こうしたニュースは時々出てくるな。ただ、何処まで深刻な事態か?ということについて言及されることは滅多にない気がする。
【独自】安保の「特定秘密」初の漏えいか、関与の海自1佐処分へ…OBが複数の隊員経て依頼
2022/12/24 08:24
海上自衛隊の1等海佐が、安全保障に関わる機密情報にあたる「特定秘密」を外部に漏えいした疑いがあることが、政府関係者への取材でわかった。防衛省は近く1佐を懲戒処分にする方針だ。特定秘密の漏えいが発覚するのは初めて。
讀賣新聞より
かつて、特定秘密保護法案が国会に提出された際に、何処かのメディアが大騒ぎしたことがあった。余りの馬鹿馬鹿しさに、思い出すだけでも腹が立つのだが、現実問題として使われるケースはこんなシーンである。
情報漏洩によるリスク
何が特定秘密なのか
さて、最初に特定秘密に関して少し言及しておきたい。
内閣官房が特別にサイトを設けて説明しているのだが、何故内閣官房が説明しているのか?というと、内閣官房が国家安全保障局を抱えているからである。スパイ案件はココと公安調査庁(法務省の外局)辺りが扱う事案で、特定秘密の管理は内閣官房の所管ということになっている。
で、特定秘密は1号から4号まで分類されている。
- 第1号:防衛に関する事項
- 自衛隊の運用又はこれに関する見積もり若しくは計画若しくは研究
- 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報
- ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
- 防衛力の整備に関する見積もり若しくは計画又は研究
- 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量
- 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
- 防衛の用に供する暗号
- 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法
- 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
- 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途
- 第2号:外交に関する事項
- 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの
- 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針
- 安全保障に関し収集した国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報
- ハに掲げる情報の収集整理又はその能力
- 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号
- 第3号:特定有害活動の防止移管する事項
- 特定有害活動の防止のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
- 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
- ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
- 特定有害活動の防止の用に供する暗号
- 第4号:テロリズムの防止に関する事項
- テロリズムの防止のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
- テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
- ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
- テロリズムの防止の用に供する暗号
自衛隊に関することは当然第1号に該当する可能性がある。全部そうではないのだろうけれど、兵器の性能に関わる事は大抵NGなんだろうと思う。実際には、人工衛星の画像が大半を占めるらしいけどね。
処分対象について
で、今回のケース、1佐が自衛隊OBの要請に応じて秘密を漏らしたことが問題視されている。
政府関係者によると、海自OBが、知人の現役隊員に接触し、複数の隊員を経て1佐の元に依頼が届き、漏えいにつながったという。
同省は、漏えいに関与した1佐以外の隊員についても処分を検討している。
讀賣新聞「【独自】安保の「特定秘密」初の漏えいか、関与の海自1佐処分へ」より
ただ、記事にあるように、現時点では海自OB自身は罪に問われていない。
しかし、特定秘密保護に関する法律によれば、「特定秘密を知得した者がこれを漏らしたとき」に関しても罰則が規定されている。
