北朝鮮の貨幣価値暴落

この手の話は定期的に出てくるね。

北朝鮮の貨幣価値75％暴落…「貨幣改革のうわさで住民銃殺刑も」

記事入力 : 2024/11/27 14:05

北朝鮮の貨幣価値が今年初めに比べて4分の1程度に急落し、深刻な混乱状態に陥っていることが分かった。

朝鮮日報より

国家の貨幣価値というのは貿易によって変動するものだが、北朝鮮の貿易はかなりの制約があって限定的である。

北朝鮮国内の混乱を意味するのか、情報戦か

北朝鮮の貿易相手

ええと、先ずは貿易の話について説明していこう。

2021年の北朝鮮の貿易額は前年比17.3％減

2022年07月26日

韓国の大韓貿易投資振興公社（KOTRA）は7月15日、北朝鮮の2021年通年の貿易額を前年比17.3％減の7億1,333万ドル（輸出8,196万ドル、輸入6億3,137万ドル）とする推計結果を発表した（添付資料表1参照）。輸出額は国連による経済制裁に加え、新型コロナウイルス感染拡大防止のための中朝国境封鎖の影響で、輸出入ともに前年に引き続き減少したが、貿易収支の赤字額（5億4,941万ドル）はやや改善した。

国・地域別でみると、最大の貿易相手である中国との貿易額は前年比10.4％減の6億8,166万ドル（輸出5,811万ドル、輸入6億2,355万ドル）だった（添付資料表2参照）。貿易総額に占めるシェアは95.6％と前年（88.2％）を上回り、従来、最も高かった2018年（95.8％）に並ぶ水準となった。その他の貿易相手としては、ベトナム、インド、タイ、香港、バングラデシュの順で多かった。そのほか、エチオピアやモザンビーク、ナイジェリアなどのアフリカ諸国が上位に入ったが、いずれも貿易総額に占めるシェアは1％未満だった。なお、日本については、日本政府の独自制裁により2009年以降、北朝鮮との貿易実績はない。

JETROより

ちょっと前のデータで申し訳ないのだが、恐らくは大きく変化はしていないと思われる北朝鮮の貿易相手。

最大の貿易相手は支那であり、その他はベトナム、インド、タイ、香港、バングラデシュ、そしてエチオピアやモザンビーク、ナイジェリアといったアフリカ諸国が貿易相手ということになっている。

ただ、貿易額比率の9割以上が支那相手であったことと、現在は恐らくロシアも貿易相手であるハズなのだが。

中国と北朝鮮の去年の貿易総額 前年の2倍以上に増加

2024年1月18日 23時45分

中国と北朝鮮の間の去年1年間の貿易総額が、前の年から2倍以上に増え、コロナ禍前の水準に回復しつつあることがわかりました。北朝鮮は、ロシアと軍事協力を深める一方、中国とは経済関係を強化する姿勢を示しています。

中国の税関当局が18日に発表した貿易統計によりますと、中国と北朝鮮の間の輸出と輸入を合わせた去年1年間の貿易総額は、22億9500万ドル余りでした。

NHKニュースより

2024年1月の時点でも北朝鮮の貿易相手のトップは支那だったようだけれども。

為替レート急落の原因は

で、為替レートは相対取引のある相手に影響されることになるわけで、今回の為替レート急落の原因もやっぱり支那であると思われる。

北朝鮮のウォン対ドル為替レートは今年4月までは1ドル＝8000ウォン前後だったが、夏ごろに急激に価値が下がり、11月中旬には3万ウォン台に達した。

これは年初と比べると貨幣価値が4分の1近く大暴落したことになる。

中朝貿易関係者は「11月20日時点で（北朝鮮の）新義州で1ドル＝3万2000ウォンに達した」と証言したという。

為替レート急落の主な原因としては、新型コロナウイルス流行で閉鎖していた国境を再び開放したために増えた輸入品需要と、これに伴う外貨需要の増加が挙げられるとのことだ。

また、北朝鮮当局の統制範囲外での経済活動に対する強硬措置や密輸取り締まりも、貨幣価値暴落に影響している可能性が小さくない。

朝鮮日報「北朝鮮の貨幣価値75％暴落」より

ポイントは「外貨需要の増加」と「輸入品需要増加」ということかな。

毎年のように報じられる干魃被害に関しては、2024年にはなかったようなのだけれども、残念なことに水害が発生してしまった。

北朝鮮の洪水、対岸から爪痕くっきり…「人命被害が一件もない」と強調も食糧事情は悪化か

2024/08/16 20:00

大雨による洪水被害を受けた北朝鮮で、食糧事情が悪化する可能性を国際機関が指摘している。支援物資の支給は続くが、復旧には時間がかかりそうだ。

中朝国境を流れる鴨緑江沿いの北朝鮮・新義州では１６日、着岸した船から次々と支援物資とみられる荷物が運び込まれていた。被害を受けた建物から荷物を撤去する人々の姿や、近くの畑でトウモロコシが広範囲でなぎ倒されている様子も確認できた。７月末の大雨から２週間以上が経過した今も、水害の爪痕は色濃く残る。

