フィンランドから来た美人首相とその狙い

欧州ニュース

先日お帰りになった様だが、フィンランドの女性首相が来日していた。北欧で女性のトップというのは珍しくはないのだが、日本だとちょっとビックリするよね。若い女性の首相、それがダメという話ではなくって、日本では女性が政治に参画するという文化が一般的ではないから。

そういった事情もあってか、イマイチニュースにはなっていなかったようだが。

日・フィンランド首脳会談及びワーキングディナー

令和4年5月11日

5月11日、午後6時5分から約65分間、岸田文雄内閣総理大臣は、訪日中のサンナ・マリン・フィンランド共和国首相(H.E. Ms. Sanna Marin, Prime Minister of the Republic of Finland)と日・フィンランド首脳会談を行い、ワーキングホリデー協定署名式及び共同記者発表の後、午後7時35分から約60分間、ワーキングディナーを行ったところ、概要は以下のとおりです。

「外務省」より

外務省のサイトでは、こんな感じのワーキングディナーが行われたという紹介がなされていて、ウクライナ情勢中心に話が行われ、インド太平洋戦略に関しても理解をして貰ったという風に広報されていた。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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元々予定があったからこの時期に来たわけではない

フィンランドの歴史的な方針転換

フィンランドは前回紹介したように、スウェーデンと共にNATOへの加盟を目指している。ちなみに、スウェーデンのトップも女性だ。

前回も説明したように、フィンランドにとってはこの決定は歴史的な政策の大転換であり、フィンランドの国内にも激震が走るような大事件である。

何しろ、これまでは政治的には親露政策をとってきたからだ。歴史的経緯があって、ロシアに蹂躙され、親露路線をとることで国家経営をしてきたからだ。

北欧2国、週内にもNATO加盟申請 歴史的転換点

2022/5/17 00:07

北欧スウェーデンのアンデション首相は16日の記者会見で、北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を正式に表明した。フィンランドも加盟申請を正式に表明しており、両国は週内にも申請する見通し。ウクライナに侵略したロシアの脅威が高まる中、軍事的中立を掲げてきた北欧2カ国は安全保障政策を見直す歴史的転換点を迎える。

「産経新聞」より

そして、今週中にもNATOへの加盟申請を出すとのこと。

この決定には唯一、トルコが反対しているものの(注:クロアチアも反対する声はあるが、多分、賛成するだろう)、トルコは自国の権益拡大を目論んで反対をしているのであって、ある程度、フィンランド、スウェーデン側の譲歩が得られれば、NATO加盟反対を取り消す公算が高い。

トルコも親露政策をとっているものの、NATOの一員である。流石にその立場でいつまでも反対するとは思えない。

国内での議論は必至

そうすると、フィンランド国民の意識はどうなんだろう?ということは気になる。

長年、NATO加盟を政治的に回避してきたのに、ここに来ての方針転換はどのように感じるか、ということだ。フィンランド国内で「ロシア批判はタブー」という時代が長く続いたそうなので、ロシア陣営から離れるというのは、相当大きな事件だからだ。

これまで“軍事的中立”の立場を貫いてきたフィンランドの“歴史的な決断”について、国民に聞きました。

NATO加盟に賛成する人 「安全保障や他国からの支援が必要なので、(NATO加盟は)良いことです。でも、ロシアがどう反応するか、とても恐ろしいです」

NATO加盟に賛成する人 「(今すぐ)脅威というわけではありません。しかし、今の戦争が終わったら、次に何が起きるのかはわかりません」

「yahooニュース」より

このような街の声を紹介しているメディアもあったが、何処まで信頼できるのか?という疑念はあるものの、少なくともフィンランド国民にとって、「ウクライナの次は我が国」という強い危機感があることは感じられる。

ロシア軍が次のターゲットにするのはフィンランドの可能性があると、フィンランド国民の多くが確信をしているという意味だ。

反対論は無かったのか

ただし、この記事では反対意見が出てはいないが、これまで親露派で国内の意識を纏めてきた背景を考えると、反対意見があったのは確実である。

スウェーデンでNATO加盟反対デモ

2022年5月15日 13:02

スウェーデンの首都ストックホルムで14日、与党・社会民主労働党の本部前に数百人が集まり、同国の北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対するデモを行った。

