スウェーデンとフィンランド、NATO加盟の見通し

欧州ニュース

NATO加盟についてトルコと揉めていたスウェーデンとフィンランドだが、両国がトルコ側の要求を飲むことで決着したようだ。日本にとっては極めて重要な話だと僕は考えている。

スウェーデンとフィンランド、NATO加盟の見通し トルコが同意

2022年6月29日 8時57分

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は28日、スウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟が認められる見通しとなったと発表した。両国の加盟に難色を示していたトルコのエルドアン大統領が同日、スウェーデンのアンデション首相とフィンランドのニーニスト大統領とマドリードで会談。トルコの懸念に両国が対応することを記した覚書を交わしたことで、加盟を容認した。

「朝日新聞」より

これによってNATO拡大は進み、ロシアはまた立ち位置が更に危うくなっていくわけだが、スウェーデンとフィンランドにとっても、ここからNATO正式加盟までの期間が極めて危うい状況を迎える。

余談だが、幼女戦記というアニメを最近になって一通り見直したのだが……、ウクライナの話に非常に重なる部分があって嫌になるな。このアニメ、ネット小説をベースに(或いはコミック化された内容をベースに)作られている仮想戦記だが、小説が下敷きにしているのはドイツ戦史である。つまり、歴史は繰り返すと言うことだろう。スウェーデンとフィンランドは協商連合という名前で登場する。

あ、あくまで仮想戦記なので、史実とは異なることはご理解頂きたいが。

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NATO態勢強化

スウェーデンとフィンランド

ヨーロッパにおいて、北欧諸国のスウェーデンとフィンランドは、その立ち位置が極めて特殊である。民主主義を取り入れながら、親露派の立場、これが両国の歴史に根差す処世術でもあった。

だが、その前提が、ロシア軍のウクライナ侵攻によって崩れてしまう。

この辺りの下りは、既にザックリだが纏めているので参考にして欲しい。

で、スウェーデンとフィンランドはNATO加盟への決意を固めるわけだが、それに反対していたのがトルコである。

【そもそも解説】北欧2国のNATO加盟 トルコの譲れない一線とは

2022年6月1日 18時00分

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、北欧のフィンランドとスウェーデンが軍事的な中立の立場を離れて北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請しました。両国にとって歴史的な転換点とも言われ、歓迎ムードが広がりました。そこに、異を唱えて関係国を驚かせた国があります。中東の大国トルコです。なぜトルコは難色を示すのでしょうか。背景には何があるのでしょうか。

「朝日新聞」より

何故反対したのか?といえば、コレはトルコの国内事情がある。

トルコの国内事情

最近は、政策金利を14%に据え置き、トルコリラの下落を招いて70%を超える猛烈なインフレ率に苦しんでいるトルコだが、自業自得だな。何故、政策金利を14%に据え置くのだ。自殺行為ではないか。

そんなトルコで、大統領を続けて独裁的な政治体制を維持するエルドアン氏だが、スウェーデンとフィンランドがNATOへ加盟するにあたって、どうしても解決したい事があった。それがPKKの駆逐である。

「スカンディナビアの国々はテロ組織のゲストハウスのようだ」と強い言葉でも牽制(けんせい)。その後、両国の政府関係者が協議のためトルコを訪れる予定については、「彼らは説得に来るというが、わざわざそんな手間をかける必要はない」と突き放した。

21日にはエルドアン氏がフィンランドのニーニスト大統領、スウェーデンのアンデション首相と相次いで電話で会談。「テロ組織」に対する具体的な措置を強く求めた。

「朝日新聞”【そもそも解説】北欧2国のNATO加盟 トルコの譲れない一線とは”」より

エルドアン氏にとって、クルディスタン労働者党(PKK)の暗躍は非常に頭の痛い問題である。

トルコはEUに加盟しEUに加盟申請中で、NATOにも加盟しているのだが、立ち位置的には親露派である。実に見事なコウモリっぷりなのだが、それでもトルコは欧州から中東への入口という立ち位置であり、何とかバランスを採って政治をせざるを得ない事情がある。

