フィリピン大統領選挙で独裁者の息子が当選確実か

フィリピン

本日、投票が行われて、一両日中には結果が判明すると思われるが、実のところ、結果はほぼ確定的だと云われている。

フィリピン大統領選挙 投票始まる

2022年5月9日 7時26分

フィリピンでドゥテルテ大統領の任期満了に伴う大統領選挙の投票が9日から始まり、現政権の政策を引き継ぐとしている故マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス氏が支持を大きく広げる中、現政権の強権的な手法を批判する副大統領のロブレド氏がどこまで追い上げを見せるのか、注目されます。

フィリピン大統領選挙の投票は日本時間の9日午前7時から、およそ3万7000か所の投票所で始まりました。

「NHKニュース」より

個人的には、現大統領のドゥテルテ氏の娘が出馬する噂があったので、ほぼ確定だろうと思っていたのだけれど、ニュースを追いかけていなかったので、彼女がいつの間にか副大統領への立候補に切り替えていたのを知らなかった。

そして、もう1つ、驚くべき事に現状でほぼ当選確実と目されている人物は、フェルディナンド・マルコス氏だという。

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フィリピンの大統領は誰がなる?

独裁者の息子

フェルディナンド・マルコス氏は、過去のフィリピン大統領であったフェルディナンド・マルコス氏(フェルディナンド・エドラリン・マルコス氏としたいところだが、長いので以降はパパ・マルコス氏とする)の長男(名前が同じなのでややこしいが)で、「ボンボン・マルコス」(以降、息子はボンボン・マルコス氏とする)と呼ばれる人物である。

大統領の息子が大統領選挙に出る事自体は、さほど珍しくは無い。

が、今回のこの選挙で、ボンボン・マルコス氏がトップ当選を果たしそうな情勢は、オドロキをもって迎えられている。

その理由は、パパ・マルコス氏をして用心棒ポイントを稼ぐという遊び方だった。が第10代フィリピン共和国大統領としてその職にあったとき、独裁者として君臨していたからである。20年にわたってフィリピンの権力の座に就いていたパパ・マルコス氏は、1986年のエドゥサ革命によって打倒され、本人はアメリカに亡命。

その時使っていた宮殿に残されたイメルダ夫人の私物は、1060足の靴や15着にミンク・コート。508着のガウン、888個のハンドバッグと、後にイメルダ・コレクションと呼ばれる贅沢品であり、パパ・マルコス氏の不正蓄財の象徴として宣伝された。

彼の時代は、「米と道路」を重点政策として積極的なインフラ整備も行ったために、フィリピンの近代化に大きな実績を残したのは事実である。また、国内産業の工業化や西側自由世界との貿易自由化を促進した功績もあり、支那の脅威に対して軍事力で対抗した実績もある。

ただ、支那の影響を受けて毛沢東思想に傾倒した共産武装組織に対して、徹底的な弾圧を加え、ついにはフィリピン全土に戒厳令を布告(1972年9月21日)。ここからパパ・マルコス氏の独裁政治が始まる。

戒厳令は9年間も続けられ、大幅な軍事力の増強が行われた。そして、戒厳令下で進んだのが政治腐敗で、後にクローニー(縁故・取り巻き)資本主義などと揶揄されるにいたる。

尤も、1981年には戒厳令が解除され、パパ・マルコス氏は大統領を辞任。新憲法の下で新たな大統領選挙を実施し、再び大統領の座に返り咲いている。しかし、肝臓疾患などの影響で政務に支障が生じて議会を欠席することが多くなる1985年頃には、政治の混乱と相まってその権力は衰退し、国際社会からの圧力が強くなったことで、パパ・マルコス氏は再び辞任に追い込まれる。

そして、大統領選挙でパパ・マルコス氏の不正選挙が明るみに出ることで、亡命せざるを得なくなった。

ボンボン・マルコス氏はそうした人物の息子なのである。

暗黒時代の美化

では、何故そんな人物をフィリピン国民は支持しているのだろうか?

