ほー。原因が分かったのはヨカッタネ。
「ヌリ号第3段エンジンが46秒早く止まったのは酸化剤ラインの漏れが原因」
記事入力 : 2021/10/28 10:31
今月21日に打ち上げられた韓国独自開発の宇宙ロケット「ヌリ号」はダミー人工衛星の軌道投入に失敗したが、その理由は第3段エンジンの酸化剤加圧ラインに問題が生じたためだったことが27日までに分かった。
「朝鮮日報」より
ヌリ号の第3段目は、7t級エンジンであったことは、前回の記事でも伝えている気がする。
そのエンジン、十分に検証しましたか?
圧送式サイクル
先ずはリンクを貼っておきたい。
成功した1段目と2段目のウクライナ製エンジン改の方はともかく、3段目の7t級エンジンについての情報はかなり少ない。そこまで注目されていないという事もあるし、そもそも割と単純な構造なのである。

複数の燃料ラインをチャンバーに接続し、燃料を供給して燃焼させる方式であり、Fuel Tank(燃料タンク)とQxidizer Tank(酸化剤タンク)、そして、Pressurized gas(加圧ガス)の入ったタンクが燃料タンクと酸化剤タンクに繋がる構造になっている。
宇宙ロケットは無重力の真空状態で燃料を燃焼させねばならないため、燃料と酸化剤をエンジンに押し込む加圧システムが非常に重要になってくる。
「朝鮮日報”「ヌリ号第3段エンジンが46秒早く止まったのは酸化剤ラインの漏れが原因」”」より
記事で指摘されるように、ここでのキモは加圧ガスが必要な圧力で供給されるか?というところなのである。
加圧ラインの問題
さて、そしてこのような構造であって、燃料が足りなかったと。
酸化剤は燃料を燃焼させるものだが、その加圧ラインに問題が生じて酸化剤が漏れ出し、エンジンに十分供給されなかったのだ。
「朝鮮日報”「ヌリ号第3段エンジンが46秒早く止まったのは酸化剤ラインの漏れが原因」”」より
酸化剤の圧送が上手くいかなかった。なる程、しかし酸化剤の漏れ出しと加圧ラインの問題は、別なのでは??加圧ラインは単独ではなく、2方向に分岐する構造であると思う。チャンバー付近で過熱して液体から気体にすることで圧力を増す構造だと推察されるので、片側のタンクだけに影響があったという結論にはちょっと納得が行かない。
まあ、良いのだけれども。
この書きっぷりだと、原因はハッキリしたんだろうしね。
韓国航空宇宙研究院では「エンジン点火の方が難度が高いので心配したが、それほど難しくないところで問題が発生した」との声が出ているという。
「朝鮮日報”「ヌリ号第3段エンジンが46秒早く止まったのは酸化剤ラインの漏れが原因」”」より
問題の本質をしっかり捉えられていないから、ホルホルしている、というので無ければ良いんだけどね。
ナロ号の時とは違う
なお、今回の失敗の大きなポイントとしては、ロシアと手を組んで打ち上げた羅老(ナロ)号の時とは事情が違うということだ。

前回の時の話が参考になると思うが、ロシアが1段目を担当して韓国が2段目を担当するという2段式のロケットであったのが羅老号である。この時の2段目は実績のあったKSR-1と呼ばれる固体燃料ロケット方式を採用していた。
固体燃料ロケットは、火を付けてしまうとその出力の調整が難しいものの、燃料の圧送など技術的に困難な分野でのトライが不要である面がメリットとして挙げられる。
2段目のエンジンの連続燃焼時間が224秒で良い(実際にはコントロールが難しいのだが)というところもメリットであった。重量を軽くすることが出来るからね。
この時の軌道投入能力は低軌道に100kgとかなり残念な感じだ。
そこから考えれば進化があったとも言えるが、今回3段目に使用した7t級エンジンの実績は見当たらないわけで。何故それを選ぶ?という疑問はなお残る。実際、来歴もハッキリしないんだよねぇ。
そのうち報道されるんだろうか??
何はともあれ、原因が分かったのだから一歩前進なのかな?
追記
コメントをいただいて衝撃が走った!
