イギリスの新首相はイギリスを支えられるのか

欧州ニュース

ロシアの情勢も非常に気になるが、ウクライナ軍を支えているはずの西側諸国がぐらついているのも困りものである。

円よりヤバい「ポンド急落」でイギリス大わらわ

2022/10/02 7:30

イギリスのリズ・トラス首相は減税とサプライサイド政策を訴えることで保守党の党首選挙に勝利し、スキャンダルにまみれたボリス・ジョンソン前首相の後釜となった。が、公約どおりに着手した自由市場政策のせいで、トラス政権は崩壊することになるかもしれない。

「東洋経済」より

特に、3人目の女性首相が誕生したイギリスは、なかなか大変なようだ。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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大変なイギリス経済

女性首相誕生

先ずは、イギリスの女性首相の誕生の記事を1つ引用させて貰おう。

英国、リズ・トラス新首相誕生へ 与党党首選で勝利

2022年9月5日 20:39 (2022年9月5日 21:04更新)

英与党の保守党は5日、ジョンソン首相の後任を選ぶ党首選の結果、リズ・トラス外相(47)を新党首に選んだ。6日にエリザベス女王の任命を受けて、正式に首相に就任する。内政では物価高対策が最優先課題となる。ウクライナ危機への対応を巡っては対ロシア強硬姿勢を継続する見通しだ。

「日本経済新聞」より

イギリスも首相によって大きく政策が右往左往する印象のある国だが、前首相のボリス・ジョンソン氏は変人ではあったようだが安定感はあったと、個人的には思っていた。

ロシアによるウクライナ侵攻に関しても、侵攻前から度々警告を発しており、「何を言っているのだ」と馬鹿にされていたが、実際に侵攻が始まると、ウクライナ支援を前面に出して政治姿勢を鮮明にしていた。とはいえ、親支那派寄りの政策が多かったので、その点ではアメリカと協調路線を歩めなかったようだ。

武漢ウイルスによってイギリス経済は大きく損なわれ、そのせいで首相の座から降りることになったのは何とも皮肉ではあるが、まあ、仕方が無いね。ボリス・ジョンソン氏の不祥事も色々出回ったことだし、自業自得の部分はあったと思う。

一方で、新首相となったリズ・トラス氏は、外務大臣を務めており、反支那派であったようだ。その点は評価出来るのだが、イギリス経済に対する主張はちょっとポンコツだったんだよねぇ。

故サッチャー氏、メイ氏に続く同国史上3人目の女性首相となる。一般の保守党員による投票でトラス氏が約57%の8万1326票を獲得、対抗馬のスナク前財務相は6万399票だった。トラス氏は当選後の演説で「私は減税と経済成長のための大胆な計画を実現する」と党所属議員らに訴えた。

党首選で最大の争点だったのが、10%を超えるインフレの主因であるエネルギー価格対策だ。トラス氏はこれまでに国民保険料の引き下げなど国民の負担軽減策を掲げていた。

「日本経済新聞」より

イギリスで女性首相の誕生に沸いたのは半月ほどで、直ぐに色々と問題が吹き上がった模様。

ポンド急落

で、それは市場にも反映されている。

「経済成長のための大胆な計画」という話もあって一時期ポンドは高くなっていたのだが……、ところが反発しちゃった。

英政府が大型減税へ、所得税の最高税率45%から40%に…家計・企業の負担軽減

2022/09/23 20:56

英政府は23日、大型減税を柱とする経済対策を発表した。来年4月に所得税の最高税率を45%から40%に引き下げるほか、法人税率の引き上げを凍結し、景気後退が懸念される英国経済をてこ入れする。物価高に苦しむ家計や企業の負担を軽減するとともに、金融立国としての魅力を高め、海外から投資を呼び込む狙いがある。

「讀賣新聞」より

その引き金となったのが、大型減税を柱とする経済対策の発表である。これ、何が悪いの?という話なのだが、悪くはないのだ。大型減税で景気刺激策を打つというのは、政策のセオリー的には寧ろやるべきである。

一方、英政府は23日、家計や企業向けの電気・ガス料金補助が10月以降の半年間で約600億ポンド(約9・6兆円)規模になると明らかにした。巨額の補助で英国の財政は大幅に悪化する見通しだ。