スウェーデン議会は13日、NATO加盟により北欧での紛争発生リスクが低減されるとする安全保障政策に関する報告書を公表した。

「AFP」より

これはスウェーデンでのNATO加盟反対デモだが、当然ながらフィンランドでも似たような動きはあったハズだ。

「これまで親露派でやってきたのに、態度変更したらロシアが攻めてくるかも知れない」という危機感はあるのだろう。

だが、根底にあるものはどちらもロシアの脅威である。

フィンランドのトップは、ロシアに庇護を求めるよりもNATOへの庇護を願う事の方がリスクが低いと、そう判断したのだろう。

岸田総理大臣から、フィンランドが伝統的な対露外交を見直し、NATO加盟に向けた議論も進めていることに理解を示しつつ、日本も対露政策を大きく転換すると共に、自国の防衛力及び日米同盟の強化に努めている旨述べました。これに対し、マリン首相から、NATO加盟を巡るフィンランド国内の動きにつき説明がありました。

「外務省」より

岸田氏もその点については少し踏み込んだようで、フィンランドの首相マリン氏からはそれについての説明もあった模様。

東京大学で講演

ところで、フィンランドの首相が訪日する日程は以前から決まっていたようだが、国内で国の命運に関わる大きな決断をした時に敢えて日本に来た理由は一体何だったのか?

大変な時期なので、訪日を変更するという選択肢もあったハズなのだ。

そのヒントは、東大での講演にあったように感じた。

フィンランド首相、NATO加盟に意欲 「侵略に対する結論出す」

2022年5月11日 13時47分

訪日した北欧フィンランドのサンナ・マリン首相が11日午前、東京大学で講演し、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、フィンランドが「北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請するかを決めようとしている」と述べ、NATO加盟へ意欲を示した。

今回の侵攻をうけ、ロシアと約1300キロにわたって国境を接するフィンランドでは危機感が高まり、NATO加盟を支持する世論も高まっている。

これまでは「軍事的中立」の立場からNATOに加盟してこなかったが、マリン氏は講演で「ロシアの侵攻をうけ、世界のあり方が今後大きく変わっていく」と強調。「ロシアによる侵略に対する結論を近く出す。NATOに加盟申請するかを決めようとしている」と語った。

「朝日新聞」より

もう一つは、岸田氏に対するインタビューで出ている。

「日本と価値観を共有」 フィンランド首相一問一答

2022年5月6日 18:00

――訪日の目的は。岸田文雄首相と会談します。

「フィンランドと日本の2国間関係をさらに強化したい。フィンランドと日本は民主主義や法の支配など同じ価値観を共有している。岸田首相との会談では、2国間協力のほか、ウクライナ情勢と欧州の安全保障も取り上げることになるだろう。国際社会がロシアの行動を非難し、戦争に対して毅然とした態度でのぞむことを望む」

「日本経済新聞」より

フィンランドにとって、ロシア軍のウクライナ侵攻は、国家の方針を転換するほどの大きな意味を持っていた

つまり、ロシアとウクライナは極めて距離が近かったのに、ロシア軍が民主化したウクライナのNATOへの加盟方針に気に入らずに攻め込み、ウクライナがNATOに加盟していなかったばかりに西欧諸国はウクライナの支援を当初見送っていた。

西側諸国は、ウクライナ情勢が悪化する中で、経済制裁に踏みきり、更には武器供給を行うようになったが、その時点でウクライナの国土はロシア軍に蹂躙されていたのである。流石にフィンランドがこの状況を見て、「自分の国も同じ運命に」と恐れるのは無理も無い。フィンランドはウクライナと似たような立ち位置にいたからだ。

そこで、スウェーデンと共に、NATO加盟を選んだ。一国だけでは不利なので、二国同時に申請することでロシアの注意を分散させる狙いがあるのだろう。

「ロシアの侵攻をうけ、世界のあり方が今後大きく変わっていく」というのは、そういう文脈で極めて現実的な判断をしたと、その様に理解出来、国の安全保障を考える上ではNATO加盟が正解であると、その様に考えた訳だ。

そして、ロシアの戦力を分散させる意味で、ロシアに国境を接するアジア諸国で民主主義の国である日本を選んで「支援をしてくれ」と訴えた。つまり、有り体に言えば日本に「フィンランドの弾避けになれ」という意味である。

