。全当事者が不可侵を守り関係正常化に関心を持つなら、支援する用意がある」と、ラブロフは発言した。
ジョージアはアブハジアと南オセチアを占領された自国領土と見なしており、西側諸国の多くもジョージアの一部と捉えている。だがロシアは、これらを独立国家と主張する。
急速に親ロシアに傾きつつあるジョージアの現政権与党「ジョージアの夢」の幹事長で首都トビリシ市長を務めるカハ・カラーゼは、ロシアの姿勢を歓迎。「現実的な段階に進むのがいい」と話した。
Newsweekより
そもそもジョージアは独立国家ではあったが、ロシア内戦中の1921年に赤軍に占領されてしまい、ソ連の構成国のグルジア共和国として組み入れられた。
再び独立したのはソ連崩壊の時(1991年4月)。
ただし、ロシアはジョージアを「ロシアの国土だ」と主張しており、2008年にジョージアに侵攻し、ジョージア北部の南オセチアとアブハジアを占領。この2地域はロシアが勝手に「独立を承認」して今に至る。グルジア(ロシア語呼び)をジョージアにしたのもこの時で、日本がジョージアとしたのは2015年4月以降のことである。
こうやって流れを見ると、ジョージアはウクライナと流れは全く同じなのである。
ジョージア大統領は親米欧派
さて、ジョージア与党は完全にロシア寄りの発想になってしまっているが、大統領はその方針には反対のようだ。
ジョージア大統領、国民に議会選結果への抗議行動呼びかけ
2024年10月28日午前 7:31
ジョージア(グルジア)のズラビシビリ大統領は27日、国民に対して議会選挙の結果に対する抗議行動への参加を呼びかけた。
26日に投開票が行われた議会選挙について、選挙管理委員会は親ロシアの与党「ジョージアの夢」が54%近くの得票率になったとの暫定結果を公表。親欧州連合(EU)の野党勢力は結果に異議を唱え、外国の選挙監視団体などからは不正があったとの指摘が出ている。
ズラビシビリ氏はこの結果を認めないと主張した上で、ロシアによる選挙介入の可能性を示唆。野党指導者らとともに臨んだ会見で「完全な詐欺で、国民の票が全面的に奪われている」と語った。
ロイターより
ロシアが他国の選挙制度に介入してくるのもいつものやり口なので、ジョージア大統領のズラビシビリ氏の主張にもある程度の信憑性があるように思う。
28日夜に首都トビリシ中心部で開かれた抗議行動に加わったズラビシビリ氏は、国民に対して「われわれがこの選挙を承認しないと世界に表明する」よう訴えた。
ジョージアの親EU派は今回の選挙を、ロシアとの関係強化を進める与党と、欧州への統合加速を目指す野党のどちらかを選ぶ機会だと位置づけていた。
ロイター「ジョージア大統領、国民に議会選結果への抗議行動呼びかけ」より
民主主義国家にとって、選挙による結果は大切にしなければならないものだが、ロシアはそこに平気で手を突っ込んでくるので、実の効果的なやり口だと言える。民主主義の弱点だね。
EUは同党が権威主義的な政策を進め、親ロシア的な立場を取っていると批判しており、関係がここ数カ月で急速に悪化している。ジョージアの夢は自らの立場は親ロシアではないとし、民主主義や西側諸国との統合へのコミットメントをうたっている。
トビリシで警察はデモ隊に解散を命じたが、若い参加者が議会に押し入ろうしたため、催涙ガスや放水銃を使った。デモ隊は警察官に花火を投げつけた。
親米欧派のズラビシビリ大統領は、与党が「平和ではなく、自国民や自国の過去と未来に対し戦争を宣言した」と非難した。
ロイター「ジョージアでデモ隊と警察が衝突」より
ロシアのやり口を考えれば、ジョージア与党がロシアの軍門に降ったからといって、戦争回避できるとは思えない。
そのことはジョージア自身が体験したことだと思うのだが、それでも目先の利益を追求すればロシア側に付くという判断も……。
いや、なしだな。そもそもロシアは平和を約束しないし、約束したとしても守らない。ジョージアは自国の利益を優先するべきではあるが、そもそも国際的に総スカンを食らっているロシアとの関係を深めることは、デメリットのほうが大きい。ロシアと全面的に戦えなどとは言わないけれど、すり寄っていくのは果たして正しいと言えるのだろうか。
コメント
なんでそうなるかな?なのですが……
地政学的に観て旧東欧諸国は、どっちかを決めておかなきゃならないんですね。
んで、この先にウクライナが先細ると、ロシアは歴史に鑑みて「もっともっと」と出てくる可能性はある。クリミアから始まる今回のウクライナがアレで打ち止めになる保証ないので。すると先を見てロシアにつくという判断てすかね?
私としてはEUも米国もウクライナをまぁ見捨てる方向に向かいそうだし、それが現実的でもあるので(全土奪還のゼレンスキーの猿芝居にいつまでも付き合っても意味が無い!)、ならロシアと。ロシアなら食糧とエネルギーの供給は安定しそうだし。
ポーランドみたく必死にロシアの脅威と対峙しようと、仏、独はいざとなりゃ、2級EU市民である東欧なんざ見捨てるから!
NATOにしたって、偉そうな事を言っても軍事力の最大は米国で、次席はトルコ。
この2カ国が抜ければ、西欧諸国のNATO軍などロシアにかなうべくもない!
まぁ、そう考えれば妥当な判断な気もしますね。英仏独のNATOなど、信用できない点ではロシア人と大差ありませんよ😂
ジョージアにとって、ロシアにつくかEUにつくかは究極の選択だと思います。
過去の戦争を考えても、EUは一枚岩になれませんから、ジョージアがEUに命運を預けるのはかなりリスキーです。
ですが、ロシアには何度も裏切られていますから、真っ当な指導者であればロシア側にすり寄っても連邦に参加するような愚はおかさないでしょう。
狂犬アメリカはまだバイデン政権ですし、トルコのエルドアン大統領はイスラエルの騒ぎが気になってそれどころではない。ロシアとしては絶好のタイミングなのでしょうね。そこをジョージアがどう捌くか。個人的には結構面白い立ち回りをしたと思っています。指を咥えて見ているだけでは、ウクライナの二の舞ですから。
こんにちは。
NATO加盟というお守りを得るためにはEU加盟は必要悪、なんでしょうけれど。
EU自体がお先真っ暗になりつつありますし、対ロシアの実行力もどれくらいあるか……
そして、間違いなく、ジョージア国内は親露と反露で割れている、と。
裏で何があったか、事実(真実ではなく)が明らかにされることはないでしょうけれど、この時代を後世の歴史家がどう評価するか、どのように歴史の教科書に書かれるか、読んでみたいです。
こんにちは。
EUの先行きが怪しいところが、ロシアとの戦いで勝利できない理由なんでしょうね。
ジョージアの判断は正しかったのかどうかは、現時点では分かりません。ご指摘のように、評価は後世の歴史家に任せるしかありませんね。