ドイツはF35戦闘機を買う

欧州ニュース

コメントで頂いたので触れておきたい。

ドイツ、対ロシアで米戦闘機F35調達 核共有に使用

2022年3月15日 2:27 (2022年3月15日 10:54更新)

ドイツのランブレヒト国防相は14日、米国の最新鋭ステルス戦闘機F35を調達する考えを表明した。老朽化したトーネード戦闘機の後継で、米国との「核共有」の枠組みのなかで核爆弾を搭載する任務も担う。

「日本経済新聞」より

へー、ドイツ、F-35A買ったんだ。35機なんだってねー。……と、他人事のように感じてはいけないのである。この話は日本にもそれなりに影響がある話だからだ。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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紆余曲折を経てF-35A

戦後の再軍備と核シェアリング

このネタは、僕自身は航空万能論GFさんのところでちょっと前からその方向になるのでは?という話題が出ていたので知っていたのだが、ここに至るまでに色々あったわけで。

女帝メルケルのドイツ弱体化政策

ドイツの首相はメルケル氏が16年にわたって務めていて、ドイツ軍の弱体化も彼女の時代に音を立てて崩れるように進行していった。もはや「ロシアのスパイだったのでは?」と噂されるほどである。

メルケル氏の政治手腕は優れたものではあったと思う。でなければ16年に渡ってドイツを支える事などできないのだから。ただし、それがドイツの国益に資するものであったかという点については、別の記事でも触れているが、僕はかなり懐疑的である。

特に、軍事費捻出には渋く、ドイツ軍はかなり資金難であったと伝えられている。

核シェアリングへの歴史

アメリカとドイツの間で核シェアリングが始められたのは1960年代である。

第二次世界大戦は、日本においては大東亜戦争(昭和16年~昭和20年)の印象が強いが、ヨーロッパにおける第二次世界大戦(1939年~1945年)は、ヨーロッパ諸国を中心とした連合国陣営がドイツを中心とした枢軸国陣営に対峙する戦いであった。悪の代名詞として使われるナチス・ドイツとの戦いは、ヨーロッパ諸国にとってまさに正義のための戦いであった。

余談ではあるが、連合国陣営に名を連ねたソ連(現ロシア)が、ウクライナをナチス認定している理由は、この辺りに理由があるのだろう。正義は我にあり!というわけだ。

さておき、ドイツは指導者のヒトラーを失って敗戦を迎えた後にアメリカ、イギリス、フランス、ソ連の4カ国による分割占領が行われ、1949年にボンを首都とする西ドイツとベルリン東部地区を首都とする東ドイツに分断されて、軍も解体された。ご存じの通り、西ドイツは資本主義国家として、東ドイツは共産主義国家となる。再び、統一国家になるのは1990年であるが、西ドイツの再軍備が認められたのは1950年のこと。

そして、1949年4月4日に締結された北太平洋条約によって誕生したNATOに、西ドイツも参加することになる。ソ連にとってNATOへの東ドイツ参加はかなりの抵抗感があったようだが、それも1990年に認められている。まあ、ソ連はその翌年に崩壊するのだが。

ともあれ、NATOの核シェアリングにドイツは組み込まれていくのである。

共産主義との戦い

NATOは、アメリカ主導の反共産主義同盟であり、第二次世界大戦の始まる前から世界は共産主義との戦いを始めていた。コミュニズム(共産主義)との戦いである。

NATOにおける核共有で共産主義に対抗しようというのだから、皮肉なものだ。しかし、核兵器は作ったらいつまででも使えると言う便利アイテムではないし、核シェアリングで使われるのは、以前言及したようにB61戦術核である。

航空機を用いて、限定的な破壊力を持つ核兵器を投下することで、前線を押し返し、ソ連に対して優位に立とうという考え方である。

これは、第二次世界大戦の時代に「ソ連兵は畑でとれる」(本来は農民を徴兵してきたので練度が低いという意味のようだが、物量作戦で次から次へと兵士が現れることを指している)と揶揄されたように、ソ連が物量作戦で戦線を圧倒してきた。こうした絶望的な戦いを続けられないように、西側諸国は戦術核による「切り札」を欲しがったのである。

