重い腰を上げた日本政府、武器使用のルールを見直すことに

防衛政策

気球、撃墜できないもんねぇ、今のままだと。

防衛省 武器使用のルール見直す方針 中国の偵察用気球めぐり

2023年2月15日 12時11分

中国の偵察用気球への対応をめぐり、防衛省は今後、日本の領空に侵入した場合に備えて、現在は領空侵犯に対する措置として正当防衛や緊急避難に該当する場合に限られている武器使用のルールを見直す方針を示しました。

NHKニュースより

防衛省にルールがないというのも、どういうことか意味がわからないよね。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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スパイ気球、ドローンを撃ち落とせ

迎撃ルール

そもそも、日本上空に未確認物体が飛来して領空侵犯だと認められた場合に、自衛隊のルールではどのような行動が採れるのだろうか。

(領空侵犯に対する措置)

第八十四条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

e-GoV「自衛隊法」より

憲法9条で自衛隊が合憲であるという前提で、自衛隊法に基づいて判断される根拠になるのが84条である。では、こんなのが飛来したら、自衛隊は撃ち落とすことができるのか。

読んでいただければ分かると思うが、おそらくは現状では無理だ。超法規的措置の判断を下せば別なんだろうけどさ。

15日朝に開かれた自民党の会合では、防衛省が14日に過去に日本上空で目撃された気球型の飛行物体を中国の偵察用気球だと強く推定されると発表したことをめぐり「撃墜するべきだ」とか「無人機に対する武器使用の検討を進めるべきだ」といった意見が相次ぎました。

NHKニュース「防衛省 武器使用のルール見直す方針 中国の偵察用気球めぐり」より

もう、何年も前から無人機問題があったにもかかわらず、84条は敵機が有人である場合を想定している。だから、「着陸させ」「上空から退去させ」という意味のわからない条文構成になっている。

なお、情けないことに、現状では無人機が飛来した場合に「呼びかけ」から始まる。いや、相手は聞いていないよね?

流石にちょっと……。

小型無人機への対応

なお、無人機に対応するための法律が皆無、というわけではない。一応、小型無人機等飛行禁止法というものが存在する。

小型無人機等飛行禁止法について

令和5年1月20日

重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成28年法律第9号。以下「本法」という。) 第10条第1項の規定により、防衛大臣が指定する対象防衛関係施設の敷地又は区域及びその周囲おおむね300メートルの地域の上空においては小型無人機等の飛行が禁止されています。

~~略~~

自衛隊施設が対象防衛関係施設に指定された場合には、自衛官は本法の規定に違反して当該対象防衛関係施設の敷地又は区域の上空において、小型無人機等の飛行を行う者に対し、機器の退去その他の必要な措置をとることを命ずることができ、一定の場合には、小型無人機等の飛行の妨害、破損その他の必要な措置をとることができます。 また、当該対象防衛関係施設の敷地又は区域の周囲おおむね300メートルの地域の上空についても、警察官等がその場にいない場合に限り、同様の措置をとることができます。

防衛省のサイトより

重要施設の上空と認定できれば、一応は撃墜できる体になっている。ただ、どれだけ拡大解釈しても、本法律を領空侵犯に適用させることは難しい。

領空侵犯への対処を定めた自衛隊法84条に基づき、自衛隊は外国機を着陸させたり、領空から退去させたりするための必要な措置を取れるが、政府は武器使用について「正当防衛・緊急避難の場合に限られる」と説明してきた。

毎日新聞より

特に、領空侵犯してきた敵機について、武器を使用する場合は、「正当防衛・緊急避難の場合に限られる」としている点は救い難い。

敵機の偵察任務がはっきりしている場合、領土の詳細な情報を収集されているのを知りながら、みすみす見送るなんてことになりかねないのだから。

アメリカとの連携

さて、そうした状況において、アメリカからの強い後押しがあったこともあって、日本政府は動き出した。

外務省の森事務次官は、アメリカのシャーマン国務副長官と会談し、アメリカ軍が、中国の気球を撃墜したことについて説明を受け、中国に関係するさまざまな課題に緊密に連携して対応していくことで一致しました。

外務省の森事務次官とアメリカのシャーマン国務副長官の会談は、日本時間の15日未明、ワシントンでおよそ1時間行われました。

この中でシャーマン副長官は、アメリカ軍が、先に南部サウスカロライナ州の沖合の上空で中国の気球を撃墜したことについて、自国の主権や国民の安全を守るため、慎重かつ合法的に対処したと説明しました。

これに対し森次官は、アメリカの立場を支持するとしたうえで、過去に日本上空で目撃された気球型の飛行物体について防衛省が中国の偵察用の気球だと推定されると発表したことも念頭に、中国が十分な説明責任を果たすことが重要だという認識を伝えました。

そして、両氏は中国に関係するさまざまな課題に緊密に連携して対応していくことで一致しました。

NHKニュース「防衛省 武器使用のルール見直す方針 中国の偵察用気球めぐり」より

既に、防衛省が3年前など日本上空に飛来した気球型の飛行物体が、支那の偵察気球であると強く推定できることを発表しており、今後は対処することを暗に示した。

おそらくはF-15JやF-35Aにて対応するということになろうと思う。そして、その準備のためにはどうしても法整備が必要という格好になったわけだ。

いつもながら、外圧によって国内の法整備をしていく手法ばっかりだな。しかし、やらないよりはましである。

日本の国防に大きな穴が開いていることを認める

何しろ、偵察されれば即攻撃の精度は高まるし、そもそも危険なものを搭載していた場合に、そのことを「どう判断するのか」という問題がある。

小野寺元防衛相「日本の国防に大きな穴」気球型の飛行物体で

2023年2月15日 9時59分

過去に日本上空で目撃された気球型の飛行物体について、防衛省が中国の偵察用の気球だと推定されると発表したことを受けて、自民党の小野寺元防衛大臣は「日本の国防に大きな穴があるのではないか」と懸念を示し、政府に説明を求めていく考えを強調しました。

