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肥料リンの自給に向けて動き出す

環境技術
この記事は約11分で読めます。

面白いTweetを見かけて調べてみた内容を記事にしてみた。

肥料リンを半分自給に 下水汚泥から回収 25年度に製造施設を増設 神戸市

2023年4月27日

肥料の主原料となるリンを地域で自給できる体制を整えようと、神戸市は、下水汚泥から回収する再生リンの増産に乗り出す。2025年度に新たな製造施設を稼働させ、供給量を現在の2・5倍に増やす。県内で最大規模の農地面積を有する同市。国内需要量のほぼ全てを輸入に頼るリンについて、市内需要量の半分を地域で賄える体制を構築する。

日本農業新聞より

ぱっと読んだ感じ、「下水汚泥のリサイクル」のことが書かれているのか、という印象である。

技術を腐らせる国日本

国内需要のほぼ全てを輸入に頼る

気になったTweetはこちら。

自民党議員の小野田氏のTweetで、「肥料リンを輸入に依存しなくて良いようにするのも、食糧安全保障上大切。」とコメントが付けられている。

あまり話題にならないニュースの様に思うが……。

(1)日本のリン鉱石輸入

日本ではリン鉱石は全く産しない。このため、全量が外国からの輸入となっている。財務省の貿易統計によると、2010年に日本が輸入したリン鉱石の数量は310,483トンで、中国からが約半数を占める。次いで多いのがモロッコ、南アフリカ、ヨルダンの順になっている。

Seneca21stのサイトより

調べてみると、日本におけるリン鉱石の採掘量はゼロ。少々データは古いが、平成22年の輸入実績に寄れば、支那からの輸入が大半を占める状況になっている。

なるほど。

なぜ支那依存になってしまったのか

去年辺りもアンモニアの輸入に関して結構騒がれていたのだが、リンに関してのニュースを見かけなかった。

しかし、リンの輸入に関しては以前から問題視されていたことが分かった。

枯渇しかねないリン鉱石、輸入依存の日本は?

とは言え、基準値を超えても大量絶滅が起きるのは1000年以内。地球温暖化以上に先の話に感じてしまう。ところが、足元でも別の深刻な問題が起きつつあるという。「実は、リン鉱石が枯渇しかねない」(大竹理事長)。これがリンをめぐる第2の問題だ。

わたしたちが農業や工業で使っているリンのほぼすべては、地下資源であるリン鉱石から得ている。自然界でリン鉱石ができるまでには、数千万年もの長い年月が必要だ。もし人間がリン鉱石を採掘し、利用した後で海に流し続ければ、やがて枯渇してしまう。

リンの希少性については、世界も気づいている。世界第2位のリン消費国である米国(2005年、国立環境研究所の中島謙一氏調べ)は、1995年にリン鉱石の輸出を停止し、輸入国に転じた。自国の資源を保護するのが目的だ。こうした動きは主要産出国のモロッコなどにも広がりつつある。

実は、この流れに最も大きな影響を受ける国の1つが日本。日本は世界第8位のリン消費国(同)であるにもかかわらず、リン鉱石に乏しい。従来は主に米国からの輸入に頼ってきたが、その禁輸に伴い、現在は輸入先を中国や南アフリカなどに変えてしのいでいる。しかし、こうした国もいつ米国のように方針を転換するか分からないのが現状だ。

リコー経済社会研究所のサイトより

以前は、リンの輸入に関してアメリカからの輸入に頼りっきりだった日本だが、アメリカが輸出を停止したことで、他の輸入先を探さねばならなくなった。その結果、支那や南アフリカなどからの輸入に切り替えたようだ。

