記事にするかは迷ったんだけど。
違法建築→キラーパルス→パンケーキ崩壊…トルコ地震被害拡大
2023/2/15 22:59
トルコ南部を震源として6日に発生したトルコ・シリア大地震の死者が両国で計4万1千人を超えたことが15日、分かった。ロイター通信などが報じた。崩壊した建物などは20万棟近くに上る見通しで、専門家は破壊力が強い揺れや建物の特徴的な崩れ方などを指摘する。揺れの原因となった活断層も長らく危険性が叫ばれていた存在だった。違法建築や耐震基準を骨抜きにする慣習が横行していたとの見方もあり、人災ともいえる状況を含んだ要因が複合的に重なって被害の拡大を招いた可能性がある。
産経新聞より
これ、ちょっと作為的なニュースだよね。
不適切な取り締まり実態
逮捕者続出のトルコ
違法建築がトルコで横行していて、それが原因で逮捕者まで出たという事が報じられている。
トルコ大地震 死者3万人超「今後2倍以上に」…“違法建築”113人に逮捕状 12人拘束
2023/02/13 10:12
建物が倒壊してから139時間。生存率が著しく低下するとされる72時間のおよそ倍の時間が経過しています。
~~略~~
また、トルコ当局は建物の倒壊に関連して、違法建築にかかわったなどとして、これまでに113人の逮捕状を出し、建設業者の関係者ら少なくとも12人を拘束しました。
テレ朝NEWSより
何故逮捕されたのか?というと、建築基準を守った施工をしなかった容疑で、ということのようなのだが。
「日本並み」新耐震基準生きず トルコ、「恩赦」で抜け道も
2023/2/14
6日未明に発生したトルコ南部を震源とする地震では、3万人以上が死亡し、いまも多くの人が倒れた建物の下に閉じ込められている。トルコには高水準の耐震基準があるが、古い住宅を中心に現場の運用が追いついておらず、被害の拡大を防げなかった。
~~略~~
こうした地震を受けて、トルコ政府は建物を建築する際の耐震基準を更新するなど対策を強化してきた。また、政府は病院や学校など公共施設を中心に耐震化を進めており、これまでに7割以上の病院が耐震化されている。だが、耐震補強を専門とするトルコの建設コンサルタント会社「テクスタル」のエミン・カサップギリ代表は「一般の住宅については耐震対策が甘い」と指摘する。
毎日新聞より
毎日新聞は、「しっかりした耐震基準があったのに、7割以上の病院が耐震化されたのに、酷い地震だった!」というような論調で報じている。
守られない耐震基準
が、これは少々違う。
実はこの耐震基準は、1998年に改定されて、それ以前と以後で大きく違うようだ。現在の耐震基準は2018年に耐震基準設定に準拠しているらしい(2020年時点)。
1998年の改定は、建物の動的な挙動を考慮したいわゆる新耐震基準に相当し、設計地震荷重が大幅に増加することとなった。従ってそれ以前の基準(いわゆる旧耐震基準)に基づいて設計・建設された建物は、一般に地震脆弱性が高く、耐震化の必要性が高いものと考えられる。
教育施設の場合、約半数の建物が1998年以前に建設され、地震脆弱性が高いものと想定される。MoHでは2007年耐震設計基準に基づいて耐震診断を実施した結果、70%以上の病院建物が、基準に準拠して設計されている、もしくは基準に適合するようにすでに補強されている。
JICAのレポートより
このレポートにもあるように、大半の教育施設が1998年以前に建設され、病院だけが新基準(2007年基準)に適合するように補強などがなされているようだ。
これは1万7000人あまりが死亡したイズミット地震(1999年:トルコ・コジャエリ地震とも呼ばれる)の被害を教訓に作られた基準であり、マグニチュード 7.6の大地震によって、多数の建物が倒壊したことを念頭に置いて作られた基準である。

