うーん、残念。……残念?
陸自内部に「衝撃」 ヘリ廃止、無人機に置き換えへ 人員も削減
2022年12月17日 12時00分
16日に閣議決定された安全保障関連3文書に、陸上自衛隊の「縮小」方針が盛り込まれたことで陸自内に衝撃が走っている。陸自の戦闘・情報収集ヘリコプターを廃止して無人機に置き換えることや、陸上自衛隊の2千人を海上自衛隊や航空自衛隊などに振り分けることも明示された。
朝日新聞より
ある意味衝撃な記事ではあるんだけど、日本においてこの判断はアリだとは思う。
陸上自衛隊の運用方針の転換
攻撃ヘリは廃止の方針
えーと、廃止の方針が示されているのは戦闘・情報収集ヘリコプターである。
- AH-1S「コブラ」 47機
- AH-64D「アパッチ・ロングボウ」 12機
- OH-1「ニンジャ」 33機
国産のOH-1まで退役が確定するのは残念な気もするけれど、これも色々トラブルがあった機体である。仕方が無いかなと。AH-64Dにもかなりお金を突っ込んだんだけどね。
で、コレの代わりにドローンが投入される予定となっている。何が該当するかは明らかにされていないようなんだけれども、コスト的に戦闘ヘリコプターや情報収集ヘリコプターは維持するメリットが薄いと判断されたようだね。
3文書の一つの「防衛力整備計画」には、最適化の取り組みを掲げた項目があり、最初の「装備品」の項目に「陸上自衛隊については、航空体制の最適化のため、一部を除き師団・旅団の飛行隊を廃止し、師団や旅団をまとめる各方面隊にヘリコプター機能を集約する」と記述。そのうえで、「対戦車・戦闘ヘリコプター(AH)は多用途/攻撃用無人機(UAV)に、観測ヘリコプター(OH)の機能は偵察用無人機(UAV)等に移管し、今後、用途廃止を進める」とした。
朝日新聞「陸自内部に「衝撃」 ヘリ廃止、無人機に置き換えへ 人員も削減」より
こういった話は、以前から出ていたが、漸く決断したようである。
尤も、ヘリコプター廃止の急先鋒が僕の嫌いな清谷氏なのだが……。
国益のために国内ヘリ産業を潰すべきだ
2014年05月13日
防衛省はヘリコプターの国内調達を止めるべきだ。
「論座」より
自滅への道歩む陸自ヘリ部隊
2019/10/22
陸自の観測・偵察ヘリと攻撃ヘリは運用も調達も暗礁に乗り上げており、これらの部隊を維持していても税金、人員その他のリソースの無駄使いとなっている。
Japan In-depthより
人を見下すような過激な発言で、読み手の嫌悪感を刺激する清谷氏の言及する内容ではあるが、ヘリコプター関連の主張に関しては否定出来ないものが多かった。
ただまあ、最新のブログを見ると、「ロイホック買ったら良かったのに」とか訳の分からないことを言っているので、単なる逆張りおじさんという可能性も……。
陸自の攻撃ヘリはロイホックという選択もあった。
2022年12月10日
陸自の攻撃ヘリはロイホックという選択もあった。以前そう書いたら「頭の悪い軍オタさんたち」が鼻で笑っていました。
清谷真一公式ブログより
自分は頭の良い軍オタさんを自認しているらしいが、まあそれはさておき、AH-2「ローイファルク」が良いか?と言われると悩ましい。
AH-2「ローイファルク」は、南アフリカが自国開発し1999年から運用している少々特殊な事情の機体である。メンテナンス性は高く補修部品が多いのは魅力ではあるが、少々古く、現時点で選べる選択肢ではない。改良型の「ローイファルク2」が開発完了していたのならばともかく、だ。
何しろ、他の国が採用していないこともあって、評価が極めて難しい。
南アフリカ空軍も11機程度しか運用していないっぽいし、開発も開発費が手に入らないために難航している模様。イギリス軍はこの「ローイファルク」の導入を検討したと清谷氏は言及しているが、実際には採用されていない。「南アフリカとのパイプが無いから検討できないんだ」と批判的に書いているが、いや、まさにそれ故に導入出来なかったんだって。