リンといえば、農業にも工業にも欠かせない成分である。冒頭のニュースは日本農業新聞からの引用だったが、日本は慢性的なリン不足なのだ。

肥料価格高騰

アンモニアの輸入が話題になった去年、世界各国で肥料供給不足や価格高騰への対策が模索された。

欧州委、肥料の供給不足や価格高騰への対応策提案、有機質肥料の使用を推奨

2022年11月16日

欧州委員会は11月9日、農業に必要な肥料供給不足への対応やEU肥料部門の低炭素化、国際的な食料安全保障を念頭に置いた途上国支援に関する政策文書を発表した(プレスリリース)。EUは窒素質肥料を域外からの輸入に大きく依存しており、ロシアは主要な供給国だった。また、EUでの肥料生産に必要なリン酸塩、炭酸カリウム、天然ガスも輸入に依存しており、特に天然ガス価格の高騰によって、肥料部門は減産に追い込まれ、供給量は減っている。

JETROより

その記事の中にもリン酸塩の輸入に関する話題が入っているのだが、特に注目はされなかった。

止まらぬ肥料価格の高騰に日本は耐えられるのか?

2022年4月3日

肥料価格の上昇が止まりそうにない。穀物価格やコロナ禍による輸送費の値上がり、中国による環境保護政策の強化などの要素が絡み合い、国内では2021年の夏ごろから肥料の値上げが続いてきた。

~~略~~

農林水産省技術普及課の担当者は、リン酸やカリといった化学肥料について、春から夏にかけての必要量を例年並みに調達できていると強調する。化学肥料は原料の大半を輸入に頼っている。肥料の三要素は窒素、リン酸、カリ(カリウム)で、空気中にある窒素を除けば、原料はいずれも枯渇が心配されている資源だ。日本の肥料消費量は世界の0.5%(18年)に過ぎず、購買力がない分どうしても世界の市況に振り回されることになる。

Wedge ONLINEより

いや、指摘しているメディアもあったんだけど、気がつかなかっただけなのかも知れない。

img

令和2年の実績だとこんな感じ。

原料産出国である中国の政策変更も大きかった。日本は窒素肥料である尿素の37%(19年度)を、リン酸アンモニウムに至っては88.7%(20年)を中国から輸入している。

その中国が環境保護のため、製造過程で大量の二酸化炭素(CO₂)を放出する肥料工場の取り締まりに乗り出したのだ。国の基準を満たしていない工場の操業を止めたため、製造量が減った。国際的な原油価格の値上がりが追い打ちをかけ、製造と輸送のコストが上がり、肥料価格が跳ね上がってしまった。

Wedge ONLINEより

……大手メディアはもうちょっと積極的に日本の危機について取り上げるべきだと思うんだ。

下水汚泥から

で、冒頭の記事に戻るわけだ。

同市は12年、下水配管の目詰まりの原因となっていたリンの除去を目的に、再生リンを生産する実証試験に乗り出した。15年に全国に先駆けて、再生リンを肥料の原料として使い始めた。

現在、市内の下水処理場「東水環境センター」に、年間100トンの再生リンを製造できる施設を設置する。22年度の供給量は80トン。基本的に全量、地元のJA兵庫六甲を通じて市内で流通する。

日本農業新聞より

肥料に使えるリンを下水汚泥から回収できる技術に目処を付けて、実際に肥料の原料に使い始めたというのがこのニュースなのだが、まだ神戸市の取り組みとして始まったばかりの事業であるらしい。

リンの価格高騰をうけて、ようやく重い腰を上げた背景には、下水汚泥からリサイクルする再生リンの価格が高く、海外から購入した方が安かったという理由によるものだ。

また、この取り組みに注目した政府も、ことし9月に官邸で開かれた会議の中で、神戸市のような技術を使って肥料の国産化に早急に取り組む方針を打ち出しました。

NHKニュースより

令和4年になって政府もようやく動き始めた。

だが、この技術は結構前からあったのである。

その上、日本には世界をリードするリン回収の枠組みや再資源化技術もある。2008年には行政の縦割りや民間企業間の壁を越え、リンの回収・再利用に取り組む「リン資源リサイクル推進協議会」という組織も設立された。

実は、2013年に欧州で設立された「欧州持続的リン協議会」も、日本の協議会を参考にしたものだ。2019年には欧州連合(EU)が欧州肥料法を大改正。化学肥料と対等に競争できる市場を構築するため、家畜糞尿や食品廃棄物などから作る「イノベーション肥料」にCE(Circular Economy=循環経済)マークを与えるなどの支援策を打ち出した。