少なくとも、トルコの耐震基準は、2018年版であれば、日本の耐震基準と大きくは違わないようだ。
更に、県レベルの防災/減災計画策定ガイドラインが2014年に作成されていて、日本としてもJICAを通じた支援が提供されている。耐震補強などの技術も提供されていると、レポートには記載されているね。JICAという組織は結構不味い噂も聞くけど、流石にこのレポート、嘘ではないだろう。
トルコ政府は、10年以内にすべての重要公共建築物を耐震化することを目標に、これまで様々な取り組みを行ってきた。特に1999年のコジャエリ地震における多大な被害と損失を受けて、「国家地震戦略及び行動計画2012-2023」を策定し、災害準備の充実により地震発生後の対応能力を向上させること、リスク軽減策の実施を通じてレジリエンスを高めることを目指してきた。
JICAのレポートより
このレポート通りであれば、重要公共建築物の耐震化は2023年で完了する予定であり、相当程度の重要公共建築物は、日本並みの耐震基準を得られていただろうという結論になる。
だが、現実はそうではなかった。
絶望の市民「街は死んだ」 住宅や病院、一斉に倒壊―大地震被災のトルコ・ハタイ県
2023年02月12日07時17分
トルコで大地震被災地に指定された10県の中で最も深刻な被害が出ているとみられる南部ハタイ県。10日、中心部に入ると、5階建て以上の住宅や病院などが一斉に倒壊し、がれきの山となる惨状が広がっていた。市民らは「街は死んだ。もう元通りにはならない」と絶望していた。
時事通信より


病院も住宅もこの通りだ。
倒壊しなかった地区
ただし、全てが脆かったというわけではない。
違法建築を許さなかった区長…「死傷者なし」トルコの小都市・ハタイ県に行ってみた
記事入力 : 2023/02/15 11:32
トルコで地震の被害が最も大きい地域が南東部のハタイ県です。ところが、この地域の中でも死亡者や負傷者が1人もいない小さな都市があるそうです。
~~略~~
トルコ南東部のアダナとイスケンデルンの間にあるエルジン地区。渋滞もなく車で移動でき、すべての店が営業しています。
倒壊した建物も見当たりませんし、電気も水も正常に供給されています。
イスラム寺院の尖塔の一部が壊れ、いくつかの建物に亀裂が入っている以外は、ご覧の通り、ほとんどの建物に被害がありません。
人口4万3000人ですが、地震による死傷者も1人もいません。
~~略~~
「区長が違法建築を許可しなかったから、建物がしっかりしているのです」
トルコ政府は建設業者約100人をずさん工事の疑いで逮捕するなど、遅ればせながら取り締まりに腰を上げました。
トルコ全土で建物の半数程度が違法だと言われるほど、同国政府が放置していたことが地震の被害を増やしたと指摘されていますが、建設業者だけが処罰されるのは「トカゲのしっぽ切り」という批判の声も上がっています。
朝鮮日報より
一部地区は、建築基準をしっかり守っていたから、建物の被害も少なかったのだとか。
手数料、というよりは賄賂
さて、ここで気になるのが「区長が違法建築を許可しなかった」という言葉である。違法建築を許可??
耐震性への疑念、繰り返し浮上 損壊1万2000棟超―トルコ被災地
2023年02月13日20時32分
トルコの大地震被災地では「建物1万2000棟以上が倒壊ないしは倒壊の危険がある」(トルコ当局)状況で、耐震性の問題を指摘する声が市民から上がっている。トルコではこれまでも地震で多数の建物が崩壊するたびに同様の問題が浮上しており、今回も繰り返された形だ。
南部アダナ県では14階建ての住宅が完全に崩壊し、近隣住民らに衝撃を与えた。元アダナ市長で土木技師だったアユタチュ・ドゥラク氏は倒壊現場で取材に応じ、「柱のコンクリートと鉄筋の結合が弱く、コンクリートの材質も劣悪だった」と散乱した残骸を手に語った。
ドゥラク氏によれば、業者が建設コストを低く抑えるため材質が二の次になっている。トルコ当局も安全基準を満たさない建築物について、手数料を支払って特別許可を得ることで行政処分を免除する措置を導入していた経緯がある。こうした状況で倒壊が相次いだことから、多くの市民は「人災だ。殺人行為に等しい」と政府と業者への非難を強めている。
時事通信より
実は、トルコ当局は安全基準を満たさない建築物について、「手数料」を支払って特別許可を得ることができるらしい。何だよ、特別許可って。

