アメリカ軍が使うGPSチップ製造ラインの確保の為に臨時予算が提案される

北米ニュース

興味深い話を引っ掛けたので、紹介しておきたい。

Pentagon Swoops In to Buy Last-of-Kind Chips for B-2, Destroyer

2021年11月8日 16:00 JST

The Pentagon plans to place as much as $2 billion in rush orders by early March for customized semiconductors used in weapons like the B-2 bomber before the production line for them is shut down.

GlobalFoundries Inc. has sold the factory in Fishkill, New York, that produces the specialized chips used in GPS-dependent systems, and the new owner won’t be making them.

「Bloomberg Politics」より

簡単な英語なので意味は把握できると思うけれど、ペンタゴンが兵器用のチップの生産ラインを購入するよという話になっている。

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この記事は「惣郷木霊の四方山話」でお送りしております。

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兵器にもチップが使われる時代

駆逐艦やB-2爆撃機が動かなくなる?!

ペンタゴンが何故チップ生産ラインを抑えたか?というと、B-2爆撃機や駆逐艦が使っているGPSチップの製造ラインが閉じてしまう事が明らかになったからだ。

The Defense Department is confronting its looming supply crunch amid a global shortage of the chips used in consumer items from mobile phones to autonomous vehicles, markets where GlobalFoundries is expanding its production. The Pentagon’s move “addresses a diminishing manufacturing capacity,” said Jessica Maxwell, a spokeswoman for the department’s acquisition office

Under a stopgap spending bill passed by Congress, an initial $885 million in orders would be placed by Dec. 15 with U.S. contractors dependent on the components so that they can contract a substantial share of the total with GlobalFoundries. That gives the company “enough time to process the requests and manufacture the parts before the production line shuts down,” Maxwell said via email.

「Bloomberg Politics」より

以前、日本の航空自衛隊の保有するF-15J近代改修に「問題アリ」という話をしたと思う。

この時には「改修に先立つ初期経費が高騰」という文言で説明されていたが、アメリカ国内でもF-15の近代改修と延命が進められていて、F-15EXイーグルII戦闘機を調達するという話があって、これの影響で玉突き事故的に自衛隊のF-15Jの改修費用高騰などという話になった。

これの中身が電子部品の枯渇で対策経費を要求されたという事だったのだが、冒頭に紹介したニュースがその根底にある話であったようだ。

世界的に半導体の不足が指摘される状況になって、民間企業は「より儲かる半導体の製造」の方に投資をするという話になった。その割を食ってレガシーで特殊なチップの生産ラインが閉じてしまう話に繋がっているのである。

このカスタムチップは、B-2爆撃機以外にもアーレイ・バーク級駆逐艦やストライカー装甲車両、汎用軍用車ハンヴィーなど幅広い兵器に使われているそうな。

Systems that use the semiconductors include the B-2 stealth bomber, the Army and Marine Corps Joint Tactical Light Vehicle, the Army’s wheeled Stryker vehicle, the Navy’s Arleigh Burke-class destroyer and the Air Force’s new Small Diameter Bomb II, according to the Air Force, which is overseeing the chip purchases.

「Bloomberg Politics」より

したがって、故障して修理が必要になった時にこのチップが無いとなれば、修理できなくなってしまうというようなことになってしまう。

軍需産業グローバル・ファウンドリーズ

さて、このチップの生産ラインの話なのだが、どうして生産終了してしまうような話になってしまったのだろうか?だって、多数の兵器に使われているのだから、生産し続ける限り利益は約束されているはずだ。

その下りはこの辺りに説明されている。

GlobalFoundries’s $430 million sale of its specialized fabrication, or “Fab 10,” facility to On Semiconductor Corp. is driving these “end-of-life” orders, the company said in a statement. “For certain programs and technologies, we are meeting the DoD’s needs by manufacturing large volumes of chips sufficient for the lifetime of the program.”

“In other instances, we are partnering with the DoD to extend the lifecycle of certain technologies manufactured at Fab 10 by transitioning the manufacturing of their chips to other GF Fabs,” the company said.

