ペロブスカイト太陽電池に将来性があるのか?というと、なかなか難しい話。
次世代太陽電池で原発20基分 ペロブスカイト、40年目標―経産省
2024年11月25日23時52分
経済産業省が薄くて軽く、折り曲げられる「ペロブスカイト太陽電池」を普及させ、2040年に原発20基分に相当する20ギガワットを賄う目標を検討していることが25日、分かった。
時事通信より
経済産業省がコレに前のめりになっているのは、見るに堪えないな。
経済産業省は経済の発展を目指すべし
動機が不純な経産省
ええと、以前に肯定的な記事を書いているので、先ずはリンクを貼っておく。
この意見は今も変わっていない。日本の技術開発にお金を出せというのは、基本的な僕のスタンスである。だから、日本の技術としてペロブスカイト太陽電池の技術開発を支援するという部分には反対する気はない。
ただ、今回のこの記事がクソなのは、目的だ。
脱炭素社会の実現に向けて補助金などで次世代技術の導入を支援し、再生可能エネルギーの拡大を目指す。年度内に見直す「エネルギー基本計画」にも反映させる。
時事通信「次世代太陽電池で原発20基分」より
いやいや、ペロブスカイト太陽電池を増やすのは良いけど、「再生可能エネルギーの拡大を目指す」ってバカでしょう?経済産業省は正気なのか。
それも、原発20基分を目指すって、最早狂気を感じるのだけれど。
勘違いが多いが
ところで、ペロブスカイト太陽電池だが、結局のところ太陽光発電の1つに過ぎないのは事実である。
ではどのような強みがあるのか?という話なんだけど、以下のような使用方法が想定されている。
一番期待されているのは、建物の壁面に貼り付ける方法だ。ガラス面の多いビルなどは一時期流行ったが、ビルの壁面のガラスやタイルにペロブスカイト太陽電池を貼り付けるような形で使うことで、ビルで使う電力の一部を賄うことが可能となる。
これは、嵌め込みガラスに内蔵することも可能で、メインの用途はおそらくここだろうと思われる。
都市部でこういった用途で発電をすると、商用電源からの電力購入分が結果的に減る。これが各都市に広がることで、オフィス街などの電力需要が減るという結果になる。ただ、発電量については壁面やガラスにペロブスカイト太陽電池を採用したところで、大した量にはならない。面積は確保しやすいのだけれど、発電効率がね。
そしてこれは、民間企業に対して働きかける話ではあるので、民間企業にとってそれにメリットがあると見出すことになれば、急速に広がっていくだろう。そうでなければ見向きもされないと思う。
それが原発20基分になるのかは知らないが、そんな数字を目標にする意味があるのかサッパリ分からない。
タンデム型も期待できる?
気になるのは「タンデム型」と呼ばれる、従来型のシリコン型太陽電池の表面に更にペロブスカイト層を貼り付けて、太陽電池の発電能力を高める方法である。
タンデム型太陽電池|ペロブスカイトで効率向上!未来のエネルギー革命の鍵
2024年3月11日
太陽光発電は、無尽蔵に降り注ぐ太陽エネルギーで発電できる優れたシステムです。もし、光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率がさらに向上すれば、今よりも多くのエネルギーを生み出すことができます。
~~略~~
タンデム(他接合)型太陽電池は、複数の異なる光吸収材料(太陽電池)を組み合わせて、太陽光を効率的に電気に変換する技術です。現在の太陽光発電では、太陽光のなかでも赤色に近い波長はキャッチできていますが、全ての波長を最大限に活用できない状況です。 ところがタンデム型太陽電池の場合、異なる波長の光に対応する複数の材料を組み合わせて、より効率的に太陽光を電気エネルギーに変換することができます。従来の「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」よりも高い変換効率が期待され、光の波長ごとに異なる材料を使用して光のエネルギーを最大限に引き出します。
Solar-mate .blogより
実は、ペロブスカイト太陽電池というのは、利用出来る波長がシリコン型太陽電池とは異なる。
このため、ペロブスカイトとシリコンを組み合わせたタンデム型太陽電池は、発電効率を従来の太陽光パネルより高めることが可能となる。残念なことに、このトップ発電効率記録を叩き出したのは支那の研究機関で、変換効率33.9%だとされている。
太陽光発電の効率としては、33.9%は市販のものが20%前後であることを考えれば高い方だが、集光型セルを利用すると40%を超えることは知られているので、特別高いというわけではない。尤も、市販可能なレベルまで成熟した技術を提供できるというのであれば、話は別なんだけれども。
個人的にシリコン型の太陽光発電はもうダメだと思っていて、その理由はその材料の9割以上が支那に依存しているからである。コスト面で支那に勝つというのは、環境規制のことを考えても労働力コストのことを考えても現実的ではない。
そうすると、タンデム型に期待するということは悪くはないんだけど、支那と競争して勝てる分野ではないという結論になってしまう。
量的目標を掲げて煽る話ではない
というわけで、経産省が怪気炎を上げてはいるが、かなり怪しいニュースであると思う。
26日に開く官民協議会で、普及目標を盛り込んだ次世代太陽電池の戦略案を経産省が提示する。ペロブスカイト電池は従来の太陽光パネルより発電コストが膨らむため、25年度から当面の間、費用の一部を補助する。
時事通信「次世代太陽電池で原発20基分」より
そしてこれ。
いやもう、補助金ブーストで特定の発電方法を優遇するのは止めようよ。コレの原資って、どう考えても再エネ賦課金でしょう?