そりゃ、鼻で嗤われるよ。
自衛隊は海外で戦車を運用する想定をしていない
キヨタニの話はコレくらいにして、実際に戦闘ヘリコプターや観測ヘリコプターの生存性に関しては問題視されている。
こちらで紹介した様に、韓国陸軍はLAHを採用して攻撃ヘリコプターの更新をしていくらしいのだが、海を隔てた日本では、メリットが薄いと判断された。
基本的に陸上自衛隊は海外での戦闘を予定していない。それ故に、海外に戦車を持ち込み、戦闘ヘリコプターと組んで出撃するというシーンを想定していないのである。だから、陸続きの戦闘地帯がある韓国軍とは戦闘ドクトリンが違って当然なのだ。
では、国内では?といえば、戦車廃止論が出るような状況で、戦車の数も減らす話が出てきている。もちろんそれと組む攻撃ヘリコプターも、有用かどうかという点については疑念を呈されるシーンが多い。
一般的に言われるのは、戦車には戦車でしか対抗できないので、上陸戦を阻止するためにも陸上自衛隊が戦車を保有しておくことは意義があると言われている。が、90式戦車は重すぎて北海道限定の運用想定で準備されているし、10式戦車も日本国内津々浦々を守るには数が少なすぎる。
近年は公道を素早く移動する必要があるため、打撃力には劣るものの16式機動戦闘車の方が優位ではないかという判断に傾きつつある。
今回の決定によってさらにその傾向は加速するのだろう。
無人機の運用も進んでいない
とはいえ、日本が無人機の分野が優れているかというと、そうでも無いところが問題なんだよねぇ。
無人機と防衛産業――悪循環をどう脱するか
2022/10/18 10:00
2018年の夏休みにオーストラリアのメルボルンを訪ねた際、ちょっと驚いたことがある。中心街のショッピングモールに立ち寄ると、ドローン販売業者が堂々と専門店を構え、個人客でそこそこにぎわっているのだ。
展示されているドローンの種類は豊富で、値段も手頃だった。国土が広いだけに、写真撮影、物資輸送、農業用など様々な用途に利用され、一定の市場規模があるのだろうと推察された。同時に、まだドローンになじみがない日本との格差を実感させられた。
そんな話を思い出したのは、日本の防衛技術が無人機の分野で大幅に立ち遅れている、と複数の防衛省幹部が嘆いているためだ。
讀賣新聞より
実際に、自衛隊における無人機運用の検討すら十分に行われていない状況なのだ。
民間企業で無人機の部品となる製品を作っている会社は、日本国内に多数あるのだが、高品位な完成品を持っているかというと、これがほとんど見当たらない。
ある防衛省OBは率直に打ち明ける。
「2010年(平成22年)策定の『防衛計画の大綱(22大綱)』までは、省内で無人機を導入する議論はほとんどなかった。11年の東日本大震災の原発事故に対応した際、原発内部をドローンでしっかりと確認できたことで、その重要性を初めて認識したほどだ」
~~略~~
最大の問題は、日本の民間企業の無人機技術が一部を除いてあまり高くなく、防衛省の求める軍事用の機能や条件を満たすためには一定の開発期間を要するうえ、価格も輸入した方がはるかに安上がりになることだ。日本が従来、ドローンの「活用」よりも、人口密集地などでの飛行の「規制」に力を入れてきたことも影響している。
ただ、すべてを輸入に頼れば、なおさら国内と海外の技術力の差が拡大してしまう。このため、国内産業を育成する観点から、一定程度は国産の無人機を購入することを検討しているという。
讀賣新聞「無人機と防衛産業――悪循環をどう脱するか」より
とまあ、最近になって漸く重要性が認識されてきたというレベルで、幾つか採用された無人機がイマイチだったという話も含めて、いきなり戦闘・観測ヘリを廃止して無人機運用すると言われても困るだろう。
最大のネックは、日本国内のヘリコプター市場の層が薄く、戦闘ヘリコプターの開発に失敗した時と同様に、無人機運用の市場もまた薄い点である。
