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海上保安庁の改革待ったなし

安全保障
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気になるニュースがあったので触れておきたい。

海自と海保、尖閣念頭に「武力攻撃事態」想定した初の共同訓練…年度内にも実施へ

2022/11/09 08:04

政府は、海上自衛隊と海上保安庁の連携を強化するため、日本が攻撃を受けた「武力攻撃事態」を想定した初の共同訓練を今年度内にも実施する方針を固めた。共同訓練の結果を検証したうえで、武力攻撃事態で、防衛相が海保を統制下に置く際の手順などを定めた「統制要領」の策定を進める考えだ。

讀賣新聞より

海上での海上保安庁と海上自衛隊との連携は必須だが、「初の共同訓練」らしいよ。あれ?海保と海自って連携して訓練していた気がするんだけど、違うのかな。

共同訓練すらままならない

法律で想定されている事態

有事において、海上保安庁から海上自衛隊にシームレスに連携できる事の重要性は以前に比べるとずっと高まっている。昨今の事情から、周辺国が色々と悪さをしているからねぇ。

で、海自と海保の連携は一応、法律でも規定されている。ただ、法律で想定されていても、実際に訓練できる環境にはない。

なんでだよ!

自衛隊法80条は武力攻撃事態が発生し、自衛隊に防衛出動などが命じられた際、首相が海保を防衛相の統制下に入れることができると規定している。ただ、この場合に活用される「統制要領」はまだ定まっていない。政府は共同訓練で見つかった課題などを参考に、統制要領を取りまとめることを検討している。

讀賣新聞より

えーと、自衛隊法80条では自衛隊の指揮下に海上保安庁が入るとされている。一方で、海上保安庁法での規定がネックになるというのが、概要なのだが、それがどう言うことなのか?についてはもう少し見ていかねばならないだろう。

非軍事性「重要な規定」 国交相、海保法25条めぐり

2022/11/8 10:51

斉藤鉄夫国土交通相は8日の閣議後記者会見で、海上保安庁が軍隊として活動することを否定している海上保安庁法25条に関し「警察機関である海保が非軍事的性格を保つことを明確化したものだ」と指摘した。沖縄県・尖閣諸島の領海警備に触れ「法にのっとり、事態をエスカレートさせずに業務を遂行する重要な規定だ」とも述べた。

産経新聞より

海上自衛隊の指揮下にあって、軍事的な動きは出来ないというのが現状のようだね。意味が分からない。

海保法25条

では具体的にどんな規定なのか、見ていこう。

第二十五条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。

海上保安庁法より

海上保安庁法25条の規定なのだが、随分とあっさりした規定となっている。コレを読むと、自衛隊法80条とバッチリ矛盾する気がする。うーん、自衛隊法も読んでみるか。

(海上保安庁の統制)

第八十条 内閣総理大臣は、第七十六条第一項(第一号に係る部分に限る。)又は第七十八条第一項の規定による自衛隊の全部又は一部に対する出動命令があつた場合において、特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる。

 内閣総理大臣は、前項の規定により海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れた場合には、政令で定めるところにより、防衛大臣にこれを指揮させるものとする。

 内閣総理大臣は、第一項の規定による統制につき、その必要がなくなつたと認める場合には、すみやかに、これを解除しなければならない。

自衛隊法より

海上保安庁法25条の「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され」は、海上自衛隊の組織に入るということを否定しているので、一見、完全に矛盾するようにも感じるが、「海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる。」という規定になっているので、ロジック的には防衛大臣の指揮下に入るけど、海上自衛隊として組織されるわけではないという風に理解は出来る。

なるほど、司令塔は防衛大臣で、防衛大臣から国交大臣に対して指揮命令をする構造となるので、法律的な矛盾がないと理解できるわけだ。

ただ、じゃあ、どう運用出来るのか?となるとこれまた厄介な話だ。

軍事的な訓練が出来ない

条文上、海保法25条では「訓練」を否定している。

それ故に、これまで軍事的事案が発生した想定で共同訓練が行えなかったという建て付けなのだろう。そういう意味では今回は、「防衛相が海保を統制下に置く際の手順」での初の共同訓練ということで、結構画期的な訓練だと思う。