「讀賣新聞”英政府が大型減税へ、所得税の最高税率45%から40%に”」より

やるべきではあるのだが、イギリス政府が巨額の負債を抱えて財政が悪化するということが明らかになり、イギリス経済の安定感を疑問視する投資家が増えてしまった。

それが市場の動揺を誘ったのである。

労働党はここぞとばかりに、われこそが財政規律を重んじる党であるとのイメージを広めようとしている。金融専門家の間では1ポンド=1ドルのパリティ(等価)割れを予見する声が浮上。エコノミストや政治アナリストらは、イギリス経済の先行き不透明感が引き続き市場とトラス政権にとっての脅威になるとみる。

「東洋経済”円よりヤバい「ポンド急落」でイギリス大わらわ”」より

その結果、ポンド急落に繋がってしまったというわけだ。

正しい政策ではあったはずだが、政策を発表するタイミングなどを考えると、今回のこの発表が良かったのかどうかと言う懸念は出ると思う。

イギリス中央銀行との不協和音

何故そんな話になるのかというと、現在、イギリス中央銀行(イングランド銀行)はアメリカのFRBに追従する利上げを行っている最中なのである。

英 中央銀行 政策金利0.5%利上げ1.75%に 27年半ぶりの上げ幅

2022年8月4日 22時50分

イギリスの中央銀行 イングランド銀行は4日、政策金利を0.5%引き上げて、1.75%にしたと発表しました。 利上げはこれで6回連続で、0.5%の利上げは1995年2月以来27年半ぶりの上げ幅になります。

イングランド銀行は4日、前日まで開いた定例会合の結果、政策金利を0.5%引き上げて1.75%にしたと発表しました。

「NHKニュース」より

中央銀行の利上げは、市場に出回っているポンドを回収する効果がある。インフレを抑制する政策としては有効ではあり、アメリカの利上げ追従というのはおかしな政策ではないと思う。

イギリスでは、ロシアによるウクライナ侵攻を背景にしたエネルギー価格の高騰などでことし6月の消費者物価指数は9.4%の上昇と40年ぶりの高い水準になっていて、イングランド銀行としては大幅な利上げによって記録的なインフレを抑え込む姿勢を明確に示した形です。

また量的緩和策によって市場から買い入れてきた金融資産を圧縮する「量的引き締め」についても、9月に開く次回の会合で開始するかどうか決定するとしています。

「NHKニュース”英 中央銀行 政策金利0.5%利上げ1.75%に 27年半ぶりの上げ幅”」より

利上げによるインフレ抑制政策は、イギリスにとって不可欠なのだ。問題は、利上げの最中に減税政策を打つというのは、セオリーから言えば間違っている点だろう。

減税政策は、市場にお金を増やす効果があるためだ。中央銀行がポンド回収に動いているのに、減税政策を打つと言うのがちょっとおかしい。

英中銀総裁、政策決定の独立性擁護 政治家発言をけん制

2022年8月5日1:41 午後

イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のベイリー総裁は4日、BOEが政府から独立して政策を決定することが重要だと述べ、中銀の独立性を弱める可能性を示す政治家の発言をけん制した。

英国ではインフレ率が近く10%を超えると予想されており、与党保守党の政治家がBOEの対応を批判している。

~~略~~

これに先立ち、トラス氏の盟友であるブレーバーマン法務長官は4日、スカイニュースに対し、物価が高騰する中でBOEの利上げがあまりにも遅かったと非難した。トラス氏が表明した見直しは政策金利の決定に関するBOEの独立性を問うことになると述べた。

ブレーバーマン氏は、BOEの政策を詳細に点検し、BOEに完全な独立性を持たせた目的に適合しているかどうかを見極めると表明。1997年の措置が正しかったかどうかを今点検することは適切であり、機は熟していると主張した。

「ロイター」より

どうにもイギリス政府とイングランド銀行との歩調がチグハグな状態が続いているのは事実で、意思疎通の必要性を含めて、イギリス政府、或いは首相の手腕が問われる状況になっている。

