【福音となるか】高温ガス炉の電源喪失テストで安全性を示す

原子力発電

日本で新たな原発はもはや建設は難しいだろう。でも、高温ガス炉だったらOKになるのかな?

新原発の安全証明 高温ガス炉が本領示した

2022/2/4 05:00

全電源喪失に遭遇しても原子炉の溶融などは起き得ない安全性が実証された。日本原子力研究開発機構が1月28日、高温ガス炉「HTTR」(熱出力3万キロワット、茨城県大洗町)で実施した国際共同試験の結果である。

「産経新聞」より

記事は2月4日付けの産経新聞を引用しているが、余りニュースにはならなかったようで僕もこのブログでは取り扱わなかった。が、ちょっと続報が入ったのを切っ掛けに記事として整理してみることにした。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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高温ガス炉は第4世代

炉心冷却喪失試験はSBOとは違う

映画としての評価がどうかという点は若干気になるけれども、個人的には「Fukushima 50」は良かったと思っている。好きな俳優陣が講演していたし、故吉田昌郎氏を含めた当時の職員に対する綿密な取材に基づく描写であったのもよかったと思う。同じ題材を取り扱った「太陽の蓋」などと比べてはならない。

で、福島第1原発を襲う地震に対する描写と、そのあと発生した津波によって全電源喪失(SBO)となってもたらされる悲劇。

涙なくして語れない話ではあるのだが、残念なことにこれは物語ではなく現実である。日本全国にある原発が全電源喪失に陥ると、類似した状況、あるいはもっと酷いことになる可能性があるのだ。故に、2重3重の安全措置を施して、電源喪失が起きないように電源を確保しているのが原子力発電所の実態なのだ。

実際、福島第1原発は1号機から6号機まであるのだが、5号機と6号機は同じような立地にあったが事故には至らなかった。これは当時停止中であったからという理由ではなく、電源が確保できたからという理由に他ならない。

当時、1・2・4号機が全電源喪失、3・5号機が全交流電源喪失に陥り(3号機は最終的にバッテリーが枯渇し全電源を喪失した)、非常用炉心冷却装置(ECCS)や冷却水循環系のポンプを動かすことができなかったのだが、6号機はそうではなかった。そして、6号機のバックアップ電源として用意されたディーゼル発電機1基は高台に設置されていたために(6号機の地下にあった非常用電源は水没している)、水没を免れ実働できたことで、5、6号機の冷却を続けることが可能であった。このため、事故当時は5号機、6号機は事故後、使えるという判定を受けていたが、その後、政治的理由によって廃炉が決定される。

同様に、ほとんど話題に上らない福島第二原発も1~4号機は津波の影響で、一部の非常用ディーゼル発電機が機能喪失して、10条通報、15条通報が行われる事態に発展したものの、廃棄物処理建屋にあった外部電源が生き残ったために、総延長9㎞に及ぶケーブル敷設作業をおこなうことで、炉心の冷却に成功して安全に停止することができた。しかし、政治的理由によって廃炉が決定されている。

なお、福島第二原発は2022年3月16日に発生した地震によって使用済み核燃料プールの冷却ポンプが停止する事態となったが、翌日復旧している。

と、ちょっと話が脱線気味ではあったが、福島第1、第2原発で起こった全電源喪失について説明をさせてもらった。

では、冒頭のニュースに関する話なのだけれども、この部分。

実験は冷却材・ヘリウムガスの循環を止めるなどして作り出した、全電源喪失に相当する過酷な条件下で実施された。

「産経新聞”新原発の安全証明 高温ガス炉が本領示した”」より

「全電源喪失に相当する」というのは、ちょっと違うんじゃないかな。正確には、「炉心冷却喪失」である。

高温ガス炉

どんなテストが行われたのか、を説明する前に、そもそも「高温ガス炉」は一体何なのか?という説明を簡単にしておきたい。

高温ガス炉

これが、高温ガス炉の概念図である。高温ガス炉というのは、第4世代原子炉なのである。現在主流の原子炉は第3世代原子炉で、日本国内にある原子炉はほぼ全てが第3世代である。

第3世代原子炉と第4世代原子炉の違いは、安全性の高さと核拡散抵抗性、建設運用費用の低減などが実現されている点で第4世代の方が優れているとされている。ただし、商用電源として実現されている炉は一基も存在していない。

そんな中で、現状で一番商用に近いと言われているのが高温ガス炉である。

高温ガス炉の優れた安全性

概念的には第2世代の黒鉛炉に近いのだが、炉心の主な構成材に黒鉛を中心としたセラミック材料を用いていると頃が特徴で、冷却材にはヘリウムを使っている点で、発電効率を高められるというメリットがある。

また、経済性にも優れている、とは言われている。

経済性にも優れた原子炉

ただ、この数字はあくまでもJAEAの算出した数字で、この方式の高温ガス炉はSMRに属し、大型化が難しいということもあって、一概にコストメリットがあるとは言えないと思う。

