ドイツが決断した政策転換

欧州ニュース

興味深いニュースがあったので少し触れておこう。

ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で

2022年2月28日4:08 午後

ドイツのショルツ首相は27日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア産ガスへの依存度を引き下げるためにエネルギー政策を大きく転換する方針を示した。ウクライナ危機に対処するため開かれた臨時国会で表明した。石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する可能性がある。

「ロイター」より

このニュースはエネルギー政策についてではあるが、ドイツは国内での状況が非常に混乱していて、長きに渡って続いたアンゲラ・メルケル政権は、ドイツを破滅に向かって突き進めた為に、本当に後戻りができるのか?ということも含めて注視したい。

スポンサーリンク
同カテゴリーの人気記事

この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

<同カテゴリーの人気記事>

スポンサーリンク
スポンサーリンク

左派大国ドイツの方針転換

メルケル氏はCDUに所属

ドイツの女帝メルケル氏は、ドイツ史上初の女性首相であり、2005年にドイツのトップに君臨してから2021年の12月8日にその座を退くまでに様々な政策を推し進めた。

西ドイツ出身の政治家であり、社会主義政策に親和性が高く、その政策の全てが間違っていたとは言わないが、大きな間違いであったのは、移民の歓迎政策、軍事費の削減、そしてエネルギー政策の転換である。

注:1954年に誕生地のハンブルグから生後数ヶ月で東ドイツに父と共に移住しているので、青年時代は東ドイツで生活している。このため、寧ろ東側との親和性が高いと思われる。

メルケル氏が所属するのはドイツキリスト教民主同盟(CDU)という、キリスト教的思想をベースにした政治団体であり、宗教色が強い。

しかし、CDUだけでは政権を維持できないために、ドイツ社会民主党(SPD)という中道左派政党と手を組む必要があった。そしてSPDに連立政権を組んだことがある緑の党というのが、ドイツでは非常に人気を誇っている。

この緑の党、脱原発・風力発電推進・二酸化炭素削減という3本柱の環境政策を推進しており、政党支持率はこんな感じだ。

元西ドイツ地域を拠点に置くこの緑の党だが、環境左派政党であり、ドイツのエネルギー政策に対して大きな影響を及ぼしていた。

そんな訳で、ドイツでは左派政党が主流であり、非主流となっているドイツのための選択肢(AfD)や自由民主党(FDP:ドイツ)は、右派なのだが……、実はFDPは寧ろ左派寄りの政権であり、極右似分類されるAfDも人気はあるのだが、主張が偏りすぎてイマイチ支持が広がっていない。

要は、ドイツは全体的に左派勢力の強い政治体制なのである。

メルケル氏が優れた政治手腕を持っていた点は疑っていないが、優れた政治家が優れた業績を残すとは限らない。メルケル氏の判断が、ドイツにとって幸福だったかといえば、多分そうではないだろう。

移民政策の失敗

ドイツの移民政策の失敗は、2016年のドイツ・ケルンにおいて象徴される。

大みそかの独ケルン駅集団暴行・窃盗、被害は500件以上に

2016年1月11日

大みそかのドイツ・ケルン中央駅で年越しの祝賀に紛れて起きた集団暴行事件について、ケルン警察は10日、被害件数は516件に上ると数を上方修正した。このうち4割は性的暴行事件で、容疑者の大半は北アフリカからの難民希望者や不法移民だという。警察は9日の時点では被害は379件だと発表していた。

「BBC」より

ドイツ・ケルン中央駅周辺で2015年の年末に発生した集団暴行事件の被害件数は516件。被害者数は1000人以上とも言われている。

メルケル政権はこの集団暴行事件に積極的に何か対策を打たなかったので、大きく批判を受けるに至る。これまで推進してきたい民政策は、ここに大きく躓く事になる。2015年には約110万人もの難民を受け入れたドイツだが、ケルンの事件を起こしたのは難民達であった。