IMFからの警告

そして、イギリス政府の方針についてIMFからも横槍が入った。

1976年にイギリスを救済した国際通貨基金(IMF)が政府に減税の見直しを促したことで、不安はさらに深まった。IMFは声明で、減税は格差を広げ、財政政策と金融政策を互いに矛盾させることになると述べた。

さらなる金利上昇の懸念は、すでに住宅市場の停滞につながっていた。イギリスでは住宅ローン大手2社が、市場金利の乱高下を理由に新規貸付けの停止を発表。ポンドが急落すれば、金利はインフレ抑制に必要なレベルを超えて跳ね上がることになる。

「東洋経済”円よりヤバい「ポンド急落」でイギリス大わらわ”」より

IMFの警告は、政治的思惑があることからとても第三者的な公平な観点からの指摘とは言い難いのだが、今回の警告に関して言えば、実際に財政政策と金融政策の矛盾があるのだから納得するしかない。

イギリス経済において、住宅市場の停滞というのは大きな問題となっていて、トラス氏の思惑通りに経済活性化するとはとても思えない。

トラス氏の思惑は、鉄の女マーガレット・サッチャーの政策を踏襲したいという事らしいのだが、残念な事に同じ事ができない。そこを理解出来ていないのか、理解した上で今回の政策を断行するのかがよく分からないのだが、市場は「ダメな政策だ」という判断なのだろう。

短期的には、トラス氏とイングランド銀行(中央銀行)の対立が一段と深まる可能性が高い。イングランド銀行は11月に開催する次回会合で追加利上げを行うとの見方がすでに広まっているが、そうした中で同行チーフエコノミストのヒュー・ピル氏は27日、政府の新たな財政政策により「かなりの金融政策対応」が必要になるだろうと述べた。

「東洋経済”円よりヤバい「ポンド急落」でイギリス大わらわ”」より

何より、政権とイングランド銀行との路線の齟齬が、市場に大きな動揺を与えてしまう。

いやー、イギリスが勝手に苦戦するのはイギリスの勝手なのだが、問題はイギリスがウクライナに対して多大な支援をする国であるということと、日本にとってもF3戦闘機の共同開発国であることなど、国際社会ではいまなお影響力のある国だ。

最後に日本のことを少し書いておこう。

前にも書いたが、日本は低金利政策で円安傾向が続いている。そして、政府の介入によって多額の差益を得られた。ここで巨額の経済対策を打ち出せば、日本経済の回復に向けて動き出せる。もちろん、そのためには電力安定供給が必須で、原発の再稼働は待ったなしだ。原発の功罪はある。あるが、再稼働であれば今使えるリソースを使うという意味でも、天然ガスの需要を抑えて価格下落に手を貸す意味でも、やらない手はない。そして、日本の景気回復によって世界経済にも大きな影響が期待できるのだ。

トラス氏にも困ったものだが、岸田氏にも困ったものだ。勝手に転けて貰っては困る。困るなぁ。

追記

ちょっと話が逸れるのだが、イギリスの懸念事項としてもう1つ。

チャールズ国王、COP27欠席へ トラス首相が反対 英紙報道

2022年10月2日 15:36 

英国王チャールズ3世(Charles III)が、エジプトで来月開かれる国連(UN)気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に出席しないことになったと、日曜紙サンデー・タイムズ(Sunday Times)が1日夜に報じた。リズ・トラス(Liz Truss)首相が「反対した」ためとしている。

「AFP」より

チャールズ国王なのだが、この人、結構政治的なところに口出しをしてしまう考えなしな部分があるようで。

君臨すれども統治せず、そうあるべきだったんじゃ?この人の存在もイギリスの不安要素になってきそうで怖いな。イギリス王室存続の危機は、イギリスの国そのものの価値に影響があると思う。

追記2

そういえば、イタリアの首相も新しくなったんだっけ。

伊新首相就任見通しのメローニ氏、エネルギー・減税・年金が最初の難題

2022年9月27日11:51 午前

イタリア初の女性首相に就任すると目されている右派政党「イタリアの同胞」(FDI)のメローニ党首は、実際に就任すれば早々に、選挙公約で来年1月から始まることになっている国の年金受給年齢引き上げを阻止するなどと訴えたことの実現に向け、多額の財源確保に追われることになる。

