世界的にはEVにシフトしようとしていると「言われて」いる。だが、ガソリン車をEV車に置き換えるというのは、現実的にはかなり厳しいと思う。いったい、欧州は何を考えているのやら。
給油所の減少 地域の衰退を招きかねない
2021/09/19 05:00
電気自動車(EV)など次世代車の普及を進める中で、現在ガソリンや燃料の安定供給に貢献している給油所網を、どう維持していくか。官民で知恵を絞る必要がある。
「讀賣新聞」より
さてこの記事は、讀賣新聞のコラムで、「地方の給油所が減っている!」「どうしよう!」という内容である。これを取り上げていたのは、以前も紹介した晴川雨読さんのところで、今回も便乗気味にコレをちょっと料理していこうと思う。
EV車の実情
EVの「推奨される使い方」
どこから説明をすべきかな。まずは、電気自動車(EV)の使い方、について触れるのがいいかもしれない。
えーと、EVを推進している日産のサイトを紹介するのが分かり易いかな。
急速充電器の使い方に工夫を
ご自宅で充電可能な方は、ご自宅での普通充電をメインでご利用ください。充電しに行く手間も、順番待ちの懸念も、ジッと待つ必要もありません。
ご自宅以外での充電の場合も、じっと待っているだけではなく、トイレに行く、メールチェック、買い物をするなど、充電している間に何かをしていれば、充電時間は気にならなくなります。 その場合、充電に合わせるのではなく、自分の行動に合わせて充電時間を決めるといいでしょう。 (用事が20分で済んだから充電は20分で終わり等)
「日産のEV総合情報サイト」より
日産のサイトでは、「こまめに充電すべし」「基本は家で充電」という旨の説明をしている。つまり、EVを保有するのであれば家に充電設備を備えるべし、ということらしい。
・100%充電にこだわらない 急速充電は約80%を超えると電池保護のため充電スピードが抑えられます。特に90%以上、フル充電に近くなるほどスピードは落ちてしまいます。100%にしたくなる気持ちもわかりますが、時間とお金がもったいないのでやめましょう。 (100%充電したい場合は普通充電で) 充電スピードを意識して効率よく充電することは、ほかのEVオーナーさんを待たせないことにもつながります。ぜひ意識してみてください。
「日産のEV総合情報サイト」より
あとは、100%充電に拘るなということを言っているね。スマホだと100%充電にしたがる人が多い印象だけれど、電池の使い方で常に100%を意識するのはあまりよろしくないというのが定説だよね。もっとも、電池の構造によっても違うんだけれども。
EVでそのような使い方をするには賛否あると思うが、よく考えてみるとガソリン車でも「金額分入れる」とか「リッター指定で入れる」という方も一定数は居るので、否定する話でもない。ただ、充電をマネジメントするのがかなり面倒になりそうなんで、その辺りのサポートをAI辺りでやって欲しいところ。
まあ、現状でも結構、充電が少なくなってきたら警告するような設定が出来る車種がある様なので、AIでなくとも充電マネジメントは工夫すればイケルと思うんだけど。
ともあれ、「EVはガソリン車の時の常識とは違うよ」という事らしい。
充電時間
で、今のところ、問題なのは充電時間なんだよね。使い勝手的には、充電時間を何とかしないと、という問題は電池の性能が上がらなければ常について回る。


これは日産のリーフの説明にサイトで用いられているデータで、急速充電は40分(バッテリー40kWh版)で完了するとあり、フル充電で400kmは走れますよ(JC08モード)と説明されている。ただし、WLTCモードだと322kmという事になっている。要は現実に近い使い方だと走れる距離は短くなるということだね。
エアコンガンガン使って、音楽をガンガン鳴らしているなど、使用条件によっては更に短くなるので、その辺りはご注意をという事も書かれている。
今新型リーフに乗っています。季節や走り方によって変動はありますが、満充電で夏だと280kmくらい、冬だと250kmくらい走行できると表示されています。一度充電ギリギリまで走ることがあって、本当に表示くらい走れました。 日常生活で、ひたすら200km以上続けて走るということはあまりないので、特に困ったことになったということはありません。長距離を走るときは、休憩スポットを充電出来る場所に設定しておくと1日の流れがスムーズになります。
「日産のEV総合情報サイト」より
ちなみにQ&Aで一般の方からの回答があって、「どれくらい走れますか?」という質問に答えて、冬だと250kmくらいだとか。電池にとって冬の方が条件が悪くなるのは当たり前か。
それじゃあ、一般的な充電だとフル充電までにどれくらい時間がかかるんですか?という話はこちら。