メルケル政権は沈黙を続けたが、突き上げを喰らって2016年2月に難民13万人の所在がわからなくなっていることを認めた。移民の中に多くの過激主義者や犯罪者が含まれている事を認め、移民政策の転換を余儀なくされていく。ただ、メルケル氏自身は、その後も難民が殺人事件などを繰り返しても、難民受け入れ政策とテロは無関係だという立場を貫いたようだ。

軍事費の削減

さて、ドイツの地政学的な位置関係を考えると、ロシアに対する軍備を疎かにすべきではない。しかし、ドイツは長年軍事費を抑えてきた。

ドイツ空軍大ピンチ 使える戦闘機は4機だけ? 背景に「財政健全化」と「大連立」

2018/5/22 06:30

ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に深刻な問題が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっている。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。

~~略~~

英テレグラフ紙(電子版)によると4月27日にはドナルド・トランプ米大統領が独メルケル首相と会談し、ドイツがもっと防衛予算を増やすことが「不可欠」だと指摘。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛予算の目標であるGDPの2%を達成すべきだと主張した。

NATO目標は14年に加盟国間で合意されたが、ドイツの防衛予算の増額は遅々として進まず、17年度で1・24%(370億ユーロ=約4兆8322億円)と大きな差がある。

~~略~~

実際、英紙(テレグラフ紙電子版)ですら、空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった予算不足の実情をあげているのだ。

「産経新聞」より

なかなか衝撃的なニュースだが、ドイツ軍は陸海空何れも機能的に問題を抱えているという内容で、だからドイツが戦えないという積もりは毛頭無いのだが、トラブルを抱えているのは事実である。

それでもドイツはGDP比1.24%で、370億ユーロ相当(約4兆8322億円)の費用を軍事費に注ぎ込んでいるので、日本(21年度は6兆1160億円)と比べてもちょっと残念な感じになっている。

エネルギー政策の転換

そして、ドイツのエネルギー政策に関して、このブログでは「失敗」と評した。

特に天然ガスをロシアに依存した政策は今回、明確に失敗であることが明らかになってしまった。

これはロイターの資料だが、ヨーロッパ、特にドイツが天然ガスに如何に依存しているかがよく分かる図になっている。ドイツのエネルギー需要の約半分を占めるのがロシア産なのである。

ショルツ氏は「ここ数日の動きにより、責任ある、先を見据えたエネルギー政策が、わが国の経済と環境のみならず、安全保障のためにも決定的に重要であることが明らかになった」と指摘。「わが国は個別のエネルギー供給国からの輸入に依存している状況を克服するため、方針を転換しなければならない」と訴えた。

新たな方針には、ブルンスビュッテルとビルヘルムスハーフェンの2カ所に液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設する計画が盛り込まれている。

ショルツ氏によると、天然ガス備蓄施設の容量を長期的に20億立方メートル増やし、欧州連合(EU)と協力して天然ガスを世界市場で追加購入する。

「ロイター”ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で”」より

ドイツとしても「マズイ」とは思っていたのだろうが、ここへ来てドラスティックに政策転換をする予定のようである。

ドイツ一転、ウクライナに武器支援 露のSWIFT排除にも前向き

2022/2/27 07:39

ドイツのショルツ首相は26日、ウクライナに対戦車兵器1000基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基を供与すると発表した。これまではウクライナへの武器供与を拒否してきたが、方針を転換した。

「産経新聞」より

ヘルメットだけウクライナに送りつけて国際的にヒンシュクをかっていたドイツだが、ここへ来ていきなり対露政策を強硬なものに切り替えた。

そして、エネルギー政策も大転換ということになり、軍事費も大幅増額という事になったようだ。

ドイツが劇的な政策転換 「プーチンの戦争」きっかけに

2022年2月28日

2月27日はドイツにとって、本当に歴史的な日だった。オラル・ショルツ首相は昨年12月に就任したばかりだが、この日1日で、現代ドイツの外交政策を一変させた。

連邦議会の緊急審議で、ショルツ首相は2022年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を国防費に追加し、連邦軍の装備強化などに充てると報告した。集まった議員はざわめき、一部は拍手したものの、ブーイングの声も出た。呆然とした表情の議員もいた。