ドイツやスイス、オーストリアなどでは、下水汚泥からリンを回収することが義務づけられた。リンの回収は下水処理場の業務となり、回収にかかる費用は企業や市民が負担することになった。この政策によって、下水からのリン回収は経済採算性の分岐点を越え、ビジネスとして成立するようになったという。

リコー経済社会研究所のサイトより

記事に指摘されるように平成20年にはリン資源リサイクル推進協議会が設立され、技術的には平成22年頃には目処が付いていた。

平成20年に支那で発生した四川大地震によって、リン鉱石の一大産地がダメージを受け、支那はリン製品の輸出規制をかけたため、輸出価格は3.4倍に高騰したのだとか。同年9月にリーマンショックが発生したために、実体経済が冷え込んでリンの需要が落ち着いたために表面化しなかったが、平成20年の危機は業界に大きな衝撃を与えた。それが、リン資源リサイクル推進協議会の設立に繋がり、リン回収の技術発展に役立てられた。

が、日本はその技術を活かすことはなかった。

ここへ来てようやく日本でも日の目を見ることに

とまあ、情けない状況ではあったが、神戸市の取り組みによって、ようやく事態は動き出したようだ。

岸田首相 「下水汚泥・堆肥等の未利用資源の利用拡大により、グリーン化を推進しつつ、肥料の国産化・安定供給を図る」(2022年9月 食料安定供給・農林水産業基盤強化本部)

NHKニュースより

下水汚泥からだけでなく、堆肥からもリンは回収可能である。

農業者の皆様へ

作物の栄養分となる肥料は、作物生産において必要不可欠なものであり、重要な農業生産資材の一つですが、肥料原料のほとんどを海外に依存していますので、肥料の価格は国際市況の影響を強く受けざるを得ません。

避けることが難しい国際市況の影響を少しでも緩和するため、作物の品質や収量を維持しつつ、肥料のコスト低減を図る方法を整理するとともに事例集を作成しましたので、御活用ください。

農林水産省のサイトより

農水省のサイトにもこんな形の説明がなされている。

ここに書かれている内容自体は目新しい話ではないため、とっくに取り入れている農家もあるようだが、重要なことは成功事例の開示と情報共有である。何のために農協があるのかと。

え?農協は農薬と化学肥料がばんばん売れればウハウハで、農家のコスト削減なんて気にしていないって?

まあ、そんなだから農業新聞に今更ながら冒頭のようなニュースが載るのだけれど。

日本に限らない話だが、過剰な施肥が肥料の需要を必要以上に高めてしまっている。農地に養分を過剰に与えると、地下水や土壌など環境に負荷をかけるし、作物に病害が生じやすくなる。特に国内ではリン酸過剰の農地が多く、土壌病害が深刻化している。肥料代も無駄にかかるので過剰施肥に良いことはない。

そうではあるが、農家は三要素(窒素、リン酸、カリ)を同じ量ずつ含む配合肥料をよく使う。理由は安いからで、多くの農地にリン酸をますます余計にため込む結果になっている。

Wedge ONLINEより

化学肥料を播きすぎると土地がやせることはよく知られているのだが、しかし安易に肥料を使えば取りあえず農作物はできるのだから、苦労して農薬の節約などという方向に動かなくとも良いという発想になるのだろう。

農水省がようやく方向性を打ち出したお陰で、多少はマシになるかも知れないが。

微生物燃料電池の技術

リンというか、下水処理に関してはもう1つ。

数年後には実用化の期待大! 栗田工業と日清紡が微生物燃料電池のスケールアップに成功

2022.4.25

国や企業がカーボンニュートラルの取り組みを進める中、工場排水処理にかかるエネルギーとCO2排出量の削減を期待させる大きな研究成果が発表された。今回は、次世代の創エネルギー技術として注目を集める微生物燃料電池開発に取り組み、新たな排水処理システム構築を進める日本企業による最新の研究を紹介する。