壁がなくなって床が積み重なるような状態になってしまうパンケーキクラッシュと呼ばれる倒壊の仕方であるが、こうした建物がそこかしこに見られる。
調べてみると、新しい建築物であっても「手数料を支払う」と、安全基準が免除される模様。意味が分からないな。
トルコでなぜあれほど多くの建物が倒壊したのか 耐震対策は
2023年2月10日
トルコ南東部で発生し、トルコとシリアに甚大な被害をもたらした地震では、多くの建物が倒壊した。その中には、耐震性能をうたう比較的新しいものも含まれた。真新しいマンションが崩れた様子に、トルコ国内では怒りの声が上がっている。
~~略~~
このマンションは昨年建てられたばかりで、「最新の耐震規制をすべて順守して完成」したとうたう不動産広告のスクリーンショットがソーシャルメディアに投稿されている。
広告は、建築資材も技術者も「一級」のものを使ったとうたっていた。当時の実際の広告はもはやオンラインにはないが、ソーシャルメディアで拡散しているスクリーンショットや動画は、同じ会社の類似の広告と体裁が同じだ。
BBCより

新しい建築物は「全て新建築基準に適合」しているはずなのだが、この様だ。後ろに立っている建物は損傷は見られるものの、崩れてはいないところを見ると、本当に基準を守っていたかは疑わしい。
しかし、2018年の最新基準を含めた建築基準は、十分に徹底されていない。
「以前からある建物がほとんど改修されていないのに加えて、新築の建物についても建築基準がほとんど徹底されていない」と、アレクサンダー教授は言う。
BBCのトム・ベイトマン中東特派員が取材した南部アダナの住民は、25年前に地震被害に遭いながらその後、適切に修復されないままだった建物のひとつが、今回倒壊したと話した。
~~略~~
しかしトルコでは、安全基準を満たさない違法建築に対し、政府が「行政処分免除」を繰り返し提供してきた。安全基準を満たさなくても、一定の金額を払えば、法的に見逃されるという仕組みだ。これは1960年代から続き、最近では2018年にこうした「処分免除」が実施された。
BBCより
早い話、賄賂を贈って「見逃してくれ」という訳だ。
BBCトルコ語は2020年に西部イズミル県で大地震が発生した後、同県で67万2000棟が直近の免除の恩恵を受けていたと報じている。
この報道では、2018年時点でトルコの建物の50%以上に当たる約1300万棟が建築基準違反だという、環境・都市省の話も引用している。
BBCより
だからこそ、建築業者の逮捕という流れになっているが、はっきり言って行政の問題だろう、これ。違法建築物を取り締まることなく、金を貰って見逃されていたという。
尤も、1つの事例を取り上げて、「建築基準を守っていたら大丈夫だった」と判断するのは早計ではあるが、その可能性はあるということは指摘しておこう。
トルコ経済は今
さて、唐突だがトルコ経済の話をしよう。

不調だったトルコ経済だが、GDPは若干持ち直している。
2020年のトルコの産業別GDPの構成比率は、
- 農業:6.6%
- 工業:27.8%
- サービス業:54.64%
となっています。
Turkish Air&Travelより
しかし、トルコ経済の中心はサービス業である。つまり観光が重要になっている。

のだが……、武漢ウイルス感染症の蔓延によってかなりダメージを受けた。今は順調に回復はしているが、2020年はかなりやばかった。では、これの穴を埋めるために何がなされたかというと、これだ。