トーネード IDS攻撃機

で、戦後の西ドイツは再軍備を認められた後に、アメリカから攻撃機を手に入れる。それがF-104「スターファイター」である。合計916機のスターファイターが配備され、西ドイツでは低空侵攻用の戦闘爆撃機として運用されていた。そう、F-104には核攻撃任務も付与されていた。

F-104攻撃機の後継には、イギリス、西ドイツ、イタリアの参加国で開発されたトーネードIDS攻撃機が1970年代に採用されている。配備数は89機である。

なかなか優秀な機体だが、流石に老朽化が問題となっている。なにしろ、1970年代から使われている機体だからね。退役予定は2030年ということになっているというから、随分と長く使うものだね。

後継候補、F/A-18E/F戦闘機

さて、トーネードIDS攻撃機の老朽化に伴って、一時期はF-35Aの導入が模索されていたが、2020年頃には後継機としてアメリカ製のF/A-18E/F戦闘機が選ばれた。購入予定だとされたのは45機。

ただ、F/A-18E/F戦闘機は艦載機であり、最大速度や運動性能に若干見劣りする部分はあるようだ。そこで、ブロックIII仕様機が計画されていて、ドイツが購入しようとしていたのは、どうやらブロックIII仕様だった模様。

New Concerns Prompt U.S. Navy Review Of Key F/A-18E/F Upgrade

January 28, 2021

As Boeing seeks to market the F/A-18E/F Block III in several countries, U.S. Navy officials are reviewing and could delete conformal fuel tanks from a package of upgrades planned for the latest version of the multirole fighter.

「AVIATION WEEK」より

ただ、ブロックIII仕様には問題が生じたという報道があり、もともとF/A-18E/Fの導入に反対しているドイツの国内勢力に押されていたこともあって、この話は頓挫するのでは?とは感じていた。

その理由は、F/A-18E/FのブロックIIIは近代化を進めており、増槽にIRST(infra-red search and track system:赤外線探索追尾システム)を搭載することになっているのだが、これに伴って燃料タンクが縮小されてしまった。ところがこの増槽に欠陥が発覚して増槽の採用が怪しくなってしまう。この結果、ブロックIII計画の存続すら怪しくなってしまった。これに関する続報が見当たらないので、最終的には改善される可能性はあるのだが、ドイツとしては早期に戦闘機を手に入れたいわけで、問題視されている可能性は高い。

そして、何より問題なのは、米国家核安全保障局が戦術核兵器B61/Mod12の統合機種からF/A-18E/Fを除外してしまったことである。

In November 2021, the newly-formed German coalition renewed the country’s commitment to be part of NATO’s nuclear deterrence capabilities. But in the meantime, the F/A-18F had been removed from the National Nuclear Security Administration from the list of aircraft to be certified to carry the B-61 nuclear bomb.

Questioned by the Federation of American Scientists over the change, the US Department of Defense simply answered that “there is not a requirement for the F/A-18F to be certified to carry the B61-12″.

Consequently, the F-35A appears to be up for consideration once again. Following a discussion between Chancellor Olaf Scholz and Federal Defense Minister Christine Lambrecht on the replacement of the Tornado, several proofs of concept were launched.

「AERO TIME」より

何が影響したのかはハッキリしないが、F/A-18E/FにB-61核爆弾を搭載する計画は延期されているようだ。この結果、ドイツはたF-35Aを選択するしかなくなった。タイフーンもB61の運用能力統合の候補にはなっているのだが、これには時間がかかるためにトーネードIDSの退役に間に合わないのである。

F-35Aに回帰

そんな訳で、政治的に大きな方針転換を示したショルツ政権は、F-35A戦闘機を購入する決断をして注目を集めているわけだ。

独DPA通信によると、独政府は米ロッキード・マーチン製のF35を最大で35機購入する計画だ。独国防省によると、欧州では8カ国がF35の導入を進めており、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国や欧州のほかのパートナーとの連携に最適と判断した。ランブレヒト国防相は装備の拡充に向けた「重要な一歩」を踏み出したと語った。

