【記事の訂正】誤解していたストックホルム国際仲裁裁判所の判決

ロシアニュース

お詫びして訂正します。

このブログで過去に「ウクライナはロシアのガスパイプラインから天然ガスを盗んだ」というような文脈で説明していた内容だが、誤りであった事をここにお詫びして訂正します。

ウクライナはロシアにガス代を滞納していない!? ウクライナvsロシアのガス紛争の真実

2018年11月09日

日本のメディアでは、ウクライナとロシアの二国間のガス問題について、断片的な報道がなされ、そのために誤解や事実と違った認識を持つ人が多い。日本では今でも、「ウクライナはロシアに対してガス代を滞納している」「ウクライナはロシアのガスを抜き取っている」というロシアのデタラメなプロパガンダを信じる人が多い。

「SPA!」より

ちょっとネット番組を聴いていて引っかかって調べたのだが、ウクライナ人のグレンコ・アンドリー氏がSPA!という雑誌に寄稿する形で文章を寄せていて、ブログで記載の内容が誤りであった事に気がついた次第。

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事実誤認の内容

ロシア・ウクライナガス戦争

ロシアのプロパガンダの巧みさには驚きを隠せないのだが、単純に僕の調査不足であった事をまずお詫びしたい。

ロシア軍のウクライナ侵攻直前に書いた記事で、僕はこんなことを言及している。

2006年、話は拗れに拗れてロシア側がウクライナ向けのガス供給を停止(実際にはウクライナ向けのガス供給を3割削減という形で行われる)。この結果、ウクライナを通って欧州に供給されていた天然ガス供給も影響を受けてしまう。何故なら、ウクライナはロシアの通達を無視して、欧州向けのガスを勝手に使ってしまったからだ。一応、話し合いでこの混乱は回避されたのではあるが。

ただ、2008年に再び問題が再燃する。ロシア側からウクライナがガス購入代金を約15億ドル滞納しているとして、供給停止の警告を行う。ウクライナ側はこの支払いに応じたものの、ロシア側は更に追加料金として6億ドルを要求。交渉は暗礁に乗り上げることになる。そして再びガス供給削減の措置を講じる結果に。結果的に2009年1月1日付けでロシアからのガス供給は停止される。

結局、この交渉はウクライナ側が折れることとなり、2010年にヤヌコヴィッチ政権がハリコフ合意と呼ばれる合意によって問題解決に至る。

「本ブログより引用」

この内容は、Wikipediaやそこに引用された資料を確認しての言及だったのだが、ところがこの事実認識事態が誤っていたようである。

2018年2月末、ストックホルム国際仲裁裁判所によってこの問題について最終的な判決が下された。先ずは判決の趣旨を簡単に紹介しよう。

① ウクライナはロシアに20億ドルのガス代を支払わなければならない。

② ロシアはウクライナに46億ドルのガス輸送代を支払わなければならない。

③ ウクライナは契約の期限が終了するまで(2019年末)ロシアから決まった量のガス(年間最低40億立方メートル)を買わなければならない。

④ ロシアはウクライナに、契約の期限が終了するまで(2019年)、契約で決められた料金でガスを売らなければならない。  

①②を見れば明らかなように、実際はウクライナがガス代を滞納していた金額より、ロシアがガス輸送代を滞納していた金額のほうが大きかったからである。言い換えれば、ロシアはウクライナに対して借金をしていたということである。

「SPA!」より

この内容はストックホルム国際仲裁裁判所の判決に従ったもので、西側の論理で裁定が為されたという側面はあるが、まず前提としてウクライナとロシアとの間には契約があって、その契約を破ったのはロシア側だったという構図になっている。

ロシア・ウクライナガス戦争は情報戦でもあった

つまり、ロシアが「ウクライナがガス料金を支払っていないとする主張は「嘘だった」というわけで、これをストックホルム国際仲裁裁判所が認定したという趣旨の内容になっている。