議場の反応にひるむことなく、ショルツ首相は続けて、1週間前には考えられなかった大胆な措置を次々と発表した。国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げると確約し、ドイツがウクライナに武器を直接供与する方針も示した。

これまで他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は長年、ドイツの国防費引き上げを求め続てきたがドイツはそれに応じなかった。他のNATO加盟国のこの長年の目標を、プーチン大統領は数日で実現したことになる。

「BBC」より

なかなか皮肉なことだが、ウクライナ危機・プーチン戦争はドイツの政策を大きく変えるに至った。多分、分かっていてもドイツには実現できなかった政策だったが、ここへ来て大胆な政策転換を打ちだし、これが認められた。

ドイツで今、一番偉大な政治家はプーチン氏なのかもしれない。

まあ、日本でもドラスティックな政策転換が行われそうな流れにはなっているが、岸田君は判断出来ていないようだね。

コメント

  1. メルケルさんは旧東ドイツ地域の出身だったはずです。書き間違いでしょうか。

    • ちょっと意味不明な文章になっていたので少し修正させて頂きました。
      ハンブルグ出身なので西側出身の政治家というのは寧ろ誤解を生みますね。東側で育っているので、寧ろ東側の政治家と言うべきでしょう。申し訳ありません。

  2. 木霊さん、みなさんこんばんは

    ドイツはVWディーゼル排ガスの「やらかし」で方向転換せざるを得なくなり、かつSDG’s利権に逆らえなくなってましたからね。やや不謹慎な物言いですがウクライナの事変を不幸中の幸いとして人気商売の政治家も知性のある方向への転換が可能となったのでしょう。

    ただ逆に人気商売であるが故に、現在の太陽光・風力等の再生可能エネルギーの開発を減速させないか、少し心配です。たとえ石炭・原子力を当面メインにしても再生可能エネルギーのメイン化は「絶対必要」なはずです。

    理由:ここで言うのが適切か、申し訳ありませんが、
    CO2や温暖化がどうでも、再生可能エネルギーの展開は「急務」です。なぜなら原子力含む地下資源エネルギーは、まああと75年ぐらいしか持たないからです。

    例えば資源エネルギー庁資料https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2020html/2-1-1.htmlなどでは沢山のデータでぼかしてますが、要約を見たり計算すると、

    地下資源エネルギーの現在の地球の在庫は
    A.石油・天然ガス:あと50年分
    B.石炭・ウラン :あと100年分

    これは現在の需給からの外挿ですから、石油・天然ガスがなくなると石炭・ウランの消費は倍ぐらいに加速するので、ざっくり75年となります。
    (隣国ブン氏の、あと60年原発主力 ってのは、以外としっかり計算してる?

    AB両方枯渇したあとの選択肢は 
     ①自然に還れ ②核融合 ③増殖炉(高速,進行波)④再生可能エネ

      細かく見ると
    ①自然に還れ:養える世界人口は78億×0.3≒23億 47億人ぐらい死ぬ必要あり。
    ②核融合:出来たら数千年もつけど、90年研究してきてエネルギーが得られない1-2分の運転がやっと。
    ③増殖炉:転換率は頑張って2、ウラン枯渇後100年もつ、できれば良いなあ
    ④再生可能エネ:問題山積みだけど、まがりなりにも実用化されてる。