軽水炉の場合は、出力を高めて沸騰水型原子炉(BWR)や加圧水型原子炉(PWR)であれば1300MW以上の定格出力が出せるが、高温ガス炉は200~300MW程度の出力が想定されている。高温ガス炉は大型化が難しいので、はこういった施設の集約による価格効果が薄いのだ。

炉心冷却喪失は、制御棒を使わずガス循環器を使わない

で、高温ガス炉も結局は原子炉なので、炉心を冷却する必要があるのだが、通常の冷却手段は、ガス循環機で冷却材を供給して冷却し、必要に応じて制御棒を挿入して核分裂を制御するというものになる。

そして、高温ガス炉の安全性というのは、炉心の主な構成材に黒鉛を利用していることで担保される。黒鉛という物質は中性子の吸収が少なく減速能力は比較的大きいため、優秀な減速材として機能する。軽水炉が水を減速材として使っているのと比べて(減速材の能力としては軽水の方が高い)も、安定性が高く、安全性に繋がる。ただし、プルトニウム239が出来やすいという点は欠点と言えるかも知れない。

どんな点が安全かというと、以下のようなポイントだろう。ガス循環器が停止し制御棒を挿入しなくとも冷却が可能であることを意味する。

HTTR安全性実証試験結果

炉心冷却喪失とは、つまりガス循環や制御棒の挿入が行いない状況である。あくまでも冷却手段が過ぎた際にも安全に原子炉を使えるというわけになる。現状では、「そんなに上手く行くのか」を含めて検証中なんだけれども。

そして、冒頭の記事は、それが上手くいったよという報道なのである。

安全確認が出来たことは僥倖だが

もちろん、高温ガス炉のテストが順調である事は喜ばしい。

東京電力福島第1原子力発電所の事故では全電源喪失で炉心が溶融し、広い地域が放射能で汚染された。だが高温ガス炉では、福島第1原発と同じ事故に遭遇してもそうした事態には至らない。それが理論だけでなくHTTRを用いた試験で再確認されたのだ。

「産経新聞”新原発の安全証明 高温ガス炉が本領示した”」より

日本政府も「SMRの開発に力を入れる」というような方針を示しているだけに(総裁候補の高市氏が主張していて、岸田氏は余り積極的ではないが)、そこに高温ガス炉のことが念頭にあるのは事実である。

が、HTTR(高温工学試験研究炉)の成功は、手放しで喜べる話ではないのである。

1つは、支那も似たような高温ガス炉のテストをやっていること。世界では結構熾烈な開発競争をやっていて、日本がその最前線に加わっていることは喜ばしいが、予算が少ないのもまた事実である。

日本の高温ガス炉開発は世界の最先端に位置している。中国も別タイプの高温ガス炉の開発を進めているが、今回のレベルの安全性実証試験の実施は、HTTRが世界で初めてだ。経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)との共同プロジェクトとして行われた。

「産経新聞”新原発の安全証明 高温ガス炉が本領示した”」より

日本では、原子力機関が関わってやってはいるけれども、支那で多額の予算を投入して研究を進めていて、既に商用炉が準備中である。

https://www.jaea.go.jp/04/sefard/faq/files/material050202.pdf

ここにあるように、支那では既に実証炉の段階にあるのだ。

中国で建設中の小型高温ガス炉で冷態機能試験が完了

09 Nov 2020

中国核工業集団公司(CNNC)は11月6日、山東省の石島湾で2012年12月から建設している小型の高温ガス炉(HTGR)実証炉(HTR-PM)で、1次系の冷態機能試験が3日付けで完了したと発表した。

「原子力産業新聞」より

中国で建設中の小型HTR、臨界条件を達成

15 Sep 2021

中国核工業集団公司(CNNC)は9 月13日、山東省栄成の石島湾で建設中の「ペブルベッド型モジュール式(PM)高温ガス炉の実証炉(HTR-PM)」(電気出力21.1万kW)」で、2基設置されているモジュールユニットの片方が12日の朝に初めて臨界条件を達成したと発表した。

「原子力産業新聞」より

これが上手いこと行っているかどうかは知らないが、資金力の差は如何ともし難いレベルで存在しているのは事実である。なお、支那で採用した高温ガス炉は、実はペブルベッドモジュール炉で、南アフリカが自国で導入を計画したシロモノである。技術的にはドイツの技術だったのだが、南アフリカが国営電力会社にやらせようとした事があったが、この計画は頓挫。

三菱重工 | 小型高温ガス炉PBMRの開発でMOUを締結
 三菱重工業は、南アフリカ共和国のPBMR社と、ペブルベッドモジュール型高温ガス炉(PBMR:Pebble Bed Modular Reactor、球状燃料要素炉)を共同で開発することを検討していくことで合意し、今後、具体的な協力分野を調整していく。3日、そのための覚書(MOU)を締結した。当面、同