注:コメントを頂くまで、既にトルコはEUに加盟していたものとばかり。だって、トルコのEU加盟申請は1984年なんだ。流石に加盟していたと思ったら、色々やらかしている事が響いて基準クリアは未だ果たせずといった具合のようだ。

トルコがスウェーデンとフィンランドに要求し、両国がコレを了解したのは以下の項目だとされている。

  • クルディスタン労働者党(PKK)への支援禁止
  • 国内でPKKが資金調達や組織の拡張活動を行うのを禁止
  • PKKを含むテロ組織やネットワークの活動阻止を約束
  • トルコに対する武器の禁輸措置を解除

簡単に言えば、テロ組織に支援するのを止めてくれと言うわけだ。

トルコにとって、スウェーデンとフィンランドがNATOへ加盟することそのものは、寧ろ歓迎すべき事項だろう。だが、国内の政治を複雑化させているPKKの問題はここで是非とも解決しておきたいのだ。

クルディスタン労働者党

では、PKKとは何か?

クルディスタン労働者党(PKK)は、クルド人の独立国家を目指す武装組織で、ハッキリ言えばテロリストである。クルド人はトルコの人口の10~25パーセントを占めているが、トルコ国内においては抑圧されてきた。

こちらの記事でもう少し詳細に触れているので参考にして欲しいのだが、トルコにとってこのテロ組織の国内暗躍は非常に困った問題である。

PKKと似た組織は乱立しているのだが、彼らが掲げているのはクルド人国家の設立であって、そのためにはテロ行為を厭わないという教信者達でもある。もちろん、彼らには彼らの言い分があって、クルド人国家の成立を悲願することを否定するものではないのだが、それを理由にテロ行為に邁進するのは違うだろうに。

ところがこのPKKに支援をする組織が欧米にあるんだな。何なら政府規模での支援をしていると言うのだから、話にならない。その温床になっているのがスウェーデンとフィンランドだというのだから、トルコとしては「ふざけるな」という話だろう。

そしてPKKの掲げるイデオロギーは、クルド民族主義だけではなく、マルクス主義と共産主義を掲げているので厄介なのだ。

AFP通信によると、トルコ大統領府は覚書について「トルコは望んでいたものを手に入れた」と評価する声明を出した。

「朝日新聞」より

何とか一致点を見出せたようだけどね。

フィンランドの働きかけ

ところで、このブログでは先日来日したフィンランドの首相の話も紹介している。

この記事では言及しなかったのだが、日本はトルコとの間に割と有効な関係を築いており、フィンランドの首相の狙いとしてはトルコへの働きかけと言うことを期待した可能性はある。

尤も、実際にどうだったかは不明だし、日本とトルコが具体的に会談を持ったという報道はないので、岸田政権はそのチャンスを演出できなかったということかも知れないし、実は何も言われなかったという事かも知れない。

ともあれ、NATOの首脳会談を契機に、フィンランドの大統領とスウェーデンの首相は、トルコの大統領のエルドアン氏との会談を行っている。

北欧2国・トルコ首脳が会談 NATO加盟めぐり

2022年06月28日23時59分

北欧のフィンランドのニーニスト大統領とスウェーデンのアンデション首相は28日、マドリードでトルコのエルドアン大統領と会談した。

「時事通信」より

その結果、NATO加盟に向けた大きな足掛かりを得たというわけだ。

アメリカとギリシャ

なお、この話は恐らくだがアメリカなどの口添えもあって実現したと思われる。

トルコ政府、ギリシャにエーゲ海の島々の非武装化を求める

08 Jun 2022 06:06:54 GMT9

トルコは7日、ギリシャに対しエーゲ海の島々から軍隊を撤退させるよう求め、同国が非武装化できなかった場合には、島の地位に異議を申し立てると警告した。

トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外相は、北マケドニア外相との共同記者会見の中で、ギリシャは1923年のローザンヌ条約と1947年のパリ条約に違反してエーゲ海の島々で軍事的存在感を高めていると述べた。同外相は、これらの島々は非武装状態を維持することを条件にギリシャに割譲されたのだと述べた。