マルコス氏はかつて独裁体制を敷いた故マルコス元大統領の長男で、一部では反発も出ていますが、SNSを使って「父はインフラ開発で経済を発展させた」などと主張し、独裁体制を経験していない若い世代を中心に支持を広げています。

また、大統領選挙とあわせて行われる副大統領選挙に立候補したドゥテルテ大統領の長女サラ氏と一緒に選挙活動を行い、現政権の支援者を取り込むのに成功しています。

「NHKニュース”フィリピン大統領選挙 投票始まる”」より

理由の1つが、SNSの利用である。

ボンボン・マルコス氏の支持層は若者のようなのだが、パパ・マルコス氏の「良い面」だけをSNSを使って宣伝した上で、自分も同じ方針であるという風に宣伝しているようなのだ。

「暗黒時代の美化」に募る危機感…SNSでマルコス氏巡る情報合戦 独裁した父を「再評価」 フィリピン大統領選

2022年5月7日 06時00分

 4月下旬、マニラ郊外の広場で開かれた大統領選の候補者集会。スマホが3つ装着されたライブ配信用の機材を手にした男性が、人混みの中で次々にインタビューを仕掛けていく。

 「暮らしをよくしてくれるのは誰?」

 「次のリーダーにふさわしいのは?」

 「ボンボン、ボンボンしかいない!」

ボンボンとは、世論調査で首位に立つフェルディナンド・マルコス元上院議員(64)の愛称だ。会場のそこかしこで、「ブロガー」と書かれたIDカードを首からさげた、陣営お墨付きの若者らが群衆をあおり、場を盛り上げていた。

~~略~~

「既存メディアが後手に回ってしまったことは否めない」。フィリピンを代表する放送局「ABS―CBN」のプロデューサー、マリエラ(55)は悔しさと焦りをにじませる。

ABS―CBNは2年前、政府に免許更新が認められずテレビやラジオが放送停止となった。政権に批判的な報道が影響したとの見方が強い。ドゥテルテ政権下では、メディアの恣意的な選別や排除が進んだとされ、ソーシャルメディアの存在感がいっそう増した。

「東京新聞」より

どうやら、既存メディアは後塵を拝しており、ボンボン・マルコス氏はSNS中心に爆発的な人気を獲得している模様。

確かに、パパ・マルコス氏の時代は、独裁政治を展開したという事実はあるものの、共産主義の魔の手からフィリピンを守り抜いたという側面もあって、悪いことばかりではないというのは事実なんだろう。ただ、不正選挙に手を染めたのもまた事実なので、パパ・マルコス氏が権力の座にしがみついた実態はあったのだろう。

「暗黒時代の美化」という程だったかは、その当時を生きたフィリピン人ではないのでサッパリ分からない。不安はあるんだろうけれど。

ボンボン・マルコス氏の方針が不明

さて、過去のパパ・マルコス氏の政治手腕がどうだったか、を考えると、それなりの人物であっただろうと言うことは予想できるのだが、息子が同じ政治手腕を振るえるかというと、多分無理だろう。

人柄は温厚で、積極的な自らの方針を示さない人物らしいからだ。

にもかかわらず人気を博している理由は、冒頭で少し触れたのだけれどもドゥテルテ氏の存在が影響していると云われている。

フィリピン大統領選、独裁者の息子が独走 ドゥテルテ氏路線継承訴え

2022年5月7日 14時00分

フィリピンで5月9日、大統領選が投開票される。世論調査では1986年まで独裁体制を敷いた故マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が支持率でトップを独走。人気が衰えない現職のドゥテルテ大統領の路線継承を掲げ、支持を広げる。

~~略~~

マルコス氏は公開討論会に姿を見せず、父の時代の圧政が話題になることを回避。SNSを駆使して若い世代に浸透を図る。副大統領選に立候補しているドゥテルテ氏の長女サラ氏(43)とタッグを組み、ドゥテルテ政権の後継者とみなされていることも人気の要因になっている。

「朝日新聞」より

そう、副大統領戦に立候補しているドゥテルテ氏の長女サラ氏の存在が大きいのだ。SNSではボンボン・マルコス氏とサラ氏の二人で投票を訴えているらしい。

そんなボンボン・マルコス氏の政策は、ドゥテルテ氏の路線の継承するという以外に目立った政策は見当たらない。

ただ、フィリピンにおけるドゥテルテ氏の支持率は今も6割以上と高く、ドゥテルテ氏自身はその言動からかなりの独裁的な政治を行うのでは無いかとも云われていたが、結果的にはなかなか上手く立ち回ったように思う。また、2022年大統領選挙または副大統領選挙への出馬を検討したものの、憲法違反の疑いがあるとして出馬を撤回し政界からの引退を表明しているといった常識的な側面も持ち合わせているように見える。

とはいえ、麻薬撲滅には執念を感じさせる強硬な姿勢を見せ、フィリピン国内に蔓延る麻薬を殲滅する為に、逮捕現場で警察官が麻薬犯罪に関わる容疑者を射殺しても良いという方針を示し、フィリピンの法律を考慮しても違法性が高い。故に、ドゥテルテ氏が退任後、逮捕されて罪に問われる可能性は高いだろうと云われている。