讀賣新聞より

食糧支援は受けたけれども、輸入を増やさねばならないような状況であるということは、想像に難くない。

輸入品需要の増加はそういうことなのだろうと思う。

外貨獲得の方法は……。

北朝鮮IT技術者は外貨の「稼ぎ頭」　安い労働力、入手情報はサイバー攻撃に活用

2024/9/6 19:05

北朝鮮が核ミサイル開発の費用などを調達するため、経済制裁をかいくぐって外貨稼ぎを活発化させている。中でも〝稼ぎ頭〟といえるのがIT技術者たちだ。大阪府警は6日、北朝鮮に衣料品を不正輸出したとして外為法違反容疑で男（85）を書類送検したが、衣料品の購入費には北朝鮮のIT技術者らが稼いだ外貨が使われていた。

産経新聞より

日本のアニメが北朝鮮で作られているというような騒ぎになったこともあったが、IT技術者（IT土方と揶揄される層）に外注するケースは案外多いようだ。この辺りはAI技術が進めばある程度解消するかも知れないが。

国連安保理は今年3月、北朝鮮は外貨収入の約50％をサイバー攻撃によって獲得していると指摘。ハッカー集団が各地で暗躍し、暗号資産関連の企業にサイバー攻撃をしかけているとした。2017～23年、北朝鮮が関与したサイバー攻撃で30億ドル（約4500億円）を得た疑いがあるとして警鐘を鳴らす。

産経新聞「北朝鮮IT技術者は外貨の「稼ぎ頭」」より

こういった外貨獲得の方法の他に、ロシアとの付き合いでも為替レートの変動があったのではないかと。

ロシアとの貿易？！

ええと、こちらの記事が良いかな。

ロシア、北朝鮮に石油100万バレル超を提供　人工衛星画像の分析で判明

2024年11月22日

ロシアが今年3月以降、北朝鮮に石油を100万バレル以上供給しているとみられることが、イギリスに拠点を置く非営利研究団体「オープン・ソース・センター」の人工衛星画像の分析でわかった。

この石油について、主な専門家らとイギリスのデイヴィッド・ラミー外相は、北朝鮮がロシアに送った武器と部隊の対価だとBBCに話した。

BBCより

ロシアから安価な石油を大量に入手したというニュースだが、これ以外にも食糧や物資を輸入する一方で、武器を大量に輸出し、兵士も提供しているという噂がある。

北朝鮮の経済規模は小さいので、こういった違法な取り引きがあると為替レートに影響する可能性は少なくない。

通貨政策を行う可能性

そしてロシアも支那も経済状況が不安定でインフレが加速している状況である。北朝鮮の経済もコレに引っ張られる可能性はあって、「輸入品需要増加」というのは、物量の増加だけではなく輸入額の増加という意味で捉えた方が良いかも知れない。

ただ、残念ながら何れの国も正確な数値データを出してくる国家ではないので、北朝鮮がどのような状態にあるのかは、推測を難しくしている部分はある。

だから原因分析というよりは、「為替レートが変動している」ということと、「その後どうなるのか」を推測する方が建設的ではある。

で、どうなるのか？なんだけど、流石に為替レート変動によって貨幣価値が4分の1程度に急落してしまうと、コレまでと同じような貿易体制を維持出来なくなる。

これは、26日付の毎日新聞が、北朝鮮の金正恩政権が為替レートの不安定を招く勢力に対し、強力な対処を指示した内部文書が確認されたとして報道したものだ。

朝鮮日報「北朝鮮の貨幣価値75％暴落」より

なにやら怪しげな内部文書によれば、この為替レートの不安定化について、「誰かの陰謀だから」というのが金正恩氏の主張であり、この反体制勢力を強力に取り締まっているらしい。

……大丈夫かよ。

特集「緊迫！朝鮮半島」

北朝鮮情勢に詳しい消息筋は２０１０年５月１５日、同国がデノミ（通貨呼称単位の変更）を実施した０９年１１月以降、抗議行動やこれに乗じた犯罪が続発し、これを受けて北朝鮮当局が今年３月までに複数の公開処刑を行ったことを明らかにした。

～～略～～

同筋によれば、北朝鮮東部の咸興では、デノミに反対する住民数十人が警官隊と衝突。警官に暴行したとして１０人が捕らえられ、うち２人が昨年１２月５日か６日、地元住民が見守る中で銃殺刑に処された。