EMIRAより

ちょーっと怪しい説明文だが、技術自体はしっかりと研究が進められているらしい。これがモノになるのかは分からないが、要は「下水処理をしながら発電が可能」という夢のような技術だ。

img

原理的には、一般的な電池と同じでアノード槽とカソード槽の電位差を生み出すことで発電をするシステムだ。

こうした中、注目されるのが次世代の創エネルギー技術である微生物燃料電池です。本電池は、発電菌と呼ばれる微生物の働きにより、排水中の有機物を分解処理すると同時に、従来汚泥となっていた有機物を電気に変換することができます。そのため、創出した電気を用いて排水処理することが可能となり、CO2排出量を削減することができます。

栗田工業のサイトより

発電効率はスケールアップ装置を使って世界最高レベルを実現したらしいのだが、この装置で発電量 200W/m3を実現できるのだとか。……処理時間とか処理効率などに関して不明な点は多いが、二酸化炭素を除去しながら発電が出来るのであれば、それに越したことはない。

面白い技術であるし、岐阜大学の試算によると潜在エネルギーは、日本の年間電力エネルギー供給量の約5%に相当するのだとか。そんな上手いことは行かないとは思うが、是非とも推進して欲しいところ。

この件もそうなのだが、使わずに眠らせている環境技術を腐らせるのは勿体ないよ。環境技術はもっと積極的に投資・開発しても良いと思う。特に、リンなど食糧問題に直結する話であればなおさらだ。

追記

コメントをいただくまで思いつかなかったのだが、B-DASHプロジェクトって、そういえばそんなのもあったな。聞いた当時は興味なかったんだけど。

B-DASHプロジェクト - 下水処理研究室/国総研
国土交通省では、平成23年度(2011年度)から下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)を実施し、下水道における新技術の研究開発、実用化および国内外への普及展開を推進しています。本事業の概要と最新の情報についてご紹介します。

……そのまんまだね。

むしろ、何で知らなかったの?ってレベルでどんぴしゃりである。神戸市のは水ingエンジニアリングが手掛けたプロジェクトそのまんまですな。

政府も努力した結果だという事らしい。

……やった仕事はもっと宣伝していいと思うんだ。

コメント

  1. アバター 匿名 より:

    B-DASHプロジェクトとかでやってますね。
    あんまりニュースになりませんが。

    下水リン回収は前からやっているそうですが(大規模ではないみたいですが)、リンを取りすぎたがゆえ海がきれいになりすぎて、栄養塩が少なくなって、漁獲量が減ったとか、海苔が成長不良とかの話もあるみたいですね。

    • 木霊 木霊 より:

      情報ありがとうございます。
      どうやら、令和4年度のプロジェクトそのものですね。
      リサーチ不足でした。

      下水処理で行きすぎちゃった話は、瀬戸内海の話でしたっけ。
      https://www3.nhk.or.jp/lnews/takamatsu/20230217/8030015245.html
      あっちを立てればこっちが立たず…とはちょっと違いますが、良かれと思ってやっても思わぬ影響が出るものなのですね。

  2. アバター 七面鳥 より:

    こんにちは。

    アウトソーシングとかもそうですが「買った方が安い」は経営判断としてはアリではありますよね、あくまで選択肢の一つとして。
    技術を自社開発して手元に持つ事も含め、長い目でどう判断するか、なんですが。
    政治家や官僚の上の方に、そこら辺の判断がザルなヤツが多すぎる気がしてます。

    他国は国を挙げて(補助金突っ込んだり優遇したり)やってるのに、本邦は……って件が多すぎると感じます。
    製造業の関係者は、皆この手の不平不満は持っているのじゃないかと思います。

    ※補助金ジャブジャブでそろそろ立ち行かない電気屋とか持ってるあの国はさておきます……でも補助金を背景に市場を焼け野原にしてからシェア取ったメモリ関係のことは絶対忘れない。

    • 木霊 木霊 より:

      選択肢としてアリなのは、民間企業ならそうでしょう。
      それを政策的な観点から「使える」アイテムを提供するのが政治の役割でありまして、国内での生産(回収)を推進することは、環境保護の観点からもアリということになると思います。
      それに付随する問題が出る可能性はありますが、生産手段があると無いとでは大違いであります。