第二十三条 特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏らしたときは、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。特定秘密の取扱いの業務に従事しなくなった後においても、同様とする。
2 第四条第五項、第九条、第十条又は第十八条第四項後段の規定により提供された特定秘密について、当該提供の目的である業務により当該特定秘密を知得した者がこれを漏らしたときは、五年以下の懲役に処し、又は情状により五年以下の懲役及び五百万円以下の罰金に処する。第十条第一項第一号ロに規定する場合において提示された特定秘密について、当該特定秘密の提示を受けた者がこれを漏らしたときも、同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
4 過失により第一項の罪を犯した者は、二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
5 過失により第二項の罪を犯した者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
特定秘密保護法より
23条2項の分がそれにあたり、恐らく今回のケースでは今のところ自衛隊OBが外部に特定秘密を漏洩したかどうかまでは捜査が及んでいない可能性があって、今回の報道のになったのだろう。
「特定秘密」漏えいで初の処分 海上自衛隊1等海佐を懲戒免職
2022年12月26日 14時40分
防衛省は、高度な情報保全が求められる「特定秘密」が含まれる情報をOBに漏らしたとして、海上自衛隊の1等海佐を26日付けで懲戒免職の処分にしました。「特定秘密」を漏らしたとして処分者が出たのは初めてで、防衛省は再発防止を図るため、副大臣をトップとする検討委員会を26日に設置しました。
~~略~~
内閣官房によりますと、「特定秘密」はことし6月末時点で693件が指定されています。
内訳は、 ▽防衛省が392件と最も多く、 次いで ▽内閣官房が108件、 ▽警察庁が49件、 ▽外務省が43件などとなっています。
NHKニュースより
意外に思ったのは、特定秘密の指定がされている内容は防衛省で392件のみ、それも殆どが人工衛星の映像関連だということらしい。ただ、どういう風にカテゴライズされているのかは不明である。
過去の事案
なお、讀賣新聞の記事にも過去の事案について言及されていた。
海自では07年、3佐がイージス艦の武器管制システムなどの秘密情報をCDにコピーし、正規の手続きを踏まずに海自第1術科学校の教官に送る事件が発覚。3佐は08年、日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法違反(漏えい)罪で有罪判決を受け、懲戒免職処分になった。
15年には、陸自の元幹部が、自衛隊の内部向け教本を在日ロシア大使館の駐在武官に流出させる事件が明らかになっている。
讀賣新聞「【独自】安保の「特定秘密」初の漏えいか、関与の海自1佐処分へ」より
何というか、瑕疵で漏洩させた感じの事件2つが紹介されているが、特定秘密の厄介なところはどんな情報に網が掛かっているのかを、当事者が把握する事が難しい点だ。
おそらく、今回のケース、懲戒免職となった1等海佐自身は、その情報が特定秘密に指定されていたことを知っていたのだと思われる。ただ、その情報を漏洩したときに重大な罪に問われるという認識があったかどうかは怪しいところだ。
そして、自衛隊OBがその情報を取得した時に、当該情報が特定秘密に該当していたかどうかを知ることは困難である。そうだとすると、自衛隊OBは処罰されないのだが、仮にこの自衛隊OBが悪意で外国のエージェントにその情報を渡した場合、これを処罰することにならないのは問題であるように思う。
ドイツで発覚したスパイ案件
国家反逆罪
さて、冒頭のニュースに言及する気になったのはこちらのニュースに触れたからである。
ロシアのスパイの疑いで民間人1人を逮捕、反逆罪の容疑 ドイツ
2022.12.23 Fri posted at 13:45 JST
ベルリン(CNN) 対外情報に携わる国の機関に従事していたドイツの民間人1人が、ロシアのためのスパイ行為をはたらいた疑いで23日までに逮捕された。ドイツ連邦検察のオフィスが明らかにした。
同検事総長は報道向けの発表で、被告には国家への反逆の容疑がかかっていると述べた。
CNNより
スパイ行為ねぇ。
被告はドイツ連邦情報局(BND)の職員で、今年、職務上入手した情報をロシアの情報機関に伝達したとして訴追された。情報の内容は国家機密に該当するものだったという。
CNN「ロシアのスパイの疑いで民間人1人を逮捕、反逆罪の容疑 ドイツ」より
おそらく、お金で情報を売ったのだと思われるこのケース、一体どんな国家機密を漏らしたのかは報じられてはいないが、ドイツ連邦情報局(BND)は、ドイツの情報機関であり、政治情報と経済情報の収集、その分析と評価を行う機関である。アメリカのCIAと似たような事をやっている機関だね。