「ロイター」より

この人の話で記事を一本書こうと思ったのだけれど、イギリスのトラス氏ほど重要じゃないんだよなあ。イタリア経済は結構観光に左右される部分があって、武漢ウイルスでかなりやられた感じなので、多額の財源確保というのは相当難しい。

右派で尖った政策を掲げて人気を博したようだけれど、早速ガスプロムから脅しが入って涙目になっているようだ。

ガスプロム、イタリア向け天然ガスの供給停止…対ロシア制裁見直し論の活発化が狙いか

2022/10/02 23:41

タス通信によると、ロシア国営ガス会社ガスプロムは1日、イタリア向けの天然ガスの供給を停止した。ロシアは、イタリアでエネルギー確保への危機感をあおり、欧州連合(EU)が続ける対露経済制裁に対する見直し論を活発化させたい狙いがあるとみられる。

「讀賣新聞」より

天然ガス輸入の4割をロシアに依存していたイタリア、アフリカ諸国に声をかけて「なんとかしてくれ」と嘆願していたようだけれども、そう簡単には解消しないだろう。

ロシアからの天然ガス供給が止まれば、イタリアのGDPの2%相当が下落するだろうと言われている。5月にはアルジェリア辺りと輸入合意していたようだが、アルジェリアも不安定だからな。果たしてどれだけ振り替え輸入が可能になるのか。

イタリアがロシアに付いたりすると、かなり面白興味深い事になりそうである。

追記3

おっとぉ。

イギリス トラス政権 所得税の最高税率引き下げの案を撤回へ

2022年10月4日 4時29分

イギリスのトラス政権は、経済対策の柱の1つとしていた所得税の最高税率を引き下げる案を、撤回すると発表しました。
与党 保守党の支持率が落ち込む中、党内からも富裕層の優遇だという批判が相次ぎ、軌道修正を余儀なくされた形です。

「NHKニュース」より

流石に修正してきたらしい。

まあ、本文に書いた通り、おかしな政策だったことを考えれば、真っ先に減税をやるなんてことは、トラス新政権にとって自殺行為に等しい。撤回は当然だと思う。

ただ……、これ、トラス氏の看板政策だったんだよね。

クワーテング財務相は「われわれは多くの人と話し、反応を目の当たりにした。その結果、この税率引き下げが、エネルギー問題などに対するわれわれの強力な介入をかき消していると感じた」と述べ、光熱費の抑制策などを推し進めることを優先させたと説明しました。

トラス首相も、前日に出演した公共放送BBCの番組では、起業や投資を促すとして、税率の引き下げを予定どおり行うと明言していましたが、3日、ツイッターに「私たちは理解し、聞き入れた」などと書き込みました。

「NHKニュース”イギリス トラス政権 所得税の最高税率引き下げの案を撤回へ”」より

財務大臣がこの発言だから、本当にこの政権、大丈夫なのか?という不安を抱えるのは当然で、結果的に市場に動揺を与える事になるだろう。「コイツら何も理解していない」とビックリし、「直ぐに看板政策を撤回するのか」とビックリするワケだ。これは、イギリス経済もしばらくは不安定な状態が続きそうだよ。

コメント

  1. こんにちは。

    >ロシアからの天然ガス供給が止まれば、イタリアのGDPの2%相当が下落

    イタリアさん……
    まあ、ヨーロッパはどこもかしこもロシアにキン○マ握られてるので大同小異なんでしょうけれど……
    イギリスと良い本邦といい、どこの国も、外交も内政もバッチリ!という人はなかなか居ないですね。
    どっちもダメダメ、って人なら佃煮にするほど居るのに。

    本当に、開戦前夜の世界情勢ってこんな風だったのかな、って思ってしまいます。

    • いたりあさんだいぴんち!
      と言うことで、イギリスとイタリアのピンチを紹介しましたが、欧州はどこも結構危ない感じですよ。
      ちょっと、アメリカの高金利政策が行きすぎていて、そろそろ世界中から批判が殺到してきそうですね。

      それでなくとも、観光業がヤバいイタリアは体力を落としていますのに。