    ①は問題外として、個人的には②③期待ですが、残念ながらギャンブルも良いとこ、ABあるうちになんとか④できたら②③に力を注ぐべき。

    CO2なんて、あと70年もすれば排出したくても出来なくなるんだから、その削減に全力注ぐのは愚か。 

    • あー、排ガス規制の話もありましたねぇ。

      太陽光発電などの再生可能エネルギー発電ですが、正直、優秀な電池が開発されればかなりの問題は解決するんですよねぇ。
      自動車もそうですが、二次電池開発はこれからのキーポイントになりそうです。

  3. >ドイツで今、一番偉大な政治家はプーチン氏なのかもしれない。

    世界恐慌を救った第一の功労者は何と言ってもドイツのチョビ髭氏(ノーベル経済学賞受賞のクルーグマン氏の言葉)と似た感じですか。

    • ドイツのチョビ髭氏、結構なやり手でしたから。
      戦略はダメダメだったようですが。

  4. 実感です。
    日本もこれを契機に、国民が自国を守る行為を誇れる憲法に改憲して欲しい。
    先ずは、主旨の合わない公明党と縁切りし日本維新の会と連立して改憲しては如何かと思う。

    タラレバを言ったら切りがないのですが・・・
    自民党の総裁選が 後1か月ちょっと遅ければと思いました。
    私の「力」は、聴く力と言ったのには、ビックリでした。私は、リーダでは無いと高らかに宣言したのと同義ですから驚きでした。
    前政権に比して何もしないのに支持率が思ったより、かなり高いのも私には驚きです・・・メディアの影響が大きいのかなとも思ったりしてます。

    • 改憲議論は勢いに任せてやるべき性質のものではないと思っています。
      ですが、十分議論は尽くしてきていますから、ここいらでせめて自衛手段を持つことくらいは憲法に書いても良いと思います。
      その議論に乗れない公明党と縁を切るのは、もはや自民党として逃げるべきではないでしょう。

      危機に強い首相を!
      岸田氏は有事に立ち回れる人材ではないという意見は今も変わりませんが、いまここで交代議論ができないのも事実であります。
      決断できる政治家に代わって欲しいと、切に願っております。

  5. >長きに渡って続いたアンゲラ・メルケル政権は、ドイツを破滅に向かって突き進めた
    全く同感です。メルケル氏とはわりとウマの合った安倍元総理によれば、メルケル氏は
    環境政策にはほとんど関心を寄せていなかったそうです。政略として、緑の党や社会
    民主党の主張に沿う環境政策を取っていたのかもしれません。
    他方で政策的には親露路線を取り、独露直通のLNGパイプラインの敷設には積極的でした。
    そのメルケル氏が政界を引退するや、欧州委員会が反対を押し切って原子力をグリーン
    エネルギーに追加したばかりか、露国の宇侵略によって独逸の親露路線が大転換され、
    さらに(対露)軍拡が公式に明言されたことは、皮肉な結果としか表現の仕様がありません。

    • メルケル氏、政治家としての手腕を疑ってはいませんが、選んだ政策はまあ無残ですよ。
      アレは本当にヒドイ。
      エネルギー政策はどうにかならなかったんですかねぇ。

  6. 木霊さん、今晩は。

    GDP2%以上をとトランプ元大統領に迫られても、頑なに動かなかったドイツの大きな政策転換ですね。

    天然ガスラインをロシアに握られているのは変わりないのですが、ウクライナ危機でNATO・EUの中心国としてこれじゃいけないと深刻に考えての決断なのでしょう。

    日本も防衛費増額の方向に進んでいますが、2%達成は何時になる事やら...。
    ウクライナ戦争の早期終結を一番願いながら、欧米自由主義各国の強力な結束でジワジワとプーチン大統領を追い詰めて欲しいもんです。

    • 何にせよ、ドイツは決断しました。
      色々紆余曲折はあるにせよ、F35Aを買わないという選択肢は無いわけで、その辺りを含めて軍備を揃えるモードに入ったのは間違い無いでしょう。

      日本、防衛費は2%に拘らず、必要な分を投入するという姿勢になって欲しいものですが。