つまり、ボンボン・マルコス氏が大統領になれば、多分、ドゥテルテ氏の操り人形的な政治をしていくのではないかと。ドゥテルテ氏は、それなりに上手く立ち回っていた気はするんだけれど、ボンボン・マルコス氏が矢面に立って舵取りする事が上手く行くかは未知数だ。それは、フィリピン国民にとって幸せな未来とは云えないと思う。

信用出来ない男

そして、ドゥテルテ氏自身、こんな発言をしていた。

ボンボン氏はオックスフォード大卒と称していたが、実は卒業していないことがその後判明した。職歴としては知事のほか、上下院議員がある。マニラの街角のポスターは「公職30年」と経験を謳うが、政治家としての業績をすぐに説明できる人は多くないだろう。逆にいえば、「公職」以外の定職についたことはなく、ボンボンという名が体を表すように、「息子」であることが最大のアイデンティティーであり、選挙のキャンペーンのウリでもある。

2021年10月、ボンボン氏が大統領選出馬を決めたとき、ドゥテルテ大統領は「私は彼を信用していない。海外で学び、きれいな英語で演説できるが、中身は甘やかされて育った一人息子だ。危機の時にリーダーシップを期待できない弱いリーダーだ。侮辱ではない。真実だ」と評した。

「東洋経済」より

恐らくだが、このドゥテルテ氏の評価はさほど間違っていないだろう。

正しく、ボンボンなのだ。

候補者討論会はすべて欠席、厳しい質問をしそうなメディアとの会見は拒否していることもあって、自身の政策も曖昧模糊としている。例えば日本政府も強い関心を持つ南シナ海問題にどう対応するのか、はっきりしない。選挙演説などでも「ドゥテルテ政権の継承」「UNITY(団結)」と言っていることぐらいしか記憶に残らない。

討論会や記者会見、インタビューなどに出ないのは聞かれたくないことや説明できないことがたくさんあるからだろう。父親の時代の人権弾圧や汚職、自身の学歴詐称に加え、リベラル系メディアや対抗陣営は、最高裁で確定した相続税2030億ペソ(約5000億円)の支払いを拒んでいる点を追及している。これほどの巨額の税金を滞納している候補者が選挙活動で多額の金を使っている事態は、外国人である私の理解を超えるが、多くのフィリピン人は気にする様子もない。

「東洋経済」より

この東洋経済の記事での評価はかなり辛辣だが、実際に、ボンボン・マルコス氏の方針は未だに不明であることは事実だし、SNSではパパ・マルコス氏の光の面だけをクローズアップして、或いは捏造をしながら宣伝しているらしい。そしてそれは功を奏しているようだ。

その中でマルコス家は、選挙のノウハウをドゥテルテ陣営から学んだとみられる。ドゥテルテ氏を地方都市の市長から政権トップに押し上げる大きな力となったのは、米国のトランプ前大統領張りのSNS戦略である。前回の大統領選以来、ドゥテルテ政権や陣営、その支持者らはSNSで真偽の入り混じる情報を大量に発信して大統領とその政策を美化する一方、政敵を徹底的に攻撃してきた。

マルコス陣営もその手法をいち早く取り入れた。父の時代を「フィリピンの黄金期だった」「一家は歴史の被害者」とする宣伝を大量に発信し続けている。支持者たちに聞くと、ことごとく「お父さんの時代は治安が良く経済もいまよりずっと良かった」という。

「東洋経済」より

そして困った事に、マルコス陣営の「あの時代は良かった」という認識は、一部の人々にとっては真実なのである。

支那に近づく?

とはいえ、フィリピン国民の選択は支持すべきであり、選挙の結果、ボンボン・マルコス氏が大統領になったのであれば、彼の政治手腕を期待するより他に無い。

問題は、フィリピンと支那との関係である。

マルコス氏、南シナ海で「中国と関係維持」

2022/01/27(木)

フィリピン大統領選の最有力候補であるフェルディナンド・マルコス元上院議員は25日、ラジオ局のインタビューで、中国と領有権を争う南シナ海について「軍事衝突を避けるため、中国との関わりを継続的に維持する」と述べた。複数の地元紙が伝えた。

「NNA ASIA」より

ボンボン・マルコス氏の方針は、「支那との衝突を避けること」であって、「フィリピンの国土・国益を守る」ということが主眼に置かれていない感じがするのだ。ここで「感じがする」というのは前述したように「何がしたいかよく分からない」という事に起因する。