そう、建築業である。どうやら、かなり力を入れて建築法面を伸ばした模様。さて、そろそろ何が言いたいかおわかりだろう。
トルコ政府は経済方面を加速させるために、建設業に力を入れたということだ。
つまり、これ、エルドアン政権の政策の失敗ということになる。初動の遅れなどが指摘はされたが、根本的な部分はむしろ、人の命よりも経済を優先した事が今回の被害拡大に繋がったといえる。全てをエルドアン氏の判断ミスに押しつけるつもりはないが、違法建築を野放しにしたことは許されるものではない。
コメント
個人的な感想ですが、やはり賄賂が公然と行われるような国は文明国ではないと思いますね。
少なくとも行政の腐敗が公に指摘されなければ変えられないような連中は文明人ではないでしょう。
東京都庁お前らの事だぞ。
あー、東京都庁に飛び火しちゃった。
確かにそうなんですけどね。電通にメスが入ったところで、都庁の職員もかなり震えているんじゃないでしょうか。
戦災難民の大量流入による大規模な建築需要増。基準守ってたら到底追い付かないから、やっつけでも兎に角住居の数を増やすしかない。と、いう側面も、どうやらあったようで…なんとも切ない話であります。
そう言うのはとりま仮設で数年、それこそ騙しだまし乗り切って、ちゃんとしたのはちゃんと建てようよ。とは、なると言いますか、今から先は、それこそそれ以外に出来ることが無い。と、なってしまったと言いますか…
せめて犠牲者のご冥福を祈るとともに、東日本大震災の避難所環境をして「劣悪」と評した国連機関各所は、あれよりはマシな環境、ちゃんと作ってあげなよ?と毒づきたくなったりもしつつ、一人でも多くが生き残ることを祈るばかりです…
現実問題として、EUの方針に従っている部分もありますから、エルドアン政権とはいえ移民受け入れの拒否は難しかったという実態はあると思います。
それを利用して経済の活性化を図った、ということはあるでしょう。
それは分かるんですが、お金を払ったらお目こぼしされるというシステムは不味いです。
そして、建築の手抜きOKというのは、後から修正が難しくなっちゃう事を考えると、やるべきではなかったと思いますよ。
不幸な部分があったことは否めませんが、人命軽視した部分はあったのかなぁと。
一人でも多くの人が助かって欲しいのは同感でありますが。
こんにちは。
前もコメントしましたが、個人的にはトルコには親近感というか、湾岸戦争時の脱出用機材の恩もあったりするのでここから立ち直って欲しいのですが。
エルドアン政権、清濁併せ呑む部分が強いように思いますが、ここに来て「濁」の部分の影響が強くなってきた感があり、しかしながらああいう地域は、少なくとも現状ではそういう政治家でないと回せない部分もあるのだろうと思え、何ともはや、であります。
「違法建築を許さない」区域もあったという事で、そういう政治も出来る余地はある、むしろこれを機会にそちらに舵取りして欲しいと思う次第。
日本も、その為なら援助を惜しまない、位は言って欲しい。
トルコとその周辺の安定は、広い意味で欧州東南部分の安定に多大な貢献をするはずですので。
トルコという国は立ち位置的にも手を組んでおいて損のない所だと思います。
トルコは既に支那に随分と入り込まれていますから、親日の国とも言い難い部分はありますが、それでも付き合わない理由にはなりませんね。
今後似たような事を繰り返さないことを願いたいところですが、独裁政権は腐敗しやすいですから、難しいのかもしれません。
頑張って欲しいですけどね。
ぐちゃぐちゃにビルが崩れ土砂のようになっている後ろには地震の影響など全くないビル群!
これにはいったい何が起こったのかと混乱していたが、
『賄賂建築物』だけが崩壊していたとは!
それにしても手抜きが凄すぎますね。
報道では確認していないのですが、砂を健在に多用していたという話も。
Twitterには、叩き付けるだけで粉々になるブロックが動画として上がっていました。
あれが使われていれば、確かに地震によってバラバラになるのも理解はできますが、しかしそれにしても脆すぎ。ちょっと信用できないレベルでした。
何か分かれば追記したいと思います。