これは何も悪い意味で言うのではなく、かつて日本が日英同盟にて狙い、実際に成果が得られた方法に非常に良く似通っている。ロシアを挟んだフィンランドの反対側でもロシアを牽制してくれと、そういう話なのだ。国土の広いロシアにとっては反対側でも牽制されるのは実に厄介だからね。

エネルギー政策への協力要請

そして、もう一つの理由がこちらだろう。

マリン首相から、二国間関係は素晴らしい状態にあり、5G/6Gなどデジタル化や先端技術等の分野における連携を一層促進していきたい旨述べました。岸田総理大臣から、二国間経済関係は、日EU・EPAの発効後、先端技術や再生可能エネルギー等の分野で近年発展しているとした上で、科学技術分野における連携も強化していきたい旨述べるとともに、EUによる日本産食品への輸入規制の早期撤廃に向けたフィンランドの協力を求めました。

「外務省」より

フィンランドは、寒冷な気候条件により国民一人当たりの電力消費量はEU域内でもトップクラスとエネルギー消費量が多い。だが、エネルギー資源に乏しいのでロシアから天然ガスを輸入していたのだ。

しかし背に腹は代えられないので、原子力発電を進める方針になった。これはロシア軍がウクライナへ侵攻する前の話である。

[フィンランド] フィンランドの緑の党、原子力を認める現実路線へ転換

2021年10月26日

2021年10月11日付の報道によると、フィンランド政府は持続可能なエネルギー源として原子力発電を認めるよう、欧州連合に働きかけていくことになった。

「電気事業連合会」より

で、新規の原子炉を作るのに何処に声をかけたかというと……。

フィンランド、ロシアのロスアトム製の原発導入計画への建設許可付与を一時停止。事業主にロスアトムも出資。EUの経済制裁の動向を見据えて(RIEF)

2022-02-28 16:42:23

ロシアのウクライナ侵攻の影響で、フィンランド政府はロシアのロスアトム建設中の原子力発電所計画を一時停止すると発表した。ロシアに対するEUの広範囲な経済制裁が発動される可能性を踏まえ、戦略的に機微な位置にある原発の建設を棚上げする。経済担当相のMika Lintila氏は「今回の紛争の結果として、原発計画も少なくともかなりの期間遅れることになる」と述べている。

「Research」より

ロシアだった。

その時点では当然の判断だったはずだが、ロシア軍のウクライナ侵攻によって潮目が変わり、流石にお願いするのには問題があるという話に。

で、技術力のある国に声をかけるとしたら、ここからは想像になるが日本に打診されたのではないか?と。

イギリス 最大8基の原発新設 価格高騰踏まえ新エネルギー計画

2022年4月8日 8時05分 

ロシアのウクライナへの軍事侵攻をきっかけにしたエネルギー価格の高騰などを踏まえ、イギリス政府は、原子力発電所を最大8基新設することを柱とする新たなエネルギー計画を発表しました。

「NHKニュース」より

実はイギリスでも原発の新規建造を画策していて、小型原子炉SMRの導入を見据えて検討をしているというニュースがあった。

フィンランドとしても、この計画に日本が関与できるだけの技術力があることは知っているのだろう。イギリスでの原子炉建造受注は失敗したものの、原子炉建造能力があることの宣伝にはなった。その事をフィンランドが知らないとも思えない。

フィンランドでは、再生可能エネルギー発電を増やそうにも、寒冷地でできる事は限られている。日本だけを期待しての事ではないのだろうけれど、フィンランドは多角的に外交を進める上で、日本との関係強化はプラスになると判断したのだろうね。

追記

このブログで言及を忘れていたのだけれど、実はドイツ首相も日本に来ているんだよね。

ドイツ ショルツ首相 きょう来日 岸田首相と会談 連携強化へ

2022年4月28日 16時21分 

ことしのG7=主要7か国の議長国、ドイツのショルツ首相が28日、日本に到着し、岸田総理大臣と首脳会談を行います。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア、それに、海洋進出を強める中国への対応をめぐり、日本とともにどのような姿勢を打ち出すかが焦点です。

~~略~~

ドイツは、メルケル前首相が日本より中国を多く訪れるなど中国との関係を重視する姿勢が目立ちましたが、近年は中国の人権問題や海洋進出などへの警戒感が高まっていて、日本との間で中国への対応についても認識を共有したい考えです。