北部の咸鏡北道・清津でも同月８日、新旧通貨の交換を渋った地元当局に住民が抗議する騒ぎが起き、住民２人がその場で射殺されたという。

また両江道の恵山では、中央銀行の支店長が新通貨で１００万ウォン相当を横領した罪で、３月下旬に公開銃殺されたという。

さらに同筋は、デノミ失敗の責任を問われて労働党計画財政部長を解任された後、処刑されたと伝えられている朴南基氏について、副部長１人と共に銃殺刑に処されたと述べた。

時事通信より

これはかなり古い記事なのだが、北朝鮮は2009年に通貨切り下げ政策（デノミネーション）をやって、大混乱を引き起こしたことがある。

旧通貨と新通貨の交換比率は100対1。旧1000ウォン紙幣が、新通貨では10ウォン紙幣とする政策で、唐突に行われた。そしてこの方針に反対した勢力を銃殺した上、デノミ政策の失敗を担当者のせいにして銃殺してしまった。

現状、コレと同じ事が起きるのではないかと警戒されているのである。

なお、噂によると北朝鮮国内では臨時の朝鮮中央銀行金券が発行され、コレが乱発されていたらしいのだが、コレも現段階でどうなって言うのかは不明である。

労働者達の帰国

ただ、外貨獲得に関して言えば、こんな話は影響していると思う。

中国にいた北朝鮮労働者６千人が帰国…関係悪化が影響か

2024年11月21日 

中国遼寧省の丹東で働いていた北朝鮮労働者が最近になって、大挙して帰国している。通常、契約期間が終わって帰国すれば、新たに労働者が派遣されるが、あまり行われて行われていない。

中国のデイリーNK情報筋によると、丹東在住の北朝鮮労働者のうち、先月だけでも4000人が帰国した。今月は21日の時点で、2000人が帰国している。

～～略～～

「中朝関係の悪化を受け、中国政府は遼寧省にいた北朝鮮労働者を帰国させた。新たな北朝鮮労働者が派遣される計画はまだないと聞いている」

しかし、このような現象は遼寧省でしか見られず、中国政府の意図は不明だ。

デイリーNKジャパンより

北朝鮮にとっての重要な外貨獲得手段である出稼ぎ労働が、上手く機能しなくなってきているらしいと言うニュース。

支那経済は不調なので、現場で働く労働者達が必要か？というと、寧ろ国内労働者を雇用するのにも苦労する始末となっている。北朝鮮出身の労働者は安い賃金で働かせることが可能なので、便利に使われていたと思うのだけれど、ついに首を切らざるを得なくなったと、そのように理解はできる。

当然こういった部分も為替レートには影響してくるわけで。

記事では支那と北朝鮮との関係悪化が原因ではないか？と分析しているのだけれど、そうなのかなあ。

北朝鮮政府は、どうやら国内で通貨発行額を増やしており、闇通貨「トンデコ」の取り締まりを加速しているようだ。何れも経済状況の悪化を示している話なので、北朝鮮の通貨の信用が落ちているということなのだろうね。これも為替レートに影響するんだろう。なにやらMMT理論で北朝鮮経済を救おうという政府高官がいるかもしれないな。

何処からの情報なの？

ところで、この報道は毎日新聞発のものらしい。

北朝鮮で通貨暴落、年初の4分の1に　「闘争」指示する内部文書入手 | 毎日新聞

北朝鮮軍のロシア派兵に関心が集まる中、北朝鮮国内では自国通貨ウォンの価値が年初に比べ大暴落し、4分の1近くになっている。金正恩（キムジョンウン）政権が進める国家統制色の強い経済政策に対する住民の不満や不安が、暴落の背景にあるとの見方もあり、...

mainichi.jp

この情報によると、どうやら毎日新聞は治安部門向けの内部文書を手に入れてスクープしたらしい。

11月の急落が一時的なものかどうかは不明だが、毎日新聞が入手した治安部門向けの内部文書「国家の為替レート安定を阻害する各種違法行為との闘争に共に立ち上がろう」から、金正恩政権のウォン急落への危機感は伝わってくる。

毎日新聞より

面白いのは、朝鮮日報は毎日新聞の報道を受けて報道するというスタイルを採っているというところだ。

毎日新聞が入手した治安部門向けの内部文書によると、金正恩政権は「国家の為替レート安定を阻害する各種違法行為との闘争に共に立ち上がろう」と強調し、危機感を見せているという。

特に、朝鮮労働党と治安部門は、大規模な両替を通じて為替レートの安定性を損なう行為を「逆賊行為」と見なし、強力に取り締まることを命令したと伝えた。

さらに、最近北朝鮮内で「年内に貨幣改革がある」といううわさが広がり、両替需要がさらに増えて貨幣価値下落が加速化した。

朝鮮日報「北朝鮮の貨幣価値75％暴落」より

どういうルートの情報でこんな報道をしているのかは謎だが、真っ当な話であるかと言われると、かなり怪しいように思う。毎日新聞だからなぁ。

北朝鮮国内が混乱している可能性は高いと思うけれども、情報戦に利用されているだけという可能性も否定できないのが、この話の本質だと思うよ。