23年度の再エネ発電量は、水力発電を含めて22.9%。現行のエネルギー計画は30年度に36~38%へ引き上げる目標を掲げている。40年度の電源構成が示される新たな計画は、ペロブスカイト太陽電池の普及も見込んで再エネ比率がさらに引き上げられる見通しだ。
時事通信「次世代太陽電池で原発20基分」より
もはや、こういった計画の立て方事態に不信感を持ってしまうのだが、こんなエネルギー計画、そもそも実現可能なんですか?という議論を本当にしているかが疑わしい。
再エネ発電量は現状22.9%ということだが、ここから30年度目標として36~38%まで上げていこうという事になっている。ただ、再エネ発電量が3割に達すると、発電できなかったときのフォローをどうするかということを加味しても火力発電の発電効率が悪化する。
そうするとどうしたって電気代が高くなってしまうのだが、それに加えて再エネ賦課金も増やす事になっている。これって、政策的失敗を国民に支払わせるっていう意味にもなってくる。
気候変動を抑える効果は疑問
日本政府全体がこうしたおかしな政策を掲げる理由の1つとして、COP29などの動きや世界の動向がある。
【解説】 COP29でたどり着いた大きな合意と残る課題
2024年11月25日
アゼルバイジャンの首都バクーで開かれていた第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が24日に閉幕した。途上国からは、気候変動対策資金として2035年までに受け取る年間3000億ドル(約46兆1900億円)は「微々たる額」だと不満の声が上がっている。
COP29で発言した先進富裕国の多くは、途上国がこの一見巨大な額面に不満を抱いていることに驚いた。拠出額は、現在の年間1000億ドルから3倍に引き上げられているからだ。
しかし、途上国はより多くの拠出を求めていたため、最終的な金額には多くの真の課題が残った。
BBCより
もう、COP29が先進国と発展途上国とで対立構造を作って、金を生み出す装置のようにしか見えないのだけれど、僕の目は曇っているのだろうね。
もし地球の気温上昇を食い止めたければ、富裕国は新興経済国が排出量を削減できるよう支援する必要がある。過去10年間で排出量の増加の75%は新興経済国で発生しているからだ。
これについては、各国が今後10年間で温暖化ガスをどのように制限していくかを示した新たな国家計画が、来春にも発表されることになっている。
BBC「【解説】 COP29でたどり着いた大きな合意と残る課題」より
そもそも、このBBCの記事もミスリードなのだが、二酸化炭素排出量を削減したら、地球の温度上昇を食い止めることが可能なのだろうか?
IPCCの評価報告書などを見ると、かなり増えているような印象を受けるのは事実で、「減らさなきゃ!」と焦る気持ちも分かる。
IEA:「エネルギー部門のCO2排出量、経済成長と関係なく2年連続横ばい」 2016年3月17日
国際エネルギー機関(IEA)は3月16日、昨年1年間に世界で排出された温室効果ガスに関する報告書を公表し、人為的なCO2排出源としては最大のエネルギー部門において、2年連続で排出量が横ばいであったことを明らかにした。同機関のF.ビロル事務局長は、「経済成長していても、それとは無関係に排出量の増加が止まったという前回調査時の歓迎すべき結果が裏付けられた」と評価。排出量に関する新たな枠組を採択した歴史的なパリCOP21から数か月しか経過していないことから、この事実は地球温暖化に対する取り組みの中で一層の推進力になるとの見通しを表明した。
日本原子力産業協会のサイトより
ただ、過去のデータを見ても、「二酸化炭素排出量が横ばい」である時期もあったが、気候変動にブレーキがかかったという話は聞かないし、日本だけに目を向ければ、排出量は減少傾向にある。
このことが何を意味するかというと、日本が努力したところで意味がないという話が明確になるわけだ。
排出量の多い国
これは量的にも把握可能な話。こちらは僕が良く引用するJCCCAの作成した図なのだが、一目瞭然である。
現在の最新版は2021年の二酸化炭素排出量国別割合で、支那が32%でトップ。日本は全体の3%に満たない。
日本がもの凄く努力して3割の二酸化炭素排出量を実現したとして、全体で見ると1%程度にしか影響がないのである。一人当たりの二酸化炭素排出量を見ても、日本は然程高くない。日本人一人当たりが頑張ったところで、どんな意味があるのか、という話になる。
日本の経済産業省というのは、経済発展に寄与するために仕事をするのかと思いきや、実はその逆方向に向かって目標を立てたという意味でもある。
日本がもの凄い努力をして3割減をするのと、支那がちょっと努力をして3%の削減をするのが同じ意味になるというのは、実に納得いかない。
もう、経済産業省は不経済・産業衰退省に改名したらどうだろうか?