これもバッテリー40kWh版 の話だが、実は、充電時間は充電器の性能に寄るという話があって、6kw普通充電器はオプションで購入出来て、価格は11万円となっている。オプションを選択しないと3kw普通充電器が付いてくるということになって、さらに時間がかかる。
急速充電器があるのは、それなりの施設だけ。コンビニによっては20kwのヤツとか50kwのヤツとかが置いてある所もあるけれども、今のところ小数である。一番確実なのは日産ディーラーで、45kwの充電器が設置されていて、30分くらいで8割程度まで充電してくれるそうな。
一般家庭でも急速充電器を導入すること可能なようだけれど、結構面倒くさそうだ。少なくとも電力会社との契約を見直す必要がある模様。
……EVを所有しようとするならば、結構、気を遣わないとダメだヨね。特に旅行先で「どうするか」というのは事前に調査しておく必要がありそうだ。
充電ポイントが減っている
ところで、こうしてEVの販売台数が僅かだが伸びている一方で、国内の充電ポイントは減ってきているようだ。え?どういうこと?
実は、日本国内のEV、HEV、PHV、FCVの売り上げ台数推移はこんな感じになっている。

圧倒的にHEV、つまりハイブリッド車が売れているんだよね。ちなみにガソリン車は現時点ではハイブリッド車と同じ程度の販売実績のようだが、2019年度実績で見るとガソリン車が55%程度で、その他45%という構成である模様。

ちなみに、ハイブリッド車を除くとこんな感じの比率になっている。燃料電池車はともかくとして、EVもPHVも売り上げが鈍ってきている。2020年度はコロナの影響があって売り上げは更に鈍っているね。
で、この情報を頭に入れながら次のニュースを。
電気自動車の充電スタンド なんで減ってるの?
2021年7月19日 17時19分
脱炭素社会を目指す機運が高まる中、EV=電気自動車が注目されていますが、EVに乗る時って、どこで充電ができるのか気になりますよね。充電スタンドの数はここ数年、増えていたのですが、実は今、その数が頭打ちになっているんです。
「NHKニュース」より

ガソリンスタンドの数が減っている記事は冒頭に紹介したが、充電スタンドも順調に減っている。
何故、充電スタンドは減るのか?
それは補助金が出ないからだね。
要因は“老朽化”
政府は去年、2035年までにすべての新車をEVやハイブリッド車、燃料電池車などの電動車にするという目標を掲げました。国をあげてこれから電動車を増やそうというまさにそのタイミングで、充電スタンドが減少に転じたのはなぜなのか。
その要因の1つは“老朽化”です。
充電スタンドの耐用年数は、8年前後が目安とされています。国内の多くの充電スタンドは、2010年代前半に国の補助金制度を活用して設置されましたが、その時に急増した充電スタンドが続々と耐用年数を迎えているのです。
~~略~~
1基当たりの設置費用は500万円以上、年間の維持費もおよそ100万円ほどかかっていたといいます。
「NHKニュース」より
流行り物に飛びついたけれども、採算が採れないので止めてしまうところが増えているというのが実情のようだね。