「Bloomberg Politics」より

チップの生産ラインを持っているのはグローバル・ファウンドリーズ社であったが、どうやらこのチップの生産ラインをオン・セミコンダクター社に売却したらしい。

ところが、オン・セミコンダクター社は「ラインを閉じちゃうよ」と政府を脅した模様。

オン・セミコンダクター社は、大規模な事業買収によって急成長を遂げた企業で、三洋電機から三洋半導体の買収した事でも知られている。

うーん、アメリカ企業、結構好き勝手やっているな。

半導体グローバルファウンドリーズが上場へ、評価額3兆円規模

10/5(火) 17:00配信

TSMCやサムスンに次ぐ世界3位の半導体メーカーである「グローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)」は10月4日、米国証券取引委員会(SEC)に上場目論見書を提出した。アブダビの政府系ファンドのムバダラ・インベストメントが保有する同社は、半導体分野への投資が増加し、この業界の収益が今後10年間で2倍になると予想されていることを追い風に、IPOに踏み切ろうとしている。

~~略~~

グローバルファウンドリーズは、2009年にムバダラがアドバンスト・マイクロ・デバイセズの製造部門を買収して設立された企業で、その後、シンガポールのチャータード・セミコンダクター・マニュファクチャリングと合併した。

グローバルファウンドリーズの本社は、ニューヨーク州マルタに置かれているが、ムバダラはケイマン諸島で同社を法人化したため、課税を免除されている。同社は、ナスダックの規則を遵守する必要がなく、取締役会のほとんどを独立取締役が占めている。

「yahooニュース」より

グローバルファウンドリーズ社もオン・セミコンダクター社も、これから更に金の卵を産んでくれそうな会社なので、アメリカ政府としても無茶が言えない相手、という事もあるのかも知れない。

アメリカのグローバル戦略的にも、半導体を供給できる会社をアメリカの手の届く範囲に置いておきたいという要望は強いのだろう。

で、今回のコレも許容した、ということかな。民間企業なのでそこの辺り好き勝手出来そうだけれども、このグローバルファウンドリーズ社の株はアメリカ政府の投資部門が約8割保有しているので、今回の行動はアメリカ政府も了承済みだったと……。

本当にそうかぁ?

生産ライン維持のためにまず8億8500万ドル

えーと、今回、ラインが閉じてしまうにあたって、ペンタゴンが予算を付けろと政府に迫っている。

Under a stopgap spending bill passed by Congress, an initial $885 million in orders would be placed by Dec. 15 with U.S. contractors dependent on the components so that they can contract a substantial share of the total with GlobalFoundries. That gives the company “enough time to process the requests and manufacture the parts before the production line shuts down,” Maxwell said via email.

「Bloomberg Politics」より

ふむふむ、生産ラインが閉じる前に部品を作って貰うという契約をするのに8億8500万ドル必要と。ん?「 initial $885 million 」って、手始めに8億8500万ドルってことか?

The remainder of the $2 billion in orders would need to be placed by March 3, in advance of the expected completion of the factory’s sale next December, according to a defense official who spoke on condition of anonymity. Chips take about three months to go from discs of silicon to finished products.

「Bloomberg Politics」より

あ、残り20億ドルは3月3日までに支払うとか言っているよ。つまり、29億ドル必要だって事か。金額が膨大すぎてピンと来ないが、そこまでして手に入れておかないとヤバいということなのだろう。

ちなみに、アメリカの予算編成の関係で、来年度の予算成立期限は9月末に終わってしまっているので、新たな予算項目は2022年度予算の成立まで執行ができない。予算成立が12月15日(発注期限)に間に合うかどうか怪しいので、特例措置で金を出せということらしい。

うーん、安全保障のために政府が予算を出す可能性はあるけれど、もっと早く分からなかったのかね、これ。

自衛隊も他人事では無い

なお、アメリカ製の兵器を多数使っている自衛隊も、この事態は他人事ではない。

今回影響したと思われるのはF-15Jの近代改修だが、今後、このチップを載せた兵器の修理や新規購入などの話になれば、当然、問題が生じる可能性は高いだろう。

とはいえ、ローバルファウンドリーズ社が製造しているラインを買い取るのも現実的ではないだろう。何処かのチップ製造ラインの一角に設置するにしても、工業製品として大量生産する事で量産効果が得られるようなシロモノでは無い。いや、アメリカがそもそも国防に関する技術を日本に漏らす可能性は低いので、そもそも机上の空論なのではあるが。

ともあれ、こうした事態が起こりえて、国防に穴を開けるような事態に陥ることだけは避けねばならないわけで、日本政府はその辺りの事も踏まえて対策を講じていく必要があるだろう。何でもかんでも国産化しろとはいわないが、殊、半導体関係の事情は、過去にアメリカに潰されただけに関わりが難しい。