海保は避難する住民を輸送したり、漁船などの民間船の安全を確保したりする後方支援を主に担う見通しだ。

讀賣新聞より

全く別の役割を振られる感じにはなっているが、この想定だと自衛隊と連携する以上は齟齬が生じる事は避けられないだろう。恐らくだが、防衛大臣からの指令を国交大臣は海保法25条を盾に断れる。そうなると、もはや海自と海保の連携など成り立たなくなる。

こりゃ、海保法25条の改正待ったなしだな。

外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書改定の議論では、自民党から25条撤廃の主張が出ている。斉藤氏はこれまでの国会答弁でも同様の認識を示してきた。

産経新聞より

単純に25条を削除してしまうか、例外規定を設けるかする必要があるのだが、海上保安庁の動きを制限する意味で25条を規定していることそのものが問題なので、削除するのが妥当だろう。

海上保安庁はアメリカ沿岸警備隊がモデル

そもそも、日本の場合、沿岸警備の仕事を海保がやるのか海自がやるのかが明確ではない。

しかし、本来は海上保安庁設立にあたって、アメリカ沿岸警備隊(USCG)をモデルに昭和23年(1948年)に設立されている。英名も「Japan Coast Guard」である。

にもかかわらず25条のようなおかしな規定が盛り込まれた背景には、敗戦を受け入れてアメリカの統治下で海保が設立された事が関係している。つまり、GHQの影響が色濃く残っているわけだ。

しかしながら、現在においてこの様な組織に在り方そのものに問題が生じてきているのも事実だ。

尖閣周辺に中国船 7日連続

2022/11/9 10:34

尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海外側にある接続水域で9日、中国海警局の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは7日連続。

産経新聞より

支那海警局の船舶は、「巡視船」ではなくて「軍艦」の性格が色濃く、対艦装備を積んでいる。恐らく、海上保安庁の船が海警局の船と対峙するような事案が発生すれば、海上保安庁の船はひとたまりもないだろう。船体構造からして違うのだ。

グレーゾーンが問題

さて、共同訓練が為されていなかった海上自衛隊と海上保安庁だが、それぞれの役割があるのだから、役割を果たせば良い、と、今までは考えられていた。

だが、海警のように、「軍隊じゃありませんよ」というような顔をしながら、実際には人民解放軍の下部組織で、武装した船で日本の領海内に侵入してくる。こうした状況にあって、海上保安庁の船で対応するには職員の命に関わる状況が想定される。

同様にして、北朝鮮の工作船が日本の領海に侵入してくるようなケースであっても、対応が極めて難しい。実際に、幾度か問題にもなっている。

最初から海上自衛隊が登場すると、逮捕や捜査などの警察権を発揮できないことから、いきなり戦闘に発展する可能性があるという話になっている。一方、海上保安庁が前に出てくると、装備の問題で対応出来ないという状況になるわけだ。

故に、海上保安庁と海上自衛隊の中間的な組織が欲しいよという話もでてくるわけだ。何しろ、海上保安庁は武器を携帯する事はできるが、基本的には軍事的訓練は受けていないことになっている。

その事にどうやって対応するのかというのは喫緊の課題で、その1つの答えが共同訓練なのだろう。

尖閣グレーゾーン想定し合同訓練

2022年7月1日5:20 午後

海上保安庁と海上自衛隊は1日、東京都・伊豆大島の東方海域で6月30日に合同訓練を実施したと発表した。海保の巡視船、海自の護衛艦が2隻ずつ参加。沖縄県・尖閣諸島に中国軍艦が接近する「グレーゾーン事態」を想定し、軍艦の進路規制などのため巡視船と護衛艦が隊形を組んで進行する手順や、海自と海保の情報共有手段を確認したとみられる。

ロイターより

グレーゾーン想定の訓練も直ぐにしているんだな。

しかし現実問題として、海上保安庁法にはコーストガード的な運用を求められる事が多くなっている。その事の答え、僕自身は海上保安庁を自衛隊の下部組織か総務省管轄に切り替える(警察庁と一緒)べきではないかと思う。現在の国交省管轄というのは、凡そ正しくないと思う。特に、公明党の指定席になっている大臣を頂く組織なのだから。

法改正と組織改編は、今後の海保の仕事を考えても必要だろうね。GHQに支配されていた時代とは、もはや大きく世界の構造が違うのだ。

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