そして、その多くがカーディーラーに設置されているので、見かけ以上にスタンドが少なくて「使いにくい」というのが実情のようだ。そりゃ、日産のEVをトヨタのディーラーに持ち込むのはなかなか勇気はいるよね。
それと、この記事で注意したいのは、充電設備の老朽化は8年が目安だという点だ。これ、一般家庭においても多分同じだろう。車の買い替えタイミングで充電設備も見直すというのは、結構なコストがかかる感じなんだけどな。
ガソリンスタンドも減る
消防法改正の影響
で、ガソリンスタンドの減少についてなんだけれども、これは1つは採算が採れないことと、消防法の改正に影響があったとされている。
2012年度以降は再び下げ幅が拡大した。これは「2011年6月に改正された『危険物の規制に関する規則』の影響で、猶予期間が切れる2013年1月末までに必要とされる地下タンクの改修が果たせず、消防法に基づいた許可の取り消し処分を受けた、あるいは営業の継続を断念した」「経営者の高齢化が進んでおり、休廃業・解散が進んでいる」「仕入れ価格の上昇や地球温暖化対策税導入で収益が悪化し、廃業を選択した」などが原因として挙げられる。
「yahooニュース」より
ガソリンスタンドの減少が一気に進んだのは、ガソリンスタンドでガソリンを溜めておくための地下タンクに関する法律が変わったから。
法律に対応させるためには、かなり巨額の投資が必要なんだけども採算が採れない。
あとは、セルフスタンド方式にするところが多くて、今や1/3はセルフスタンドなんだとか。もっと多い印象だけど、セルフスタンドにするためにも結構な額の投資が必要である。
ガソリン車も次第に減少する傾向にある日本で、採算の採れないガソリンスタンドを続けるという選択肢を採るとことが減るのは事実。
人口減少の影響は大きいので、限界集落が増えると不便さも増してしまうんだよね。
給油所は、ガソリンだけでなく暖房用の灯油や農機具などの燃料の供給も担っている。給油所が極端に減ることになれば、住民生活の利便性が低下し、地域の衰退が加速することが懸念される。
政府は、新たなエネルギー基本計画案で、給油所を「重要かつ不可欠な社会インフラ」と位置づけた。給油所の多くが自家発電装置を設置し、災害による大規模停電時の燃料供給機能を担っていることも重視している。
「讀賣新聞」より
政府の後押しもあって、多少は「地域の重要インフラ」として残す動きもある様だけれども、公的資金投入というのは避けられない状況にある。
ガソリンスタンドの在り方を見直すべきか
もはや、公共施設の一角にガソリンスタンドを併設する時代になってきたと言うことかも知れない。
利用者が減少している給油所の統廃合や、コンビニエンスストアなどを併設して経営を多角化するのも効果的な手段だ。
「讀賣新聞」より
だって、多角経営でといっても限度があるからね。コンビニすら無い地域も少なくないのだ。移動販売という形態で対応する方が理に叶っているのかも知れないが、兎にも角にも、変化は訪れていると言うことだな。
ただ、結局のところ、この問題は地方の人口減少というのがネックになる話で、地方こそガソリン車の方が有利な面が多くなるというのに、ガソリンスタンドも減っているというから、なかなか頭の痛い話である。
しかし、逆説的に言えば、これこそEVも流行らない原因だと思う。圧倒的にEVは地方のユーザーのニーズに合っていないのである。その辺りの話は外国でも一緒だと思うんだけどなぁ。欧米は一体何を考えているのやら。
追記
一つ論点を忘れていた。