半導体製造「世界に匹敵する支援を」 経済安保相

2021年11月7日 11:10

小林鷹之経済安全保障相は7日のフジテレビ番組で、半導体の国内生産に関する企業向けの支援を拡充すると述べた。「日本としても世界に匹敵する支援措置を講じる。政府も予算、税でコミットする」と強調した。政府が今月中旬にとりまとめる経済対策に方針を明記すると語った。

「日本経済新聞」より

今頃になってこんな事を言い出しているが、そもそも補助金の出し方はがこれで良いのか?という点には疑念がある。エルピーダメモリでもJDIで失敗しているし、政府が口出しするとろくなことにならないんだよね。

結局のところ、国産兵器に国産のチップを採用していくという流れが出来ないと、需要と供給の好循環は生まれない。が、そもそもアメリカの企業が店仕舞いをしたということを考えれば、このチップを作っていても企業がラインを維持できなくなるという可能性が高い。

そこを踏まえて政策を打っていかねばならないんじゃないかな。

コメント

  1. こんにちは。

    メーカも企業、食っていかないといけないですから、商売にならないラインは閉めたいの実情。
    かく言う当方、七面鳥の属する企業の親会社も、自A隊さんに車納めてたりしますが、赤にはならないけど儲けてもいない、と聞いた覚えがあります。
    新明和さんなんか、US-2開発のマンガとか涙無しには読めません。

    そういう意味で、社会主義国がうらやま……しくはないか、どっちみち搾取されるんだから。

    ※リメイクの方の「宇宙戦艦ヤマト」で、2202ラストで時限断層が消滅し、2205ではそのせいで時限断層内の工場に部品納めてた町工場が立ち行かなくなった……てネタがあるのがなんとも……ネタバレギリギリなのでこれ以上は言えませんが。

    • 民間企業に部品を作らせている以上、利益が出ない話では困りますからね。
      寧ろ日本企業は「国防のために」と涙を呑んで赤が出ないギリギリで部品供給を、という話は僕自身も聞いたことがありまして。友人が三菱の子会社に勤めていた時期があって、なかなか酷い状況だったと愚痴を聞かされたことがあります。納期絡みの話でしたが、利益は出なかったらしいですよ。彼はバカバカしくてその後仕事を辞めちゃいましたが、そんなことを続けているから防衛産業が育たないのでしょうね。

  2. とにかく色んな意味で頑丈である事。兵器という製品にどうしても憑いて回る、特殊事情。ですね…枯れた技術こそ大切に。と、いう。

    • 残念ながら、枯れた技術は金にはなりにくいですから。
      その辺りとのバランスをとるのは難しいでしょうね。

  3. 木霊さま 皆さま

     木霊様 興味深いニュースありがとうございます。

     昔に軍用チップを発注したならGF(GlobalFoundries)の前身AMDの頃かな?しかしチップの長期供給に関しては悪評高きAMDになぜ?(https://ascii.jp/elem/000/000/648/648702/4/) と思ったら、Fab10というのは2002年にIBMが立ち上げた45/32/28nmプロセス工場で米軍は当初恐らくIBMに発注し、
     その後工場を買取ったGFがIBMの5〜6世代前のチップ製造を維持していたのでしょうかね。(https://news.mynavi.jp/article/20190423-813432/)

     みな様おっしゃるように旧世代製品ラインの維持はどんどん儲けが少なくなり、それでもチップが必要な発注側でIP(Intellectual Property)持ってる会社は、旧世代ラインの維持で定評のあるTSMC等に製品を移していく。(https://news.livedoor.com/article/detail/19950193/)

     オンセミコンダクターは政府を脅した。と言うより
      「TSMCやルネサスに外注して良い?、ちょうどTSMCは九州に22~28nmプロセスの工場建てるようだしhttps://www.watch.impress.co.jp/docs/series/nishida/1359072.html」 等、お伺いして断られ、泣きついた。

    するとペンタゴンが
     「いや米国内で作れ。代わりにTSMC九州に日本が出資するのと同等の投資してやるから」

     ってストーリーだと、プロセスルールのサイズ、投資金額 も微妙に一致してくるような。もし日本政府がここまで読んでるとしたら頼もしいのだけど(^^;

    • 追記ごめんなさい。

       一番の問題は軍用兵器の寿命の長さと要求される高信頼性、最先端半導体の寿命の短さ・低信頼性のミスマッチングで、
       更にサプライチェーンの地政学的要請と、軍用部品の維持、を合わせたことによる巨額投資の必要性はしばらくは続きそうですね。

       なんせ最先端半導体の信頼性は軍用どころか自動車用にも耐えられない。 これに対する技術的な回答をひとつ考えるなら「低信頼半導体でも耐えられる、例えば3重冗長とかの設計」を、FPGAでもオーケーなIP(Intellectual Property)として軍用半導体は今後設計していくことでしょうか。