方針転換は結構だが、本当にその先に繋がるロードマップが描かれているのか?と言う点に関しては、些か心配である。
今回の方針転換の方向性そのものが間違っているとは思わないが、その方針を貫けるだけの環境が整っているかというと、極めて怪しい。日本政府はその部分までもカバーできるだけの方策を練り、十分な予算をつける必要がありそうだ。
追記
コメント頂いて気が付いたが、そう言えば、清谷氏のヘリコプター関連の主張に「否定出来ないものが多い」とは書いたが、僕としても搬送用ヘリコプターの国内製造を否定する意図はなかったので、ココで訂正して謝罪したい。あくまでも、戦闘・情報収集ヘリの廃止という話だからね。
SUBARU 陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-2)量産初号機を納入
2022年6月30日
SUBARUは、2022年6月30日に、航空宇宙カンパニー宇都宮製作所(栃木県宇都宮市)において、陸上自衛隊新多用途ヘリコプター(UH-2)量産初号機を陸上自衛隊に納入しました。
新多用途ヘリコプター(UH-2)は、民間向け最新型ヘリコプター「SUBARU BELL 412EPX」を共通プラットフォームに、陸上自衛隊向け仕様を織り込んだ機体です。
スバルのサイトより
2022年5月の初飛行以降、各種社内飛行試験を順調に進め、防衛省による確認を経て納入に至りました。
コメント頂いたUH-2は、調達が始まったばかりである。

過去の経緯(AH-64Dの製造に関してのトラブル)から考えても、スバルはよく頑張ったという感想だ。
スバルのサイトを読むと、AH-64Dの経緯も自虐的に触れている所に苦笑を禁じ得ない。
スバルは2021年から20年を掛けて150機調達を防衛省と約束したと書いてあるけれど、令和元年から令和5年までに34機調達という状況。このペースで調達が進めば達成可能だけど、途中で近代化改修しないと20年後も同じ仕様というわけには行かないだろう。
民間型も作って各省庁に採用して貰う予定のようだが、軍用モデルも数作って輸出出来る程度まで頑張れるとイイと思う。それを推進するのは政府の役目なんだけどね。
コメント
こんにちは。
そうだ、ヘリは止めて(米軍で用廃が決まった)A-10を買え!という与太話はさておきまして。
縦深が取れず、前線と後方の距離が離せない日本の国土においては、上陸されたら基本詰み、その前に戦車だろうが歩兵だろうが鮫のエサにしちまうしか無いわけで、ウクライナにおける携帯対空火器に戦闘ヘリが弱い現実もあって、こういう判断は致し方なしとは思います。
色々とドクトリンの変換期でもあり、吉と出るか凶と出るか、凶と出た未来は見たくないので、吉と出ることを祈ります。
※制空権さえ確保出来てるなら、A-10は悪い選択ではないのですが<未練
A-10攻撃機はロマン兵器ですからねぇ。
ただ、上陸作戦を阻止する意味で、A-10攻撃機を自衛隊が保有するというのは面白い選択肢のような気もします。ただ、携帯対空火器に対する脆弱性の問題はA-10ではあまり解決にならないようにも思えますので、やっぱりこれも無人機を使うという話になるんでしょうかねぇ。
ともあれ、注目していきたいとは思っています。
こんにちわ、
そもそもキヨの2014年の言い分は「全てのヘリコプター」の日本生産を止めろと言う乱暴なもの。
今回の戦闘ヘリや観測ヘリの廃止は輸送ヘリとは関係ないし、輸送ヘリや救難ヘリは軍事上、今後も重要だと思いますね。
実際、CH47は増やすし、UH2も調達するw
海自は相変わらずSH60をご愛用w
そうでしたねぇ。
僕の書き方も宜しくなかった。追記で修正させていただきました。
ただ、ヘリコプターのマーケットが小さく、海外に売れる販路が無いのは事実です。作る数が少なければ技術力の発揮も難しい。そういった辺りを根本的に変えないと、キヨタニに反論することは難しいですよ、やっぱり。