そこの職員が情報を持ちだしたとあっては、流石に問題になるだろう。が、その事よりも、ロシアの情報機関がドイツで元気に活動していることの方が気になった。もちろん、日本国内でも元気で活動しているに違いない。
ところが日本でドイツと同じ事をやっても、恐らくその人物は逮捕されない。スパイ防止法に該当する法律がないからね。
スパイ防止法制定は急務
日本においてスパイ防止法に関する議論は何度もあったが、法律を作るには至っていない。
「国家機密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」に反対する決議
現在、国会に提出されている「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」は、人権侵害の危険が極めて大きい。
その問題点は、次のとおりである。
- 防衛・外交にかかわる「国家秘密」の内容が、実質的に、広範囲・無限定であり、行政当局の恣意的専断を許すことになる。
- 「探知・収集」、「外国に通報」、「他人に漏らす」などの実行行為及び過失犯など、その行為類型もすべて、広範囲・無限定であり、調査・取材活動、言論・報道活動、日常的会話等のすべてが含まれる。
- 死刑を含む重罪の提案は、合理的な根拠を欠き、時代の流れに逆行して、著しく異常なものである。
- 予備・陰謀罪と独立教唆犯の提案も、また、罪刑法定主義と行為責任主義の原則に違反する。
今日、政治問題の多くが何らかの形で防衛・外交問題に結びついていること、国民がそれと知らないで「国家秘密」に接触する場合もありうることなどを考えるならば、刑罰による権力的統制が国民の言論活動と日常生活のすみずみに至るまで広く波及し、国民主権主義と民主主義の根幹が脅かされるおそれは、まことに大きい。
われわれは、この法律案に強く反対し、速やかに撤回されることを切望する。
右決議する。
昭和60年10月19日
弁護士連合会より
日本弁護士連合会
日弁連がこれに関しては強硬に反対している模様。
まあ、日弁連が強硬に反対していると言うことは、必要な法律であるという理解で良いと思うが、以前、そんなようなことをtweetしたら「脊髄反射だ」と叱られたので、ちょっと言及しておきたい。
日弁連は特定秘密保護法の法制化にも反対していて、「一般人が捕まるー!」というおかしなキャンペーンをやっていた。



条文を読めば、その様な誤解を生じる余地はなかったと思うのだが、どうにも拡大解釈をしがちなのが日弁連で、国民のメリットには目を瞑り、デメリットの方を殊更強調するのが日弁連である。そもそも、日弁連が政治的な活動をすることそのものに問題があるとは思うのだが、彼らはそうは考えていないようだ。
そして、スパイ防止法の話に戻っていくのだが、スパイ防止法制定の反対に関しても、むしろ日弁連側の脊髄反射によって反対が表明されている。
だが、ドイツの事例を見ても一般人が逮捕されることになったとしても、守る必要のある国益と言うヤツがある。
法適用のハードルを高くする必要はあるだろうが、無いと話にならないのがスパイ防止法である。冒頭の特定秘密保護法の適用だけではカバー出来ない範囲があって、今後一層その重要性は増すと思われる。やっぱり、必要なんじゃないかな。
コメント
こんばんは、こだまさん
これまでに日本の機密・極秘情報は、その相当量が政・官・財から抜かれてきたはず。
自衛隊や害務省情報はもちろん、よく知られるところでは、住基機構や年金機構、デジタル庁の情報も第3国に流出していたね。
スパイ防止法は必要だ。日本を護るためには、議論から逃げず、闘う政治力が必要だ。
(そのうち、自民のN階とかK野、府庁のY村あたりが、第3国がらみの疑獄事件でもやらかして、スパイ防止法制定のハードルが下がることに期待している。)
あっちこっちから漏れまくっているのが日本の現状ですから、絶対にスパイ防止法は必要です。
ですが、だからこそ、成立し難いのでしょう。何しろ、政治家の中に沢山スパイがいる様な状況ですから、相当強硬な反対をしてきますからね。
こんにちは。
スパイ天国ですからねぇ……>某国
戦前の上海のようだ(違
法で裁かず、人知れず闇に葬る、そんな組織が暗躍してるなら良いのですが。
……いや、良くないか……
※確か「エリア88」にそんなシーンがあったような……
人知れず始末、というのは創作ではありそうですが、現実問題としてはかなり難しいでしょうね。ゼロだとは思いませんが。
スパイ行為に対して処罰しますよ、というアナウンスメントが日本の立場として必要ですから、法制化はやっぱりやるべきでしょうね。
こんにちわ。木霊さま、ようするに「こいつら=自称リベラル」は、MI6やMI5みたいの作るとら「自分たちに刃を向ける」と思ってるから、やたらと反対するんてよね?
やはり「心当たり」があるとしか思えませんです。
まさに自認しているにではないのかと。
しかし、スリーパーセルはどこの国にもいますし、活動している者も少なくない。特に、日本はメディアがずいぶんと侵食されています。
日本の政治家は、いつ気がついて、間に合わせることができるんでしょうかね。