~~略~~

これについて自民党の安全保障調査会の会長を務める小野寺・元防衛大臣は、15日朝に開かれた自民党の会合で「いままで中国のものということを把握できていなかったのであれば、大変大きな問題だ。仮に把握していたのにいままで抗議していなかったということであれば、さらにもっと大きな問題だ」と指摘しました。

NHKニュースより

小野寺氏は「他人事」のようなことを言っているが、彼が防衛大臣をやっていた時期(平成24年~平成26年、平成29年8月~11月)には、こうした問題は既に顕在化していた。

米無人機が結婚式の車列を誤爆、14人死亡 イエメン

2013.12.13 Fri posted at 16:26 JST

イエメン・サヌア(CNN) イエメンの国家治安当局者は12日、米軍の無人機が結婚式の車列を誤爆し、14人が死亡、22人が負傷したと語った。うち9人は重体だという。

当局者2人がCNNに語ったところでは、車列はアルバイダ州ラッダ近郊を走行中に攻撃された。米軍の無人機は、国際テロ組織アルカイダのメンバーが乗っているとの情報を受けてこの車列を狙ったという。しかし「犠牲者の中にはイエメン政府が手配中の容疑者はいなかった」と当局者は話している。

CNNより

アメリカの無人機は既に戦略に組み込まれていたし、中東でのドローン利用も活発になり、既に問題は指摘されていた。

自衛隊に敵ドローンを撃ち落とす権限なし

2017/11/14 15:00

小型無人機(ドローン)の脅威が明らかになっている。家電量販店に販売しているような小型ドローンに手榴弾などを積載して爆撃する事例が海外で相次いでいる。

今年3月、ウクライナ東部の世界最大の弾薬庫がロシア側のドローンから手榴弾が投下されて爆破された。中東ではあらゆる武装勢力が小型ドローンを使用した攻撃をやりあっている。背景には安価にローリスクで相手を攻撃できることがある。

~~略~~

わが国でも、ドローンで那覇空港の旅客機や燃料車が爆破されれば、自衛隊も使用する滑走路は使用不可能になり、沖縄の制空権は喪失する。停泊中のイージス艦もレーダーを破壊されれば、艦は無用の長物と化す。陸自の離島防衛の切り札たる地対艦ミサイルシステムも同様だ。

しかし、仮にドローン攻撃が企てられていたとしても、本格的な武力紛争に日本が突入していなければ、現在の自衛隊には何もできない。

PRESIDENT Onlineより

まさかこうした懸念が防衛省の中になかったとは思えない。ようやく重い腰を上げた、ということなのかもしれないが、しっかりと法整備をして欲しいところである。

もちろん、それを撃ち落とすための兵器の開発も必要なんだけれども。

コメント

  1. こんにちは。

    かのベトナム戦争でも、米軍は敵機をアウトレンジ出来るミサイルを持ちながら、「交戦規定」によって目視で敵機である事を確認するまで撃てない、宝の持ち腐れで何人も犠牲になった、なんて話があったと思います。
    北爆だって、基地から爆撃機が上がるやいなや、ホワイトハウスで爆撃目標を発表してたとか。
    そりゃ迎撃されます罠。
    ※挙げ句、ヒッピーとかの平和運動なんかで、帰還兵は殺人者呼ばわり。そのころはまだPTSDなんて言葉もなかったですし……

    銃後が平和ボケすると、前線がバカを見る好例ですが、同じ事を本邦が繰り返さないことを祈るのみです。
    ※現在進行形で、平和ボケと逆のボケをかましている赤い(元)大国もありますが。

    • 自衛隊の場合、「戦える」とする交戦規定すらありませんから、現場は歯がみをしながら無人機を見逃すというような事になりそうです。
      現場判断で色々やらしてもらえるんであれば、それなりの力を発揮できるんでしょうけれど。

  2. 追記失礼します。
    諸外国の交戦規定はネガティブリスト(べからず集)、しかるに本邦はポジティブリストで、
    「これしかしてはいけない」
    なので、実戦(の千差万別の状況)での使用に耐えない、と聞いたことがあります。
    法規もそうですが、内部規定も変えないとダメなんでしょうね。

    • そうですね。
      法規、内部規定、運用面全て見直しが必要でしょう。
      ポジティブリストポジティブリスト化をすることは、つまり憲法改正に繋がっちゃうんで、ハードルは高いんですけどね。
      (ロジックとしては、自衛隊は軍隊ではない、だから警察準拠でネガティブリストポジティブリスト方式だ、ということらしいのですが)

      • すみません、今更でありますが、ネガポジが逆であります。
        本邦自衛隊はポジ、「規定されている事しか出来ない」であります。
        率爾ながら、指摘申し上げる次第。

      • 僕も気がつかずに書いてしまいました。
        ポジティブリスト : 原則禁止、一部許可。許可するものだけを記載
        ネガティブリスト : 原則許可、一部禁止。禁止するものだけを記載
        でしたね。気をつけなければ。

  3. おはようございます、

    支那のスパイ気球もさることながら、昨日北鮮が発射したICBM(北鮮発表)を迎撃できなかったことを最も憂慮しないといけません。

    まさにそのとき、岸田首相は都内で通院中だった由。それは構いませんが、なぜ迎撃指令を出さなかったのかを問われるべきでしょう。

    • ありましたね、ICBM発射事件。
      日本の対応を、今一度見直すべきだと、そういう時期に来ています。