       今後、すなわちこれからのモノに限るので、手持ちの兵器維持にはしばらく巨額投資が必要な状況が続きそうで、、困ったことですね。

      • ごめんなさい。更に追記

         3重冗長…別名「多数決ロジック」    と言われ
         「3つのロジックが全て同じ間違いを犯す確率は天文学的に低い」
        ことを利用した学問的工学的には理想の冗長と言われます。

         しかしコストが3倍と高すぎるため、通常の工業製品に使われることは知っている限り殆どない(良くて2重)。

         しかし軍用で、しかも長い年月の工場維持に巨額投資が必要ならば、ペイ出来る可能性もある。

    • ご指摘のストーリーは案外あたっているのかも知れませんが、要は旧世代チップの製造ラインを如何に確保していくのかという話しに尽きるワケです。
      しかし、コストがかかる割に商売としては成り立たない三重冗長のシステムなど、需要はあれどコストに見合わないという問題がついて回り、どの辺りで妥協できるのかという点について、市場原理だけで解決する事は、国防に相反する結果になるのでしょう。安定性の高いシステムというのは、柔軟性が低い事が多いのですよね。
      その辺りのことを政治家や役人が理解出来ないので、予算が付かないというおかしな話になってしまいます。
      セキュリティにコストをかけるというのは、民間企業でもなかなか理解されがたい分野ですしね。

      TSMCの日本工場誘致というのが、そうした側面に光を当てた話であると嬉しいのですが。

  4. 朝日新聞がTSMC九州への政府出資にモンク付けてきましたね。https://www.asahi.com/articles/DA3S15108971.html?iref=comtop_Opinion_04 こりゃ 支那様から、台湾取って尿素と同じやり方で世界中絞める計画を台無しにさせるな、妨害しろ!、って指令が朝日に来たってことでしょうかね。

    • 「立ち止まれ」「理解を得ろ」
      いつものパターンですねぇ。
      結局これをやって失うのは時間なのですが、時間を失った分特をする国があるわけで。
      やっぱり、「手先」なのでしょうなぁ。

      • この社説を「国家安全保障上の重要課題である」と切って捨てられないところが現憲法の歪みを象徴していますよね。

        ソニー出資が強調されてますが、より重要なのはトヨタグループ・デンソーの出資で(そもそも半導体製造会社でもあるデンソーがコンペチターへ投資すると言う凄まじい判断)要するに自動車、、、航空宇宙、、、軍事、、には必要不可欠&最先端などお呼びじゃない。

         しかも朝日や転載韓国メディアが主張するように「最先端に出資」なら、、、、EUV露光機たった1台が300億円する世界で、インテルの米国内新規ファウンドリー投資と同じく「数兆円」すなわち今回の件の10倍投資しないと意味はなく、博打がすぎて つぶれるだろうことが容易に予見されるハナシ。

        つぶすことが目的としか見えず、「手先」なんでしょうね。

      • TSMC工場の誘致は、アメリカの半導体戦略の上では必須だったはずです。
        アメリカ自身も自国にTSMCの工場を誘致しましたが、日本にもそうさせた。日本としてもTSMCの工場を誘致できる、それも国内に半導体工場を得られる訳ですから、最新のチップを作る工場よりも歓迎したのは間違い無いでしょう。断れなかったという事情もあるでしょうが。
        そうした背景で、ソニーやデンソーの出資というのは、なかなか象徴的な話であります。多分、東芝辺りにもお誘いがあったのでは無いでしょうか。

        ただ、国が手を出している場合、失敗するケースも結構あります。朝日の心配も完全に的外れというわけではないでしょう。願わくばこれに続く半導体企業が日本に生まれると良いのだけれど。

      • すみません、補足

         >「数兆円」すなわち今回の件の10倍投資しないと意味はなく、博打がすぎて つぶれるだろうことが容易に予見される

         意味は「潰す世論」を形成しやすく「潰しやすい」と言う意味で、私自身は、数兆円でも投資すべきと考えています。

         新宿会計士さん他が主張されるように、財務省の現在の「日本は借金だらけ」という主張は、貸借対照表(バランスシート)の「借金欄だけ」を見た不自然極まる主張で、バランスシートの左右を見れば、日本財政は余裕綽綽、流動を促すための「国債発行はむしろ足りない」ことが正しいし、

         財務省主張による過度の財政縮小が、今の日本の凋落の大きな要因と思うからです。