日本はショルツ首相のアジアで最初の訪問国で、ドイツ政府は、今回の訪日について「連帯の重要なシグナル」だと強調していて、両国関係の発展にどう弾みをつけるかや、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア、それに中国に対してどのような姿勢を打ち出すかが焦点です。

「NHKニュース」より

方針の大転換をした国ドイツだが、フィンランドやスウェーデンの先輩とも言える。

ヨーロッパは数年前までは支那との関係重視でやってきたが、結局、その路線は崩壊してしまった。したがって、日本との関係を強化し、多分、この先にあるのが台湾だろう。半導体の確保など、工業的なメリットを鑑みれば、先ずは与し易い日本との関係強化を図っておきたいという狙いは分かる。

コメント

  1. こんにちは。

    ふと、思う事があります。
    「眠れる獅子」を倒した国。
    「イワン雷帝」を倒した国。
    太平洋を挟んで、アメリカと四年、ほぼ対等に戦った国。
    当時から、戦闘機、戦車、戦艦を国産できた、アジア唯一の国。
    原爆二発と焼夷弾の絨毯爆撃で焼け野原の更地から復活し、未だに世界第三位の経済国。

    それが、極東アジアの島国。
    ロシアとも国境を接している。
    中国とも国境を接している。
    事を荒立ててこそいないが、靴を舐めるような事もせずに※、こんな極東の島国が独立独歩を維持出来ている。

    陸地で国境を接する欧州各国、ランドパワーの脅威を身をもって知る国々からは、地球の裏側のこの国は、そういった「良い意味でバケモノ」として見られているのではないか。
    しかしながら、この国に生まれ育った者は、その事をまったく気付いていない、気にすることも無い。

    そんな状況なのでは無いか、と。

    いち早くそれを見抜いたのは、アメリカであり、イギリスであったと。
    そして今、歴史的にロシアの脅威にさらされている北欧が、にじり寄ってきたのではないか、とも。

    エビデンス無しの憶測に過ぎませんが、少なくとも、我々日本人は、日本という国がどういう地政学的かつ歴史的かつ経済的位置にあるか、もっと知るべきである事は間違いないと、これだけは強く思います。

    ※靴を舐めるような政党が存在し、また、政権与党もそれに近いことをしていた過去があることは忘れてはなりませんが。
    まあ、そのような政党が存在すること自体、この国の政治が開かれていることの証左なのですが。

    • 「平和ボケ」と言われる国民性ではありますが、裏を返せば「平和ボケ」でいられる程度には今までは幸せだったと言うことでしょう。
      ですが、平和は次の戦争のための準備期間である事を、しっかりと理解しておかねばならないと思う次第です。
      それに成功したのがウクライナであったと、後の歴史家の評価でそう言われるような時代が来るかも知れませんが、日本も同様に「準備」をすべきであります。
      「備えなければ嬉しいな」とアホな事を言った人がいたようですが、備えが無いと万が一に対応出来ない事実から目を背けてはいけないと思います。

      日本は、過去の幸運に安穏とせずにしっかり準備すべきだと、その様に思います。

  2. >国内で国の命運に関わる大きな決断をした時に敢えて日本に来た理由は一体何だったのか?

    まさにご案内の通りで、自分もマリン首相がいまナゼ日本に?と訝しがってきました。
    フィンランドの要望は、大凡以下のようなことでしょうか。
     
    ①日本とフィンランドの二国間関係を見直して強化したい(総論)
    ②対ロシアで日本に牽制を頼みたい(各論)
    ③軍事・経済分野の関係を発展させたい(各論)

    スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が既成事実化して、いままで日本は北欧を見習えと鼻息荒かったリベラルのみなさんがダンマリですが、北欧が「武装・集団安保」体制に大転換したいまこそ、日本は北欧に見習えという主張には大いに賛同いたします。

    フィンランド人のPetri Mäkelä (@pmakela1)氏によりますと、フィンランド国防軍は平時にはわずか22000人規模ですが、戦争になれば280000人を即座に動員できるそうです。日本はフィンランドに学ぶことが沢山ありそうです。

    • フィンランドにしてもスウェーデンにしても、有名になりましたがスイスにしても、超軍事国家なんですよね。
      というか、極めて合理的なのでしょう。
      そこまで弾圧された過去があると言うべきか。

      メディアも突っ込んで報じてくれればいいのですが、そういうことはあまり触れたがりませんよね。