「ロシア、羅老号のとき韓国に先端ロケットを残していった」
2021.10.29 14:00
純粋な独自技術で作った初めての韓国型発射体(KSLV-2)ヌリ号打ち上げから1週間が過ぎた。21日、打ち上げ初日の興奮は落ち着いたものの、韓国航空宇宙研究院(航宇研)は羅老(ナロ)宇宙センターと済州(チェジュ)・パラオ追跡所で受信したヌリ号データの分析に余念がない。発射体第1・2段のレビューも重要だが、終盤失敗に終わってしまった第3段の早期燃焼終了原因を突き止めなければならない。
~~略~~
--何が原因だと考えられるか。
「第3段酸化剤である酸素タンクの圧力が低下したことがファクトだ。問題は原因だが、タンク自体の異常というよりは配管などの結合部位やバルブ類からの漏洩が考えられる。パラオ追跡所に受信されたデータを分析してみれば正確な原因が出てくるだろう。データ量が多いため分析に少し時間がかかるかもしれない」
「中央日報」より
原因は「配管などの結合部位やバルブ類からの漏洩」って、アンタ!タンクと配管とバルブしかない構造なのに、タンク以外が疑わしいって、原因は全然わかっていないのと同じやないかい。
思わず突っ込みを入れたくなったが、衝撃が走ったのはこの部分ではなかった。
--その時は地上検証用発射体はロケットエンジンがない状態にすると説明していなかっただろうか。
「当時は私たちもGTV第1段部にノズル程度だけをつけた模型エンジンだと思っていた。ロシアのクルニチェフもそう説明していた。だが、3回目の打ち上げまで終わって大田に持ってきて分解してみると先端多段燃焼サイクルのアンガラエンジンが完ぺきな姿で装着されていた。それを初めて見た瞬間、戦慄が全身に走った。当時は2回目の韓国型発射体(KSLV-2)ヌリ号の開発プロジェクトがすでに4年目に入っていた時だった。だが、基本設計もできておらず足踏み状態に陥っていた状態だった。その後のヌリ号75トンエンジン開発にこのアンガラロケットが多いに役立ったのは言うまでもない」 (羅老号プロジェクト当時、航宇研は米国・ロシアなど宇宙先進国は宇宙ロケットの核心であるエンジン技術は絶対に流出しないという説明と共にGTVに対して実物は全く同じだが第1段エンジンはない状態だとメディアに明らかにしていた)
「中央日報」より
過去羅老号の時に使った第1段地上検証用発射体(GTV)は、ロシアから持ち込まれたもので、本来はダミーエンジンがついているハズ。だが、調べてみたら本物だったのだそうな。驚きの事実である。
で、これを基に75t級エンジンを作ったと。
--今後の韓国型発射体高度化事業にも役立つ。
「そのとおりだ。ロシアのアンガラロケットは推進力210トンの最新型多段燃焼サイクルエンジンで、米国も最近輸入しようとした強力で先端のエンジンだ。ヌリ号75トンエンジンは燃焼試験をやってみたが、ターボポンプから不完全燃焼した真っ黒な排気ガスが出てくる。多段燃焼サイクルはこれをエンジン内部でもう一度燃焼させる方式だ。エンジン効率が高くパワーもはるかに強力だ。もうすぐ始めなければならない韓国型発射体高度化事業も多段燃焼サイクルエンジンのほうに進まなければならない」
「中央日報」より
卑怯だとは言うまい。ロシアの技術者が間抜けだっただけで、韓国技術陣はチャンスをしっかりモノにしたのである。
それでもさー、この手の開発秘話は、何回も成功して「技術を自分のものにしたとき」に明かすくらいが丁度いいんだぜ。盗んだ手柄を高らかに掲げて威張って見せるというのは、何と愚かな話か。
コメント
木霊さん こんばんは
>酸化剤の漏れ出しと加圧ラインの問題は、別なのでは?
無重力下で液体酸素を気体圧送する。。ならば加圧ラインは結構デリケートな制御が必要ってことはないですか?
素人考えですが、酸化剤が液体酸素だとすると、タンクは耐圧確保の難しいデュワー構造で、過剰圧を抜くベントを備えていると思います。
振動や圧送ガス流量の変動で、液体酸素の液面が暴れたりハネたりして液体酸素が気化してタンク内圧が上がると、耐圧の低いタンクを守るためベントが開き、結果として酸化剤漏れとなった。 てことはあり得ないでしょうか?
https://s.japanese.joins.com/JArticle/284333?sectcode=350&servcode=300
RD191パクる自信に満ち溢れてますが
これペラペラ喋っていい話なのかと
他人事ながら心配
興味深い記事を紹介頂きありがとうございました。
追記させて頂きました。
無重力の影響はかなりあると思いますよ。
流石に普通の人は無重力かでの機体の圧送経験はないわけで、僕自身ももちろんありません。だからその挙動についても想像するしか無いのですが、流体の挙動も弁の動きも重力の影響をかなりに受けると思います。
また、ご指摘の様にロケットの振動がかなり影響すると思われますので、なかなか予定通りにいかないということを、彼らは肌で感じたことだと思います。問題は、今回分からなかったことも結構あるので、それがどうなるのか?ということも「今後分かってくる」のだと思います。
こんにちは。
酸化剤の漏れって……三段目もケロシン/液酸系との事なので、酸素が漏れた?恐ろしい……
ある意味、酸化剤の漏れは燃料の漏れ以上にやっかいな意識があります。
よく周辺の構造物が引火しなかったな……純酸素が漏れると、即座に周りの可燃物が引火して大爆発!ってイメージなんですが。
※漏れても酸素がない限り燃えない(そして成層圏以上には酸素はほとんどない)燃料と、そこが違う。酸素は、鉄でも燃やす。アルミ合金なんか……
酸化剤漏れなんじゃなくて、加圧ガスが漏れたか、キチンと全量使い切れなかったか、じゃないかと思ったんですが……
※燃焼しているロケットは、常に一方方向に加速度がかかるのでタンクの底から吸い出せば問題ないらしいですが、再点火できるエンジンは、慣性飛行時、タンク内の残存燃料がどこにあるかわからないので再点火時にちゃんと燃料吸い出せるようにするのが大変だと、本で読んだ記憶があります。
どっちにしても、次の打ち上げでは、比較的低空で酸素漏れなんか起こさないことを祈ります。
勿論、燃料漏れもですが……
木霊様、皆さま、今晩は
youtube に打ち上げの映像がUpされていますが、それを見た感想は「真っすぐには飛んでいない」でした。右に傾いたり左に傾いたり。かなり上空に上がってからもまともなら見えるはずのないロケットの胴体らしき物が見えたり。1段目から失敗なのではないか、と思ってしまいます。
3段目の問題点の記事が出る前には「所定の高度に達したが所定の速度には達しなかった」とかいう記事を見かけましたが、もし所定の高度に達していたならば姿勢制御の失敗です。真っすぐ上に上昇したのでは人工衛星にはならない。上昇とともに接線方向に向きを変えて周速を得る必要がありますからね。