したがって、早い段階で岸田氏とフィリピン大統領の接触を実現して、フィリピン政府の方針と今後の関係構築を図らねばならない。

岸首相、フィリピン外相・国防相と面会 対中国念頭に結束

2022年4月8日 21:45

岸田文雄首相は8日、首相官邸でフィリピンのロクシン外相、ロレンザーナ国防相と面会した。東・南シナ海に海洋進出する中国への対処を念頭に結束を確認した。

首相はロシアによるウクライナ侵攻を非難し「国際社会がこうした暴挙を許容しないとの確固たる意思を示す必要がある」と述べた。ロクシン、ロレンザーナ両氏はウクライナ情勢への深刻な懸念を表明した。

「日本経済新聞」より

岸田氏は4月にアクションを起こしているが、大統領選挙後は改めて対応すべきなんだろうと思う。岸田外交はなんとなく滑っている事が多いので、不安を隠せないのは事実なんだけどさ。

ただ、現実問題として日本のシーレーンを守る為には、フィリピンの存在は大きい。出来れば、フィリピンも二本の味方になっていて欲しいところ。林氏も不安が大きいので、ここは岸氏の外交力に期待するしかないのかも知れない。

防衛方面では、日本とフィリピンはもう少し密に強力出来る余地があるからね。ボンボン・マルコス氏にそれが理解できる能力があると良いんだけどね。ともあれ、当面はこちらの方も気にしておくべきだと思う。

追記

えーと、論点を1つすっ飛ばしていて、Twitterでコメント頂いたのを見てそのことを思い出したので、追記しておきたい。

ボンボン・マルコス陣営がSNSで優位に戦えている理由だが、こんな所に理由が。

この話は、フィリピンの人口ピラミッドを見て頂くとより一層分かり易いと思う。

このデータは2019年のもので、近年は若干新生児の誕生傾向が落ち着いているが、依然としてしっかりとしたピラミッドの形となっている。

SNSでの宣伝効果が高い理由はこういった年齢構成になっていることが影響していると云われている。

こうした年齢構成になっていることと、「強いリーダー」を求める傾向は関係があるようで、ドゥテルテ氏が相当えげつない政治手法をとってはいたけれども人気が高かった理由も年齢構成が若いことと関連している模様。

追記2

どうやら、当選確実となった模様。

フィリピン大統領選、マルコス氏の当選確実

2022年5月9日 22:08 (2022年5月10日 5:12更新)

9日投開票のフィリピン大統領選は開票率78.8%の段階でフェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が2548万票を獲得し、2位のレニー・ロブレド副大統領(57)の2倍以上の票を得て当選を確実とした。複数の地元有力メディアが報じた。

「日本経済新聞」より

圧勝と言って良い結果だったので、事前の支持率の高さがそのまま結果に出た選挙であったと、その様な理解で良さそうだ。

彼の政策がどんななのかは、今後発表されるだろう。

コメント

  1. こんにちは。

    >では、何故そんな人物をフィリピン国民は支持しているのだろうか?

    まったくもってエビデンスのない、個人的な感想ですが。
    清廉な議会制民主主義が根付いていないところでは、「この人なんか強そう」「この人について行けば大丈夫」と思わせた者勝ち、という傾向が強いように思います。
    #そも、清廉潔白な議会制民主主義が根付いている地など、この浮世のどこ探してもありゃしませんが。
    好例がロシアで、あそこは常にそんな感じの指導者に付き従っている印象があります。
    かつての独裁時代を知らない世代が多数派というのも確かにあるでしょう。

    彼がここから聖人君主にジョブチェンジする可能性もありますから、そこはまだ評価は置いておくとしても、アジアにおいて、中国という全てにおいて強大なランドパワーを無視出来る国は存在しない、というのが何より辛いですね。
    フィリピンもインドネシアも、苦渋を舐めさせられつつも逆らいきれないという……
    その中国が、果たして内患外憂のこの状況からどう出てくるか。
    また火種の要素が増えただけにしか思えません。

    ……にしても。
    ボンボン・マルコスとは言い得て妙としか……

    • 何処かで見た記事にも似たような事が書いてありました。
      とにかく「強いリーダー」に憧れるのだと。
      だからこそ、前大統領はあれだけ強硬なことをやっても支持されたわけですね。ボンボン・マルコス氏の手腕や如何に?実はちょっと期待しております。でも、支那に喰い破られないようにだけ注意頂きたいかなと。