日本が再生可能エネルギー発電の割合を増やすことに、意味はないのである。それどころか、国民を苦しめるだけだ。そうするとそれは国賊組織との誹りを免れないだろう。
役割を果たせないCOP会議
そもそも、気候変動対策のための合意というのは欺瞞に満ちた話である。
200カ国をまとめ、気候変動対策のための複雑な合意に導くことは、常に困難な作業になることが予想されていた。そして議長国のアゼルバイジャンが、これまでCOPプロセスにほとんど関与してこなかった国だったこともあり、合意をまとめるのはほぼ無理という状況になった。
同国のイリハム・アリエフ大統領が、石油とガスを「神からの贈り物」と表現したことも事態を悪化させた。「西側のフェイクニュース・メディア」、「慈善団体」、「政治家」が「誤った情報を流している」と非難する同大統領の露骨な攻撃も、事態を改善するものではなかった。
BBC「【解説】 COP29でたどり着いた大きな合意と残る課題」より
全世界的な目標設定をするという意味において、崇高な理念があるという事は否定する積もりはないが、しかしその前提として必要な「二酸化炭素排出量を減らしたら本当に気候変動を止めることが出来るの?」という質問には誰も答えてはくれない。
COP29で非常に顕著だった傾向のひとつは、多くの環境NGOや気候変動活動家が、時に攻撃的な姿勢を見せたことだ。
たとえば、アメリカのジョン・ポデスタ気候特使は、「恥を知れ」という罵声が飛び交う中、会議場から追い出された。
多くの途上国は、COPのような複雑なイベントに対処する際、こうしたNGOの支援に頼っている。
期間中には多くの活動家から、ほぼすべての合意を完全に拒否すべきだという強い主張があった。
BBC「【解説】 COP29でたどり着いた大きな合意と残る課題」より
最早、COPは活動家の遊び場になっていて、象徴的なのはCOPの金魚の糞のようについて回って、さも権威があるかのように振る舞うCANという組織だ。
「気候危機の最大の責任者」 日本などに“特大化石賞” COP29
2024/11/23 01:12(最終更新 11/23 01:12)
アゼルバイジャン・バクーでの国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で会期最終日の22日、世界の環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク(CAN)」は「特大化石賞」を、条約で途上国への資金支援を義務付けられている日本など先進国(24カ国・地域)に贈ると発表した。COP29会期中の日本の受賞は、G7として受賞した15日に続き2度目。
毎日新聞より
排出量を考えれば、どう考えたって支那が受賞しそうなモノだが、そういった話は聞いたことがない。何より、気候行動ネットワーク(CAN)は単なる環境NGOで何か権威のある団体というわけでもない。
寧ろ、あっちこっちに飛行機で移動する分、二酸化炭素排出量を増やす事に貢献する団体であるとも言える。
COPで何か結論を得ると言うことはそもそも期待が出来ないし、そもそも支那やインドが発展途上国側に回っているのである。何の冗談なのだろうか。
中国、「途上国」の立場強調 気候資金、独自拠出アピール―COP29
2024年11月23日07時20分
アゼルバイジャンで開催中の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、途上国の温暖化対策に先進国が拠出する資金を巡り、中国の動向に注目が集まっている。世界2位の経済大国でありながら「途上国」として扱われている現状に、先進国からは不満の声が漏れる。
時事通信より
そりゃ、トランプ氏が「でっちあげだ!」と怒るのも無理はない。
というわけで、ちょっと話は逸れたのだけれども、経済産業省がペロブスカイト太陽電池推しであることは、特に反対する点ではないと思うのだけれど、そこに数値目標を掲げて普及させたいという試みには心から反対したい。国民を馬鹿にするな!と。
追記
国民民主党、色々ニュースになっているね。
首相、国民民主・玉木雄一郎代表に異例の厚遇 エネ基で提言、官邸で会談
2024/11/27 19:09