「arabnews」より

このニュースでは、トルコがギリシャに対して、エーゲ海の島々から軍隊を撤退しろと要求した話なのだが……。

先月、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相との対話を止めると述べ、米国議会はトルコのF16戦闘機購入を阻止すべきだと提案したことを含め、ギリシャの同首脳が最近の訪米中に行った発言に不快感を示した。

「arabnews」より

こんな下りが。

実は、米国議会は、トルコがF-35Aを購入する事になっていたにもかかわらず、ロシア製のS-400を購入して激怒し、「F-35Aは売らない」という事になっていた。その代わりにF-16戦闘機をという代案がでていて、これにギリシャが介入したという話。

恐らく、アメリカがF-16戦闘機の売却の話を進めた事も影響したのではないかと。コレに関しては完全に憶測だけれども。

世界のパワーバランスが変わる

さて、こうした状況を迎え世界のパワーバランスに変化が起こるだろうと予想される。

ロシア連邦地図

ロシアにとって、「不凍港」を得ることは非常に重要な問題なのだが、2014年のウクライナ侵攻によって得られたクリミア半島も、トルコが入口を塞いでしまうと使い勝手が悪い。

NATOの連携が高まることで、黒海艦隊はますます使い勝手が悪くなって弱体化してしまうのである。あ、そういえば、旗艦が沈没していましたね?

となるとどうなるのか?と言えば、ロシアは極東への力を高める恐れがある。つまり、北方領土の返還は既に絶望的な話ではあるが、北海道も危ないというような事になりかねないのである。

ウクライナ危機は、日本にとっては他人事ではないのだが……、参議院選挙では議論の対象になっているのだろうか?え?国防費増額に反対?冗談じゃないよ。

追記

そういえば、フィンランド国民はこの件、良かったのかな?

フィンランド人の大多数は、トルコのためにフィンランドが法律を変更したり、原則を放棄したりすることを望んでいません。

27.6。2:00 | 6月27日更新 6:15

フィンランド人のNATOへの支援は再び新記録に達しました。

最近のHS-Gallupによると、フィンランド人の79%がフィンランドがNATOに加盟することを望んでいます。反対者の11%がいて、10%は彼らの意見を表現する方法を知りません。

5月初旬に実施された以前の調査では、NATOのサポートは73%でした。これは、ヘルシンギンサノマの測定履歴でも最高の測定値でした。

~~略~~

明らかに過半数、つまり70%は、フィンランドがトルコの状況のた​​めに法律を変更したり、原則を放棄したりしてはならないという意見でした。フィンランドが諦める可能性があると考えたのはわずか14%でした。残りは立ち上がれなかった。

「フィンランドメディア」より

このフィンランドの世論調査が何処まで信用出来るデータを報じたのかは分からないが、7割の人がNATO加盟に賛成しつつも、7割の人がトルコに譲歩すべきではないと答えたのだとか。

トルコに譲歩すべきではないという回答は若干正確では無く、トルコが出した条件を満たすためには、フィンランドのいくつかの法律を変える必要があるが許容するか、という問いである。

おそらく、PKKは合法的に資金調達をしているのであり、何らかの法律でコレを規制することに忌避感があるのだと思われる。が、政府は大きな決断をした事で、結果的には民意に反する選択をした形になる。

逆に言えば、そうまでしてでも国防を重視したいというのが、政府の考え方だという意味だろう。

追記2

あー、トルコの狙いはPESCOだったか。

A last point is likely to fly under the radar but is particularly notable for defense industry watchers: that Finland and Sweden will commit “To support the fullest possible involvement of Turkey and other non-EU allies in the existing and prospective initiatives of the European Union ‘s Common Security and Defense Policy, including Turkeys participation in the PESCO Project on Military Mobility.”