「日本経済新聞”ドイツ、対ロシアで米戦闘機F35調達 核共有に使用”」より

ドイツとしては他に選択肢がないのだか、当然の決断である。

トーネードは老朽化が指摘されており、ランブレヒト氏は14日の記者会見で「核共有の任務のためにF35の調達を開始することにした」と述べた。

「讀賣新聞」より

ただ、この決定には別の問題が付随してくるだけに、歓迎する人ばかりではないようだ。

Germany scrambles to secure funding for next-gen fighter research contracts

Nov 15, 2019

BERLIN — German defense officials are scrambling to line up parliamentary approval for the next wave of research contracts in the tri-national Future Combat Air System program.

The next phase is slated to begin in January, but German officials said they are still working to finalize contracts with an industry consortium led by Airbus and Dassault. Given that the proposed deals will have to be cleared by the Defence and Budget committees of the Bundestag, that could make for some dicey timing.

「DefenseNews」より

実は、トーネードIDS、ユーロファイタータイフーンといった、ヨーロッパで開発された戦闘機の存在は、EU域内での戦闘機の共同開発の成果を示しており、アメリカ製の戦闘機に市場が席巻されてしまうことを警戒してのことであった。

ただ、ユーロファイタータイフーンの開発は難航した上、現在開発が遅れたトランシェ3は3Aと3Bに分けて調達する事が決定したが、トランシェ3Aの配備は実現したものの、3Bの方は宙に浮いたままである。更に、ドイツ国防省が2014年に後部同隊に欠陥を見つけたと言う報道がなされ、年間飛行時間が半分に制限される自体を招くなどの自体を招き、これが影響したのかは分からないがこんな報道もなされた。

ドイツ空軍大ピンチ 使える戦闘機は4機だけ? 背景に「財政健全化」と「大連立」

2018/5/22 06:30

ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に深刻な問題が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっている。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかり。ロシアやイランの脅威がちらつくなか、欧州の盟主は内憂外患にある。

「産経新聞」より

こうしたユーロファイタータイフーンの不調を踏まえ、ダッソー社が中心になって新たな戦闘機、第6世代機の計画(FCAS計画)がぶち上げられた。

だが、ドイツがF-35Aを導入したことを考えると、このFCSA計画がただでさえ遅れがちなのに、資金不足から更に計画遅延の要因を抱えることになりかねない。

まあ、恨むならプーチン氏を恨むしかないのだけれど。

コメント

  1. こんにちは。

    メルケル氏がアカのスパイ説は、どっちかというと「(アカにとって)有能な働き者(≒西側にとって無能な働き者)」だったのでは、と思ってます。
    ヒステリックなまでに環境だジェンダーだ平和だ……と吹け上がった挙げ句に、屋台骨揺らがせてしまいましたからね。まあ、氏のみの責任では無く、それを選んだ有権者全員の責任ですが。

    で、FCASですが、タイフーンのドタバタをまたやるんかい、としか思えませんね。
    さっさと逃げ出してJapanに共同開発持ちかけたブリカスは見事と思います。
    カエル食いとジャガイモが組んで、上手く行くはずがないですから……懲りない人たちです。
    技術基盤と生産拠点を手元に置きたいのはよくわかりますが……

    F-35Aは、もうこれしか選択肢無いだろうという事でもあり、F-16に次ぐベストセラー間違いなしでもあり、判断は正しいと思いますが、なんにしても決定が遅すぎますね。
    ※次期主力戦車も、同じ理由でにっちもさっちもいっていないらしいですね。

    • 「無能な働き者」というと、鳩のことを思い出さずにはいられません。
      あの政権が16年も続いたとしたら、日本はもはや焼け野原になっているでしょう。メルケル氏がそこまで酷いとは思いませんが、ドイツ国民には不幸だったのかも知れません。

      ともあれ、F-35Aが選定されたわけですが、もっと早く決めておけば良かったのにと、そんな風には思います。
      ただ、メンテナンス問題を考えると、イタリアにまで送らねばならない環境が良いのか、悪いのか。選択肢は他に無いんですけどね。