さらに、ロシアとウクライナとの間のガス料金不払い及び、ガス供給停止に関しては、過去3度行われている。

歴史を振り返ると、ウクライナとロシアのガスをめぐる争いは、今回で3回目である。2006年、2009年、そして2014年から現在までに至る争いである。争いの勃発は毎回、同じシナリオで起こっている。

A.まずはロシアがその時点で有効な契約で定められたガス代を一方的に吊り上げて、新しい料金の支払いを要求する。

B.ウクライナは、契約で決められた料金での支払いを主張し、新料金での購入を拒否する。

C.それに対してロシアがガスの供給を停止し、ウクライナを追い込もうとする。  

3回とも同じシナリオなのだが、2006年と2009年の時、ガスを止められたウクライナは、最終的に圧力に屈し、不当に要求する新料金の支払いを認め、本来不要な契約改定に調印せざるを得なかった。しかし、2014年の場合は、ガスが止められても自らの立場を貫き、その正当性を仲裁機関に訴え、結果として勝ったのである。

「SPA!」より

この3度ともが同じ構図であったというのがグレンコ・アンドリー氏の主張である。この点は裏をとれていないが、少なくとも2014年の時点の話はロシア側の嘘だったということが明らかになった。

ロシア:Nord Stream 2に対して加熱する欧米の攻撃とロシア・ウクライナガストランジット契約交渉の経緯と妥結を振り返る
JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト

別の資料として、石油・天然ガス資源情報のサイトの記載を引用しておく。

今回の交渉結果については、契約期間及び輸送容量では双方の要求の間を採った結果になっている。ウクライナに支払われるトランジットタリフについては最大の争点になったと考えられるが、これが1.9%の上昇幅となり、インフレを加味したとしても驚くほどの上昇ではなく、また輸送容量ではNaftogazが望む量(60~90BCM)を大幅に下回る量(年平均45BCM)で妥結している。また、ストックホルム仲裁裁判所で確定したGazpromに対する罰金(29.18億ドル)の支払いを除き、まだ最終決定に至っていない双方の全ての賠償請求訴訟を取り下げ、また、Naftogazが欧州等で進めるGazpromに対する資産等差し押さえを取り下げることとなった。総体的に見れば、ロシア側に軍配が上がったと見ることもできるだろう。

「JOGECのサイト」より

ここの記載から、ウクライナに対してロシアに29.18億ドル支払えという決定が出た事が確認できる。この文章の下の方ではその経緯についても触れられているが、「2. ロシア及びウクライナによるガストランジット契約交渉の推移と妥結」という項目で詳細に説明が加えられている。

それによると、グレンコ・アンドリー氏の説明は正しかったと理解出来る。

尤も、これはストックホルム国際仲裁裁判所の判決の内容がその根拠として示されているのだから、そこの認定に誤りがあればこの主張は崩れそうなものだが、残念な事にロシア側が提出した契約書の内容と齟齬があるよと言うのがそもそもストックホルム国際仲裁裁判所の判断の根拠なので、そうすると、契約違反をやらかしたのは寧ろロシアだとことになり、ロシアもそれを受け入れている。

この事は、ウクライナがロシアのパイプラインからガスを盗んだという話を直接的に否定するとは言えないものの、少なくともガス料金の未払いがあったのではなく、ウクライナ側にロシア側が支払わねばならぬ料金とガス料金を相殺してなお、ロシア側から支払うべきお金が支払われなかった事は事実であることを意味する。

ドイツなどの過剰な反応がこれで説明できる

この事を下敷きに考えると、ドイツが歴史的な決断をした背景には、ロシアから巨額の天然ガスを買い付けている「上客」であっても、ロシアの一方的な難癖によって軍事侵攻されるリスクがあるという「恐怖」が理解出来る。

スウェーデンやフィンランドの反応も、腑に落ちる。

そして、日本に置き換えて見ると、支那との経済的な関係を続けて、双方に利益のある状況を続ける限りは、「友好」が続くという妄想は、同じ構図によって破壊されるだろう。

最後になるが、2019年の時点で既に報道ベースでも紹介されていたハズなのに、改めて事実を誤認していた点をお詫びしたい。

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