「breakingdefense.com」

PESCO(Permanent structured cooperation on defence)とは「常設防衛協力枠組み」のことで、NATOとは異なる形の防衛協力である。

PESCOで可能になったのは、共同で防衛能力を開発すること、共用プロジェクトに投資すること、軍隊の作戦に即時に対応すること、自国軍の貢献を強化することだという。これらを実行するには、意思と能力のある有志の加盟国ということだ。つまり、参加は強制ではないことだ。

具体的には、初めのうちは戦車、無人機ドローン、軍用機などの機器開発プロジェクトの形を取る予定だが、時期が来ればEUの戦闘部隊の運営本部や運用ロジスティック(物流)プラットフォームをつくるという考えがある。

「yahooニュース」より

シェンゲン協定では、人、モノ、金の国境を跨いだ移動が自由に行われる事になっているが、PESCOでは軍隊が国境を自由に移動するのである。

参加は強制ではないが、将来的にEUの戦闘部隊の運営本部や運用ロジプラットフォームが置かれることになる(注:構想段階なので変化する可能性は十分ある)ので、EUがあたかも1つの国のように軍隊を持ち得て、機動的に運用される夢のような組織である。当然、危険性も備えてはいるのだが、軍事力を強化しているトルコにとっては大きな意味がある。

コメント

  1. 皆さま、こんにちわ

    フィンランド&スウェーデン vs.トルコ(いまではトゥルツィーと呼ぶんでしょうか..)のPKK問題は、意外なほどの急展開で妥結に至り、(フ)と(ス)は早期にNATO加盟を果たせそうです。

    個人的には、(フ)と(ス)は不本意ながらこの件でトルコに譲歩し、集団安全保障(NATO加盟)を優先したと理解しています。ただ、今後PKKが行き場を失うことになれば、次は反対側(ロシア)に庇護を求めることも有り得るかもしれません。PKKといまのロシアは相性が良さそうですし。

    因みに、トルコはEU加盟候補国です。

  2. こんにちは。
    話がとっちらかるので箇条書きで失礼します。

    ・「幼女戦記」:ラノベは、箸棒の量産小説と、猛烈に作者が頭良いかこだわってるか、どっちかに二分されてきたように思います。「幼女戦記」なんか、東大生が戦術書としてお勧めしてる、みたいな話も聞いたような。
    なお、似たような(どちらかというと戦術と兵站に重きを置いている)ネット小説として、「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」https://ncode.syosetu.com/n3719hb/ をお勧めします。

    ・クルド:歴史的に魔女鍋過ぎて、すっきり解決は不可能だろうと思われる案件の一つかと思ってます(ここは違うかもですが、魔女鍋案件はだいたいブリカスとおフランスのせい)。
    完全に関係ない話ですが、クルドというと、当方、ガンダムで有名な安彦良和氏の「クルドの星」を連想してしまいます。安彦氏、こういう、反政府、民族主義的テーマの作品が多いんですよね。東大抗争世代はそっちに流れやすいのでしょうか……(宮崎駿氏も、共産ファシズム大好きのミリオタという非常に困った人ですし……対極の松本零士氏も、あれはあれで困ったものですが)

    ・トルコは、エルトゥールル号の件もあり、湾岸戦争時の恩もあり、本邦としては友好であり続けたい国だと思ってます。それもあって、この件でトルコがNATOの敵に回らなかったのは胸をなで下ろす次第。トルコ的には、発表されてないところで、PKKがらみでかなり有利な条件が引き出せたのだと思います。なので、ボスポラス海峡は軍艦は通れないはずなので、これを機に黒海艦隊及びクリミア半島に向かう会場からの補給線も締め上げて欲しいところです。