三菱重工も協力する話が出ていたが。

ドイツは、THTR-300というトリウム高温ガス炉の実験機を作っていたが、1986年に定格運転開始し、1989年には閉鎖されている。ただ、チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)の影響(チェルノブイリは黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉を使っていた)で、住民感情が悪化したことと、予想よりも頻繁に燃料要素が破損するトラブルがあって、計画を断念することに。

支那が入手したのはもちろんこのドイツの技術である。

一方で日本の場合は未だ実証機の段階に至っていない。産経新聞のように「世界の最先端」と無邪気に喜ぶ気にはなれないね。

炉心冷却喪失試験

さて、そんな訳で日本の研究炉の話に戻っていく。

HTTR(高温工学試験研究炉)における国際共同試験の実施について

令和4年1月31日

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)では、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の国際共同研究プロジェクトとして、HTTR(高温工学試験研究炉)において原子炉の冷却ができない状態を模擬した試験(Loss Of Forced Cooling, LOFC)を進めています。令和4年1月28日(金)、原子炉出力約30%(9MW)において、制御棒による原子炉出力操作を行うことなく、全ての冷却設備を停止し、冷却機能の喪失を模擬した試験(以下「炉心冷却喪失試験」という。)を世界で初めて実施しました。その結果、原子炉が冷却できない状態においても自然に原子炉出力が低下し、燃料温度の異常な上昇等も無く、安定な状態を維持することにより、高温ガス炉の高い固有の安全性を確認しました。当該試験は、計画どおりに終了しております。

「JAEAのサイト」より

1月末の実験は上手く行ったといって喜んでいた産経新聞だったが、実は実験の結果を報じたJAEAは3月にも出力100%で試験をやると予告していた。

本プロジェクトでは、今回の炉心冷却喪失試験を含め3つの試験を計画しており、今後、原子炉出力100%(30MW)における炉心流量喪失試験を3月に実施する予定です。

「JAEAのサイト」より

これが成功してこそ、喜ぶべき話だったのだが。

HTTR(高温工学試験研究炉)の安全性実証試験の延期について

令和4年3月18日

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)では、OECD/NEA(経済協力機構/原子力機関)の国際共同研究プロジェクトとして、HTTR(高温工学試験研究炉)においてその優れた安全性を実証するため、原子炉の冷却ができない状態を模擬した試験(強制冷却喪失:Loss Of Forced Cooling, LOFC)を進めています。

令和4年3月に予定していた原子炉出力100%(熱出力3万キロワット)における「炉心流量喪失試験※」の準備をしていたところ、1次ヘリウム循環機のフィルタの差圧が上昇傾向にあることを確認しました。ついては、予防保全措置として、フィルタの交換等の点検整備を優先して実施することとし、試験を延期いたします。

「JAEAのサイト」より

残念ながらトラブルが発覚して延期になってしまったようだ。

もちろん、万全を期して試験をする必要があるので、多少の延期でガタガタ言う積もりは無いし、慎重にやって欲しいとは思っている。

だけどさー。

そもそもHTTRの研究は本当に世界に先駆けてやっていたはずなんだよね。

「再開」を喜ぶ

産経新聞もその事には触れてはいなかったが、昨年、こんなプレスリリースがあった。

高温工学試験研究炉(HTTR)の運転再開について(文部科学大臣談話):文部科学省

文科省が「運転を再開しました」と。

これ、詳しい内容が後に報じられているのだが……。

原子力機構の高温工学試験研究炉「HTTR」が10年ぶり運転再開

2021年8月18日

日本原子力研究開発機構は30日、高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町)の運転を再開した。午前11時5分に制御棒の引き抜き操作を開始。2011年1月以来の運転となり、午後2時40分に臨界に到達した。

「電気新聞」より

冗談じゃ無いよ。

HTTRは11年2月に定期検査のため運転を停止。14年に原子炉設置変更許可を原子力規制委員会に申請し、20年に許可を取得した。これまで安全対策工事を6月10日に、使用前事業者検査を7月2日に完了させた。

「電気新聞」より

何があったのかは、日本人なら説明しなくても分かるだろう。そう、「2011年1月以降」と言えば、東日本大震災(平成23年3月11日)によって福島第1原発が被災してしまったのである。

原子力規制委員会が出しゃばってくれたお陰で、10年も研究が止まってしまった。この施設、被災して核施設にダメージを受けたのは事実だが、原子力関連施設は非常用電源が機能して無事であった。

https://www.jaea.go.jp/jishin/press/press110428.pdf

安全対策が必要だったことは事実だが、失われた10年でこの分野の研究がどれだけ技術的に遅れたのかと思うと残念である。同施設にあるナトリウム冷却高速炉「常陽」は色々あって今も稼働出来ていない。

そうした経緯を考えると、安倍政権はエネルギー政策に対して何をやっていたのかと嘆かざるを得ない。内情を知らないので、正確なことは分からないんだけどさ。

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