ガソリンスタンドと充電スタンドは、実は相性が宜しくない。
理由は、電気が火花を生むリスクが有る事と、充電時間の問題だ。
前者は絶縁対策を取ればある程度は解消できるが、給油場所と充電場所は物理的に距離を離したいところ。
従って、解決可能ではあるが、敷地面積を要するので場所は選ぶ。
後者は、給油時間と終電時間の差の問題なので、技術的ハードルが高く、すぐには解消が難しい。
なので、充電スタンドは、コンビニ、スーパーなどの滞在が長い場所に設置されたほうが良いという話になる。
充電は家でする事が定着すればこの問題はなくなりはするが、EVのイニシャルコストが上がってしまうのは前述した通り避けられないので、普及させるためには大胆な補助金制度を導入する必要があるだろう。
充電池の、性能向上と低コスト化も必須の課題ではあるが……、長くなるのでこれはまたの機会に。
コメント
木霊様、皆さま、今晩は
過疎地ではEVの方が有望だと思いますよ。ガソリンの移動販売は安全性の点で事実上不可だし(一部で制限付きで行われているようですが)集落にガソリンスタンドを作るのはもっと無理。でもEVならば自宅で充電できるのです。電力工事にいくらかの初期費用はかかると思いますが、給油する【だけ】のために往復ン十キロのドライブなどというバカな事はする必要がなくなります。まぁ、買い物とかもするんですけどね。各戸の電源を強化する必要はなく、集落単位でやればいい。課金が面倒かな。
過疎地はおおむね道が狭く、軽でないとダメなんて場所もあります。「畑まで行ける」という理由で古い軽トラ(現行の軽より車幅が狭い)を直しながら使っているという話を聞いた事があります・・・今でも使っているのかしら・・・それとも耕作放棄?
なのでEV軽トラとかEV軽バンなどが普及しなくてはダメですけどね。
それよりも、地方の集合住宅居住者の方が問題かな。入居者が電力工事をするわけにはいかないし、充電スタンドなんかはるか先。行政が何とかするしかないかなぁ。
EVの普及には、寒冷地でも不安の無いレベルの二次電池開発が必須なんですよね。
温暖な気候であれば問題ありませんが、雪が積もるような地域での使用には、不安が残るようですね。
実際的に、二次電池にヒーターを撒くような対策も必要なようで、地域によってはかなりヤバいのがEVということに。
もちろん、ガソリンスタンドを作るよりも家出充電する設備を整備した方がコスト的にも安いとは思いますが、そうはいっても、軽油や灯油などはまだまだ販売が必要で、その販売場所が無くなるのは困る訳です。
いずれにせよ、大きな変革をするために政策的にやらざるを得ないと思いますよ。
過疎地は過疎地でも雪が沢山降る我が田舎ではEVは厳しいかもしれません。
激しく雪が降ればノロノロ運転は当たり前。
暖房もつけなければ死んじゃうので、そのような状況下ではバッテリーは数時間も持たないかも。
というよりも除雪車を運用してくれる建設作業員の方々の高齢化により、除雪作業の担い手が減少しております。
先に我が田舎のような豪雪地帯が限界集落化するかもしれませんが、これは別の話ですね。
雪国で数年生活した経験がありますが、暖房がないと車内はかなり厳しいですからねぇ。
EVはガソリン車のようにエネルギーを燃やすわけには行かないので、そこを補う為に効率の悪いヒーターを使う必要が。
ネックになりそうですよ。
限界集落化した地域をどのように手当てしテクノかも含めて、今後の政策議論は必須でしょうね。
こんにちは。
とりあえず、EVの普及には、
「全台数が一斉に夜間充電始めると、発電所が落ちる」
問題を解決してもらわないと。
個人的には、
「雪で立ち往生するとEVは冗談抜きで死ねる」
問題(バッテリが死ぬ、バッテリ死ぬとガソリンみたく「5Lだけ注いで出口まで走る」が出来ないから立ち往生の解消に猛烈に手間取る)も大変気がかりですが。
モーターやバッテリの廃熱で何とかしたいところですが、エンジンの廃熱に比べるとスズメの涙ですから……
発電所の話は書きませんでしたが、EVが増えると消費電力は各段に増えるわけで、将来的には発電量を増やさねばならない状況のようですね。
一番有力なのは原発なんですが、高市氏が主張するようなSMR導入みたいなかなり高いハードルを越えざるを得ないんですよね。
さて、どうなるんでしょうか。
雪国のEV利用は他の方も言及されていますが、かなり充電残量が生命線になりそうなんですよね。
そこを「自宅で充電」しか出来なくなってしまうとかなりヤバそうな感じです。
発電所の能力も問題ですが、それを支える送電網も老朽化してギリギリだというのが今の日本の現状。
2016年に埼玉で起きた地下送電線火災は覚えている人も多いと思います。
インフラへの投資に対する理解度が極めて下がってるんですよね。だから予防交換的な処置がとりづらい。上下水道でも同じことが言えますが。
現状、総EVにするにはよほどインフラにお金をつぎ込むか、現状で賄えるよう、車両の保有が割に合わない税金を課すか……後者をえらびそうですが、そうなれば自動車産業も死ぬので色々悩ましい問題ですね。
送電網の老朽化ですか。
そういえば、埼玉の事件は衝撃的でした。
地下に埋設した上下水道も相当傷んでいるといいますし、インフラへの投資は深刻なレベルにまで低下していますね。今から始めても追いつかないのが何とも。それを全国津々浦々やるかと思うと、とても無理でして。人口が多いところに集中せざるを得ないのでしょうね。
EV普及の問題ではないのかもしれませんが、そういう観点からも物事を考えていかねばならない時期なのでしょうね。
脱・石炭とかガソリンとか。以上に、脱・灯油って出来るのかなぁ…などとも思うところです。雪国で暖を取れなきゃ普通に死んじゃいますし、そのために最も効果的なのは、結局のところ、燃やす事。一番便利な灯油を生成すれば、その他の副産物もどうしたって出来ちゃうわけでして…石油からできてるのはプラスチックだけじゃないんですよ。ってどっかの環境大臣がわかってりゃ良いのですけれど…
九州限定とかなら総EV化もできなくはないかもしれませんが。毎年台風が直撃してしょっちゅう電線飛ばされる土地柄、送電網のメンテは他地域よりかは大丈夫そうですし。
正直、電気で温度コントロールするのって、結構効率が悪いんですよね。
安全面からオール電化を進めている時期がありましたけど、オール電化って停電したらそれこそ死者が出かねない。
原油から「余すところなく使う」という現状のバランスを崩すと、いろいろ問題が出ちゃいますな。
トヨタがやっているスマートシティ構想「Woven City」ですが、ああいった実験的な都市計画を進めつつ、試行錯誤してくんでしょうな。