石破茂首相は27日、国民民主党の玉木雄一郎代表と官邸で会談し、政府が今年度中に見直す中長期的指針「エネルギー基本計画(エネ基)」に関する提言を受け取った。原子力発電所の稼働や建て替え、新増設を次期計画に明記するよう求める内容で、玉木氏はエネルギー分野でも政府・与党への働きかけで政策実現を目指す。
~~略~~
計画の中では「再エネ最優先」「原子力低減」など、二項対立的な表現による電源の特定は行わないよう求めた。
産経新聞より
野党だから主張できる内容であるとは言えるんだろうけれど、かなり真っ当な意見だったようだね。国民民主党は以前から原発利用推進を提言していたので、コレを機に一気に目立つというのは良いことかも知れない。
国民的議論を盛り上げれば、自民党としても選ばざるを得ない事態を迎えると思う。
経済産業省も、アホなエネルギー基本計画を構築するのは是非止めて欲しいところである。
コメント
我が国はプルトニウムを核兵器に使わず原発で消費すると世界に約束しましたが、原発に反対する方は核武装したいんですよね?と聞くと黙って答えない人達とは違います国民民主。
別ネタ ペルーがK2戦車購入・KF-21共同開発決定
何でも正直のこたえるのが良い、と言う訳ではないのでしょうが、国民民主党の姿勢には好感がもてますね。
ペルーの話は、まだ少々怪しい気もするんですが、K2戦車は販売実績もありますし、運用実績もアリ。そして、周辺国との戦力バランスを考えてもペルーにとって割と良い選択肢だとは思うんですよね。正直、日本が90式売れるのなら、そっちの方が良いのでしょうが。
ただ、Kf-21の方はかなり怪しいし、ペルーにとっても鬼門のような。FA-50を増やす方がまだマシに思えますよ。
こんにちは。
ビルの壁面を太陽電池にするのは、構造物であれば無茶ですが、ガラス面であれば交換可能だしいけるとは思ってます。
その配線とか考えると費用対効果とか銅の市場とか猛烈に頭痛いですが。まあ、フロア単位で制御すれば配線が少しは楽かな?
ただ、EVもそうですが、研究開発には補助金突っ込んで良いけど(つか突っ込め)、販売には補助金ジャブジャブはダメですよね。
何もしなくても黒字が出る体制でなければ、普及はおぼつかない、無理に普及させても必ず早晩ダメになる。
政治家とか官僚とか、エラい人は頭いいはずなのに、どうしてこういう損得勘定の基礎が出来ないのか、不思議でしょうがないです。
こんにちは。
配線のことを考えると、嵌め込みガラスか壁面に計画的に設けるのであれば、アリだとは思いますよ。
ビルメンテなんかを考えると頭が痛いかもしれませんが、それを上回るメリットがあればOKですよね。
そして、ソレを上回るメリットが生まれないような商品を拡販して貰っても困るので、数値目標にされるのには違和感しかありません。
ガラスにペロブスカイトを貼り付けるもしくは形成するのは、あまり期待できないと思います。ガラス本来の機能と背反します。ガラスは本来光を透過して雨風を防ぐものです。ペロブスカイトは光を遮るのです。ガラスは所詮ガラスですし、発電能力が低下した場合のガラス自体の交換はあり得ないので、本来の機能だけで十分かと
そうですね、相反する話ではあります。透明であるガラスに、ペロブスカイトの層を作るとどうしても透明度は落ちますね。
ただ、透明度が求められるばかりではなく、スリガラスや着色ガラスなど、敢えて光の透過性を落としたい場合もありますから、利用できるケースはあるでしょう。
問題はどちらかと言うと、ご指摘のような寿命の方でしょうね。どうしてもその特性上5~10年程度で性能が劣化してしまいますから、そこから交換するのか?というのはあまり現実的ではないようには思います。が、ガラスの内側にフィルムのように張って使うというような利用の仕方をすれば、交換は容易になるかもしれません。これも、結局はどこまで利便性が確保できるか?という話になるのだと思いますよ。
横合いから失礼。
オフィスなんか、わざわざガラスの内側にブランドで遮光したりしているのですから、透過率なり、塗布(塗料じゃないですが適当な言葉を思いつかなかった)面積なりで入射光の総量をコントロールすれば良いのでは、と思う次第です。
カンカン照りのオフィスでエアコンをガンガンかける、という風潮にも一石を投じられると一挙両得、とは行かないですかね……